艦これ×ガンダム ガンダムビルド艦隊これくしょん 深海の言葉『上巻』 作:黒瀬夜明 リベイク
深海の周囲に水柱が奔騰する。直撃弾はないが、至近弾の爆圧が自身の下方向から突き上げてくるが、機関も舵も無事に動き続けている。深海はお返しにと、主砲の41㎝三連装砲を放つ。自身の右側に備えられた三連装の主砲が火を噴き、轟音が深海の鼓膜を激しく揺さぶる。そのすぐ傍ではネ級改が「深海8inch連装速射砲」を撃ちかける。
「マズいぞ深海、このままではいずれ、制空権を失うことになるぞ!」
深海がチラと上空に目向ける。上空では依然として、白い零戦と深海猫艦戦が激しい空中戦を繰り広げている。しかし、零戦隊が劣勢へと追いやられているのは目に見えてわかる。最初は15機を数えた零戦は、その数を既に6機まで減らしていた。零戦の動きを見れば熟練の妖精がパイロットを務めていることはわかるが、多勢に無勢、無数の深海猫艦戦に襲われて撃墜されていった。
「これじゃあこっちの艦載機も上げれないぜ!」
「アンタ、何とかしなさいよ!」
高速軽空母水鬼が、焦ったように叫び、「深海16inch Mk-Ⅷ 連装砲改」を発射しながら近代化戦艦棲姫は深海に怒鳴りつけた。しかし、深海には返す言葉が無い。低く、クソッ。と吐き捨てることしか出来なかった。
(今風上に向かって転舵すれば、間違いなく直撃弾を貰うことになる!そうなったら、こいつらにも怪我をさせてしまう。中枢棲姫から、預かったこいつらに怪我をさせられるか!)
何処の部隊の零戦なのかは分からないが、交渉を決裂に追いやられたことにも深海は怒りを覚えていた。しかし、それを言っても仕方ない。今は現状を突破するしかない。そう思っている内に、深海が先に放った41㎝三連装砲の砲弾が着弾し、防空埋護冬姫の周囲に水柱を奔騰させる。夾叉を得た様子はなく「全弾、近」と報告が上がる。深海は砲身を俯仰させ、次弾の命中を望んだ。次発が装填され、照準が定まった所で再度砲撃を敢行する。三連装の41㎝砲が咆哮を上げて6発の41㎝砲弾を叩き出す。弾着を待つ間に防空埋護冬姫の射弾が飛来する。その射弾が、あろうことか近代化戦艦棲姫を夾叉した。
「夾叉!?嘘でしょ!」
(マズい!連続斉射が来る!)
深海の口内で発せられた叫びと同時に、深海の放った6発の41㎝砲弾が防空埋護冬姫の背後に纏まって弾着した。今度の結果は「全弾、遠」だ。こちら側が夾叉を得るよりも先に、防空埋護冬姫の方が夾叉を得たのだ。如何に装甲の厚い近代化戦艦棲姫でも、相手の連続斉射にいつまで耐えられるか分からない。そう思った深海の行動は早かった。だが、それと同時に防空埋護冬姫の射弾が飛来してきた。
「やらせるかぁー!」
咄嗟に深海は身を乗り出し、近代化戦艦棲姫の身体にタックルを放った。
「きゃあ!」
突然の深海からのタックルに突き飛ばされた近代化戦艦棲姫だったが、その直後、深海の身体を熱い衝撃が襲った。
「グウッ!」
目の前では黒い爆煙で覆われ、深海は何が起きたのかすぐに理解した。というよりも、近代化戦艦棲姫を防空埋護冬姫の射弾から守れたことに深海は満足感を抱いていた。だが、そこから深海の周囲に次々と敵弾が飛来してくる。痛みの度合いからして、防空埋護冬姫の砲弾は小口径砲弾。単体の威力は低くとも、その連射速度に物を言わせた、驚異的な破壊力を秘めている。
「深海!」
ネ級改の叫び声が聞こえたような気がしたが、深海は気づくことが出来なかった。次々に飛来する敵弾が、深海の身体に命中し、周囲の音を爆音と金属音で掻き消していく。
(今の間に、誰か夾叉を得られれば―――)
深海がそう願った時、唐突に防空埋護冬姫の周囲に無数の水柱が奔騰した。水柱の高さは先程まで自分が見ていた大口径砲のように大きく高々と上がるものよりも、ひとまわり程小さい、中口径砲弾による水柱だ。しかもその水柱が上がった位置は、防空埋護冬姫を挟み込む位置だ。誰かが放った中口径砲が夾叉を得たのだ。
「ネ級か!?」
深海が声を張り上げてネ級改に問いかけた。しかし、私じゃない!とネ級改は大声で返答する。ならば誰だ?深海は独り言ちると、唐突に自分への射撃が止んだ。深海の服はひどく焼け焦げて所々に穴が開いている。深海はその隙にチラと飛行甲板を見やった。幸いにも飛行甲板は後方への被弾が多く目立っているが、前部の甲板は無事だ。飛行甲板の背面にマウントしてあるボウガンも、まだ使えそうだ。着艦も無理でも、発艦は出来る。そう思った直後、防空埋護冬姫が小さな爆炎に包まれた。先程夾叉を得た何者かが、命中弾を得たのだ。そして深海は、視線の先に二組の単縦陣でこちらに向かって突っ込んでくる10人の少女を目撃した。すると、短距離無線機に凛とした少女の声が聞こえてきた。
「二水戦全艦、最大船速!戦闘中の友軍を援護します!第一小隊は敵を牽制、矢矧たち二小隊は深海提督を!」
「了解能代姉、酒匂、しっかり付いて来て!」
深海が短距離無線機から聞こえてきた声の正体が誰なのか、分かるのに数秒も掛からなかった。
二水戦か!!
