それだとマジで百獣海賊団になっちゃうんで。
拠点は原作通りメルヴィユに構えてもらうつもりです。
「私の船に乗ると決まったとはいえ、お前のその特徴的な身体を晒していては何かと不便だろう」
「……」
自身の肌の色や、髪の毛の色を見ながら、アルベルは私の言葉を飲み込む。
生まれてきたその瞬間から、一億ベリーの懸賞金が掛けられたも同然な『ルナーリア族』なのだ。いくら私とカイドウがついているとはいえ、わざわざ素性を晒して海賊をやらせれば政府からの追手が増えて色々面倒になる。
まだ拠点にピッタリな場所を見つけられていないのに、政府からの追手が増えれば更に見つけるのは困難になるだろう。
褐色、髪色、羽、炎、『ルナーリア族』の特徴であるこれらを上手いこと隠せれば、取り敢えず素性を隠すことはできるはずだ。
「見た感じ、背中の炎は服を着ていても関係なく外に出るようだな」
「あぁ……それに、羽も外に出てないと動き辛い」
「ふむ……」
炎と羽を隠しておくことは不可能。
羽は隠せない事もないが、そうなればアルベルの戦闘能力が大幅に落ちる……ならば、この二つは外に出しておく他ない。となれば、
「なら、全身を包むスーツと頭全てを覆うマスクがありゃァいんだな?」
「そうなるな」
カイドウの言う通り、肌と髪を隠すためのスーツとマスクが必要なのだが、そんなコアなものが世に出ているとは思えない。
そうなると特注するしかないのだが、その辺の奴らに依頼すればそこからアルベルの情報が洩れる可能性がある。
更に言ってしまえば、戦闘中にちょっとやそっとの事では壊れないくらいの耐久性があるものでないと、簡単にバレてしまうだろう。
信頼できる筋に頼むか、絶対に情報が外に漏れ出ない場所で作るかになってくるが、残念ながら私の記憶の限りでは私の要望に応えられるような服を作れる人物は知らないし、何なら服を作っている知り合いすらいない。
パトラがかつて服の破れた部分縫ったりしてくれていたが、あれも服を直しているのであって作っているわけではないのでノーカウント。
つまり、絶対に情報が外に漏れ出ない場所で生産するしかない。
これから伝手を作っていくのでは時間がかかりすぎる。そんなことをしている間にアルベルの顔は瞬く間に全世界に広がっていくだろう。
「……アテなら、ないことはない」
『絶対に情報が外に漏れ出ない場所』という条件を簡単にクリアできる土地を、私は知っている。
何せそこは、今世の私の『
前世とはまた違った意味での現実の厳しさを幼少期に叩き込んでくれた、私の故郷。
「ほう? そいつはどこだ?」
「――――……『ワノ国』だ」
「……九里って、こんな場所だったか?」
念のために被った菅笠の少し持ち上げて、かつてとは打って変わって賑やかになった九里の街を眺める。
荒くれ者やヤクザの類しかいなかった九里には、男だけでなく女や子供の笑顔にも溢れていて、活気に満ち溢れていた。
ちなみにカイドウたちは衣装の関係上目立つため船へ置いてきた。
万が一船を誰かが襲っても、カイドウとアルベルがいれば簡単に対処できるだろう。
ワノ国の侍は強いが、外海の奴等より多少強いっていうだけで、本当に強いヤツは一握りだ。
だが、だからと言って気を抜いてはいけない。
「おーい、待ってくれー! そこの菅笠被った別嬪!!」
笠をかぶって顔を隠しているとはいえ、本当に強いヤツはそれを見破ってくるほど熟達した覇気の使い手なのだ。
「おれと一緒に、お茶でもしようぜ!」
――――……なんだ、その頭は。
「アンタ、見ねェ顔だな。出身は九里じゃないな?」
「……兎丼だ」
変な髪形の男に連れていかれた茶屋でお茶を啜りながら、その男と話していく。
話した感じ、どうやら私の首を狙っている人物ではないらしい。30年も前の事だが、この土地に入るとやはり心の奥深くに刻まれた記憶なためか、警戒してしまう。
