空飛ぶ女海賊   作:貮式

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2.無謀な初陣

 

 

 私が流れ着いた小さな島を能力で飛ばせるようになるまで、三か月ほどかかった。

 

 この島で三か月も過ごすのはなかなかに苦ではあったが、前世の家からの解放感と今世の待遇を思えば、ここでの生活も悪くないものであった。

 

 何より、とれたての魚の味は格別であった。

 自給自足の生活というのはここまで楽しいものであったのか。私の頭の中にある合計30年分ほどの記憶をもってしても、こんなに楽しいサバイバルをしたことはない。

 

 

 しかし、その生活も今日で最後だ。

 

 

 小さな島だった為に、能力を伸ばすために使う分にはもってこいだったが、何分小さいせいで獰猛な動植物やらが存在しないし、余程の辺境にあるためなのか三か月で通った船舶の数はなんとゼロ。

 

 これでは能力の影響の大きさを鍛えることはできても、この世界で自由に生き延びるために必要な剣術や覇気を伸ばすことができない。

 この島でのサバイバルもそろそろ潮時だと思ったわけである。

 

 

 ドバン、と浮かせていた島を落とせば、巨大な水しぶきが舞って、大きな波が同心円状に広がっていく。

 

 

「三か月間、世話になった」

 

 

 地盤から離れたせいで若干斜めになってしまった島へ向かってお辞儀をした後、能力を使って飛び上がり、道中で嵐が来ないことを祈りつつ、なるべく全速力で島を探して飛び始めた。

 

 

 

 

 

 ――――島ではないが海賊船を見つけた。剣術と覇気の訓練がてら、ちょっかいをかけてみることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャボンディ諸島で船をコーティングし、魚人島を経由して新世界へと足を踏み入れた海賊団がいた。

 

 大海賊時代なんてものが訪れるのは今より遥かに未来の出来事。この時代の海賊とは名実ともに海の支配者であり、腕っぷしに自信のある強者ぐらいしか海賊になどならなかった。

 

 

 あの赤い土の大陸を越えた先にある海で、今度はどんな島で略奪をし、どんな島で宝を見つけるのか。

 

 

 そんな風に胸を高鳴らせていた海賊団の船に、突如としてそれはやってきた。

 

 

「なんだありゃぁ? 空飛ぶ……人間!?」

 

 

 カモメと並走するように空を飛んでいたのは、長い髪と和服を揺らす人間。

 それは海賊船を見つけると徐々に高度を落とし、口をあんぐりと開けて驚く海賊たちを気にすることもなく、カタリと下駄を鳴らして甲板へ降り立った。

 

 

 

「私の名は――――……“金獅子”のシキ。海賊だ」

 

 

 

 その言葉を聞いて、海賊たちは開けていた口をだんだんと閉じていき、そして、笑った。

 

 

「ぎゃははッ!! 覇気も使えねェ女が、海賊ゥ!? ぎゃははは!!」

 

「ワノ国からおれたちの慰み者になりにきた、娼婦の間違いじゃねェか?」

 

「どんな方法か知らねェが、空飛ぶ力を手に入れて強くなったと勘違いしたのかァ!?」

 

 

 シキが降り立った海賊船は、運の悪いことにかなり名の通った海賊だった。

 のちの世界でいうならば、あと少し名声をあげれば政府より『七武海』への加入の打診が来るくらいには、実力の高い海賊団だったのだ。

 

 乗組員の殆どが『覇気』の存在を知っていて、中にはそれを扱えるものも数名いる。

 

 懸賞金ゼロの自称海賊の初陣には、少々……否、かなり荷が重いどころか下手をすれば簡単に命を落としてしまう。

 

 

「嬢ちゃん。力を手に入れて調子に乗っちまったもんは仕方がねェだろう。なに、おれたちもそこまで鬼じゃない。

 10秒だ。10秒以内にここから出ていったら、見逃してやろう。それができねェなら、どうなるかは分かってるよな?」

 

 

 腹を抱えて甲板にうずくまる人もいる中、その顔に笑みを湛えながらも冷静に降り立ったシキへそう告げたのは、この海賊団の船長。

 

