空飛ぶ女海賊   作:貮式

23 / 25
二章最終話です。


23.『金獅子海賊団』再結成

 

 

 結果的に、我々ロックス海賊団は敗北した。

 

 

 船長であるロックスがガープとロジャーの共同戦線によって討たれ、襲撃されたことに怒り狂った天竜人がバスターコールを発動しろと騒いだことで海軍がバスターコールを発動。

 

 海軍も海賊も逃げなければならない状況に陥り、最終的に『船長が討たれた』という事実だけが残った今回の戦争は我々の敗北となったのだ。

 

 

 私はあの一騎打ちでゼファーを殺すことは叶わなかった。

 生み出した『獅神』に貫かれてもなお、ゼファーは驚異的な生命力と身体能力で致命傷を回避し、バスターコールの報せを聞いて部下を引き連れて撤退していった。

 

 

 結果的に海軍の主力を一人も潰せなかったのが痛いが、まぁ、あれほどの戦力が一堂に会する機会などもう訪れることなどないと思うし、気にすることではないだろう。

 

 

 

「ロックス海賊団は、今日で解散だな」

 

 

 

 重苦しい空気が流れる船内で、ニューゲートが静かに告げた。

 

 ロックスが死んだ今、ロックスが掲げていた『世界の王になる』と言う計画は全て破綻した。つまり、私たちは同じ船に乗る必要性が全くなくなったのである。

 

 

「一先ず、ハチノスに着くまでは殺し合いはナシだぜ」

 

 

 この海賊団の中で唯一人並の常識を持ち合わせていたニューゲートが、もう解散予定のロックス海賊団を一時的に仕切る。

 

 もともとこの暗い雰囲気が漂う船内で殺しなど起きないとは思うが、まぁあるだけいいだろう。

 

 

「……パトラと、リンリンの子供たちを回収しなきゃ」

 

「そいつはテメェらでやれ。兎に角今はハチノスへ急ぐ」

 

 

 船の主導権を握っている私ならばすぐにパトラたちのいる島に行けるのだが、今はニューゲートのいう事に従っておこう。

 

 

 

 日は既に落ちている。

 

 

 

 綺麗な円を描いて夜空に浮かんでいる月を眺めながら、これからの『金獅子海賊団(わたしたち)』について考える。

 

 

 私、カイドウ、パトラ。

 

 

 これからの海を渡っていくためには圧倒的に人員不足であることは否めない。少数精鋭で固めるにしても、あと少なくとも5人以上は人員が欲しい。

 

 あぁ、そうだ。

 

 ハチノスに帰って船に戻ったら、そろそろカイドウに『アレ』をプレゼントするべきだろう。

 今回の戦争を生きて帰ってきて、さらに海軍中将を単騎で撃破したというカイドウ。なら、然るべき褒美を上げなければならない。

 

 

 この船で手に入れた『悪魔の実』と、船に乗る前に手に入れていた『悪魔の実』、合わせて4つ。

 

 

 前から持っていたものはカイドウに渡すとして、残り3つ。この3つを食べるに相応しい人員を見つけられるだろうか。

 

 

 それと、これから活動するにあたって必要となる拠点は? 人員を増やすとなると船だってもっと大きなものも必要になってくる。

 

 

 

 そんなことを考えながら船を動かし、夜は更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やがて船はハチノスへ到着し、船員たちは一言も発することなく各々自分の船へと帰っていく。

 

 

「ニューゲート、リンリン、次に会う時は敵だ。……だが、酒やお菓子は持って行こう」

 

「グラララ!! もともとおれたちはそういう関係だっただろう。元に戻るだけだ」

 

「ハ~ハハハママママ!! 子供たちが世話になったんだ。多少の手合わせなら付き合ってやるが、邪険にはしないさ」

 

 

 船で一番良くしてもらった二人に別れの挨拶を告げて、私とカイドウは歩き出す。

 

 尤も、リンリンと行く先は同じだが、船の速度が違うため行く先で会うことはないだろう。

 

 

 ロックス海賊団の船を停泊させた場所とは真反対の位置に停泊させていた『金獅子海賊団』の船に戻る。

 

