せっかくのクリスマスの投稿ですが、特にクリスマスらしい要素はありません。
明るい栗毛のウマ娘が一人、夕刻の府中を歩いていた。
「ふぅ……今日も疲れたな。早く帰って宿題しなきゃ」
リズム一族の新顔、ソプラノリズム。中等部1年生。
かの一族の出身に相応しく、トレセン学園に入学できる力量はあるが、裏を返せば──今はまだ──それだけの平凡なウマ娘。
「ふふふふ〜ん、ふっふっふ〜ん……ふふふふ〜んふっふっふ〜ん……。かがやくみらーいをー、ふふ〜んふ、ふふ───♪」
鼻歌を諳んじながら、交差点を曲がる。トレセン学園から学生寮まで、覚えたての道を行く。
そして10分ほど歩いたところで、彼女は奇妙なことに気づいた。
「……、あれ?」
右手に雑居ビル。左手に公園。公園の少し向こうに、個人経営の小さなコンビニ。
この交差点は、さっき通り過ぎたような───。
「変だな」
とはいえ、覚えたての道だ。
まぁこういうこともあるかと思い、スマートフォンで地図アプリを起動する。目的地を美浦寮に設定し、アナウンスに従って再び歩く。
「え……」
───右手に雑居ビル、左手に公園、公園の少し向こうに個人経営の小さなコンビニ。
体感でおよそ5分後、ソプラノリズムはまた同じ交差点に戻ってきていた。
そんな馬鹿なと地図アプリをいじくるが、結果は変わらない。ここは既に2度通過したはずの交差点だ。
「あっ……、……!」
そして、彼女が首を傾げた刹那、決定的な異常が発生した。
交差点の名前を確認しようと標識を見た時、そこに彼女が慣れ親しんだ日本語は書かれておらず、出鱈目に絡み合う白線の塊しか見出だせなかった。
手元のスマートフォンに視線を落とすと、まず時計の表示が文字化けし、それがすぐさま他の部分にも伝播し、最終的にはまったく破綻した世界が映し出された。ソプラノリズムは今、地図アプリ上ではインド洋の深海に居る。
「何これっ……!?」
空は不吉な紫に染まり、そこに極彩色の光の帯が揺蕩っている。
無臭の、しかし何故か生理的嫌悪感を喚起する生温い風が、真っ黒な雲を引き連れて吹きつける。
ソプラノリズムはたまらず走った。
恐慌状態のウマ娘の脚力による全力疾走だ。2分とかからずに寮に帰れるはずだった。
もちろん、そうはならなかった。右手に雑居ビル、左手に公園、公園の少し向こうに個人経営の小さなコンビニ。
道路のアスファルトの隙間から、青黒いコールタールのような粘液が滲み出てきて、ソプラノリズムの靴を汚した。
「……、!? ひっ……!」
安穏とした日常が、崩壊する。
この世ならぬ不条理が、形を成す。
<───████████─────>
まるで現実世界が1枚の液晶モニターであるかのように、
地面と垂直に立った頭と胴体と手足。概ね人間の子供のような形状を取る、灰色の『ノイズ』。その表面は絶えずざらざらと流動し、耳障りな擦過音を吐き出し続けている。
<████████>
<████████>
顕現した『ノイズの怪物』は2体。
それらには眼球どころかまともな顔面すら無かったが、ソプラノリズムは直感した。
自分は、今から殺されるのだと。
◇ ◆ ◇ ◆
【配信中】一般トレーナーだけど世界救うよ!【ウマリブ新モード体験版 #01】
記念すべき初戦闘ですー!!
さぁ掛かってこい競バ星人!!
Oh! ちょうどよく雑魚っぽいのが2匹。
競バ星人っていうか……ウマ耳の生えたゴブリンですねこぉれは。
戦闘は、うお! エンカウントありーの、アクション形式? 珍しいな。テイルズとかキングダムハーツと似た感じか。
まぁ見ててくださいよたづなさん、もといターニャさん。あと視聴者のみなさま〜。
ピッピだってゲーマーの端くれ、わざわざ初期ジョブに魔法剣士を選んだ理由は───こう! そしてこう! こう! こう!
