空飛ぶ女海賊   作:貮式

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こんにちは、作者です。

改訂前を知っている人は混乱していると思いますので、説明はあとがきに載せておきました。

改訂前と話の大筋は変わっていませんが、それ以外の部分をかなり変更してますので、よろしくお願いします。


一章:HELLO WORLD編
1.空飛ぶ転生者


 

 

 あのクソ不味い果実、『悪魔の実』を食べたことで前世を思い出した。

 

 

 どうやらこの世界は私が前世の時に世界的人気を誇った『ONE PIECE』の世界らしい。

 

 漂着した無人島の砂浜から、これでもかと言うほど広がる水平線に沈んでいく太陽が見える。

 ざっと見た感じ、近くに別の島も、辺りを通る船舶も確認できなかった。

 

 小ぢんまりとした無人島の中心部に歩いて行って、寝転がる。私の真上に広がる星々が、私に冷静さを保たせてくれているようだ。

 

 

 ……『ONE PIECE』か。

 

 

 確か、毎週コンビニに行っては立ち読みをしていた記憶がある。

 私の家はそんな娯楽とは無縁の家だったから、毎週水曜日の、既に誰かが読んだような紙のクセがちょっと残るジャンプを開いて『ONE PIECE』を見る時間が、私の唯一の「楽しみ」だった。

 

 なけなしのお金を使い切って、『ONE PIECE』好きの友達と映画も見に行ったことがある。あの子、元気かなぁ。

 

 

 

 空飛ぶ海賊との死闘、漢と漢の決闘、支配からの解放、伝説との激闘、そして幼馴染との邂逅。

 

 

 全部、全部、私の記憶の中に焼き付いている。

 ファンブックなんて買えなかったから、その劇場版のキャラクターのバックストーリーなんてのは知り得なかったけれど、中でも私の印象に強く残っているのは『空飛ぶ海賊』の映画だ。

 

 

 ……ふぅ。

 

 

 前世を思い出したことでフル回転していた頭が、ようやく落ち着いてきたようだ。

 

 そう思うと途端に瞼が重たくなってきて、私はその重さに身を任せるようにして体の意識を手放していく。

 

 

 これで起きていつもの家ならば、いい夢を見たと考えよう。

 

 もし、こっちが現実なのだとしたら――――……まぁ、それはその時考えればいいか。

 

 

 体の力が抜けていく。

 腕を大きく広げ、いわゆる大の字になって私は微睡の中へ溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして。

 どうやら、これは夢ではないらしい。まだ夢の中で夢を見ているという可能性は否定できないが、とりあえずは現実で起こっていることと認識していいだろう。

 

 仰向けに寝転がっていた体を起き上がらせて、再び辺りを見渡す。

 

 広がる景色に変わりはない。島を一周してみても、人の気配はせず、海を進む船も見当たらなかった。

 

 

 という訳で、自分が食べたであろう能力の検証をしてみることとしよう。

 

 

 自身の体の一部となった能力をまともに使いこなせないようでは、この世界では生きていけない。

 

 生憎と、私は前世の家にも今世の家にも帰りたいとは思わない。

 前世に帰ればいつも通り親からの束縛が待っているし、今世の家も……というより帰る家などもうないか。帰ったところで迫害されるのが目に見えているため、帰ることはないだろう。

 

 となれば、早速能力を使ってみようか。

 

 腕に意識を集中させてみたり、手足を振り回してみるが、何も起きない。

 

 この時点で自然(ロギア)系と動物(ゾオン)系ではないことがほぼ確定だろう。

 悪魔の実の発動方法なんて初めて使うから分からないけれど、これだけ色々試しても変化しないと来れば、きっと私の能力は超人(パラミシア)系の能力で、発動条件は『触れた対象物に何かをする』みたいなものだろうか。

 

 

「……これでいいか」

 

 

 近場にあった樹木に掌を当ててみる。

 

 

――――メキメキメキッ……!!

 

 

 すると、私が触れた木が音を立てて地面から離れ、浮かび上がったではないか。おお……これが『悪魔の実』の力……!!

