【2022/10/10 色々とトラブルはありました(本当すみません)が、無事に再投稿が完了しました。今回からは1週間〜2週間くらいのペースで更新する予定です。】
第3章、スタートです。
今回からオリジナルのウマ娘がレギュラーとして登場します。やっと『オリ主』タグが輝きますね。
はるかぜとともに
あれから1ヶ月が過ぎた。
「キタサン! 今日はイエティを捕まえるわよ!」
「えっ? イエティって……確か、雪男のことだよね。もう春先だよ?」
「そうは言っても、実際に目撃情報が来てるんだから。何か悪さをする前に、アタシたちでやっつけるしかないじゃない? さぁ、府中の平和を守るため! 魔法少女☆スイーピー5、出動!!」
「……今日、あたしたち2人しか居ないけど」
「キーターサーンー? リーダーのアタシの言うことが聞けないのー!?」
「ッ、サー! イエッサー!!」
あたしたちは今日も、『魔法少女☆スイーピー5』として面白おかしく、人々のために活動している。
◇ ◆ ◇ ◆
あの日、スイープトウショウは自分に取り憑いた『何か』を引き剥がすため、ほとんど命懸けで"本物の魔法"を使った。
凄まじいエネルギーが爆発し、『何か』は若き魔女の身体から立ち去ったが、その代償は大きかった。
普通の人々には、スイープトウショウが突如として、原因不明の心臓発作を起こしたようにしか見えなかった。
事情を知るキタサンブラックとサトノダイヤモンドも、これまでの人生で一度も感じたことがないほどの戦慄を覚えた。
一時は生死の境を彷徨い、5日間の昏睡状態を経て─────。
「───……。…………、……ん……」
「……、……スイープ?」
「───スイープさんっ!?」
「ぁ……。……? あれ……。
「「うわあぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁ───!!」」
「はっ!? ちょ、ま、何何何何何!? あんたら二人してっ……! もう!!」
そして、全く何事も無く目を覚ました。
数時間後にはスイープトウショウの両親も到着し、無事を一通り喜び合い──反抗期のスイープトウショウは実父にこそ当たりが強かったが──、『使い魔』こと担当トレーナーは彼らにひたすら謝罪をした。
しかし結局、国内最高レベルの病院で精密検査が行われても、異常は何一つ検出されなかった。魔法性の現象は尋常な痕跡を残さないため、当然といえば当然ではあるが。
「病院食って初めて食べたけど、本当に味が薄いのね。こんなんじゃ全然物足りないわ……。キタサン、焼きそばパン買ってきてくれない? 下のコンビニで見たから」
「……死にかけてたのに元気すぎない? スイープさん」
「死にかけてたから、じゃないかしら。5日も寝てればお腹も空くに決まってるわよ」
ウマ娘医療の権威ですら発作の原因を特定できなかったことや、目覚めてからはすぐ体調が戻ったこと。
何よりスイープトウショウ自身が『
「はぁ……やっと退院か。10日も休んじゃったし、身体がなまってしょうがないわね。使い魔、リカバリーの用意はちゃんと出来てる?」
「10日前には心臓が止まってた女の子の台詞じゃないなぁ……。トレーニングプランはもちろん考えてあるけど、本当にいいの? 本当に、もうどこも悪いところ無い?」
「アンタねぇ。骨折してたわけでもあるまいし、精密検査の結果だって健康そのものだったじゃない。軽いアレルギーがいくつか見つかったくらいで何よ。それにしたって、誰にでもあって無視できるレベルだってお医者さんも言ってたわよ」
「……まぁ、スイーピーがそう言うなら。あ、でも検診には絶対連れてくからな。
「……、めんどくさ……」
「
「はいはい。わかってるわ、アタシもそこまでバカじゃない。魔法を極めるまでは死にたくないしね」
一抹の不安を残しつつも、
教育者として、教え子の心身を気遣うのは当然の責務だが───思わず苦笑してしまうような減らず口は相変わらずで、10日間も病院の世話になっていたとは思えなかった。
「魔法も良いけど。まずは次のレース、無事に走れるようにしないとな」
「ふん! そんなの心配してないわ。たとえ病み上がりだろうと、アタシとアンタなら勝てるに決まってるでしょ?」
◇ ◆ ◇ ◆
そんなこんなで、スイープさんは今や完璧な健康体である。何かしらの悪影響も残っているようには見えない。
「う〜ん……。見つからないわね……」
付け加えて言うと、例の『何か』に憑依されていた頃の記憶は綺麗さっぱり消失してしまったらしく、一連の事件については何も覚えていない。もちろん、"本物の魔法"も使えなくなっている。
