空飛ぶ女海賊   作:貮式

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昨日、日間ランキング二位にいた時は腰抜けるかと思った。

いや、ほんと、今まで執筆活動してきて初めて二位とか取れたので色々吃驚。


皆さん、ほんとにありがとうございます。


16.嵐の前の静けさ

 

 

「〝雷鳴八卦(らいめいはっけ)〟ッ!」

 

 

「〝(ザン)(ギリ)(モチ)〟ッ!!!」

 

 

 

 カタクリが強くなるために私のところへ通うようになってから、既に一年以上経過していた。

 

 この一年間、特に大きな事件は起きておらずロックス海賊団は比較的安定して反政府活動を行っている。

 

 

 そのためリンリンから「おれからも頼むよ」と言われてしまい、カイドウと共に適度にしばき倒しているカタクリの面倒を見る機会が増えているのだが。

 

 

「…………へェ、やるようになったじゃねェか」

 

「兄弟たちの為に……ハァ、ハァ、おれも、負けてられねェ!!」

 

 

 普段ならば簡単に躱されるカタクリの〝(ザン)(ギリ)(モチ)〟が、カイドウの脳天に命中している。

 

 それでもカイドウには全く効いていないようではあるものの、それでも一年でカイドウに攻撃を当てられるようになるとは、かなりの進歩であろう。

 

 

 流石リンリンの息子と言ったところか。成長速度が異様に速い。

 

 

 能力の練度、武装色の硬度、見聞色の精度、どれも一年前とは比べ物にならない程にランクアップしている。

 

 正直、原作ではリンリンのところの最高幹部に居たことくらいしか覚えていないが、そのポテンシャルを秘めているとあらばまぁ妥当な成長速度なのだろうか。

 

 

「良い志だな。――――なら、もっと強くならなきゃなァッ!!」

 

「――――ッ!!!」

 

 

 蹴りを放ってカタクリと距離を取ったカイドウが、再びカタクリに迫って『八斎戒』を構える。

 

 まだ体勢の立て直せていないカタクリを、カイドウの『八斎戒』が容赦なくぶっ叩く……直前に、カタクリは武装硬化した腕を自身と『八斎戒』との間に差し込んだ。

 

 

「ぐあああぁぁッ!!」

 

 

 カタクリが何度かバウンドして吹っ飛んでいき、そして船の壁に激突して止まった。壁に傷跡がついてしまったが、剣の跡や銃の痕跡が至る所に残っているこの海賊船で、それを気にするなど今更だろう。

 

 

「…………ほぅ」

 

 

 壁にぶつかったカタクリは気絶しているものの、その体に目立った外傷はない。

 

 あの一瞬。カタクリが腕を差し込まなければ、カタクリはカイドウの『八斎戒』をもろに頭に受けて今頃は頭から血を流していたはずだ。

 

 

 カイドウのあの速度……見てから躱すことは不可能に近い距離と速度だったにも関わらず、カタクリは何とか防いでみせた。

 

 

 

「どうだ、カイドウ。最近のカタクリは?」

 

「面白れェ奴だ。この一年で驚くほど成長してやがる。あれは……化けるぞ」

 

「同感だな」

 

 

 

 僅か九歳にして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()カタクリ。

 

 是非とも私たちと共に海を冒険してほしい逸材だが――――……「おれの息子は、やらないよ」

 

 

「……………………分かっているさ」

 

「その割には、随分と躊躇ったねェ……?」

 

 

 気絶したカタクリをカイドウが担いでパトラの下へ運んでいくのを見ながら、不意に現れたリンリンへ迷った末言葉を返す。

 

 運ばれていくカタクリを見るリンリンの目には、大物海賊として常に厳しくあろうとする威厳と、血のつながった息子へ対する深い愛が感じ取れる。

 

 

 やはり、自身の子供というのは可愛いものなのだろうか。

 

 ……私には分かる時はこないだろう。

 

 

 

「カタクリは……おれの子供たちは、みんなおれの夢の為の『道具』さ」

 

「…………」

 

 

「ただ、それ以前に、アイツらはおれの血のつながった本当の『家族』。

 おれの我儘の為に生まれてきて、おれの子供だって、海賊だからって、何もできずに死んでいくことだけはさせたくない」

 

 

 

 本当にたまにではあるが、カタクリ以外のリンリンの子供たちも私やカイドウに挑みに来ることがある。

 

 そういう彼らはだいたいリンリンに無理矢理来させられた子たちなのだが、リンリンから「余計な手加減はするな」と念を押されているため、どれだけ怖がっていようが私たちは普通にぶっ倒す。

 

 

 最近、漸く恐怖心も薄れて来たのか、覚悟が決まった顔をしている子も増えてきたが、カタクリには遠く及ばない。

 

 

 

「まァ、これもおれの我儘なんだがな。だが、海賊ってのは自分の欲の為に生きてなんぼってもんだろう?

