「〝獅子威し“御所地巻き”〟ッ!!」
一面が雪に覆われた島。
白雪が赤雪に染まり、人々の悲鳴が海賊の笑い声や銃声にかき消される。
ロックス海賊団のいつもと変わらない光景。しかし、そんな光景に違和感を持つのは、ロックス海賊団でも指折りの実力者たちだった。
「シキのヤツ、やけに楽しそうだねェ」
「あぁ……『なにか』がアイツの心持ちを変えたのは確かだろう」
普段は意見が合うどころか互いに話すこともない“白ひげ”と後の“ビッグ・マム”が、甲板から島の様子を眺めながら意見を合致させる。
見聞色の覇気を鍛えたものくらいしかわからないくらいの些細な変化。
観察眼に優れた人物がよく観察しなければわからないほどの、表情の変化。
「……喜んでいやがるな」
「ふぅん……男でもできたって雰囲気じゃなさそうだね。おれはシキと同じ女だが、アイツのことはまったく理解ができねェ」
リンリンは雪で作られた獅子が人を飲み込んでいくのを眺めながら、腕を組んで難しい顔を浮かべる。
何度もお茶をして、同じ性別同士でしか分かり会えない話題だって共有したこともある。
だがそれでも、リンリンはシキという女海賊のことを完全に理解できなかった。
無論、シキはリンリンに対して『前世の記憶』について話していないため、当たり前と言ってしまえばそうなのであるが。
「アイツと一緒に船に乗ってきた娘とガキ。アレもいつもと様子が違かった」
「もしかしたら、アイツら『金獅子海賊団』の中で何か変化があったのかもねェ」
「……だろうな」
二人が話す中、一仕事終えたシキが手荷物を抱えて飛びながら船へと帰ってくる。
その顔に浮かべる微笑みには、気にすることがなくなったと言わんばかりの開放感と、多少の狂気が含まれていることに、やはり二人は気付いていた。
「どうした、二人共? いつもは表に出てくることなんてないのに」
普段ならいないはずの二人が、しかも並んで喋っていたという光景に驚きつつも、シキは二人に問いかける。
「おめェの様子が変だったからな」
「あァ、何かあったんだろう?」
「ふむ、流石に二人ほどの実力者となると分かってしまうか。まぁ、心配事が一つ減ったとだけ言っておこう」
本人が語らないなら深くは追及するまいと、二人は納得して、次はシキが抱えていた荷物に視線を送った。
「……で、ソイツはなんだ? もしかして」
「あァ、『悪魔の実』さ」
シキが箱の蓋を開けると、そこに入っていたのは禍々しい気配を放つ果実。海の秘宝である『悪魔の実』だった。
その『悪魔の実』にはぐるりと円を描いた矢印のような模様が描かれている。
『悪魔の実』は、売れば1億ベリーは下らないとされる海の秘宝。“白ひげ”は前々からシキが『悪魔の実』を探しているのを知っていたが、険しい顔をしながら「一応言っておくが」と断りを入れて、
「おめェ程のヤツが寝首をかかれるってこたァねェだろうが、『悪魔の実』には気ィ付けろ。
そいつを狙ってこの船に乗ってくるヤツなんざごまんといる。あまりおおっぴらにすると、嗅ぎ付けた連中がおめェに襲撃を仕掛けるかもしれねェ」
とシキへ『悪魔の実』の忠告をする。
リンリンも黙ってはいるが、“白ひげ”の意見には同意らしく、うんうんと首を縦に振っていた。
「まァ、確実に大丈夫とは言えないが、忠告はありがたく受け取っておこう。それじゃあ」
『悪魔の実』が入った箱の蓋を閉じたシキは、手をヒラヒラと振りながら二人の元を去っていく。
その後ろ姿を、二人はじっと見つめていた。
シキと、彼女の部下である二人の雰囲気がいつもと少しだけ違うと気づいた時、シキに向けられる海賊たちの視線の内、明らかに別格の殺意のようなものが籠ったものを送っていた者がいたのを二人は察知していた。
しかし、二人は関わろうとはしない。
海賊の世界に仁義はあろうとも、ただのお人好しで動こうとする人はいない。
それに、シキ本人がその視線や、その先の事すらも分かっていながら行動しているように見えて、二人は下手に介入するのをやめたのだ。
