「な、なんだっ!?」
「ゼファー中将の方からだ!!」
センゴクの生み出す衝撃波や、“白ひげ”の発生させる震動とも違う明らかに異常な揺れ。
ゴッドバレー全土を激しく揺らし、体幹がない人物は次々と尻餅をついていく。
もともとあった巨大な峡谷の他に幾つもの地割れが現れ、海軍海賊問わず大口を開けた深淵へ飲み込まれる。
「……! 船長!」
「〝
それは、カイドウが居た場所も例外なく揺らした。だが、カイドウがシキの戦いっぷりに笑みを浮かべた程度で特に戦場へ変化はない。
ジナル中将も動じることなくカイドウへ拳をぶつけていくあたり、
「ウォロロロ! 相変わらず重たい拳だが……おれァ、もう慣れたぜ?」
「……歳とは、取りたくないもんじゃな」
カイドウとジナル中将との戦いは佳境を迎えていた。
既にお互い傷を負ってボロボロではあるものの、同じ程度の傷であるならば年齢の若いカイドウの方に利があると言えよう。
現に、多少息を切らして戦っているジナル中将とカイドウを見てもそれは明らかだった。
ジナル中将の〝凝縮拳〟も、何度も戦っているうちにその天才的な戦闘センスで学習したカイドウには既に効き目が薄く、今もジナル中将の拳はカイドウの金棒によって受け止められている。
自身が現役の頃ならば……と一瞬考えたジナル中将だが、そんなたらればは世界には存在しない。
老兵はいつかは滅びる運命なのだ。そして、目の前の青年のような未来ある若者が時代を作り上げていく。
(……!! 儂は今、目の前の海賊を『未来ある若者』と考えたのか……!?)
それは、一海兵として決して考えてはいけない事。
海賊などと言う連中に未来などない。あるのはインペルダウンの暗い牢獄の中か海の藻屑かの二択だ。
だというのに、ジナル中将は自分の直感を信じてみたくなってしまった。この狂暴そうな笑みを浮かべる目の前の青年が、本当に『未来ある者』なのかどうかを。
「……小僧、一つだけ聞かせろ」
「なんだ」
「―――貴様の、
「そんな事か? 決まってる。おれの『帰る家』だ」
即答。
カイドウは「なぜそんなことを聞くんだ」と言いたげな目でジナル中将を見ているが、ジナル中将は自分の直感がまだ生きていることを実感して顔に笑みを浮かべた。
普通、海賊に対して『守りたいものはなんだ』と問えば、おおよそ凶悪な信条が返ってくることだろう。それ以前に、質問に答える海賊なんてものの方が少ないかもしれない。
しかし、カイドウは極めて素直に「『帰る家』だ」と即答した。
戦闘狂な節はあるが、その心は淀みのない真っすぐな人物。ジナル中将はカイドウをそう判断した。
「よかろう。―――次で最後だ。小僧。儂の全身全霊を以て貴様を沈めてくれる。全力でかかってこい!!」
「―――ッ!! ウォロロロ!! いいだろうッ!!」
握った拳に覇気を纏わせ、ギチギチの能力で拳を厚く、重くしていく。
それはかつて、
「行くぞォッ!! 〝
「うらァッ!! 〝
ジナル中将が覇王色を持っていないため、激しい激突こそ起きなかったが、現状カイドウが出せる最大威力の技とジナル中将の全力の一撃がぶつかり合い、武装色の覇気同士がぶつかり合って多少の風が吹き荒れる。
「おおおおおッ!!!」
「ぬりゃあああああッ!!!」
押されて押し返されて、鍔迫り合いを繰り返す二人の攻撃の合間に、互いの踏ん張る声が聞こえてくる。
そうして数十秒ほど続けていた攻防だったが、やがてジナル中将が押され始め―――……。
「仕舞いだァッ!! おおおおおおッ!!!」
「なッ!!! ――――……見事ッ!!」
カイドウの棍棒がジナル中将の拳を弾き、中将の体を捉えた。
驚いたジナル中将だったが、自身の全身全霊を越えたカイドウの一撃を素直に賞賛し、カイドウの攻撃の勢いに任せて凄まじい速度で地面へ叩きつけられた。
「じっ、ジナル中将ォォォォッ!!」
「ハァ、ハァ、いい戦いだったぜ。ジジィ」
金棒を地面へ突き立て、歯を見せて笑みを浮かべるカイドウ。
ジナル中将から打撃の傷が幾つも目立つが、最後に戦場に立っていた勝者は―――カイドウであった。
――――
―――そして時と場所は変わり、ゴッドバレー中心部。
