空飛ぶ女海賊   作:貮式

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新章開幕です。


三章:ADVANCES WORLD編
24.新たな仲間


 

 

「―――被害は?」

 

 

 ゴッドバレー事件より、早二年。

 事件の後に重傷を負った元帥は引退し、その座をコングへと譲った。そして、大将も二年の間に二人がその座を降り、その席にはセンゴクとゼファーが収まった。

 

 正確に言えば、空いた席にはゼファーかガープのどちらかが就く予定だったのだが、ガープが断固拒否したため流れでゼファーが収まったのだ。

 

 そうして日々が過ぎていく中、ロックス自体の脅威がなくなったとはいえ、今度はロックス海賊団所属の凶悪な海賊たちが次々に名を挙げ始めていた。

 

 海軍はその対処のために奔走し、今こうしてゼファーが立っている地も、その解き放たれた海賊の一人によって破壊された()()()()()()である。

 

 

「研究員は全員死亡、施設内にあったと思われる研究資料などは全て持ち去られたようです」

 

「……そうか」

 

 

 ゼファーが見据えるのは、建物に空いた巨大な風穴。

 まるでその部分だけ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、明らかに誰かが意図的にこの施設を破壊するために開けたもの。

 

 

「それから……」

 

「まだ何かあるのか?」

 

「はい。この施設で『保護』されていた少年が、現在行方不明でして」

 

 

「……」

 

 

 海軍大将にもなれば、世界の抱える闇など嫌でも知ることになる。

 報告に来た海兵が告げた『保護』という言葉を、ゼファーはすぐに脳内で『実験対象』という言葉へ変換した。

 

 施設で研究されるほどの少年……そうなれば、よほどの変化が見られた人物か、あるいは政府が情報だけでも一億ベリーの賞金を付けた希少な人種、『ルナーリア族』だろう。

 

 そう当たりをつけたゼファーは、下手人がまだ近くにいるかもしれないと周辺海域の警戒を部下に頼み、一人でぼろぼろになった施設へと入っていく。

 

 

 紙のようにスパッと切り裂かれた鋼鉄の盾、血の付着していない銃弾、まるで形が変わってしまった壁や天井、メチャクチャな力で叩き壊された非常用シャッター。

 

 転がっていた死体は、首元を斬られていたか、全身の骨が粉砕骨折していたかの二択だったらしい。

 

 

 ゼファーがこのような惨状を目のあたりにするのは、これが初めてではなかった。

 

 ここ最近多発している軍の研究施設の襲撃。

 その殆どが今のような有様になっており、研究員もその全てが今回のように殺害されていた。

 

 

「“金獅子”ィ……」

 

 

 ゼファーにとって因縁の相手。

 これまでに何度も交戦してきたが、未だに逮捕に至っていないロックス海賊団の残党の中でも屈指の実力を持つ凶悪海賊。

 

 

 なぜこのように研究施設を何度も襲撃しているのかは、まだ海軍は把握していない。

 

 

 だが、こう何度もまんまと襲撃されて犯人を取り逃すという醜態を晒していては、海軍のメンツが立たない。

 故に世界に存在する全ての施設で、現在厳戒態勢が敷かれているのだ。

 

 

 ……だと言うのに、この有様。

 

 

 フワフワの実を食べ、『空飛ぶ女海賊』として知られるシキに『凪の帯(カームベルト)』や『赤い土の大陸(レッドライン)』なんてものは障害足り得ない。

 

 昨日まで『西の海(ウエストブルー)』に居たと思えば、今日は『新世界』に。なんてこともざらにある、まさに神出鬼没の海賊。

 

 

 そんな人物が世界の中から無作為に選ばれたどこかの研究施設にいきなり空からやってくるのだ。

 

 どんなに厳戒態勢を敷いていても、あっという間に突破されて逃げおおせられてしまう。

 

 

 『世界経済新聞』でもこのニュースは大きく取り上げられ、海軍の信頼は大きくとは言わないが、目に見えてわかるほど落ちている。

 

 上司であるコングも世界政府からせっつかれているらしく、かなりストレスの溜まったような表情で「早い所解決しろ」とゼファーは言われた。

 

 

 

「やはりあの時、お前を捕まえられなかったのが響いてるな……」

 

 

 無惨に崩れ落ちた静かな廃墟の中で、ゼファーは一人呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「パトラ、お昼ごはんを持ってきた」

 

「あっ、ありがとうございます。シキさん」

 

 

 新しく作った、無人島をそのまま改造した浮遊型海賊船の中にある、パトラの部屋。

 無駄に装飾はされていない、シンプルな作りの部屋に設置されたベッドの上にパトラは寝ていた。

 

 

「……! 今日もシキさんが?」

 

「あぁ……どうだ?」

 

「はいっ! すごく美味しいです!」

 

 

 私の作ったサンドイッチを食べて、パトラがはにかむ。

 

 左腕だけで食べるパトラを見て、やはり心が苦しくなる。

 パトラの能力があれば、他の人間からとった腕や足を取り付けることなど容易い。元よりオペオペの実は『改造自在人間』になれるものなのだ。その本領を発揮するだけに過ぎない。

 

 

 しかしパトラは、それを拒んだ。

 

 

