艦これ×ガンダム ガンダムビルド艦隊これくしょん 深海の言葉『上巻』 作:黒瀬夜明 リベイク
軽自動車を降りた深海は、その足で警備府本庁舎へと向かった。以前は深海の父、黒野海の鎮守府として機能していたが、今では規模が縮小され警備府となっている。だが、構内は特段変わっていない様子だった。薄っすらと残る深海の記憶と、同じ光景がそこにはあった。
本庁舎へと入り、階段を上がって執務室への扉の前で目を閉じながら深呼吸をする深海。息を大きく吐き、閉じていた眼を見開くと、そこには監査官としての深海が立っていた。
「これより、海軍本部による抜き打ち監査を開始する!」
深海は、室内で執務をしていた第一種軍装を身に着けている男性と、昨日佐世保で別れた瑞鳳に向って声を張り上げ、宣言した。
第一種軍装を身に着けている男性――警備府の提督をしている「
反対に黒島の側にいた瑞鳳は、特段驚いている様子はない。ただ静かに深海を見つめてくるだけだった。
やがて黒島が口を開いた。
「監査があるとは聞いておりません!説明を願います!」
至極真っ当な言葉だった。深海はそれを予想していたのか、あらかじめ用意していた言葉を返した。
「それは軍機により答えられない。だが一点だけ答えよう。海軍本部は旧体制派の動きを注視している。以上だ」
「それは…」
黒島はなおも言い募ろうとしたが、深海はそれを許さなかった。そして丁度、青葉も執務室に到着した。
「黒野監査官。遅くなりました!」
「うむ、では監査を始めるとする。黒島提督、警備府内における情報資料全てを提出してもらおうか」
黒島は納得した様子ではなかったが、やがて唸るように、了解しました。と告げ、瑞鳳と共に書類の束を集め始めた。
それから始まった深海と青葉の書類監査は深夜一歩手前まで続いた。書類の収集と、それからの監査にはどうしても時間がかかった。
途中で夕食を挟み、そしてまた書類監査をする。深海はまるで、何かを忘れようとするかのように、書類監査にのめり込んでいた。やがて――
「……最後の書類を確認した。協力に感謝する、黒島提督」
「は……」
時刻が午後23時を回ろうとしたところで、深海は最後の書類を読み終えた。黒島も何故か、深海の監査が終わるのを待っていた。何処か緊張した面持ちに見えたが、抜き打ちで監査に来られたら緊張もするか。と深海は内心で独り言ちた。
深海と青葉は監査のために使っていた椅子から立ち上がると、黒島に告げた。
「明日は構内の監査を行う。貴官の同行は不要だ、自分の仕事をしていたまえ」
「は……」
黒島は軽く会釈をして深海を見つめていた。やがて深海は青葉を伴い執務室を後にした。
執務室を出ると、そこには瑞鳳が立っていた。瑞鳳は口を開いた。
「提督より、お二人のお部屋をご用意しました。付いてきてください」
「ありがとう、感謝する」「恐縮です!」
廊下を歩きだした瑞鳳の後を深海と青葉の2人はついていく。やがて本庁舎を出て、旧艦娘寮へと通された。以前は多くの艦娘たちで賑わっていたであろう艦娘寮も、今では静かだ。そして深海と青葉は、とある部屋に通された。そこは今までに何度も宿泊した、2人用の二段ベットと畳が六畳ほど敷かれたスペースがあるだけの部屋だった。
そして部屋へと入ってきた瑞鳳が、深海に笑いかけた。
「お疲れさま、深海」
「うん、ありがとうづほ姉」
深海は素直に礼を述べた。そして瑞鳳は青葉に声をかけた。
「青葉も、深海のお手伝い。ありがとうね」
「いえいえ!…あ!貴女が、深海司令官のお姉さん?」
