騎影が行く   作:ごまぬん。

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有識者会議

 黒板前の壇上に立った栗毛のウマ娘、アグネスタキオンが切り出す。

 

「というわけで─────」

 

 生徒会長・シンボリルドルフの『怪生物(たぬき)化』に始まり、突如として学園中を席巻した集団パニック現象。

 事態は混沌を極め、生徒会と学園理事会の機能不全によって人々の統制は失われつつある。

 

「まずは互いの無事を祝おう。諸君、よくぞ生きてここに集まってくれた」

 

 トレセン学園旧校舎棟、旧理科室。

 アグネスタキオンの研究拠点である旧理科準備室から地続きで陣地を拡張し、可能な限りの要塞化を施した安全圏だ。

 今ここに集まっているのは、原因不明の集団パニックに巻き込まれること無く、正常な意識を保っている数少ない人員だった。

 

「御託はいい。さっさと始めようぜ」

 

 パンク・ロッカーのような刺々しい髪型。その目に剃刀(かみそり)めいた危険な光を宿すウマ娘───エアシャカールが、ぶっきらぼうに吐き捨てた。

 普段から他人を寄せつけない雰囲気を纏っている彼女だが、今日はいつも以上に不機嫌そうな様子だった。

 

「お言葉ですが、エアシャカールさん。我々はこれより一蓮托生、力を合わせて事態解決にあたるチームとなるのです。一通りの挨拶くらいはしておくべきかと思いますわ」

 

「そうだね。じゃあ───ボクはトウカイテイオー。こっちがメジロマックイーン。で、こっちは」

 

「ダイワスカーレットよ。知ってる人も多いと思うけど。まぁ、どこかで役に立ってみせるわ」

 

「イクノディクタスと申します。生憎と、専門家の皆様に比べれば大した技能は持ち合わせておりませんが……雑用程度ならお任せください。以後お見知り置きを」

 

 高貴なる令嬢にしてメジロ家唯一の生き残り、メジロマックイーン。

 小柄な身体に不屈の闘志を秘めたムードメーカー、トウカイテイオー。

 若き情熱に燃える文武両道の才媛、ダイワスカーレット。

 常に冷静沈着な知性冴え渡る鉄の女、イクノディクタス。

 

「ん。スイープトウショウ。スイープでいいわ、今日のところは『魔法少女スイーピー』の看板にはこだわらない」

 

 ファンタジー小説に出てきそうな黒い三角帽を被った、背の低いウマ娘───スイープトウショウが、尊大ながらにどこか緊張感の滲む声で言った。

 

「……マンハッタンカフェ、です。よろしくお願いします」

 

「チッ。エアシャカールだ。数字の扱いには自信があるが、オレはタキオンほど『そっち側』の流儀には慣れてねェ。ロジカルじゃない相談は受け付けねェぞ」

 

 どこか陰のある青鹿毛のウマ娘・マンハッタンカフェと、先ほど悪態をついたエアシャカールが続く。

 

「コパノリッキーですっ。風水と開運のことならお任せ! ……まぁ、ここまで物凄い状況になっちゃうと、ぶっちゃけ出来ることは限られてきますが……。他人(ひと)の世話を焼くのには慣れてるので、皆さんのバックアップを頑張りますね!」

 

 側頭部で2つ団子になった髪型が特徴的なウマ娘───コパノリッキー。

 例の『結界』といい絶対にまだ隠し玉があるだろ、とアグネスタキオンは確信していたが、このタイミングでつつく話でもないので努めて沈黙を保った。

 

「何や、また癖の強い面子ばっか揃ったなぁ……。……あぁ、すんません。ウチ、タマモクロスいいます。よろしゅう」

 

 流暢な関西弁を話す芦毛のウマ娘───タマモクロス。なお背丈は低いが、見た目に反してこの中では年長者にあたる。

 

「そして私がご存知の通りアグネスタキオンだ。これで全員かな? いやぁ実に心強い。……ところでスカーレット君」

 

「はい? 何ですか?」

 

「議長役を代わってくれないかい? ずっと立ってるのはしんどいし、何より私はリーダーなんてガラじゃなくてね。観客席から野次を飛ばす方が性に合ってる」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 席の配置を入れ替え、ついに『有識者会議』が始まった。

 時刻は16時を回り、冬空を橙色に染める夕日が旧理科室にも充満していく。

 