 できる限り強い子たちに育って、そんじょそこらの海賊なんかにはやられないような子供に育ってほしい。

 

 そのためにシキ。お前をダシに使っちまったのは悪いとは思っているさ」

 

 

「なんだ。そんなことを気にしていたのか?」

 

 

「……あァ」

 

 

 珍しくお茶会の事以外で私に話しかけて来たかと思えば、これである。

 

 『食いわずらい』や、育った環境もあってか少しだけ子供っぽいところもあるリンリンだが、彼女もしっかりとした『大人』で『親』で私の『親友』だった。

 

 

 

「急に悪かったなシキ。これからもおれの子供たちを頼むよ」

 

 

 

 こちらは振り返らず、後ろ向きで手を振りながらリンリンは立ち去っていく。私の部屋の方向に向かっていったから、恐らく部屋でカタクリの手当をしているであろうパトラにも同じことを言いに行きそうだ。

 

 

 

 と考えていれば、今度はまた違う客人がやってくる。

 

 

 

 トレードマークの白いひげは相変わらず健在で、長年愛用している『むら雲切』も年季を感じさせない威圧感を放っていた。

 

 

「懸賞金が20億にもなろうっていう海賊二人が、並んで辛気臭ェ話してると思えば……

 テメェのところで毎日伸されてるガキにでも感化されたかシキ」

 

 

「……そうかもな」

 

 

 船の甲板の手すり部分に背中を預ける私の隣に、ニューゲートがそこへ肘を置いて海を眺めるように並ぶ。

 

 きっとニューゲートの目には、沈んでいく太陽とオレンジ色に染まった空と海が映っていることだろう。

 

 

 

「……おれァ、『天上金』なんてモンが支払えねェから、海賊共に年中襲われる無法地帯で生まれた」

 

 

 

 ニューゲートの独白を、私は黙って聞く。

 

 その声には、どこか寂しさが含まれているように思えてならない。きっと、ニューゲートが連れている船員たちでも知らないような、彼の根本にかかわる話。

 

 

 

「おれは孤児で、馬鹿だが喧嘩が強ェくらいしか取り柄がなかったが、それでも島の連中はおれに優しくしてくれた。

 おれを、『家族』のように扱ってくれた」

 

 

 

 孤児であったニューゲートが長年欲し続けていたもの、それは『家族』。

 

 例えリンリン達のように血が繋がっていなくとも、心から信頼し合えて助け敢えて、愛し合えるような。そんな、家族なのだろう。

 

 

 

「『世界政府』を倒す、なんてガキみてェなことはもう考えてねェが、『家族』だけは、おれが死ぬまで作り続けたい。

 きっと世界には、おれみてェに『家族』に飢えてるヤツなんざごまんといるだろう。おれが、そんなヤツらの『親父』になってやりてェ」

 

 

「……なれるさ。ニューゲートなら」

 

 

「グララララ!!! まさかおれが場の雰囲気って奴に流される日が来るとはな。 ……だが、案外悪くはねェ」

 

 

 

 ちらりと横目で見たニューゲートの顔は、どこか晴れ晴れとしていて、背負っていた荷物が少しだけ軽くなったような、重荷がなくなったような顔をしている。

 

 

「おれァ、お前の能力が羨ましいんだぜ? シキ。堅気の人間を殺さずに済む、細かい調整の効く能力。

 おれの能力じゃ、どう足掻いても撃てば堅気が死ぬようなモンしか出せねェ」

 

 

 それは、ニューゲートにしては珍しい他者への羨望と弱音だった。

 

 彼が普段見せないような感情を向けられるほど、ニューゲートから信頼されていたのだと少しうれしくなるが、そんなのはニューゲートらしくないと思考を切り替える。

 

 

 私はニューゲートには、「おれに出来ねェ事はねェ」と不敵に笑っていてほしいのだ。

 

 

「――――なら、微調整ができるようにすればいい」

 

「そう簡単に出来たら、苦労は――――「何度でも試行錯誤すればいいじゃないか。ニューゲートらしくない」……お前」

 

 

 

 ニューゲートに目線だけ向けていた私の目と、ニューゲートの目が交錯する。

 

 

 

「だってお前は、“白ひげ”だろう?」

 

 

「――――……グララララ!!! あァ、そうだな。他人を羨んで研鑽を怠るなんざ、おれらしくねェ」

 

 

 

 再び海の方を向いてひとしきり笑ったニューゲートは、踵を返して船内へと戻っていく。

 

 その後ろ姿に、迷いはない。

 

 後に立派な『オヤジ』となる、偉大な男の背中がそこにあった。

 

 

 

 

「――――なァ、シキ」

 

 

「……? なんだ」

 

 

 

 

 ニューゲートが立ち止まり、私へ振り返る。

 

 

 

 

「おれも、リンリンも、カイドウも、テメェに関わって、テメェに賛同してくれる奴等は全員。

 シキ、テメェに会えて良かったと、本気で思ってるんだぜ」

 

 

 

「……ふふっ、なら、良かった」

 

 

 

 

 

 一人甲板に取り残された私。

 

 水平線に沈みかけていた太陽は完全に沈み切り、夜がやってくる。

 

 

 どうやら誰も、私の話は聞いてくれないらしい。

 

 

 どのみち、語るほどの話なんて持ち合わせていないから別に良かったのだが、それはそれで悲しく感じてしまう。

 

 

 

「帰るか」

 

 

 

 パトラとカイドウ、あとカタクリとリンリンもいるであろう自分の部屋へ帰る。

 

 不思議と、足取りはここ最近で一番軽かったように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロックス海賊団の船は、新世界の険しい山岳がある島へと、近づいて行っている。






次回――――……ゴッドバレー事件。
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