「やはり、想像以上だなァ……ロックス海賊団!!」
敵船に放った衝撃波が相殺されて霧散したのを見て、ゼファーは笑みを浮かべる。
「これァ、一筋縄じゃいかねェな……海軍!!」
それと同じくして、相殺した衝撃波の威力を文字通り肌で感じた“白ひげ”も、口角を上げた。
「だが、これじゃあ船が持たねェ」
先ほどの余波で船の至る所に罅が入ったのを見て、リンリンがごちる。
普通に戦えば負けることなど万に一つもないだろうが、この状況ではゼファーとの戦闘の最中に船が耐えきれなくなって沈む。そうなれば、最高戦力の殆どが能力者であるロックス海賊団はひとたまりもない。
「ハハハ……いつもなら正面切って叩き潰すところだが、今は状況が状況だ。ニューゲート、リンリン、後方は任せたぜ」
「……了解」
「……テメェに命令されんのは癪だが、今はンな事言ってる場合じゃねェしな。
ゼウス、プロメテウス、やるよ」
様子を見に来たロックスに殿を任され、“白ひげ”とリンリンは急旋回してリヴァース・マウンテンのある方へ進路を取った船の船尾に立ち、全速前進で近づいてくる海軍の軍艦を見据える。
――――その二人の後ろ姿を眺めていたカイドウは、まだ自分と“白ひげ”との間に隔絶した力の差があることに対して歯がゆく思い、拳を握っていた。
「――――カイドウくん!! 今のは……?」
「……海軍が攻めてきやがった。今回の奴らはいつもとは違うらしい。……おれじゃ、あの海兵にゃ勝てねェ」
「カイドウくん……?」
そう言って、シキの眠る部屋に入ってくるなり片腕で腕立てを始めたカイドウに、パトラはストイックだなぁと微笑みながら部屋の扉を閉めた。
外からは大砲の音と時折大きな衝撃波の音が聞こえてくるが、シキが信頼を置くあの二人が対処に当たるなら、余程の事がない限りは大丈夫であろうとパトラはカイドウの為に食料箱から食料を取り出して例のごとくサンドイッチを作り始める。
こんな状況でも動じない辺り、パトラもかなり海賊、ひいてはロックス海賊団に染まってきたと言えよう。
「――――……ぁ」
シキの右手の小指が、僅かに動いた。
「どうした海賊共ォ!! いつもみたいにおれたちを潰しに来ねェのかァッ!!?」
「それが出来たら遠慮なくやってらァッ!!
〝雷霆〟ッ!!!」
「“天候を操る海賊”……異名は本当のようだなァ!!
〝スマッシュ・バスター〟ァァァッ!!」
リンリンがゼウスを通して発生させた巨大な雷の攻撃を、ゼファーは武装色を纏ったその腕一本で迎え撃つ。
ぶつかり合った二つの攻撃は互いに拮抗しながらも、最終的には相殺されて消えた。
それを見たプロメテウスは「ま、ママの攻撃が……」と唖然としている。今までその攻撃を受け止められる存在などごく限られた人物しかいなかった為、かなり衝撃的だったのだろう。
そうこうしているうちに海軍の船はどんどんとロックス海賊団の船に近づき、あわや放たれた砲弾が直撃しそうになる場面も増えてくる。
そういったものは“白ひげ”がグラグラの能力で飛んでくる前に爆発させたり、薙刀で斬り落としたりしているがそれだと対処が追い付かなくなるのは時間の問題だった。
「このままじゃジリ貧だぞ……!!」
「不味いね……ありゃあ……
“白ひげ”とリンリンが目線を向けた先には、六式の一つである“月歩”を使いながら、こちらに飛んで来ようとしているゼファーの姿。
「来させるかッ!! 〝
「〝スマッシュ・ボンバー〟ァッ!!」
来させまいと“白ひげ”が放った衝撃波は、同じく武装色の覇気を纏った拳から繰り出される一点集中型の衝撃波に相殺される。
そして、“月歩”で再び空を蹴ったゼファーは、そのままロックス海賊団の船へと降り立つ。
「海兵が乗り込んできたぞォ!!」
「取り囲めェ!! 蹂躙だァ!!」
「覚悟しろよ海兵!!」
それを見た海賊たちが黙っているはずもなく。外の軍艦へ向かって大砲をぶっ放す人物たちを除いて、殆どの海賊たちが船尾に集まってくる。
剣先が、銃口が、ゼファーへと次々に向けられるも、ゼファーの顔から余裕の笑みは消えない。
――――何か裏がある。
「アホンダラァ!! 今すぐここから――――……」
離れろ、そう言おうとした時には、すでに遅かった。
「良い感じに集まってくれたなァ……――――〝スマッシュ・インパクト〟ッ!!」
――――ビキビキッ!! バキィッ!!!
