「そしてお前は……うわさに聞く“金獅子”だな?」
「……あぁ、そうだが」
先ほどまで暴風が吹き荒れていた戦場が、一気に静まり返る。
それもこれも全部、いきなり目の前に現れたこの男、ゴール・D・ロジャーのせいなのだが。
もうおおまかな概要しか思い出せなくなってきている原作でも、決して忘れることのできない存在感を放っていた男。後の“海賊王”にして、『大海賊時代』の幕開けを促した男。
今はまだ最後の島に辿り着いていない為、“海賊王”ではなく“鬼”の異名で呼ばれているが、その力はニューゲートやリンリンに匹敵する凄まじいものであることは気配からして分かる。
「ロジャー……貴様もしや、ロックス海賊団の仲間だったのか!!?」
「わははは!! そんなわけあるか。
おれァ、アイツに仲間をやられたんだ。その落とし前をつけるためにわざわざこんな祭りの中突っ込んできたのさ」
ロジャーがこの島に来ることは……原作でも、そうだった気がする。
ガープと手を組んでロックスを倒す……んだったっけか。もう細かいことは忘れてしまった。
ただ、このままロジャーを見逃してロックスの下へ行かせてしまえば、ロックス海賊団はここで終焉を迎えるだろう。
ガープとロジャーを相手にするなんて、ロックスでも無理だ。
それに、今はただでさえ海軍の三大将を相手に戦っているのだ。体力もかなり削られているだろう。そこへガープとロジャーのタッグなど、絶対に勝てるわけがない。
ゼファーとロジャーを相手にするのは少々骨が折れるが、ここは足止めをして―――とは、考えない。
「そうか……なら、とっとと行けばいい」
「……!? お前、ロックス海賊団なんだろ? 止めないのか?」
「ロックスが勝とうが、お前が勝とうが気にすることではない。私は……この海で『自由』に生きられればそれでいい」
「―――ッ!! わっはははは!! そうか!! よぅし……」
私の返答に大笑いするロジャーと、私とロジャーの会話をただ静観するゼファー。
そして、ひとしきり笑ったロジャーは私の目を見ながら―――
「“金獅子”……おれァお前を気にいった!! おれの船に乗れ!!」
「……ハァ!?」
なんとも素っ頓狂な提案をしてきた。
私はただただ困惑。ちらりと横目で見たゼファーも黙ってはいるが驚いているようだった。
「断る。なぜ私がお前の船に乗らなければならない?」
「『自由』を愛せる奴ってのは、この海にゃ少ねェ。ただお前は、本当に『自由』を夢見て『自由』を愛している……ように見えた!! それだけで十分だ!!」
「それを決めるのも私の『自由』だろう? 断ると言ったら断る」
私の言葉を聞いたロジャーは、ポカンとした顔をした後、「それもそうだな!! わはははは!!」と再び大口を開けて笑い始めた。よく分からないヤツだ。
「それもそうだな!! じゃあ諦める! そんじゃあ、おれは行くぜ。じゃあな“金獅子”、ゼファー!!」
来た時と同じような速度で戦場を全力疾走していくロジャーを見ながら、私とゼファーはため息を吐いた。
本当に台風のような男だ。
突如として現れて、場をかき乱して去っていく。さりとてその実力は本物。
「ロックスじゃ、勝てないな」
「……貴様、仲間を見捨てるのか?」
「まぁ、そう言う事だな。尤も、ロックス海賊団に仲間意識なんてものはないけどな。
あるのは……ニューゲートやリンリンくらいか。ロックスが勝とうが負けようが、結果的に私は『自由』にやらせてもらう。
それが、私の信条なんでね」
束縛されていたあの家と、迫害されていたあの環境から抜け出した私が見た、あの広い大海原。
只管に抑圧されていた感情が心から溢れ出して、止まらなくなったあの景色。
この世界を自由に駆けまわれたら、どれほど楽しいかと思った。そして、それは実際に楽しいものだった。
だから、私の『自由』の障害にならない限り、誰がどこで何をしようが私に関係ない。今回の戦争だって、同じことだ。
「ただ……」
「……?」
「『自由』に過ごすためには、強さがなくてはならない。
だから、強いヤツと戦って鍛えなきゃならない……そうだろう? ゼファー」
「……ハハハハハ!!! そうだなァ!! さァ、続きと行こうかァッ!!」
静寂を保っていた戦場が、再び激化し始める。
私とぶつかり合うゼファーの表情は、先ほどよりどことなく楽しそうなものだった。
――――
「“金獅子”のシキ……ハハッ、面白ェ女だぜ」
ニューゲートの野郎から度々話を聞いていた『変なヤツ』。
だが、いざ話をしてみればアイツは誰よりも『自由』を愛するヤツだった。