呉所属の第二水雷戦隊が、5人ずつの二隊に分かれ、攻撃を開始した。能代率いる第一小隊は、防空埋護冬姫が率いる艦隊を牽制すべく、付かず離れずの位置で激しい砲撃を繰り返している。そして矢矧率いる第二小隊は、防空埋護冬姫の反対側から、一直線にこちらへと向かってくる。
「ジャマダァ!!」
防空埋護冬姫が二水戦第二小隊に向かって、砲撃を開始した。高速で海上を駆ける矢矧、酒匂の周辺に無数の水柱が林立するが、矢矧たちは構わずに一直線に向かってくる。
「良い射撃ね…でも、こっちに気を取られてると、足元がお留守になるわよ!」
矢矧がそう叫んだ瞬間、防空埋護冬姫の足元で水柱と爆発が起こった。
「ナ、ナニ!?」
砲弾による被弾ではない。水線下を噛み切る魚雷の一撃だ。だが、深海の目に、魚雷が発射された瞬間を捉えた記憶はない。
「甲標的か!」
阿賀野型軽巡洋艦の艦娘の中で、矢矧改二乙だけが唯一扱うことの出来る特殊潜航艇、甲標的。戦闘開始前にこれを海中へ放つことで、先制して雷撃を敢行する。先の一撃はその甲標的が放った魚雷の直撃だったのだ。
「今がチャンスだ!撃って撃って撃ちまくれ!」
「了解!」「了解じゃ!」
「酒匂も負けないよぉー!撃ち方始めぇ!」
その一撃に続くように、第17駆逐隊の磯風、浜風、浦風、そして酒匂が砲撃を開始した。磯風と浜風の長10㎝高角砲、浦風の12.7㎝連装砲C型、そして酒匂の15.2㎝連装砲改が火を噴き、防空埋護冬姫を包み込んでいく。そしてその隙に、矢矧は深海の元へと辿り着いた。深海の前で回転しながら、停止すると装備された15.2㎝連装砲改二を撃ちながら、深海に声を掛けた。
「やっぱり無事みたいね。安心したわ」
「矢矧、助かったぞ。でも、何だってここに?」
「『月ハ欠ケタリ』の平文を受信してのよ。だから、救援に来たの」
「……龍太のやつ、やるようになったな」
先程平文で発したあの電文には、矢矧たちの救援も含まれていたのだ。だが、それだけではないと、矢矧は言った。戦闘域とは別の方向、北と南西の方向から、爆音が鳴り響いているのが、深海の耳に届いた。北の空からは、零戦とほぼ同じくらいのサイズだが、四角い翼端を持つ主翼にはそれぞれにフロートを取りつけ、コックピットは後方へ大きく伸びており、主翼には「六三四空」と大きく書かれた多目的水上爆撃機「瑞雲(六三四空)」、丸みを帯びつつも、シャープで鋭利的な本体に翼端が丸く、端には一対の小型フロートを備え、機体本体にも大きなフロートを取りつけた水上戦闘機「強風改二」が、そして深海が振り返って南西の空を見上げれば、そこには先の白い零戦とは別の機体、零戦よりも更に小柄で、固定脚を零戦よりも鋭そうな主翼に取りつけた緑で彩られた戦闘機「九六式艦上戦闘機改」が飛んでいる。更には飛来した水上機たちの後方、北の方角から別の艦隊が向かって来た。短距離無線機から、少し古めかしい口調の声が聞こえてくる。
「ゆくぞ筑摩よ!吾輩ら利根型の力で、今回の戦いを勝利に導くのじゃ!」
「ええ!行きましょう利根姉さん!」