「うん。初めましてだね、深海の姉の瑞鳳よ」
「あ、ご丁寧にどうも!探偵兼ジャーナリストをしている青葉です!以後お見知りおきを!」
瑞鳳は、よろしくね。と笑いかけた。
「明日は
「ああ、覚えてるよ。多分何もないとは思うけどね」
「そうだね。シャワーは寮のを使っていいよ、もう皆、入浴は終わってるから。じゃあお休み、また明日ね」
「うん、お休み」「お休みなさい!」
瑞鳳はそう言って部屋を出ていった。深海は部屋を出ていく瑞鳳をしばらく見つめていた。
深夜1時ごろ、深海はゆっくりと目を開けた。目の前には上段ベットの天井が目に入った。深海はゆっくりと体を起こし、ベットを出た。シャワーを浴びてから就寝に入ったので、今はスーツ姿ではなく寝間着姿だ。
深海は部屋の扉を開け、廊下へと出た。そして足を瑞鳳の部屋へと向けて、歩き出した。出来るだけ音をたてないように廊下を歩き、やがて1つの部屋の前へやってきた。
扉の隙間からは、薄っすらと明かりが漏れている。深海は意を決して、扉をノックした。
しばらくして、白い寝間着姿の瑞鳳が扉を開けた。
「あ、深海…」
「づほ姉、いいかな?」
瑞鳳は、まるで深海が来るのが分かっていたかのように優しく、いいよ。と言った。深海は瑞鳳の部屋へと入ると、瑞鳳は扉を閉めた。
深海は瑞鳳の部屋を見回す。小説などが収まった本棚。飛行機のプラモデルが数機並べられている一人掛けの机。そしてシングルベット。深海の記憶の中にある瑞鳳の自室が、当時の姿をそのままに残していた。
瑞鳳はシングルベットの淵に座り、深海に隣へ来るよう促した。深海はそのまま瑞鳳の隣に座った。
「づほ姉…」
深海が弱弱しい声で口を開くと、瑞鳳は左手を深海の肩に回して自身の左肩に引き寄せた。深海は目を丸くする様子もなく、瑞鳳の肩に体を預けた。
「大丈夫だよ深海。お姉ちゃんは怒ってないから」
「……でも、俺のせいで」
瑞鳳は右手を深海の頭の上に乗せ、白い髪を優しく撫でた。穏やかな手つきで、相手を安心させるような、温かさがあった。
「深海にとってはそうかも知れないけど、私にとっては、もう終わったことだから」
「っ!?」
この時になって初めて、深海は驚いた。思わず顔を上げ、瑞鳳の顔に瞳が重なったとき、そこには作り笑顔でも何でもない。優しくて慈愛に満ちた瑞鳳の笑顔があった。
いつぶりだろうか。あのような瑞鳳の優しい笑顔を見た深海は、自分の浅慮を改めて恥じた。
(…俺だけだったのか?いつまでも、づほ姉のことを引きずっていたのは?)
「白河提督が私の後継人になってくれて…奥さんの祥鳳も優しくしてくれた。結構時間が掛かっちゃったけど、私の中では踏ん切りがついているの」
「づほ姉、でも佐世保では…」
「あの時は時間がなかったから。伝えられなかったんだ、ごめんね深海」
瑞鳳の言葉に嘘はないようだった。まっすぐに向けられてくる瑞鳳の瞳がそれを物語っていることを、深海は感じ取ったからだ。深海は一言、「そっか…」とだけ呟いた。
やがて瑞鳳は深海の体を抱き寄せ、抱擁した。
深海にとって、久しぶりに感じられる姉のぬくもりが、昔と変わらずそこにはあった。
深海も瑞鳳の背中に手を回し、瑞鳳を抱き締め返した。瑞鳳は言った。
「だから、昔の深海みたいに、私のこと…慕ってくれりゅ?」
「…うん。うんッ!ありがとう……づほ姉ぇッ」
少しだけ恥じらいながら囁く瑞鳳。深海は、小さく嗚咽交じりに、瑞鳳の胸の中で一粒の涙を流した。
胸の内から、嬉しさがこみ上げてくるようだった。
続く