艦これ×ガンダム ガンダムビルド艦隊これくしょん 深海の言葉『上巻』 作:黒瀬夜明 リベイク
「深海、深海っ」
時刻が午前5時を回った頃、瑞鳳はベットで眠っている深海を揺り起こしていた。まだ太陽は登っておらず、暗闇が寮の外を覆っている。
「…んあ?づほ姉……?」
寝ぼけた様子で目を開けた深海は、目をこすりながら体を起こした。
「もう5時だから、そろそろ部屋に戻ったほうがいいよ?」
「……あ、うん。そうだよな」
深海は先程までのことを思い出した。あの後、自分は歳不相応に瑞鳳の胸の中で眠ってしまったのだ。そしてそのまま、今の時間まで瑞鳳と眠っていたのだ。
身分上は監査官である深海が、総員起こしの時刻である午前6時に、瑞鳳の部屋から出てくるのは流石にマズい。
そうならないように、瑞鳳は深海を起こしてあげていたのだ。
深海はベットから降りると、瑞鳳の顔を見上げた。深海の顔には、未だに眠気があったが、それでも瑞鳳の顔をまっすぐと見つめていた。
「づほ姉、ありがとう」
「気にしないでいいよ深海。私たち、姉弟なんだから」
深海の言葉に瑞鳳は笑った。眠る前と同じ、温かくて優しい笑顔がそこにはあった。
深海は、その笑顔に安心感を覚えた。今まで、瑞鳳と父親のことを引きずっていたのは自分だけだったのだ。なんとも長い間、思い違いをして生きてきた。
深海は内心で、苦笑していた。
「ほら!早く行かないと、青葉に変なこと聞かれるかもしれないよ?」
「あはは、確かにそうかも…じゃあ、また後でづほ姉」
「うん。また後でね」
深海は瑞鳳に見送られながら、瑞鳳の自室を出ていった。
午前7時。深海たちは食堂で朝食をとっていた。と言っても、ここの食堂は艦娘と提督、そして来賓用の食堂であるため、食堂にいるのは黒島と瑞鳳、深海と青葉、そして警備府所属の鵜来型海防艦の艦娘である鵜来と稲木だけだった。
朝食のメニューは、白米とみそ汁、鮭の塩焼きと瑞鳳が焼いた卵焼きだ。深海にとっては何年かぶりの瑞鳳の卵焼きだ。
「お口に合いましたか?」
朝食の途中、瑞鳳が深海に尋ねてきた。
「ああ、とても美味しい卵焼きだ。感動しているよ(監査官じゃなければ、づほ姉の卵焼き最高に美味しい!やっぱり感動的な味だよ!って言えるのになぁ……白河の奴め)」
「ふふっ、ありがとうございます!」
深海の返答を聞いて、瑞鳳はいたずらっぽく笑った。まるで内心を見透かされているような気がして、深海は何とも言えない気持ちになるが仕方ない。今は黙々と朝食を平らげ、構内の監査を始めることに集中するのだ。
深海と青葉は、朝食の後すぐに監査を始めた。警備府の構内を手元の資料を読みながら練り歩き、異変や異常が無いかを見て回った。昨日の資料監査と比べて開放的ではあるが、面倒くさいことはこの上ない。
「そういえば黒野監査官。昨日より元気そうですねぇ、何かありました?」
監査の途中、青葉が不意に深海に尋ねてきた。身がバレないよう、監査官とその補佐官としての会話だ。その言葉に一瞬だけ驚く深海。
どうやら知らず知らずの内に、顔が綻んでいたのかもしれない。
「いやなに、少し良いことがあったのでな」
「?」
それっきり、この内容の会話は起こらなかった。そして太陽が西の空に沈みかけた午後17時ごろ、構内の監査は全て完了した。
深海と青葉は、執務室にいた黒島と瑞鳳の元へと戻ってきた。
「現時刻をもって、警備府の監査を終了する。特に問題は見受けられなかった。今後とも、任務に励んでもらいたい」
「ありがとうございます!」
黒島は椅子から立ち上がって敬礼をした。深海も答礼し、手を下ろす。
「では我々は帰路につかせてもらう」
深海はそう言うと、青葉と共に執務室を出ていった。廊下を歩き、階段を下りて玄関から本庁舎を出る。
そのまま青葉の軽自動車まで歩き、乗り込もうとした時だった。
深海ッ!
