空飛ぶ女海賊   作:貮式

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20.もう一つの戦い

 

 

「ふぅッ!! せいッ!!」

 

「ぬゥんッ!! そりゃァッ!!」

 

 

 私とゼファーの実力は拮抗……否、地力の方で言えばゼファーの方に多少軍配が上がるといった感じか。

 

 まさに筋肉ダルマと言った風貌で、体格のいいゼファーと比べて私はかなり小柄だ。その分出せる力にも限度がある。

 

 

 私が体力温存のために、時折フワフワで生み出した獅子をゼファーに向けているのに対し、ゼファーは私の獅子や剣での攻撃を全てその拳一つで受け止めて相殺しているのだ。

 

 

 長期戦になればなるほど、私が不利になっていくのは明白。だとしたら、早いところ仕掛けて仕留めるしかないのだが―――。

 

 

 

〝スマッシュ・バスター〟ァァッ!!

 

「―――ッ!! ちぃッ!! 〝獅子威し・破巻き〟ィッ!!

 

 

 

 ゼファーがそう易々とやらせてくれるはずもない。

 

 

 向こうが考えていることは私と真逆。できる限り長期戦にして私の体力を削り、疲れ果てたところを始末する。

 

 私が仕掛けようとする気配を見せた瞬間にこうだ。

 放った技が直撃すれば僥倖、そうでなくとも私の体力をじわじわと削ることができる。

 

 

「……ハァ、ハァ、厄介だな」

 

「どうした“金獅子”? 息が上がっているようだぞ」

 

 

 巻き上がった土煙が晴れ、ゼファーは私の様子を見て笑みを浮かべる。正直言って、こちらが勝てる確率は今のところかなり低い。

 

 おおよそ三割ほどと言ったところだろうか。

 

 

 私がこれを認識できているという事は、向こうもそれを把握しているはず。だからこそゼファーは強気で攻められるし、私はより慎重にならなければならない。

 

 

「来ないなら行くぞォッ!! ふんッ!!」

 

「クソッ!! 斬壕(ざんごう)〟ッ!!

 

 

 ゼファーはわざわざ私が体力を回復する隙は与えてくれない。私が来ないと分かれば、すぐに拳に武装色を籠めて殴りかかってくる。

 

 ガープ同様、己の腕っぷしと覇気のみで中将まで成り上がったゼファーの実力は伊達ではない。

 “王直”の攻撃に匹敵する内部破壊が込められた武装色の拳を一発でも食らえば、私はいとも容易くやられてしまうであろうことは明らか。

 

 

 幸い、見聞色の覇気はゼファーは『未来視』の領域にはまだ達していないらしく、私はそのアドバンテージを活かしてゼファーの攻撃を相殺しているのだが。

 

 

 なぜわざわざ相殺するのかと言えば、ゼファーの動きが速すぎるからだ、という一言に尽きる。

 

 『未来視』でゼファーの動きを読んでいたとしても、彼の六式はそこらの海兵の比ではなく、まさしく“王直”の瞬間移動の如く速い『(ソル)』で迫ってくる。

 

 

 故に私の速度では回避が間に合わず、どうにか大気中の塵を集めてゼファーにぶつけるしかないのだ。

 

 

 

「ハァ、ハァ、くっ、〝獅子威し・地巻き〟ッ!!」

 

 

「―――どこへ向けて撃っているッ!! 〝スマッシュ〟―――!!」

 

 

 

 私の戦闘は見聞色頼り。

 

 だから、少しでも集中力が乱れたりすれば相手の動きが予測できなくなり―――。

 

 

 

「ッ!! しまッ―――!!」

 

 

 

 

〝バスター〟ァァッ!!

 

 

 

 

「―――ッ、がッ―――……!!」

 

 

 

 

 私は武装色の内部破壊をもろに受けながら、激しく吹き飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パトラお姉ちゃん! あーそーぼー!」

 

「はい、いいですよ。何して遊びますか?」

 

「えーっとね、解体ショー!!」

 

「えーっと……」

 

 

 ロックス海賊団が壮絶な戦いを繰り広げている中、戦う力を持たない“ビッグ・マム”の子供や船のコック、パトラはとある島にて海賊団の帰りを待っていた。

 

 そして、“ビッグ・マム”の子供たちの面倒を見ているのはパトラ一人。

 

 自分で考えて行動のできる上の兄弟たちはともかく、遊び盛りの下の子たちや赤ん坊の面倒を一人で見るのはなかなかに骨が折れるものであった。

 

 

「パトラ姉、モンドールとコンポ、ラウリンにご飯をあげてきたぜ。ペロリン♪」

 

「おいお前ら!! 喧嘩すんのやめろ! ブリュレ、ちょっと手伝ってくれ」

「はーいお兄ちゃん」

 

 

「ありがとうございます、ペロスくん。カタクリくんとブリュレちゃんもありがとう」

 

 

 故に、上の兄弟たちがともに面倒を見てくれるのは、パトラにとってとても有難いことだった。

 

 

「くくく……いいんだぜ。こいつらはおれたちの家族だ。本来なら、おれたちで面倒をみなければならないんだからな。ペロリン♪」

 

「ふふっ、はい、じゃあこれ。お礼のキャンディです」

 

 

 パトラが懐からキャンディを取り出せば、先ほどまで良い兄だったペロスペローは途端に一人の少年へ戻る。

 