ゼファーの鈍い青に光り始めた武装色を纏う両腕が、勢いよく床へと叩きつけられた。
武装色の内部破壊が木造の船をぶっ壊し、ロックス海賊団の船の船尾部分が跡形もなく消し飛んだ。
粉々になった木片が辺りに飛び散り、それを足場としていた海賊たちは突如足場を失って海へと真っ逆さまに落ちていく。
ギリギリ攻撃の影響範囲から逃れた“白ひげ”と、ゼウスに乗って転落を免れたリンリンは、“月歩”をしながら不敵な笑みを浮かべるゼファーを睨む。
もう船は、船として機能を果たさなくなってしまった。
消えた船尾部分から船内にどんどんと海水が入っていき、船体が完全に沈むのに時間はかからないだろう。
そうなれば、空を飛ぶことができるリンリンはともかく、飛ぶことのできない“白ひげ”や、眠っているシキは確実に海に沈んでいく。
『戦力を大きく削る』どころか、ゼファーは敵船そのものを沈めてしまうことに成功してしまったのだ。
「“金獅子”と“王直”の戦いで船が痛んでいたのか、道理ですぐに壊れた訳だ。
――――ロックス海賊団!! ここが年貢の納め時だァッ!! 全員大人しく投降しろォッ!!」
完全に接近された海軍の軍艦に、海に落ちた海賊共が次々に引き上げられて拘束されていく。
これでロックス海賊団は終わり――――。
そう思っていたゼファーだったが、いつまで経ってもリンリンや“白ひげ”の反撃が来ず、船長のロックスも姿を現さないことに疑問を感じた。
「……どういうことだ――――……ッ!! まさかッ!!」
沈み行く運命だったはずの海賊船が、
ゼウスに乗ったリンリンも、浮かんでいく船に乗っている“白ひげ”も、その顔に浮かべていたのはしてやったりと言ったような笑み。
「ジハハハハ……そのまさか、さ。“黒腕”のゼファー」
「“
船の奥から歩いてきたのは、“金獅子”のシキ。このタイミングで最も目覚めてほしくない人物だった。
「グラララララッッ!!! 締まらねェ恰好で登場しやがって!! ……遅かったじゃねェか」
「ハ~ハハママママ!!! ほんとだよ全く!! ……心配かけさすんじゃねェよ」
「悪いな。生憎、まだ体が思うように動かなくてな――――」
しかし、登場したシキは体中に繃帯を巻き、何より、
「――――カイドウを足替わりにさせてもらった」
カイドウが肩車をしていたのだ。激戦で体が完全に癒えていないとはいえ、これほどまでに恰好の悪い復活の仕方はないだろう、とシキを乗せたカイドウは言葉に出さずに飲み込んだ。
「さて、海に落ちた連中はやろう。どうせ敵の思惑にまんまと嵌るような雑魚だ。いなくなったところで何ら影響はない。
じゃあまたどこかで会おう。海軍」
「――――ッ!! 逃がすかァッ!! 〝スマッシュ・ボンバー〟」
すぐさま我に返ったゼファーが、ならば船ごと粉々にしてやる、と技を繰り出すと、間に割って入ったのはシキの能力によって浮かぶ板の上に乗った“白ひげ”と、ゼウスに乗ったリンリン。
「グララララ!!! 合わせろリンリン!!」
「テメェこそ、タイミングずらすんじゃねェぞニューゲート!!」
あくまでも呉越同舟。同じ目的のために乗っているだけに過ぎない、本来なら話すこともないはずのヤツ。
だが、それを繋ぎとめた一人の女が、二人にこの
「「
「――――ッ!!!! なッ!!!」
その波動は、ゼファーの衝撃波をいとも容易くぶち抜き、ゼファーを巻き込んで海軍の軍艦をぶっ壊し、水平線の彼方までぶっ飛んでいく。
その様子を、シキとリンリンと“白ひげ”は、笑みを浮かべながら眺めていた。
ちなみにぶっ飛んでいったゼファー中将は、そのあと無人島に不時着して「やるなァ(ニヤリ)」と言ってます。バケモンです。何で気絶しないの???