是非とも共にこの海を渡ってみたい。酒を飲み交わして話し合ってみたい。いつもなら強引に仲間に誘っていたところだが……アイツの本気を感じて、おれは引き下がることしかできなかった。
きっとアイツの『自由』は、アイツの深いところ……アイツをアイツたらしめる所からきているモンだろう。
おれの船に乗らないならそれでいい。ニューゲートみたいに海で出会えば剣を交わして酒を飲み、共に朝まで語り合えばいいだけのこと。
―――! おっと。
「こいつは……海軍の大将じゃねェか」
おれの足元に、海軍本部の大将が頭から血を流して飛んできやがった。本部の大将はコングってヤツを除いて戦ったことはないが、大将は強い連中ばっかりだったはずだ。
そんなヤツがここでぶっ倒れてるってことは……。
「この先に、ロックスがいる……!!」
二年前、別行動していたおれの仲間を殺したロックス。
二年経った今でも、アイツへの恨みは消えちゃいない。
そういや、ロックスの下へニューゲートがついたと聞いた時にゃ驚いたが、センゴクとやり合ってるときのアイツを見た限り、世界をどうこうしたくて乗ってるわけじゃなさそうだったな。
“金獅子”もそんな感じだったし、ロックスは仲間からの信用があまりなさそうだな。
「……そうこうしてるうちに……!!」
大将がぶっ飛んできた方へ走っていれば、センゴクが言っていた大峡谷に出た。下からはドカーンバコーンと戦いの音が聞こえる。間違いなさそうだ。
おれは躊躇わずにその大穴へと落ちていく。感じる風が強くなればなるほど、戦いの音はどんどん大きくなっていく。
「ハハハ……死ね」
「―――!! がっ……!!?」
「―――!!! 元帥!!!」
ロックスが手にしていた剣が、地面に這いつくばっていた海兵の首を切り落とした。それを見て、おれたちと拳を交えたことのあるコングが叫んでいた。
おれは空中で『エース』を引き抜き、覇気を纏わせる。
そしてそいつを振り上げて、叩きつける体勢に入った。
ロックスと目が合う。驚いた顔をしていやがったが、すぐに得物を構えておれを迎え撃つ準備に入った。
「
「ぬんッッ!!!」
落下の勢いもつけたおれの攻撃は、ロックスに受け止められる。
おれとロックスの覇王色が激突して、周囲の遺跡がボロボロと崩れた。おれとロックスのぶつかり合いを見たコングとガープが目を大きく開けて驚いていやがる。
暫くして、覇王色がはじける。
おれとロックスは反動で互いに後ろへ下がりながら見合う。ロックスの野郎は多少疲れているようだが、それでもかなりの力を残しているようだった。
「ロジャー貴様……!! なぜここに!!」
「仲間の落とし前を付けに来た。―――……手を貸してくれ。ガープ」
「ッ!! な、なんだと!?」
とんでもねェバケモンだ。ロックスは。海軍大将と元帥を相手にして、多少の疲れが見える程度。
「今はおれと海軍で争っている暇もないだろう? 海軍は世界の平和のために、おれは仲間の落とし前の為に。目標は一緒だ。なら、いいだろう?」
「そういう問題じゃねェ!! なぜおれが、お前と一緒にロックスを倒さねばならんのだ!!」
「アイツはバケモンだ。それはお前も分かっているだろう? ガープ」
「ハハハ。そいつは嬉しいねェ」
ガープは拳を握りながら歯を食いしばっている。おれの言う事が正しいと分かっていながらも、おれ……海賊と手を組むことに抵抗があるのだろう。
「ぐぬ……ぐぬぬぬぬぬゥ……ッ!!」
「ガープ、頼む」
「海賊と海軍が手を組む……? ハハハ、そうなったら、海軍の面子は丸つぶれだな」
ニヤニヤと気に食わねェ笑みを浮かべるロックス。その顔は、おれの仲間を殺して、おれを倒したときにも浮かべていたもの。
今にもぶっ飛ばしに行きたい欲を抑えて、ガープの方を見てみれば、
「……―――そいつは、お前がこの戦争に勝ったら、の話だろう?」
―――ゴキゴキ、ポキポキ。
「ロジャー……貴様と共に戦うなんざ、これっきりだぞ」
「ガープ……ッ!!」
“拳骨”のガープが、手の骨を鳴らしておれの隣に立つ。
「……おれに一度敗れた敗北者共が、手を組んだところで何になる……ッ!!」
「それは―――」
「―――おれたちが」
「「決めることだッ!!」」
ロックス……!!
お前はおれとガープが倒す……ッ!!!
・ゼファー
ロックス海賊団にいる凶悪海賊じゃないのか。見直したぞ“金獅子”!!
・ロジャー
“金獅子”? 気に入った! お前船に乗れ!!
・ガープ
ロジャーと手を組むのは嫌だが、ロックスの思い通りになる世界はもっと嫌だ。
・ロックス
ロジャーとガープは所詮、前におれに敗れた敗北者じゃけぇ。