実は特に執筆する予定の無かった回なんですが、公式がクソッタレ超絶気になるキャラクターをお出ししてきやがったので擦らざるを得ませんでした。
ユニヴァース語録から逃げるな
ハルノエクリプスが謎のサンタウマ娘と遭遇してから、1週間が過ぎた。
当然ながら、世は大晦日を迎え───そして、新たな1年が始まる。
◇ ◆ ◇ ◆
トレセン学園で日本の新年、正月の行事と言えば初詣である。
厳格な勝負の世界に身を置くウマ娘たちとそのトレーナーにとって、それは単なる験担ぎ以上の意味と効果を持つ。
昨年は平穏無事に過ごせたと感謝を捧げる者もあれば、新年こそは栄達をと祈願する者もあり、信心深くはないが友人知人との顔合わせのため出向くという者も少なくない。
そんな中、暫定宇宙ウマ娘のハルノエクリプスはというと─────。
担当トレーナーの
休日にはいつも星間スパイとしてのフィールドワークか、舩坂が許可した範囲で自主トレーニングに勤しんでいるハルノエクリプスだったが、それらの目標課題も早々に達成してしまっていた。
何事もオーバーワークはよろしくない。もとい、この時期はとりあえず大人しくしているのが地球人の性質であることは知っていたため、自身もそれに倣おうと決めた結果。
彼女は、めちゃくちゃ暇だった。
◇ ◆ ◇ ◆
「明日はお兄様と、ブルボンさんと、ウララちゃんと、マーベラスちゃんと……」
「や、テイオー。あけましておめでと。そっちはやっぱりスピカで? うん、アタシもカノープスのみんなでね。……、そういえば……」
「あら? デジタルさん。あけましておめでとうございます。ん……まぁ、年末年始はメジロでまとまってた方が、何かと都合良くってさ。アタシも友達と一緒が嫌ってわけじゃないし、たまには声かけてみようとか、思わなくもないんだけど……」
「「「───もしかして、
◇ ◆ ◇ ◆
結果として、ハルノエクリプスは初詣に来ていた。
することの無い休みとて、日がな一日寝こけて過ごすのも
新参者とはいえ中央で4戦4勝のGⅠウマ娘ともなれば、知名度や人気の点でも他競技でのトップアスリートに匹敵する。ましてや、ただでさえ特徴的な外見のハルノエクリプスは恐ろしく目立つ。
トレセン学園生徒の間で初詣の定番となっている神社へと向かう傍ら、彼女は話しかけてくるファンを適当にあしらい、スクープ求めて立ち塞がる雑誌記者を『マーベラス空間』送りにしていた。
途中で応対が煩わしくなり、変身の権能を発動して全身の光反射率を0%に───つまりは透明になって歩くことにしたものの、飼い犬や野良猫には嗅覚で、ウマ娘には聴覚で感づかれてしまう。正体が露見するリスクを鑑みれば、権能の存在が発覚することの方が問題なので、結局は元の姿で過ごす他なかった。
あるいは、それこそ犬か猫にでも変身すれば済む話ではあったが、ハルノエクリプスは存外にウマ娘の姿を気に入っていたのかも知れない。
石段を登り切り、奥に社殿を望む参道までやって来た時点で、ハルノエクリプスは気づいた。
───そういえば、願い事を決めていない。
達成すべき大きな目標は2つ。
失われた
しかしハルノエクリプスにとって、これらはまったくの
真空の極寒、恒星の灼熱、飛び交う放射線───ハルノエクリプスが知る宇宙の環境は、ありとあらゆる意味で過酷だ。
起こり得るすべての事態を予測して準備を怠らず、事前に予測できない物事に対しては常に
状況が常に悪化していくことを前提にして、それでもなお間違いなく完遂される行いでなければ、
故に彼女は、『験担ぎ』や『神頼み』の意義も歴史も理解してはいるが、それが自分に必要だとは微塵も思っていなかった。
神に祈ってGⅠに勝てるなら、世界には三冠ウマ娘が山と溢れていなければ理屈に合わないではないか。
そこまで考えて、今日は完全に無駄足だったと思い至り、ハルノエクリプスは踵を返した。
自分は神を信じない──実在を否定するというよりは、その力と性格を信用しない──し、頼ろうとも思わないけれど、参道に立ち並ぶ屋台は気になる。軍資金は十二分に持ち合わせがあった。
「うォごうォご」
参道から外れた林の陰に陣取り、とりあえず購入した鶏皮餃子を頬張るハルノエクリプス。
トレセン学園の食堂ではほうれん草のおひたししか注文しない彼女だが、別に他のものが食べられないわけではない。一通り試食してみて一番気に入ったのがそれだっただけ、というのが真相である。