 

「やはり、懐かしいな」

 

 

 二年もの間放置されていた海賊船は、やはりというべきかかなり劣化していた。

 

 室内には埃が溜まり、手入れをする者がいなかったために木材も潮風を浴び続けてかなりボロボロになっている。この様子じゃ、まずは船の購入が先決だろう。

 

 

 船のあちこちをカイドウと共に見て回り、最後に倉庫の中へ入ったところでカイドウへと声をかける。

 

 

「カイドウ」

 

「なんだ?」

 

 

 倉庫の奥へと入り、少し小さめの箱を取り出す。いつだったか海賊を襲ったときに戦利品として手に入れたもの。『悪魔の実大全』でその実を調べた際、あまりに衝撃的すぎて五回ほど見直してしまったもの。

 

 

「……ここは、お前の居場所になれたか?」

 

「―――ああ。当然だ」

 

 

 その言葉を聞いて、ほっとする。

 

 カイドウがどちらの言葉を紡いでもこれを渡す予定だったが、箱を握る手に力がこもる。

 

 

 

「なら、コイツは『見習い』の昇格祝いだ。パトラを迎えに行った後にでも、宴をしようじゃないか」

 

 

「コイツは……『悪魔の実』か?」

 

 

 

 

「あぁ……『()()()()()() ()()() ()()()()()()』。『悪魔の実』の中で最も希少な幻獣種だ」

 

 

「コイツを……おれが……!!??」

 

 

 

 入った順番で行くのならば、パトラが妥当であろう。

 しかし、戦場にてカイドウより頼もしい存在は今後現れないことは確か。

 

 パトラには医療を、カイドウには戦力を。

 

 『金獅子海賊団』が他から舐められないように、私とカイドウでこの海賊団の面子を守っていく必要がある。つまりは、

 

 

 

「これから頼むぜ。――――……()()()

 

 

「あぁ……ああ!! 任せろ、船長!!」

 

 

 

 朧げな原作のカイドウなんて思い出せない。カイドウは、今目の前にいる逞しい私の右腕だ。

 

 

 そうと決まれば、早いところウチの船医兼航海士を迎えに行かなくては。

 

 

 取り出した『命の紙(ビブルカード)』を頼りに、船を動かしていく。

 

 

 

 

 

 まさかパトラが、あんな無残な姿になっているとは思いもせずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、ブリュレ! バスカルテ!」

 

 

 港に見えた小さな影が二つ。それは間違いなく、リンリンの子供であるブリュレとバスカルテのもので間違いなかった。

 

 律儀に出迎えてくれたのか、と思いつつ上陸してみればいきなり二人が駆け寄ってきて、私の足にしがみついた。

 

 

「……? ブリュレ? バスカルテ?」

 

 

 熱烈な歓迎、という訳ではないようだ。

 足元の二人からは鼻を啜る音と嗚咽が聞こえてくる。

 

 

「ごべん……ッ!! おれがッ、おれの、せいでッ!!」

 

「わだじがッ!! わだじのせいでッ!!」

 

 

 それは、懺悔。

 まだ年端も行かない少年少女が、私の足にしがみついて必死に私に許しを乞おうと己の罪を吐いていく。

 

 

 

「「パトラ姉がッ!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 泣きじゃくる二人を宥めて、皆が過ごしていた場所へと案内してもらう。普段泣くことなどほとんどないリンリンの子供たちが、これでもかと泣いている様子を見るに、パトラにただ事ではない何かが起こったのだと想像がつく。

 

 幸い、『命の紙(ビブルカード)』はまだ動いている。最悪の可能性は否定できたが、それでも私は気が気ではなかった。

 

 

「ここ……?」

 

「ゔんッ……」

 

 

 木製の扉を開けて部屋の中に入る。

 

 そこには、リンリンの子供たちが全員いて、部屋の隅には体を縛られて全身ボロボロになった男が数人ゴミのように捨てられていた。

 

 

 そして、ふと目を向けたベッドの上に―――……

 

 

 

「――――ッ!! パトラッ!!」

 

 

 

 ―――体中に包帯を巻き、右腕と両足を失ったパトラが横たわっていた。

 