 悪魔の実の力こそ有していないが、覇気と腕っぷしだけで成り上がったその男は、目の前で静かにたたずむシキに負けるなんて微塵も思っていない。

 

 

「そりゃあ、いい提案だな」

 

 

 凛と、透き通るような声。乱暴にすれば、どんな声で鳴くのかと期待する船員も出て来た。

 

 

「ただ」

 

 

 カチリ、とシキは腰に掛けていた桜十の柄を手に取った。

 それはあまりにも隙の多すぎる、剣を握ったことのないような初心者の動作。

 

 しかし、自身の覇気でしか相手の実力を量ってこなかった海賊は、まさか「弱いヤツが単騎で乗り込んでくる」などという状況は想定していなかったために、シキのその直後の行動に理解が一瞬追いつけなかった。

 

 

「それじゃあ修行にならない」

 

 

 桜十を抜き放ち、シキは近くにいた船員を叩き切った。

 

 ただ力任せに斬るだけの、なんの技術も感じられない一刀。しかし、鋭利な刃物で首を掻き切られた船員は、それだけで事切れた。

 

 シキが返り血で染まっても動じることはないのは、彼女の中に生き延びるために人を何人も殺した経験があるからか。

 

 

 「仲間が殺された」と、そう認識した後の海賊の行動は早い。

 

 

「やれェ! 殺せェッ!!」

 

「そうこなくっちゃ」

 

 

 短い時間ではあったものの、人を殺しながら逃げ回った記憶というのは、殺人など無縁であった時代や世界を生きた彼女の倫理観をぶっ壊すには十分すぎた。

 

 

――――覇気とは、追い詰められてこそ開花する。

 

 

 まだルーキーとも言えない、相棒と共に船出したばかりの師匠の言葉に従って、シキは圧倒的に不利な戦いに身を投じた。

 

 不利どころではない。一歩どころか半歩も間違えればすぐに死が待っているような戦いに身を置いてもなお、彼女は戦場で()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この……おれ……が……」

 

 

 バタン、と海賊団の最後の生き残りであった船長が斃れたのは、シキが海賊船に乗り込んでから十日後の事だった。

 

 もはや血が流れていないところの方が少ないのではないのだろうか、と言うほどに血で溢れかえった船内で、体中に傷を負ったシキが壁を背にして座り込んだ。

 

 流石に無傷、という訳にもいかず、致命傷一歩手前ほどの重傷を負ってしまったシキ。

 しかし、この十日間でシキは海賊船の船長が使っていた剣術や、船員が使っていた武術などのほぼすべてを見切り、そして体になじませることに成功していた。

 

 

「流石は、ハァ、ハァ、将来を約束された大海賊の肉体……ハァ、ハァ」

 

 

 覇気と言うもの自体を扱えるようになったわけではないが、それでもその存在の取っ掛かりのようなものを認知できたシキは、自身の体のポテンシャルの高さに改めて脱帽した。

 

 しかし、これらを完全に会得するようになるには少なくとも年単位の時間がかかると、シキはなんとなく感じていた。

 

 

「刃毀れは……流石にしてるか」

 

 

 『刃こぼれの一つも剣士の恥と思え』と未来の大剣豪が言っていたが、まだまだ精進が足りないなとシキは苦笑いする。

 

 

 

「……ハァ――――……疲れた」

 

 

 

 ひときわ大きな息を吐いて呼吸を整えたシキは、血に塗れた敵船の中で、目を閉じた。

 

 自分の手には、人を殺した感覚が未だに残っている。

 

 

 しかし、シキにはそれが不快なものと感じることはなかった。

 自分が間接的に生きて来たあの国での数年間の出来事は、ここまで前世の感覚を狂わせるのかと、彼女は考える。

 

 

 だが、やってしまったことは仕方がない、生きていくにはこうするしかないのだ。と、ある意味開き直って、彼女は十日間の激戦で溜まりに溜まった疲れを癒すべく、深い眠りに落ちていった。




シキと海賊の差を簡単に表すと、クロを倒したばかりのルフィがドフラミンゴの最高幹部に挑むようなものくらいかな?
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