スイープさんの夢を思えば残念だけど……。いくら切実な願いだからと言って、世の中には手を出すべきではないものもある。
「車の下になんて居ないよー、猫じゃないんだから。そもそもイエティって、山に居る大男なんだよね?」
ちなみに、図書室や資料庫から見つかった『魔導書』については、いま調査と回収が進行中らしい。
『う、うちは健全な風水師の一族なんですぅー! こんな危ない橋を渡るのはこれっきりだからね!』とか何とか言っていたけれど、結局実際の調査や回収作業の手伝いもしているようだ。あの律儀さはあたしも見習いたい。
「むっ。そんなのわからないじゃない。あの手の怪物は、意外な所に隠れてるのが
あと、スイープさんとダイヤちゃんが仲良くなった。
魔導書の調査と回収には、現地で事件に遭った当事者として、あたしたちも協力している。
その過程で魔法にまつわる伝説とか、怪物とか、神話とかに結構詳しくなり、おかげでスイープさんとも話が合うようになったのだ。
特にダイヤちゃんはあたしと比べて物覚えが良く、口も上手い。木を隠すなら森の中───"本物の魔法使い"としての才能を秘めているスイープさんが、再び危険な魔術の知識に触れてしまわないよう、ダイヤちゃんは巧みにスイープさんの興味を逸らしているのだ。
「あはは……何かそれ、ダイヤちゃんの口癖がうつっちゃったみたい」
「? そうかしら?」
……あの時は、すっごく怖かったけど。
ダイヤちゃんといい、『有識者会議』の皆さん──お互いに記憶を失っているはずなのに、どうしてか良い関係を再構築している──といい……スイープさんに新しい友達が出来たという意味では、悪いことばかりでもなかったのかも知れない。
「───あ。スイープさん、もうすぐ門限だよ。そろそろ帰らなきゃ」
「ん……。仕方ないわね。キタサン、明日の予定は?」
「ごめん、レース近いからしばらく付き合えないかも。ていうかスイープさんこそいいの? まぁこの間は1着だったけど、あれも結構ギリギリだったよね」
「アタシはいーの。レースの3週間前まで心臓止まってたんだから。むしろそんな状態で、ハナ差でも勝ったのを讃えるべきじゃない? そもそもまだ休養期間だし」
「休養期間なら尚更、ゆっくりしてた方がいいんじゃ─────」
他愛も無い話をしつつ、トレセン学園への帰路を辿る。
◇ ◆ ◇ ◆
季節は初春になり、日照時間も多少は延びた。でも、18時を過ぎた頃には、空の色は橙から紺へと変わろうとしていた。
「───でね、ダンテがこう言うのよ。『……私は、プリンセスバックドラフト!! 人々が望む限り、私の魂は何度だって燃え上がる!!』って! すると一度はダンテを見限ったはずのハイブーストクリスタルが……」
「うひゃあ……! 最近のプリファイってそんな展開になってるの? 日曜朝なのに!? すごっ、それで───」
プリファイの最新作についての講義を聞きながら、あたしたちは学園の正門前に帰ってきた。
日によっては秋川理事長や秘書のたづなさん、一部の教職員、学生寮の寮長などなどが立っていたりするんだけど、今日は特に(白いドラム缶型の警備ロボットを除けば)誰も居ない。
「……ん?」
いや。そうでもなかった。
門限には間に合っているとはいえ、かなり遠くまで行ってから引き返してきた形なので、てっきりあたしたちで最後かと思ってたけど……。
「そうなの、アタシもズンビーのデザインは歴代でも……。……、キタサン?」
正門を挟んで向こう、トレセン学園へと続く歩道の半ばに人影が見える。
春先の町中とはいえ夕刻は夕刻。周囲は微妙に薄暗いものの、その誰かの姿は白い街灯に照らされ、はっきりと浮かび上がっていた。
「あれ」
───黒い、モヤモヤした人型。
影のような塵のような、曖昧で安定しない二手二足の、『何か』。
「……っ!?」
そのことに、『得体の知れない何か』と遭遇したことに気づいた瞬間、あたしは思わず飛び出していた。スイープさんの前へ。
「ちょっ……ちょっと、キタサン? 何やってるの?」
だが。
「何って、そんなの……! あたしはスイープさんを───」
振り返る。スイープさんの怪訝そうな顔。
挙動不審なのは百も承知だけれど、まぁそこは仕方ない。いざという時、あたしには……あたしが、スイープさんを守らなきゃ。
「だって……。スイープさんには見えないの? ほら、向こうに居るモヤモヤした……」
「もやもや? 何言ってんのよ。ただの
「え?」