「えー……それでは。話すべきことはたくさんあると思いますけど」

 

 2段構造になっている旧理科室の黒板の内、まだ何も書かれていない方を背にしてダイワスカーレットが切り出した。

 スライド機構によって押し上げられたもう1枚の黒板には既に、アグネスタキオンとエアシャカールによって無数の数式や化学式が書き込まれている。

 

「まずは、今回の集団パニック現象について。原因に心当たりがある方はお願いします」

 

 アグネスタキオンが挙手。

 

「はいタキオンさん」

 

「原因は判明しているよ。シャカール君」

 

「あァ。すまねェが、プロジェクターを使う。スクリーンを出してもらえるか」

 

 ダイワスカーレットとコパノリッキーが動き、指示通り教室に備え付けのスクリーンを用意した。エアシャカールもまた自身が持つノートパソコンをプロジェクターに接続し操作する。

 理科室前方の照明が落とされ、プロジェクターが光を吐き出すと、スクリーンに白黒(モノクロ)の歪んだ円形がいくつか映し出された。

 

「これは錯乱状態にあったとあるウマ娘から採取された、一種のウイルスだ。我々は『UT細胞』の"第1形態"と呼んでいる。名前の由来については、元となった人物の名誉に関わるので今は伏せるが……」

 

「ウイルスぅ? そりゃまた物騒な」

 

「まぁ黙って聞きたまえよ。UT細胞の第1形態───『UT-F1(フェーズ・ワン)』は一部が不完全な二本鎖RNAウイルス状で、直径はおよそ88nm。乾燥や紫外線に脆弱で長時間それらに曝されると不活性化するが、これはエンベロープが特異な変性を引き起こすことで自己保存に適した外膜を形成し休眠状態へ移行しているに過ぎない。この外膜は変性前のエンベロープと同じ脂質で構成されているはずだがアルコールでも破壊が困難でね、しかし欠点もあるのか休眠状態では───」

 

「「タキオンさん」」

 

 マンハッタンカフェとダイワスカーレットの一喝がアグネスタキオンの長台詞を遮った。

 異端の天才は口をへの字に曲げるが、場の全員の視線を一身に受けて咳払い一つで済ませることにした。

 

「では、今この場で話しておくべき特徴は3点。1点目、感染経路は原則的に直接感染に限定される。血液感染、性的感染、垂直感染……というのは、妊娠中の母体から子供への感染のことだね。つまり、相当に濃厚な身体接触を経ない限りは他人には感染しない」

 

()()()()というのはどういうことですか?」

 

「この次に話すよ。2点目、UT-F1は感染後、通常のウイルスと同様に感染者の体内で増殖し、やがて脳に移動する。それから、主には扁桃体(へんとうたい)───情動を司る部位に定着し、ここから脳内物質の流動をいじくることで、感情の起伏を激しくさせる」

 

「感情の起伏……パニック現象の正体はそれってことか。……でも、それにしたって……」

 

 トウカイテイオーは、奇妙な怪生物と化してしまったシンボリルドルフのことを思い浮かべる。

 そういえば、メジロマックイーンやイクノディクタスの話にも、単なる錯乱ではありえない物理的な変化を遂げたウマ娘が出てきていた。

 

「皆まで言ってくれるな、トウカイテイオー君。何人の感染者に遭遇したかは知らないが、『心の変調』だけでは済まない者を見たのだろう? これが3点目だ。UT-F1……UT細胞は、()()()()()()()()()()()。───だよね、スイープ君」

 

 アグネスタキオンがスイープトウショウに水を向ける。

 全員の視線がスイープトウショウへ注がれたが、もっと周囲の様子すべてに気を配れる者が居たとすれば、同時にエアシャカールが苦虫を噛み潰したような表情になったことに気づいたかも知れない。

 

「あんたたち()()()の理屈じゃどうかは知らないけど、あたしに言わせれば答えは一つよ。あれは『呪い(ヘックス)』ね。いえ、あるいは規模からすると上級呪術(カース)と呼ぶべきかも知れない」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ヘックス(Hex)、あるいはカース(Curse)───呪い。

 スイープトウショウはトレセン学園内でもそれなりの有名人だ。常日頃から『魔法少女・スイーピー』を自称し、己を魔女だと豪語して(はばか)らない"不思議ちゃん"。とにかくワガママで子供っぽい性格をしており、その偏屈ぶりには担当トレーナーすら手を焼いている一方、根はごく素朴で善良であるため結果的に人助けをすることも多い。