背後から瑞鳳の声が聞こえてきた。慌てた様子でこちらに走ってくる。
「づほ姉!」
深海は反射的に体を振り向けた。やがて瑞鳳が深海の元までやってきた。息を切らしている様子はない。黙って深海の顔を見つめてきた。
「次は、いつ会える?」
「え――」
瑞鳳の口から出た言葉に、驚いて目を見開く深海。だが瑞鳳の目は真剣だ。次に会う時がいつになるのか、本気で知りたがっている様子だ。
深海は少しの間考え、やがて口を開いた。
「今は、ハッキリとしたことは言えないかな…この仕事が終わった後としか……」
「そっか…」
何処か残念そうな瑞鳳。だが深海は、これだけはハッキリしていることを瑞鳳に告げた。
次はちゃんと、「黒野深海」として会いに行くよ
「っ!!」
瑞鳳の顔がパッと明るくなった。その表情を見て、深海も心の底が熱くなるのを感じた。純粋な喜びが、沸々と沸き立っていたのかもしれない。
「約束、だからね?」
瑞鳳はそう言って右手を差し出した。深海はその手を一瞬だけ見つめた後、強く握りしめ――
引っ張った。
「わっ!?」
瑞鳳の仰天した声が夕焼け空にこだました瞬間、深海の唇は瑞鳳の唇と重なった。
「わわわッ!!」
青葉の仰天した声が響いたが、深海と瑞鳳は気にしている様子もない。仰天して目を見開いていた瑞鳳でさえ、今では瞼を閉じて深海の体を抱き寄せている。
やがて2人の顔が離れ、夕焼け色に染まった深海の顔に笑顔が浮かび上がった。
「再会の約束。今のほうが良いだろ?」
瑞鳳の顔が真っ赤になりそうなほど一瞬紅潮した。だがすぐにその顔から笑みがこぼれ出た。
「うふふっ、深海ったら、いつの間にロマンチストになったの?」
「嫌だった?」
瑞鳳は首を横に振った。
「ううん。凄く嬉しかったよ!」
「ならよかった!」
瑞鳳と深海、2人の間には、わだかまりなど無いような空気が広がっていた。そして、ついに堪りかねた青葉が、苦悶するように声を上げた。
「は、早く乗ってください深海司令官!青葉の心臓が、爆発しちゃいそうですよ!」
「おお、すまない。悪かったな青葉」
青葉は、本当ですよ!と言って運転席に入り込んだ。ドアが閉まるのを確認して、深海は瑞鳳に向き直った。
「じゃあ、またね。づほ姉」
「うん。深海も元気でね」
最後に2人はあつい抱擁を交わした。
体を話し、深海は助手席へと入り込んだ。青葉がアクセルを踏み、軽自動車が発進した。軽自動車の背後では瑞鳳が手を振っている。だがやがて、深海の視界から瑞鳳の姿は見えなくなった。夕焼けに染まった警備府の敷地内を、深海は寂しげに見つめていた。
青葉の軽自動車が見えなくなるまで、瑞鳳は手を振っていた。そして見えなくなったところで手を下ろした。視線の先には何もない。夕焼け空に吹く風の音と岸壁に当たっては弾ける波の音、そして機械の音だけがその場を包んでいた。
やがて瑞鳳は見えなくなった車に乗っている人物に向かって投げかけた。
ごめんね、深海…
そう言って瑞鳳は背を向け、本庁舎へと歩いて行った。
「艦これ×ガンダム ガンダムビルド艦隊これくしょん 深海の言葉『中巻』」に続く
今回のお話をもって、「艦これ×ガンダム ガンダムビルド艦隊これくしょん 深海の言葉」『上巻』としての物語は完結とさせていただきます。
本文中でも明言しましたが、物語の続きは『中巻』へと続くことになっております。
これは、ひとつの長い物語を一本に纏めると、長くなり過ぎてダラダラと話が長引いてしまう。
読者の方が「また」読みたい場面を探し難くなるのではないか?と考え、急遽この作品を「上」「中」「下」の三巻構成にしようと思った次第です。
読者の方には申し訳ないと思っておりますが、どうかご理解を頂けることを願います。
次回は、EP8からEP55までに登場したガンプラや登場人物を、まとめて解説させていただきます。
よろしくお願いします。