正面に視線を戻す。
一歩、近づいて来ている。あたしたちの目と鼻の先まで。
空に向かって突き出した耳。
寒色系で纏められたデザインの制服。
───トレセン学園のウマ娘。
まず目を引くのは、ウマ娘としても珍しい淡紅色──というよりは桜色──の長髪だ。トレセン学園は日本の一般的な学校と同様、髪を染めるのは原則禁止なので、恐らくはあれで地毛だろう。
身長はあたしより一回り小さいくらい、
トレセン学園標準の制服の他には、足に薄手の黒いタイツを履き、右耳に金属製の小さな飾り──放射状に広がった蜘蛛の巣にも見える──を、左耳に映写機のフィルムに似た模様のリボンを着けている。
ぼんやりとした瞳は透明な鏡色をしていて、中心に一滴だけ墨を垂らしたような黒い点があった。俗に『魚目』と呼ばれる先天性の色素異常。恐ろしく色白な肌も相まって、少々不健康そうな印象があることは否めない。
「あ……」
珍しいと言えば珍しい特徴。でも、そこに不自然な点は何一つ無かった。
……無かった、気がする。
「もう。いくら暗いからって、同じ学園の生徒を化け物みたいに言うなんて。さすがに常識無いっていうか、天然すぎるわよ」
「そう……だね。ごめん」
「だから、それはアタシじゃなくてあの子に言いなさいな。……と、ところでキタサン? その……本当に、お化けを見たわけじゃないのよね? ねっ?」
思い出したかのようにソワソワし始めたスイープさんのことも今は忘れ、鏡の目をしたウマ娘を見つめる。すると、
「─────あの」
あたしの視線に気づいたその子が、声をかけてきた。ひどく感情の希薄な、
無意識に肩が跳ねる。失礼だとはわかっていながらも。ついでにスイープさんもびくりとしたが、咄嗟に三角帽子の
「何か、わたしに御用ですか」
「え……あ、えっと。その……」
何か用か。別に用事は無い。あたしが勝手に変な幻覚を重ねて見て、珍しい容姿に気を取られていただけなのだから。
「ちょっと、キタサン」
「う───うぅん、何でもない……よ。ただその……変わった目と髪の色してるから、気になっちゃって。ごめんね? こういうこと言われるの、きっと好きじゃないよね」
「……、いえ。わかります。誰だってそういうものですから」
「あら、アタシは結構好きよ。ピンクの髪って言えばプリファイの定番だし。その目も何だか、他人とは違う世界が見えてるって感じよね」
「? 視覚は正常に機能しています。あなたと異なる波長の光を認識しているわけでもないはずです。あるいは、逆転クオリアについての議論でしょうか」
「??? ……カフェみたいな喋り方なのに、タキオンみたいなことを言うわね?」
あっこれ終わんないやつだ。
「スイープさん、門限、門限っ。ほら、えぇと……あたしたちは栗東寮だけど、あなたはどっち?」
3人で連れ立って敷地内に入る。
日没の前後というと、その日のトレーニングを終えた生徒たちが学生寮に帰っていく時間帯だ。門をくぐってしまえばそれなりに人通りがある。
「どっち……。…………、寮……。あぁ」
……今の質問に何か、答えに困る要素があっただろうか。
スイープさんがリスペクトしてやまない某イギリスの魔法学校とは異なり、トレセン学園の学生寮は栗東と美浦の2種類しか無いはずなのだけれど。
「わたしは……、まだ少し……自分のクラスの教室に、用事があります。ですので、今日のところはこれで」
そう言ってお辞儀をしたかと思うと、鏡の目の子はそそくさと中央校舎の方面へ消えていった。
あたしとスイープさんは何となく、彼女の背中が遠くに見えなくなるまで……あ、しまった。名前くらいは聞いておけばよかったかな。
「───よくわからない子だったわね。新入生かしら? この春からの」
「どうだろ……。人の顔覚えるのは得意な方なんだけどなぁ。あの見た目ならかなり目立つだろうし、会ったことあれば確実に忘れないはず……」
「ま、
「そっか。何というか、スイープさんってたまに鋭いこと言うよね」
「たまにじゃなくていつも言ってるわよ、いつも!」
ぷりぷりと頬を膨らませるスイープさんを適当にあしらいながら、学生寮に足を向ける。
摩訶不思議な夢を見た後のような───何かを忘れ、それを忘れたことを忘れ、やがて残った最低限の違和感すら忘れた時の気分が胸を満たしていた。
前章からスイーピーの一人称を公式で主流の『アタシ』に戻しています。元々がダスカと差別化するための措置だったのと、平仮名だと今度はキタちゃんと被るからです。
え? 今後またダスカと一緒に登場する時があったら?
どうしましょうかね(痴呆)