 そんな自称・魔法少女は、およそそういったメルヘンな響きとは無縁の完全に真剣な調子でそう言った。

 

「あー……。諸君の混乱も尤もだが、私はこの主張には一定の説得力があると思うよ……他に支持できる仮説が全く存在しない場合に限って」

 

「クソッタレ……! オレは、オレは認めねェぞ! 浮遊魔法(重力の即時逆転)忘却魔法(記憶のピンポイント除去)も、変身魔法とかいう質量保存則の破綻とニューロン・ネットワークの軽率な再構築もだ! 何か絶対カラクリがあるに違いねェ……!」

 

「こっちの拗らせちゃった子は一旦置いておくとしてだね。スカーレット君、そこのリモコンで次のスライドに変えられるからお願い」

 

 パチリ、と画面が切り替わる。

 次に表示されたのは、複雑に絡み合ったピンク色のリボンのようなものだった。

 

「では、そうだな。トウカイテイオー君?」

 

「テイオーでいいよ。何かな?」

 

「突然ですが問題です。『DNA』や『RNA』、および『ゲノム』ってどういうものかわかるかい? 君の成績に合わせた表現でいいから答えてくれ」

 

「失敬な。ボクは成績はマックイーンとそこまで変わらな……イッテ(ひじ)はやめて肘は! ……んーと確か、生き物の身体を作るための設計図みたいなもの、だよね」

 

「ふむ、とりあえず正解でいいだろう。それでだ、興味深いのは───」

 

 アグネスタキオンが白衣の袖から小さな黒い棒のようなものを取り出した。プレゼン用のレーザーポインターだ。

 赤い光点が、スクリーンに映し出されたピンク色の()()()()()()の一部を強調するように円を描き、指し示して止まる。

 

「こいつはUT細胞のアミノ酸配列の一部を図像にしたもの。そしてこの箇所は、俗に『ジャンク(がらくた)・コード』と呼ばれ、生物学的に意味を見出だせない部分だ。つまり、遺伝子情報の記録とそれに基づく肉体の形成にあたって、全く何の役にも立っていないか……少なくとも、現代の主流科学の世界においては、何の役に立つのか理解できていない領域ということになる」

 

 しかし、とアグネスタキオンは言葉を区切った。

 

「どうやら、魔法使いの業界にとってはそうでもないらしい」

 

 間髪入れずにスイープトウショウが二の句を次ぐ。

 

「この画像、赤みの濃い部分があるのがわかる? さっきタキオンたちと話し合ってる時に見つけたの。何かグニャグニャしてるとこね。あれ───()()()()()よ。『זהב(zāhāḇ)』、っていうのは確か『黄金』って意味。似たような画像をいくつか見せられたけど、同じ形が全然違う場所にもあった」

 

「あァ、そこについてはオレたちも確認した。UT細胞のゲノムは、この部分に限らず大半がジャンクとエラーまみれの解読不能コード(スパゲッティ・コード)だ。既知の生物学的には完全に破綻してるとすら言ってもいい。が、この『画像に起こした時にザハヴ(zāhāḇ)と読める』箇所に目を向けると話は変わってくる……全くロジカルじゃねェことにな」

 

「うっ……ね、ねぇマックイーン、どう? ついてこれてる?」

 

「し、正直あまり……イクノさんはいかがですか?」

 

「ぼんやりと、何となくは。皆さんの説明が丁寧なので」

 

 イクノディクタスが眼鏡の弦を指で押し上げる。顔にはいつもの鉄面皮が貼りついており、照明が眼鏡のレンズに反射していて目線も読めない。

 

「うーん、アタシも結構限界かも……。それで、その……ヘブライ語? がUT細胞の遺伝子に書かれてることが、どうして『呪い』云々の話になるんですか?」

 

「あるのよ、ヘブライ語を扱う魔法が。数秘術(カバラ)とかゲマトリアとか呼ばれる分野ね。ただ、あたしは専門外だから術式までは読めないわ。お爺様(グランパ)の家系は錬金術師だし、呪術には詳しくないの」

 

「私も風水と、あと占術全般についてなら多少の知識はあるんですがねぇ。……人を傷つけるようなのはちょっと」

 