 貰ったキャンディを嬉しそうに舐めながら、他の兄弟の下へ走っていくのを見送って、足元で待ちぼうけを食らっていた子供たちへ再び視線を合わせ、何で遊ぶかを話し合っていく。

 

 

 そうしていると、後ろで喧嘩をしていた兄妹たちの言い争いがどうやらヒートアップしたようで、

 

 

「なんでおれが謝らなきゃならないんだ!! ブリュレお姉ちゃんの馬鹿!」

 

「あ! ちょっと待ちなさい!」

 

 

 宥めていたカタクリとブリュレを押しのけて、13男のバスカルテが飛び出していった。

 

 バタン、と扉が開かれ、治安がいいとはお世辞にも言い難い街中へと向かっていくバスカルテを見かねて、ブリュレも飛び出していく。

 

 

「カタクリお兄ちゃんはヌストルテの事をお願い! バスカルテ! 待ちなさい!」

 

 

 良くも悪くも『お姉ちゃん』であるブリュレは、愛する弟の為になりふり構わず一目散にかけていく。

 

 この環境の中で兄弟たちと愛されながら育ち、母親であるリンリンや兄であるペロスペローやカタクリに守られてここまで来たブリュレは知らないのだ。

 

 

 

 

 

―――おい、あれ、カタクリの妹だってよ。

 

―――前走ってるのは弟か? だが、どちらにせよいい機会だ。

 

―――いつもやられている恨み、ここで晴らしてやる。

 

 

 

 

 

 外から来る敵を蹴散らし続けた母や兄たちが、どれほど敵から恨まれているかを。

 

 

 

「―――カタクリくん、私が追いかけるから、あとはお願いします!」

 

「え、あ、あぁ……!」

 

 

 

 その実情を知っているパトラは、ブリュレの後を追って駆けだす。面倒を見ていた子供たちはブーイングしていたが、事態が事態なのでパトラは心の中で謝りつつ、街中へ飛び出していったブリュレとバスカルテを追いかける。

 

 

 間に合ってくれ、と祈りながら走っていると、二人がいるであろう場所はすぐに見つかった。

 

 何せ、何度か見たことあるような連中が不自然に次々と路地裏へ入っていってるのだ。怪しいことこの上ない。

 

 

 自分たちの実力じゃ、カタクリやペロスペローには敵わない。ならば、戦う事の出来ない身内を狙うのは当然の結果だ。

 

 

 

「な、なんなのよあなたたち!!」

 

「へへっ、テメェの兄貴にゃ、いつも世話になってんだぜ。兄貴に守られながらぬくぬくと育ってるお前たちには、分からないだろうけどな」

 

 

 

 完全に怯えてしまったバスカルテを抱きしめて庇いながら、ブリュレは自身を囲んだガラの悪い男たちを睨みつける。

 

 しかしその足は震えており、強気な言葉はただの虚勢であることは男たちにはまるわかりだった。

 

 

 

「いつもウゼェカタクリが、妹がやられたって知ったらどんな顔すんだろうなァ?」

 

「ひっ……」

 

 

 

 スラリと鞘から抜き放たれたカトラスを見て、それが今から自分へ向けられるのだと知ったブリュレは顔を強張らせながら後退る。

 

 

 

「ヒヒッ、逃げなくていいのか? まァ、逃げられねェけどなァッ!!」

 

 

「ブリュレちゃん! ごめんなさい、シキさん―――ROOMッ!!」

 

 

 

 カトラスが振り下ろされ、バスカルテを背中側へ押しやったブリュレの顔を捉える―――直前に、バスカルテとブリュレは小石へ変わった。

 

 

「あァッ!?」

 

 

 突然の事態に混乱する連中を横目に、パトラは小石と入れ替えた二人を担いでその場から立ち去ろうとするが、流石に最後尾の人物に気付かれて後ろから足音が聞こえ始める。

 

 子供を二人抱えた女と、武器を振るえるほど筋力のある男。

 

 どちらの走力が速いかなんてものは明らかだ。後ろから聞こえる足音を聞き、パトラは担いでいた二人を下ろした。

 

 

 

「ブリュレちゃん、バスカルテくん、今すぐ帰ってペロスくんやカタクリくんを呼んできてください。

 年下の男の子に頼るなんてちょっと情けないですが、私一人ではどうすることもできません」

 

 

「で、でもパトラ姉が……!!」

 

 

「私は大丈夫です。足止め程度ならできます……!」

 

 

「でも―――「いいからッ!! 頼みました。ブリュレちゃん」

 

 

 

 走っていく二人を確認して、パトラは隠し持っていたナイフを構えて自身を取り囲んだ連中を見据える。

 

 

「どんなマジックを使ったか知らねェが、どうなるか分かってんだろうな?」

 

「ええ。そのくらい、分かっています」

 

 

「野郎ども! やっちまえ!!」

 

 

 オペオペの能力でROOMを展開して、パトラはナイフを構える。

 

 

 

(カイドウくんやカタクリくんみたいに強くなくとも、私はシキさんの下で何年も一緒に過ごしてきたんです……!!

 勝つことはできなくとも、足止めくらいはできなきゃ、金獅子海賊団の恥さらしもいいところですよね……ッ!!)

 

 

 

 

 かくして、ゴッドバレーの外で、小さな戦争は始まったのだ。




ブリュレ は 傷を負わず に 済んだ !
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