――――
「おいパトラ、おむすびはねェのか?」
「生憎、船の上だと日持ちが悪いのでお米はないんですよね。今度シキさんにお米をとってくるように頼んでみましょうか」
「あァ、そうだな」
主不在のシキの部屋で、パトラとカイドウは寛ぎながら談笑していた。
カイドウはパトラの作ったサンドイッチを口に放り込みながら、何度か咀嚼した後にそれを水で胃袋へ流し込んでいる。
以前のカイドウならば考えられないような落ち着き具合だったが、それでもカイドウは満足していた。なぜなら、
(最近、やけに襲ってくるヤツが多い。
近頃になって、シキの部屋の周りをうろつき、あまつさえ襲撃してくるような輩が増えたからだ。
シキのような穏健派は、身内に手を出されることを極端に嫌う、という事を理解している海賊たちがシキの部下であるカイドウやパトラを狙って襲ってくるのだ。
尤も、そのほとんどがシキの海賊船で6年程揉まれたカイドウに手も足も出ずに殺されて海へ投げ捨てられているのだが。
しかし、時折実力者も襲撃してくることもあり、強さを求めるカイドウとしては申し分ないどころか、むしろ引き受けたことに喜びすら感じていた。
「はい、終わりましたよ。今回もありがとうございました」
「気にするな。おれがおれの為にやってんだ。それに、
「ふふっ、あの時のカイドウくんが聞いたら、びっくりするような台詞ですね」
「あァ!? うるせェな!!」
対するパトラは、今回の襲撃者に多少の怪我を負わされたカイドウの手当をしながら、カイドウの口から飛び出た、昔のカイドウからは考えつかないような言葉に嬉しさを覚えつつ、カイドウを揶揄う。
「だが……あの日、あの時、船長と会ってなかったら今のおれはいねェ。そんな気がする」
「えぇ。だから、シキさんはすごいんです」
パトラが用意したかなりの量のサンドイッチを平らげ、大きなジョッキに入っていた水も飲みほしたカイドウは、シキと出会ったときの事を思い出す。
国の為に戦わされ、国の為に売られた。
力は持たず、権力を持っている貴族たちの決定に何もすることができず、この世の不条理さを知ったあの頃。
あの頃の歪んだ信念を持ったまま海賊を続けていれば、きっと世界を恐怖のどん底に陥れるような、凶悪な人物になっていたに違いないと、微妙に自画自賛しながらカイドウは考えた。
「パトラも含めて、弱ェヤツはいらねェと、本気で信じてたんだぜ。おれは」
「えぇ、知ってます」
「だが、船長と出会って、同じ船で同じメシを食って、強ェ船長がそれなりに苦労してることも、弱ェはずのパトラがそれなりの努力していることも、全て知った」
「弱いは余計です」
「『
「はい。頼りにしていますよ」
「――――特に、そこのお前みてェなヤツだ」
あの日以降、私を見る視線の中に、凄まじい殺意を籠めたものがあることに気付いた。
それがロックスの言っていた『快く思わないヤツ』だというのはすぐにわかったし、何より船長直々にそれを伝えに来た理由も、すぐに分かった。
「――――……悪いな。今もてなす準備をさせてもらう」
「その心配はいらない。おれもすぐにここを去らせてもらうつもりだからな」
「そうか。私もすぐにお前を追い出す予定だったから助かる」
「ハハハハハ。客人に対して少し失礼なようだな。
“金獅子”のシキィィィィッッッ!!!」
「私の大切な仲間たちを返してもらおうか。
“王直”ゥゥゥゥゥッッッ!!!」
私やニューゲート、リンリンと同じく最高幹部待遇で迎えられた“王直”が、私たち『金獅子海賊団』に牙をむいた。
カイドウ……、カイドウ………???
見習いのカイドウくん
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独立して五番目の海の皇帝
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四皇の最高戦力として活躍