「とはいえ、あんたたちも聞いたことくらいあるんじゃない? あたしも直接見たことある世代じゃないけど……不幸の手紙とか、チェーンメール? とか、とにかくそういうのよ。『この文章を○日以内に誰かに見せないと悪いことが起きるぞー』って奴。アレもちょっとした呪いみたいなものだから。そうね、現代(いま)ならLANE(SNS)を使うのかしら……まぁ何にせよ、懐古主義の欧州連中の仕業ではなさそうか」

 

 後半部分はスイープトウショウの独り言だった。どこか遠い場所を見る目をしている。

 そこでダイワスカーレットはふと思い立ち、ここまでずっと黙っていた人物の方を見た。

 

「呪いといえば……あ、いえばって言い方は失礼かもですけど。あの、カフェさんは()()()()()にお詳しいですよね。どう思いますか?」

 

 突然話を振られたマンハッタンカフェは、わずかに──付き合いの長いアグネスタキオンにしかわからない程度に──肩を震わせたが、すぐに落ち着き払って返事をした。

 

「呪いの気配は……あります。ただ今回、私はその兆しを感じ取れませんでした。呪いは普通、もっと恨みや怒りの感情が込められているものなんですが、今回のものにはそれが無かった。……推測になりますけど……この呪いは、誰かの恨みを晴らすために、標的目掛けて拡散していくのではなく……、()()()()()()()()()()を目標にしているような……」

 

「ふぅン。あぁ、それなら納得できるな。最初の方にも話したが、UT-F1の感染能はごく限定的で、よほど濃厚な接触を介さない限り他人にうつる心配は無い。だがトレセン学園が性的無法地帯になっているわけでもない以上、この感染拡大スピードは異常に過ぎる。しかし……そもそも()()()()()()()()()()()()()なら───」

 

「不幸の手紙ねぇ。ははぁ、なーるほど。要するに今回のバ鹿騒ぎ、『感染する呪い』が原因いうこっちゃな? 何やアホみたいな話やけど……逆にそのぐらいファンタジーやないと説明つかん気もするしなぁ」

 

 タマモクロスがそう要約したことで、場の全員のイメージが一致した。

 恐らく──そして大変不安なことに──最も今回の騒動の核心に近いであろうスイープトウショウもそれとなく肯定し、おおよその結論は示されたと言っていいだろう。エアシャカールだけは相変わらず頭と胃が両方痛そうな顔をしていたが。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「───では、原因がわかったところで。これから私たちはどうすべきなんでしょう?」

 

 UT細胞の特徴を黒板にまとめたダイワスカーレットが、議長役として次の議題を投下する。

 専門家5名が各々頭を悩ませ、素人5名はそれを緊迫した様子で見守った。

 それは時間にしてたった数分の(いとま)であったが、素人5名には永遠にも等しく感じられた。

 

「結局のところ」

 

 実際には3分ほどだった静寂を破り、スイープトウショウが口火を切る。

 

「対呪術の基本戦略には2つの段階があるわ。1つは、呪いが起動する条件を特定して自分の身を守ること。もう1つは、そうして時間を稼いでいる内に術者を見つけ出して倒すことよ」

 

「呪いが起動する条件……、難しくない? ボクたち、10人しか居ないんだよ。今から外に出て調べるのはリスキー過ぎるんじゃないかな」

 

「ふふっ。ま、杖無しや並みの魔法使いにとってはそうよね。でも安心なさい」

 

 『有識者会議』が始まって以来、もしくはこの異変が始まって以来、スイープトウショウは初めて笑った。

 その場に居るほぼ全員が知らなかったが、それは彼女が『魔法少女・スイーピー』の名の下に活動する際と同様の笑みだ。

 

「あたし、天才魔法少女だから。呪術そのものは専門外だけど……ねぇタキオン、この子借りていい?」

 

 スイープトウショウは立ち上がって理科室を歩き回り、マンハッタンカフェの所で止まった。座ったままの両肩に手を置いて言う。

 

「あのねぇ、私は『マンハッタンカフェ係』じゃないんだよ。本人に聞くべきじゃないかい」

 

「それもそうね。じゃあカフェ、覚悟はいいかしら?」

 

「?」

 