互いに大技をぶつけ合っているシキとゼファーは、拮抗していた。
「おおおおおおおおおおッ!!!」
「はあああああああああッ!!!」
繰り出す衝撃波が一つでは押し切られると判断したゼファーは、その大木のように太い両腕に武装色を纏わせ、ガトリング砲のように速く両腕を振るって衝撃波を送り続けていた。
対するシキも、このぶつかり合いの最中に削れた土砂も生み出した獅子に混ぜ込みながら、それをできる限り押し続けている。
ゼファーから送られてきた衝撃波が獅子と激突するたびに覇王色の激突が起こり、黒い雷がまき散らされる。
それがゴッドバレーはおろか、周辺に待機していた軍艦の上に乗っていた海兵の意識も刈り取っていき、離れていたところで戦っていた“白ひげ”とセンゴクも、二人の戦いが予想以上に苛烈なモノであることを察する。
「本気のゼファーの猛攻を耐え凌いでいるのか……」
「グラララ……シキの野郎を舐めてかかっちゃいけねェ。……アイツは、何度も血反吐を吐きながら、『自由』を求めて立ち上がって、そのたびに強敵を薙ぎ倒してきた。
ゼファーも、やられちまうかもな」
「馬鹿言え。人一倍『正義』に溢れたあのゼファーが、海賊相手に戦って地に背中を付けることなどあり得まい。“金獅子”がやられてしまうかもな」
「寝言は寝て言いな」
“白ひげ”もセンゴクも、遠くで戦っている味方の強さや人物像を知っているからこそ、互いの味方がやられる姿を想像できない。
二人の壮絶な震動戦闘は、舌戦へと移り変わろうとしたが、
「なら、テメェが斃れたらおれが正しいってことでいいな!? センゴク!!」
「望むところだッ!! 『正義』は必ず勝つのだからッ!!」
センゴクは巨大な黄金の大仏の姿へと変化し、“白ひげ”も拳を握ってグラグラの能力を纏う。
「はァッ!!」
「ぬあァッ!!」
衝撃波と震動―――。
またしてもゴッドバレーが大きく揺れた。
しかし、目の前の敵に熱中するシキとゼファーはそのことに気が付かない。
体が赤くなり、そこから蒸気のようなものが噴き出し始めたゼファーの息が乱れ始める。
巨大な獅子を維持するための能力の処理と、その巨大な獅子に纏わせるための覇気を維持し続けなければならないシキも、先ほどまで続いていた戦闘と喰らった一撃の事も相俟ってかなり疲弊してきている。
近いうちに決着がつく。が、その『近いうち』でも長引くか長引かないかで勝者は大きく変わることに、二人は当然気付いていた。
シキの生み出す巨大な獅子は、今も削り出されている土砂を巻き込んでどんどんと大きくなっていっている。
そのためゼファーが破壊しなければならない範囲が増え、単純に破壊力も上がる。
つまり長引けば長引くほど、シキはゼファーに対して有利になっていく。
対してゼファーは体力を大きく削る拳のラッシュを続ければ続ける程疲れて力が出なくなり、長期戦になれば不利になっていく一方だ。
そうなることが分かっているのならば、行動しないはずがない。
「これで貴様を沈めるッ!!
〝スマッシュ・レーザー〟ァァッ!!」
ラッシュのフィニッシュに、ゼファーは蒸気を上げる程に熱くなった身体を極限まで引き締めて一点破壊の『衝撃弾』を放った。
「―――ッ!! 相打ち上等、どっちが立ってられるかってことかッ!!」
ゼファーの攻撃の
そして、放たれた衝撃弾が獅子の体を貫く。
だが、本物の獅子ではない『獅神』は止まらない。
ラッシュが止まって、『獅神』を止めるものがなくなったため、『獅神』は一直線にゼファーへその牙を突き立てた。
衝撃弾を止める土砂は全て『獅神』の肉体を構成するために使われ、止めることは叶わない。
同じく止めるものがなくなった衝撃弾も、一直線にシキの下へと飛んでいき、シキの体を覇気の力で破壊しながら穿った。
「ごォッ!!?」
「あがぁッ!!?」
互いの高威力の攻撃にぶち抜かれ、ゼファーは獅子の牙に貫かれて呻き、シキは衝撃によってぶっ飛ばされる。
暴風が吹き荒れていた戦場には、一頭の巨大な獅子の頭の巨像だけが取り残されていた。
思いの外ジナル中将がなんか大事そうな人物になってしまったけど、特に物語に関わる人物ではありません。