北から向かってくる艦隊。舞鶴に所属する利根型航空巡洋艦の艦娘、利根と筑摩の姿がそこにはあった。複縦陣で向かってくる利根と筑摩の後方には、第7駆逐隊の、曙、潮、漣、朧が付き従っている。深海たちの上空では、増援として来た九六艦戦改と、強風改二が深海猫艦戦と激しい航空戦を展開している。白い飛行機雲が幾条にも重なっては、プロペラが巻き込んで消えていく。だが、先の零戦隊だけでは制空権を維持することは出来なかった空戦模様は、互角に持ち込まれつつある。
「ありがたいことだな、まったく」
更に短距離無線機から、別の声が聞こえてくる。
「制空戦は五分に持ち込めたみたいね。今なら艦爆隊、艦攻隊を出せるわ、九三一、お願い!」
「さあ殴り込むわよ!戦場が、勝利が私を呼んでいるわ!五戦隊、最大船速!全力で突撃よ!」
前者は佐世保所属の雲鷹、後者は横須賀所属の足柄の声だ。佐世保は距離的にもかなり近いからわかるが、北九州から最も遠い横須賀からも足柄率いる第五戦隊が援軍に来てくれたのだ。深海たちは、次々来援に来る艦娘たちに呆気に取られていたが、それと同時に、強く高揚感を味わっていた。
「まさか、全鎮守府から援護に来てくれるなんてな…」
「それだけ信頼されてるってことだろう?良かったじゃないか、深海」
ネ級改の言葉に気恥ずかしさを感じた深海だったが、顔には出さず、そうだな。と呟く。だが、そんな深海の表情を崩すきっかけとなるものが、直後に現れた。関門海峡の奥から、零戦よりも一回り大きな胴体に小さく折れ曲がった逆ガル式の主翼を持つ緑色の艦上戦闘機。四角に見える胴体と、尖った鼻先が特徴的な艦上爆撃機。太く長い胴体に中翼配置の大きな逆ガル主翼、その腹には大きな航空魚雷を抱えた艦上攻撃機。そして、その艦上機全ての胴体横に描かれた稲妻を思わせる2本の黄色のライン。それぞれが艦上戦闘機「烈風一一型」、艦上爆撃機「彗星二二型(六三四空)」、艦上攻撃機「流星改」だ。深海はその艦上機たちを見て、驚愕した。何故なら、現在の海軍に所属する空母の艦娘の中で、「稲妻を思わせる2本の黄色のラインが描かれた」烈風一一型、彗星二二型、流星改を使っている艦娘は1人しかいないからだ。そしてその艦娘を、深海はよく知っている。
「大鳳……お前も来てくれたのか」
深海が独り言ちた時、深海の顔に安堵の表情が浮かんだ。最も信頼を置く装甲空母である大鳳が、艦隊決戦時に搭載する艦載機たちと共に来てくれたのだ。深海が安堵に満ちた表情を浮かべるには十分すぎる理由だった。そして、当の防空埋護冬姫は二水戦の精鋭たちによって封殺されている。
「今なら艦載機を上げられるぜ!」
高速軽空母水鬼が非常に嬉しそうな口調で深海に言った。
「ここは私たちで抑える。深海提督は、早く制空隊を上げて!」
「わかった!頼むぞ矢矧!」
そう言った深海と高速軽空母水鬼は風上へ向かうべく取り舵を切った。そして艦首が風上を向いたことを確認した深海と、高速軽空母水鬼は、同時に艦載機を発艦させた。
「上がったらそのまま敵機に向かえ!烈風隊、発艦ッ!!」
深海はクロスボウを構え、それを空に向かって構える。そして引き金を引くと、炎を思わせる閃光が走り、やがてそれは、黒い胴体と、白い十字線が描かれた逆ガル主翼を持つ「烈風改二」へと姿を変えた。空へと舞い上がった烈風改二は、編隊を組むことなく、一直線に敵機へと向かっていった。
反撃開始だ!!
深海は踵を返し、防空埋護冬姫へと向かっていった。
続く