「これからあたしたちは一緒に外に出る。呪術の起動条件はわかんないけど、きっと霊媒としての素養が高いあんたならすぐ標的になるわ。そうしたら、あたしがそれをひっ捕まえて、『呪い返し』で迎え撃つ!」

 

 当たり前のように飛び出した『呪い返し』という単語の意味が咄嗟に理解できず、スイープトウショウとコパノリッキー以外のメンバーはきょとんとしていた。

 だがスイープトウショウにとって、そのような他人の不思議そうな顔は心地よいものである。何といってもその疑念の表情は、自分に度肝を抜かれる前段階に過ぎないのだから。

 

「カフェにはずいぶん立派な()()()が居るみたいだし、当然あたしも全力で守るから危険は無いわ。大船に乗ったつもりで任せておきなさい!」

 

「調子のえぇやっちゃな〜。それってつまり、カフェちゃんを囮にするってことやろ? というか、そもそも『呪い返し』って何なん?」

 

「そのままの意味ですよ。呪いに対するカウンターですね。呪いや生霊うんぬんまで話が及ぶと、学問としては眉唾になってくるんですが……。風水でも、悪意ある呪詛(じゅそ)に対しては鏡を置いて邪気を跳ね返す、みたいな考え方があります」

 

 勝手に作戦の要に据えられたマンハッタンカフェは、しばらくの間──何も無い中空を見つめながら──押し黙っていたが、ややあって、決意を込めた眼差しで答えた。

 

「……()()()は……えぇ、構いません。こんな状況ですから。ですが……本当に、そんな方法で呪いを(はら)えるのですか? 恨みを晴らさずして、呪いの害だけを取り除くなんて」

 

「愚問ね! 天然の怨霊(スペクター)の呪詛だったらともかく、体系だった魔法として確立してる呪術は対抗呪文で打ち消せる。こっちの業界じゃ常識よ? まぁ、解呪に浄化といえば教会式の『洗礼の儀』が一番なんだけど……あれは使い手が限られてるし」

 

「おいタキオン、胃薬」

 

「もう品切れだよ。いつものラムネでも噛んでればいいじゃないか、プラシーボ効果で気休めにはなるだろう」

 

「ラムネだってわかってたら思い込み(プラシーボ)効果は出ねェだろうが!」

 

 とは言いつつ、エアシャカールは透明なプラスチックケースを取り出して振った。糖分補給用のラムネが手のひらに転がる。

 普段は1回に口にするのは1つか2つに留めているが、今日ばかりはそうも言っていられなかった。乱雑に散らばった複数個のラムネを、口内に放り込んで噛み砕く。摂取カロリーは今後のトレーニングで取り戻せばいい、正常な『今後』を取り戻すことさえ出来るなら。

 

「……ただ……。そうね、学園の存亡に関わる問題だもの。見栄は張らずに、正直に言うわ」

 

 上機嫌だったスイープトウショウは少しだけ声の調子を落とし、神妙な表情になった。

 もしここに彼女の担当トレーナーが居たら『素直すぎて怖い』『普段からそのくらいお淑やかに欲しい』とでも漏らしたかも知れない。

 

「あたしは術の扱いには自信があるけど、さすがに魔力の総量は大人の魔法使いに及ばないわ。『呪い返し』は相手の呪術を跳ね返すから、自分の消耗は少ないとはいえ……ずっとは保たない。このスピードで拡散する呪いを全部浄化するのは、あたし独りじゃ無理」

 

「なっ……!? そんな、どうにかなりませんの!?」

 

「ふん。だから必要なのよ、ここに居る全員の力がね。───リッキー」

 

「ほぇ?」

 

「ほぇ? じゃないわよ。カフェとあんたが一番大事な役目をやるんだから、しっかりしてちょうだい。あんた、占術師───風水師を気取るからには、この学園の地図くらい頭に入ってるんでしょうね?」

 

「えぇと、まぁ……大雑把には? 普段行かない建物や場所もあるので、完璧ではありませんが」

 

「よしっ。だったら話は早いわ!」

 

 そして、現代に蘇った魔女は、この絶望的な状況を打破するための作戦を告げた。

 

「さぁ、やるわよ使い魔たち。あたしたちの手で───このトレセン学園を、『祭壇』にする!!」









スイーピーの一人称は公式だと「アタシ」表記が主流ですが、ここではダスカと被るので平仮名に改変しています。ご了承ください。
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