 

 心臓は? 動いている。 呼吸は? 正常だ。ちゃんと生きてる。

 

 

 

「シキ姉」

 

「カタクリ……」

 

 

 

 コツ、と靴音がして振り返ってみれば、そこには大きなファーで口元を覆い隠したカタクリが申し訳なさそうな顔をして立っていた。

 

 

 

「おれが……おれたちが……ッ!!」

 

 

「……もういい。状況はだいたいわかった」

 

 

 

 自分でも驚くほど、冷徹な声が漏れた。

 

 私は今、どんな表情をしているだろうか。笑っているのだろうか、怒っているのだろうか、それとも何も浮かべていないのだろうか。

 

 

 

 リンリンの子供たちが謝ることではない。

 

 子供は自由に育つ権利があり、大人はそれを守る義務がある。だから、子供たちはあくまでもそれに従っただけで、パトラもその掟に従って子供たちを守っただけだ。

 

 

 

 恐ろしく冷静になった頭が、恐ろしく速く状況を理解していく。

 

 これは……『()()()』という奴だろうか。どうでもいい。

 

 

 

 ともかく、部屋の隅で縛られているこのゴミたちがパトラをこんな傷物にしたのであろうことは確かだ。

 

 

 

 パトラの頭を優しく撫でる。私が落ち着きたいとき、パトラがいつもこうしてくれた。

 

 

 男たちは既にカタクリによって制裁を受けたようだ。原形をとどめていない顔と、既にすべてなくなった指が全てを物語っている。

 

 

 ならば、あとは殺すだけ? ……いや、殺さないでおこうか。

 

 

 

「あがァッ!!? ああああああああああああああッ!!!!」

 

 

「こうなっても問題ないと思ったから、パトラをああいう風にしたんだろう? なら、お前たちがそうなっても問題ないよな?」

 

 

「や、やべでッ!! うわああああああああああッ!!」

 

 

 

 リンリンの娘、アマンドが好んでよくやっているゆっくりと相手に刃を入れていくやり方で、ゴミからいらない腕や足を切り落としていく。

 

 失血死などさせない。血を止めて、傷口はしっかりと縫い合わせて、喚くゴミ共を街中へと放り投げてやった。

 

 

 

 兄弟たち全員が暗い顔を浮かべる中、私は努めて笑顔で彼らに語り掛ける。

 

 

 

「お前たちは決して何も悪くない。だから、何も責任を感じることはない。

 パトラがこうなったのは、お前たちをここへ置いていった私たちの責任だ」

 

 

 

 子供たちから暗い表情は消えない。

 

 

 

「だから、私から言えることがあるとすれば――――……」

 

 

 

 

 頭を下げる。

 

 ブリュレやバスカルテが、とか、カタクリがもっと早く、とかそんなもしもは存在しない。ならば、今この瞬間パトラが息をしていられるのは総てこの子たちのお陰なのだ。

 

 

 

 

「パトラを守ってくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 暗い顔から、驚いたような顔になった。

 

 まぁ、多少はマシになっただろう。

 

 

 海賊になった以上、こういうことは今後ほぼ確実に起きるだろう。

 

 覚悟はしていたが、いざ本当に起きると怒りと悲しみで頭が支配されかけてしまう事を知った。

 

 

 

 

 

 包帯が巻かれていないところがないパトラを抱きかかえて、船へと戻る。

 

 

 

 

 

 パトラは、今後しばらく身体的に『不自由』な生活を余儀なくされる。ならば、そんなパトラに少しでも『自由』を感じさせてあげなければならない。

 

 

 

「……カイドウ」

 

「……あァ」

 

 

 

 心配そうに、ベッドで眠るパトラを見つめるカイドウへ声をかける。

 

 

 

「『自由』のために」

 

「『居場所』のために」

 

 

 

 (カイドウ)の『自由(居場所)』は、パトラなしでは存在しえない。

 

 

 

 

 そのためには、『金獅子海賊団』をもっともっと大きくしなければならない。

 

 

 

 

 私たちは、そう誓った。




代わり に パトラ が 傷を負って しまった !
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。