「~~~~ッ!! あァ……クソ、痛ェ……」
崩れ落ちて来た岩をどかしながら、私は立ち上がる。
二年前の“王直”との戦闘が活きた。
あの時“王直”の内部破壊を食らっていなければ、咄嗟に覇気を纏わせてゼファーの内部破壊に抵抗することなどできなかっただろう。
正直なところ、かなりのダメージは喰らった。
しかし、少なくとも戦闘不能に陥るようなダメージは負っていない為、まだ戦うこと自体はできる。
「流石、と言ったところか。今のを覇気で防御するとはな」
「馬鹿言え。かなりのダメージを喰らったさ」
「そうでなきゃ困る」
ゼファーが疲れていれば、の話だったが。
私の体力はほぼほぼ限界に近い。長年の海賊生活で鍛え上げられたと思っていたが、改めて性別と体格の違いの優劣を思い知ったと同時に、リンリンがどれほど規格外の存在か分からされる。
多少傷を負った程度でピンピンしているゼファーと、深手を負って息も絶え絶えな私。このまま戦えばどちらが勝つかなんて一目瞭然だ。
「“金獅子”。お前の海賊生活はここで終わりだ。残りの人生はインペルダウンで過ごすと良い」
腕に武装色を纏わせて構えたゼファーが、私にそう告げる。
この世界で生を受けてからおおよそ30年ほど。懸賞金含めて、私は凶悪犯罪者になりすぎた。ここでゼファーにつかまれば、私はインペルダウンに投獄されて二度と日の目を見ることはできなくなることは確実だ。
そうなれば、私は人生の半分以上をあの暗い監獄で過ごすことになる。
そんなの、そんなの―――。
『今日は、何があったのかな。パパに話してごらん』
―――あの地獄に、逆戻りではないか。
「ッ―――、まだ、足りないッ!!」
「ここにきて逃げを選択するか!! 随分と情けない真似をするじゃないかァッ!! “金獅子”ィッ!!」
全力で空を飛ぶ私の後ろから、ゼファーが何度も殴りかかってくる。
私はそれを生み出した獅子で防ぎながら、ゴッドバレーの中を只管駆けまわっていく。
情けないだとか、みっともないだとか、そんなことは関係ない。
その行動が
「〝獅子威し・破流巻き〟!!」
「ッ!! ちっ、見損なったぞ“金獅子”!!
〝スマッシュ・バスター〟ァッ!!」
とにかく、今はゼファーから全力で逃げる事だけを考えろ。余計なことは考えるな。
私が逃げれば逃げる程、ゼファーの攻撃は苛烈になっていく。
今まで真正面から戦っていた私が急に逃走に舵を切ったのが気に入らないのだろう。
「貴様が求める『自由』ってのは、そんな安いモンなのかッ!!?」
「そんな訳はないさ。ただ、まずは生きてここを出なくちゃ、『自由』なんてないんでね」
どれだけ獅子を生み出しても、それをかいくぐって私に直接殴りかかってくるゼファー。バケモンか?
それを『桜十』と『木枯し』での剣技で対応しつつ、またゼファーへ向けて獅子を生み出して突撃させていく。なるべく地面スレスレに、
「“金獅子”……貴様には失望した」
ゼファーの攻撃がピタリと止み、彼の顔に影が落ちる。
ゼファーからは落胆と怒りを織り交ぜたような感情がふつふつと湧き上がっており、それが私一点に向けられているのが分かった。
武装色の覇気がゼファーの右腕に収束し、武装色が纏われた右腕の筋肉が大きく隆起した。
血管が浮かび上がり、筋肉が肥大し、覇気を纏った腕からは黒い雷がバチバチと音を鳴らして私を威嚇している。
まず間違いなく、この後ゼファーの全力の一撃が私へ殺到するだろう。
「海賊に何かを期待したおれが馬鹿だった。海賊は所詮海賊……。この一撃を以て貴様を沈めるッ!!