ふぃー……やったぁ! トレピッピ大勝利ー!!
ま、ま、ピッピにかかればこんなもんですよ。
やっぱり魔法剣士選んで正解でしたね。色んな属性魔法で弱点を突いてボコす、これRPGの鉄板な。
と、言ったところで本日の配信はここまで。ご視聴ありがとうございました!
トレピッピのヒトチューブ! ゴルシちゃんのぱかチューブともども、チャンネル登録よろしくお願いしますぅ〜。
ゴルトレことpippi564でした!
◇ ◆ ◇ ◆
そのとき何が起こったのか、すべてを説明する術をソプラノリズムは持たない。
突如として一変してしまった世界。
どれだけ進んでも常に同じ場所に辿り着く、閉じた空間。
出現する『ノイズの怪物』。その腕らしき部位が伸び上がり、ソプラノリズムを引き裂こうと襲いかかる。
致命の魔爪が少女へと届く寸前、真っ白な閃光が宇宙を奔った。
『ノイズの怪物』より一回り大きく、さらには輪郭までもがはっきりとした、人型の光の塊。
流れるような長髪を靡かせ、頭頂部には飛び出す角のようなものがある。それはきっと耳だった。恐らくは
右手には細長く鋭い剣───レイピアが握られており、繰り出された刺突が『ノイズの怪物』を貫いている。
<████████─────!!>
<…………>
1体目の『怪物』の身体が赤黒い炎を発し、塵となって消滅した。
<████……、████……!>
残った2体目の『怪物』は一声咆哮を挙げると、現れた『光の剣士』へと標的を変えた。
まるでファンタジーゲームの世界だ。『怪物』が鋭利な爪を振り乱し、『剣士』がそれをいなして突きを放つ。
<……>
激しい攻防の最中、『剣士』が素早く跳び退った。
ソプラノリズムを守るように立ち、レイピアを振り上げる。
剣の切っ先が虚空に円を描くと、この世ならぬ圧力がそこへ収束していき─────。
<───!!>
凄まじい高熱を帯びた真っ赤な炎が、『剣士』のレイピアから放出された。
炎は大気を焼き焦がしながら飛び、瞬く間に『怪物』を飲み込む。
<██……! ……██████───!!>
『怪物』は1体目と同様、黒い塵と化して霧散する。
そして、脅威を殲滅した『剣士』もまた、天に昇るようにして風に溶けていった。
◇ ◆ ◇ ◆
明るい栗毛のウマ娘が一人、夕刻の府中を歩いていた。
「ふぅ……今日も疲れたな。早く帰って宿題しなきゃ」
リズム一族の新顔、ソプラノリズム。中等部1年生。
かの一族の出身に相応しく、トレセン学園に入学できる力量はあるが、裏を返せば──今はまだ──それだけの平凡なウマ娘。
「ふふふふ〜ん、ふっふっふ〜ん……ふふふふ〜んふっふっふ〜ん……。かがやくみらーいをー、ふふ〜んふ、ふふ───♪」
鼻歌を諳んじながら、交差点を曲がる。右手に雑居ビル。左手に公園。公園の少し向こうに、個人経営の小さなコンビニ。
トレセン学園から学生寮まで、覚えたての道を行く。
「……、あれ?」
さっき通り過ぎた交差点に、ソプラノリズムは奇妙な気配を感じて振り返った。
ここは、あの交差点は─────
「……? ……。ま、いっか」
改めて寮の方角に足を向ける。
摩訶不思議な夢を見た後のような───何かを忘れ、それを忘れたことを忘れ、やがて残った最低限の違和感すら忘れた時の、虚ろな気分が胸を満たしていた。