日の光を避ける所作も、道行く市井の人々を追う視線も、星間スパイの職業病と言えるだろうか。
記憶の復元はあまり好調ではない。いくつかの癖と異能力、そして夜空を見上げる度に感じる郷愁の念だけが、ハルノエクリプスを"故郷"と繋ぐ
ふと、一人のウマ娘がハルノエクリプスの目を引いた。
陽光を照り返して透き通るような金色に、水晶めいた空色が混じる独特な長髪。その青い瞳は胡乱で眠たげなようにも、あるいはこの世ならざる領域を眼差しているようにも見える。
服装は簡素な白のトップスとスカートに、穏やかな宵の空にも似た紫紺のカーディガン。周囲には知人らしき人影がちらほらと見えるが、歩く速度がマイペースであるためか、どことなく浮いたような印象を与える。
次の瞬間、
未知の、既知の、身に覚えの無い光景がフラッシュバックする。
地平全土を覆った水晶の森の中心で、致死の閃光を操る巨大な節足動物が咆哮している。環境を汚染する青い血液を垂れ流す、凶暴な怪物の軍勢が迫ってくる。惑星、否、銀河に匹敵するほどの巨躯を有する赤ん坊が、空間を軋ませる絶叫を放つ。
次元を超え歌を諳んじる羽虫。"時の線"を分断する鈍色の触手。宇宙の裂け目から出現した異形の不死鳥。鋼鉄の地殻に住まう機械生命体。黄金色の巨人が従える、天体をも焼き尽くす炎の化身─────。
食事中でなければ、衆人環視の最中でなければ、即座に襲いかかっていたとしても不思議ではなかった。
ハルノエクリプスの剣呑な視線に気づいたのか、あるいはより
知人たちに一言二言声をかけ、すたすたとこちらに向かってくる。
「ネガティブ」
「……はい?」
清涼感のある、しかし機械的なハスキーボイス。それにしても開口一番『
ハルノエクリプスはつい昨年のクリスマスイブを思い出した。あの夜もこうして、知らないウマ娘から唐突に話しかけられたものだ。
「ネオユニヴァースはその"USPS"について『教える』をできない。『わたし』はみんなに比べれば多くを知っているけれど、それはネオユニヴァースの"重力圏"にあるものだけ」
「はぁ」
「ただ、約604800秒前の睡眠中に"因果地平"を"フライバイ"した時、あなたを見たことは覚えている。あなたは"
「? ……???」
普段滅多なことでは動かないハルノエクリプスの鉄面皮が崩れた。恐らく今まで誰も見たことが無いほど困惑している。とはいえ、この場に他の人間が居たところで、反応は似たり寄ったりだったであろうが。
「……。ネオユニヴァースは……あなたに何を言えるわけじゃない。でも……」
「───……」
「この宇宙には、きっと『嬉しい』が溢れているから。"NTSY"、ハルノエクリプス。"アストロノミカル"な偶然を『楽しんで』」
透明な金髪のウマ娘は、注視していなければわからない程度に薄く微笑んだ。そのまま背中を向け、ひらひらと手振りをしながら去っていく。
聞くべきことがたくさんあったような気がしたが、ハルノエクリプスはそれ以上、彼女を追おうとはしなかった。
◇ ◆ ◇ ◆
「……ところで、そうだ。その"アンノウン"の香り……スフィーラ、とってもスフィーラだね。"座標"を教えてくれないかな。みんなにも『お裾分け』をしたいんだ」
「あ、はい。東のたこ焼き屋さんの隣です」
ようやく意味の通る会話が出来た。ハルノエクリプスの賢さが上がった。
◇ ◆ ◇ ◆
過去、現在、未来、あらゆる時空を超越した多次元宇宙の果ての果て、あえて訪れる者も無き世界の最奥に
それは破滅的な力の渦動であり、吹き荒れる嵐であり、降り注ぐ雷霆であり、飛翔する死の翼であり、万物万象を悉く滅ぼす黒き鏖殺の太陽である。
かの魔王の如き盲目白痴には非ざれど、その精神には底無しの飢餓と殺意しか存在せず、極大質量の攻撃性が超新星爆発めいて燃え盛っている。
それは待っている。それはずっと待っている。
闇すら凍る永劫の時の微睡みの中で、己らが敵に突き立てるべき牙を研ぎ続けている。
今はまだ、それが眠りから醒めることはない。
◇ ◆ ◇ ◆
時間と空間の外側、あるいは生命と魂のヴェールの彼方に
数多の祈りを、願いを、想いを受けて、生きとし生けるものすべてを祝福する三柱の光。
彼女たちは守り続ける。世界を、そこに生きる愛すべき子供たちを。
そして、それを脅かすものがあるのなら─────。
○サポートカードイベント【泡沫夢幻、または彼方への───】
ハルノエクリプスはスキル『ネオユニ語検定 Lv.1』を覚えた!