〝スマッシュ〟ッッ!!」
ゼファーの右腕が大きく振り上げられ、私へ向けられる。
『それ』が疲弊した私へ直撃すれば、間違いなく死ぬ。顔も、腕も、足も、体も、内部破壊と衝撃波で内側も外側もボロボロになって死ぬ。
だが私は―――笑っている。
この状況で、私の顔の口角は上がっていた。
死に瀕して感情がおかしくなった? いや、違う。
もともと死ぬことを望んでいた? いや、違う。
ここから、一発逆転を狙うことができるからだ。
「
『―――前々から思ってたけどさぁ』
『ん?』
教室の一番端の私の席。
そこで、『ONE PIECE』を通して親友となった池さんと私はいつも話していた。
『シキって、絶対あの技だけじゃ新世界でやっていけないよね』
議題に上がったのは、先日地上波で放送されたばかりの映画に出て来た映画オリジナルボスキャラクターであった“金獅子”のシキ。
かつて海賊王と鎬を削った『四皇』のような立ち位置で、本物の海賊の恐怖を味わわせるために20年潜伏していたが、たまたま敵対してしまった主人公一味に敗れてしまった伝説の海賊。
『と、いうと?』
『ほら、映画で見ると結構派手だったけど、“白ひげ”の広範囲攻撃とか食らったら絶対一瞬で崩れて終わりじゃん?』
私の脳内で、“金獅子”が主人公一行に放った技と、“白ひげ”がマリンフォードにて放った大津波がぶつかる画を想像する。
そうすると確かに、威力、範囲含めて圧倒的に“白ひげ”に軍配が上がった。
『確かに……』
『でしょでしょ? だからさ、シキって島を丸ごと操ってたじゃん。だから、それに覇気を纏わせてさ、超巨大なライオン作って攻撃すれば強いんじゃないかな!?』
『そんなことするより、海水浮かばせて窒息死させた方が効率いいんじゃ……?』
『ロマンがないなぁ……少年漫画って知ってます??』
『私たち少女なんですけど……』
『その少女が読んでるのは少年漫画なんだよ??』
まぁ、でも確かに、島全部を操って映画最後の主人公の大技にぶつけることができたら、負けることはなかったのだろうなとは思った。
ブランク、怪我、格下相手の傲り。
それらがなければ主人公たちは決して勝つことはできなかったと思えるほどに、“金獅子”は強い相手だった。
なら、それが一切ない“金獅子”だったら……?
彼女の言う通り、全力で相手を潰すような大技をぶっ放すような“金獅子”だったら?
そうであるならば、彼は伝説『だった』ではなく、伝説『である』海賊になっていたのだろうか。
『もしシキがその技を放つとしたら、名前はきっと―――』
「―――このくらい集まれば、十分か」
目の前から迫る衝撃波を見ながら、
今までの戦闘で舞い上がった土砂の全てを集結させ、巨大な獅子の頭を形作った。それは、遠い昔に誰かと話したことのあるような光景。
「島ごと丸々じゃないが……お前が望んでいたのは、こんな感じの光景なんだろう……?」
変形した土砂を駆け抜ける暴風が、まるで獅子の咆哮のように呻き、不気味な音を辺りに轟かせる。
巨大な頭にありったけの武装色を籠めて、私の全てを削り取らんとする衝撃波へとぶつけるために構えた。
あぁ、そうだ。思い出した。
池、お前はこの技にこんな名前を付けたんだっけか。
なんだか中二病臭いと私は笑ったっけ。だけど、今はこの上なくこの名前が頼もしく感じる。
「
獅子が……否、獅神が吠えた。
私の想いに、応えるように。
「
獅神と衝撃波がぶつかり、刹那――――……。
―――ドォンッ!! バリバリィッ!!!
ゼファー先生は覇王色持ってたけど、映画では老い+持病で使えなかったという独自解釈。
頂上戦争で白ひげも使ってなかったし、そういう解釈したのだけど……
イマイチ頂上戦争の具体的な内容覚えてないから、白ひげがそこで使ってたらまぁ、ご都合主義ってことで。