『腕や足を失う辛さを一番理解している私が、他の人にその辛さを押し付けられません。

 亡くなった方からとるのもダメです。亡くなった方にも、人間の尊厳はあります。無暗にバラバラにしては浮かばれません』

 

 

 それは、パトラに元来備わっている優しさ。

 

 パトラにも、私やカイドウと同じく守りたいものはあるのだ。それを、私が否定して無理矢理やらせるなんて以ての外だった。

 

 

「はむっ……ふふぅ~ん♪」

 

 

 もぐもぐとサンドイッチを頬張る姿は、とても可愛らしい。だからこそ、もっと可愛らしかった両手両足時代に戻してやりたい。

 

 

 他の人間から奪うのがだめなら、作ってしまえばいい。

 

 

 そう思い当たって手あたり次第に研究施設を当たっているのだが、やはりそのほとんどが政府からの援助を受けており、私とカイドウが降り立った時点で攻撃をされてしまうのがつらいところ。

 

 殺さない程度に痛めつけて作らせてもいいが、それだと何を仕込まれるか分かったものではない。

 

 なので、私の『自由』を阻む政府を妨害してやる目的で研究者たちは皆殺してしまった。

 

 

 今まで訪れた全ての研究施設で、私たちの眼鏡にかなう人材は見つからなかった。

 

 

 

 

 だが、そちらの方で収穫がなくとも、別の方で収穫はあった。

 

 

 

 

 

 コンコンコン。

 

 

 

 

「どうした?」

 

「船長、助けたガキが船長に会いてェって」

 

 

「分かった。今行く」

 

 

 

 パトラに食べ終わったら皿はベッドのすぐ横に置いてある机の上に置いておくように言ってから、部屋を出る。

 

 先の訪問でたまたま見つけた、施設の研究対象だった少年。

 

 浅黒い肌、透き通るような白髪、背中から出る炎、黒光りする大きな羽。それらは全て『悪魔の実』の能力ではなく、その種に刻まれた身体的特徴。

 

 

「君が、カイドウが連れ帰った少年か?」

 

「あぁ……」

 

 

 ベッドの上から私を見る少年の目はかなり懐疑的だ。

 

 

 二年の間で、カイドウはかなり強くなった。

 そこらの海賊団の船長ならば簡単に捻り潰せるほどには、パワーが段違いに上がっている。

 

 

 そんなカイドウが「自身の船長だ」と言って連れて来たのがカイドウより背の小さい女なのだから、疑いの目は向けられて当然か。

 

 

「ウォロロロ。おれと船長の力量差を見抜けねェか?」

 

「いやッ!? 決して疑った訳では……!!」

 

「まァいい。よくあることだ」

 

 

 そんな少年をカイドウが笑えば、少年は慌ててそれを否定する。

 

 実力は疑ってはいないが、自身が想像していたイメージと違って驚いていた……という事だろう。

 

 

「さて少年。名前は?」

 

「……ッ、あ、アルベル」

 

 

 私が意図的に部屋に流れる空気を少しだけ重くしたのを察知して、アルベルと名乗った少年は目つきを真剣なものへ変えた。

 

 

「帰る家は?」

 

「…………ない」

 

 

「知り合いは?」

 

「いない」

 

 

「出身は?」

 

「分からない」

 

 

「行くアテは?」

 

「……ない」

 

 

 

 

「そうか……なら、私の船に乗れ」

 

 

「あぁ……――――は?」

 

 

 以前にもこんなやり取りをしたような覚えがあるような気がするが、行くアテがないのなら私の船でかくまう他ないだろう。

 

 仮に行くアテがあったとしても、その存在を政府に報告するだけで一億ベリーが貰えるような歩く宝石のような人種であるアルベルが普通に暮らしていけるはずがない。

 

 

 ならば、私とカイドウのいるここ(金獅子海賊団)で匿ってしまえばいい。

 

 

「カイドウ、アルベルの戦闘能力はどのくらいだ?」

 

「あぁ、悪くねェ。鍛え上げれば化けるぞ。コイツは」

 

 

 カイドウのお眼鏡にかなうほどの実力、か。

 

 なら、ウチの新たな戦力として期待できそうだな。

 

 

 

「――――……なら、一つだけ聞かてくれ」

 

 

「なんだ?」

 

 

 

 

「……アンタに、この世界は変えられるのか?」

 

 

 

「……面白い質問だな。だが……私に世界を変えるつもりはない」

 

 

 

「……じゃあ「ただ……」

 

 

 

 一気に「失望した」と言わんばかりの表情へと変わったアルベルを見て、その口元に人差し指を持って行きながら私は言葉を遮って続ける。

 

 

 

 

「私の『自由』を邪魔するのであれば、それが世界政府だろうと天竜人であろうと、真っ向から叩き潰す。それだけだ」

 

 

 

「……ッ、『自由』……!!」

 

 

 

 

 アルベルの背中の炎が、一層燃え上がる。

 

 他に燃え移る心配はないとは言え、慣れていない為かまだヒヤリとしてしまう。

 

 

 ただ、私の言葉がアルベルにはしっかりと届いたようで、少しだけ安心した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、『金獅子海賊団』の構成員は四人へ増えたのだ。




一番手と二番手が異次元過ぎて霞んでしまう三番手のアルベルくんの姿が見える見える……
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