「兎丼か! ところでアンタ、名前はなんてんだ?」
「……シキ」
「シキっていうのか! いい名前だな! おれは光月おでんだ!」
男のペースに終始押されているが、今の問答でこの男、おでんが身分の高い人間だという事は分かった。
前世とは違い、このワノ国で苗字を持っているという事はただの一般市民ではないことを意味する。基本的に苗字を持つのは将軍や大名だけだからだ。
つまりこの男は、この国において影響力を持つ人物で間違いないはず。
「―――光月おでん」
「……!!」
少し声色を変えて話しかける。すると、私のその変化を感じ取ったおでんはおちゃらけた表情から辺りを伺いつつ真面目な表情へと切り替えた。
「私が、この国をぶっ壊そうとしている裏切者の情報を持ってきた、と言ったら、どうする?」
「――――……分かった。城へ案内しよう」
統治者レベルの人物と出会えるとは思ってなかったが、これはかなり大きい。
親睦を深めるためには、まずは互いに腹を割って話し合うのが一番だ。
敵対するのは、海軍と世界政府くらいで十分だ。
「……」
歩き始めた私とおでんの後ろで、明らかに不審な動きでその場から立ち去っていく人物を敢えてスルーする。
先ほどの会話は聞かれていないだろうが、万が一に備えて今夜か明日の夜接触を図りに行くとしようか。
路地裏に入った物静かそうな女性の口角が、歪に持ち上がる。その顔を見れば、誰もが「化け物が出た」と腰を抜かして逃げ去っていくことは間違いない。
「ニキョキョキョキョ……まさかこの早いタイミングで来るとは予想外だったが……」
路地を抜け、通りの人を縫い、再び路地に入り、街の外へ出ていく女。
人の姿が見えなくなったくらいで、その女の体はみるみるうちに小柄なものへと変わっていき、そして最終的には女が立っていた場所には一人の老婆が口角を歪ませながら立っていた。
「この計画には『巨大な後ろ盾』が必要不可欠!!」
虐げられてきた今までを脱却し、崇高なる未来を手に入れるための計画の第一歩は、既に完遂している。
それは外海に出て適当な海賊団に入り、『悪魔の実』を手に入れてワノ国へ持ち帰り、それを黒炭家復興のシンボルであるオロチに食べさせる、というもの。
そして計画の第二段階も、もうじき終わる。
オロチが馬鹿な白舞と九里の大名から金を巻き上げて来てくれるお陰で、第二段階完了に必要な資金ももうすぐ集め終わるのだ。
最後に第三段階。
これが完遂すれば晴れてワノ国は黒炭家のものとなり、黒炭家は栄光を手にすることができる。
そのためには、『黒炭家に手を出してはいけない』と思わせるような後ろ盾が必要だったのだ。
「黒炭シキ……アンタはきっとこの計画に賛同してくれるに違いない」
その船に乗り合わせたのはたまたま。本当にたまたまだったのだ。
既に死んだと思っていた姉の娘が、まさか最高幹部待遇で海賊団に迎え入れられたのを知った老婆……ひぐらしは、それを知った日の夜は顔がにやけすぎて眠れなかったほど。
オロチ、せみ丸、カン十郎に続いて、光月家に恨みを持つ黒炭の生き残りをまさか外海で見つけられると思っていなかったのだ。
それに、かの“白ひげ”や“ビッグ・マム”に並ぶ実力を持っていると来た。
勝った。
ひぐらしはそう思わずにはいられなかった。
シキはひぐらしの正体については知らなかったようだが、それでもひぐらしは小踊りしたくなるのを抑えて、テンションが上がったために素早く第一段階を遂行し、ワノ国へと帰ってきたのだ。
だからこそ、ひぐらしはシキの本質を見ることができなかったのだ。
「ニキョキョ……ニキョキョキョキョ!!」
森中の鳥が驚いて逃げ出してしまうほどの大声で笑うひぐらしは、シキ含め『金獅子海賊団』が計画に賛同してくれないとは、夢にも思っていない。
哀れ、黒炭家――――!!