 

 しかし、これは何の能力なのだろうか。

 

 自分の手で触れたものが突如浮き上がる能力……さしずめ『フワフワの実』と言ったところだろうか。

 

 

 

「……うん?」

 

 

 

 『フワフワの実』……? どこかで聞いたような気がしないでもない。

 

 

 ビュオ、と風が吹き抜けた。

 その風にあおられて、私の髪が大きく巻き上がる。

 

 今の今まで気にしていなかったが、ふくらはぎにまで届くほどの長い金髪に、この体での祖国なら馴染みの深い和服。そして、腰に刺さっているのは二振りの名刀。

 

 

 

『黒炭の一族だァッ!!』

 

『根絶やしにしろォ!!』

 

『くそッ! どこへ行きやがった!!』

 

『俺はこっちを探す! お前は向こうを探せ!』

 

 

 

『探し出して必ず殺せ!!』

 

 

 

『――――()()、ぼさっとしてないで行くよッ!』

 

 

 

『この二振りの名刀、『桜十(おうとう)』と『木枯し(こがらし)』は、ウチに代々伝わる名刀だ。金に困っても、絶対に売りに出すなんてしちゃいけないよ。

 仮に売りに出したとしても、やっすい金で引き取られるのがオチさね』

 

 

 

 あぁそういえば、この体は“シキ”という名前だった。

 

 原作でも同じように虐げられていた『黒炭』の名でしか呼ばれなかったから、忘れかけていた。

 

 

 

 ……『シキ』、『桜十』、『木枯し』、『フワフワの実』。

 

 

 

「――――私、映画の『“金獅子”のシキ』になってね??」

 

 

 

 私の独り言を聞いてくれる人もいなければ、動物すらいない。

 

 返ってくるのは砂浜に押し寄せる波の音だけであり、混乱から目覚めたらまた混乱するという訳の分からない状況になってしまって、更に頭を抱える羽目になった。

 

 

 シキ? 本当にあの“金獅子”の??

 

 

 いや、でも原作ではシキは男性キャラクターのはず。こんな、着物を着ていても分かるような巨大な果実を身に着けた女性ではなかったはずだ。

 

 しかし、私が食べた『悪魔の実』はどこからどう見ても『フワフワの実』の能力そのもので……。

 

 

 

 

「……ハハッ」

 

 

 

 

 いいや、逆に考えよう。

 

 仮に女だとしても、この体は『“金獅子”のシキ』のもの。その体に秘めるポテンシャルは凄まじく高いものであるはずだ。

 

 原作ではシキと言うキャラクターは「かつての四皇」のような立ち位置で描かれていた気がする。

 映画の来場者特典でもらった本にも、確か海賊王と戦っていたり、海軍の英雄と仏と二対一で戦っていたりとかなりの活躍をしていたはず。

 

 

 つまり、私でも死ぬほど努力すればその境地に達する可能性があるのだ。

 

 

 特典や原作で描かれなかったシキの過去は、人々からの迫害というものだった。

 それが原因で原作では人々を力で支配しようとしていたのも頷ける。ただ、私は違う。

 

 

 

『ただいま』

 

『靴の位置が違うね。どこに出かけていたのかな』

 

『危ないじゃないか。事故にあったら? 暴漢に襲われたら? パパは心配なんだよ』

 

『なんだいその本は。……こんな野蛮な本、パパの娘に相応しくない。パパが処分しておいてあげよう』

 

『お前はアイツが遺した、ただ一つの形見だ。だから、お前を一人暮らしさせたり、嫁に出すなんて絶対にあり得ない』

 

 

 

 理不尽な束縛を振りほどく力を手に入れられるチャンスがある。

 

 私を邪魔するすべてを押しのけて、『自由』になれるチャンスがある。

 

 

 前世の私が見届けることができなかった、『自由』を愛する少年の見ていた景色を、見ることができるかもしれない。

 

 

 もし前世の私が『ONE PIECE』というものに出会っていなければ、原作のシキと同じような凶行に走っていたかもしれない。

 

 

 

 でも、紙の向こう側……いや、今はこの世界で『自由』を求めて海を旅する人たちを知っている私は、支配なんて望まない。

 

 

 

 

――――この体のポテンシャルを最大限に生かして、自由に生きてみせる……!!

 

 

 

 

 そうと決まれば、まずはこの無人島を脱出するために『フワフワの実』の力を磨いていくとしようか。




あとがき

読んでいただきありがとうございます。作者の弐式です。

まえがきにもあったように、改訂前を知っている方は混乱されたと思うので一応説明をさせていただきます。

改訂前の同名作品は、2022年10月8日に第一話を除いて全話を削除させていただきました。

その際に説明させていただきましたが、作品を見切り発車で始めてしまったがために、粗が目立ってしまい、そのことについてコメントで多くのご指摘を頂きました。

主人公の行動指針に粗が出ている、という作品の根幹を揺るがしかねない失態をしたまま、日刊ランキングという場所に居座っていいのか、と考えた末、作品と今一度向き合い、そして改訂という流れになりました。

改訂前でブクマと評価もかなりの数を頂き、多くの方がこの作品の続きを望んでいると分かった今、それに見合う作品にするべく誠心誠意取り組んでいきたい所存です。


粗を削ったと言っていますが、まだまだ未熟なために他の部分で粗が出てしまう可能性があります。その時は、コメントなどで教えていただけると幸いです。


改めて、『空飛ぶ女海賊』をよろしくお願いいたします。
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