40話到達! 長かったような短かったような。
ご愛読ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
あと、今回はちょっとショッキングなシーンがあります。
ぶっちゃけ規約ギリギリセウトな感じですが……まぁ、えっちゃんは厳密に言うとウマ娘ではないので……。
3月、月初。GⅡ・弥生賞を目前に控え浮足立つトレセン学園にて、ごく普通の──比喩も誇張も皮肉も抜きに──ウマ娘・コタツマルタマは、しかし世間の風潮に流されずのほほんとしていた。
人並み、もといウマ並みの競争心はある。大舞台への憧れも。そのためにトレセン学園の門を叩いたし、担当トレーナーと共に努力もしている。未勝利戦ではあるが、中央で1勝という結果すら出した。
それでも───
「えっちゃん、おはよー!」
「おはようございます。コタマさん」
だから、ハルノエクリプスと友達であることは、コタツマルタマの密かな誇りだった。
メイクデビューから連戦連勝、トゥインクル・シリーズに彗星の如く現れたニューヒロイン。
寒門出身の無名ウマ娘が突然変異的な素質を開花させ、世代を牽引するスターとなった例はままあるが、彼女ほど『無から生えてきた』と評するに相応しい者は居ない。
何せ素性が一切不明で、トレセン学園への入学以前はどこに住んでいたかさえも知られていないというのだ。
「シナもおはよっ」
「おはよう。……そうだコタマ、再来週のレースの登録書類できた? 早めに仕上げとかないと、また篠宮さんに怒られるよ」
「え? あ~……、そういやそうだっけ。いや、まぁ、……うん。後は名前書いて判子押すだけだし、平気平気」
「しっかりしてよね。一応ライバルでしょ、私たち」
明確に言語化できない
───寒門出身の無名ウマ娘が突然変異的な素質を開花させ、世代を牽引するスターとなった例はままある。
そして、そのようなウマ娘の属する世代は、例外なく全体の実力が底上げされるのだ。ウマ娘は"たましいの生き物"なれば、『自分だってもしかしたら……』という気持ちもまた力になることは自明である。
シナモリクリスタルは、そうして奮起することの出来るウマ娘だった。クールでぶっきらぼう、厭世的なようでいて、内心に熱いものを秘めているタイプ。
他方、コタツマルタマは─────。
「えっちゃんも、もうすぐ皐月賞だね。あ、弥生賞が先だっけ?」
「はい。大事を取って回避してもよかったそうですが、ここは万全を期してということで」
「どのみち皐月には出るし、前座の時点で躓く気は無いってことか……。相変わらず天才は言うことが違う」
「まぁまぁ、あたしたちは凡人なりに、そこそこで頑張っとこ~。えっちゃんも頑張って! 絶対応援行くから!」
ハルノエクリプスはそれ以上なにも言わず、こくりと首を縦に振った。
鏡色の瞳には、コタツマルタマとシナモリクリスタルの姿が映っている。暫定同級生の友人ふたりは、彼女が瞬きをしたところを見たことが無かった。
◇ ◆ ◇ ◆
「─────っ……!?」
トレセン学園の不思議なウワサ。
「おや、どうしたんだいカフェ。いきなり鳩がレールガンを喰らったような顔をして」
トレセン学園のコワ~イうわさ。
「……すみません、タキオンさん。私が明日の朝までに学園に戻らなかったら、この番号に連絡するようトレーナーさんに伝えておいてください!」
レースで勝てない、上手く踊れない、勉強がはかどらない、先輩が怖い、後輩が生意気。
恋はダービー、勝者は常にひとり。トレセンのウマ娘にはお悩みがいっぱい!
「え? あっ……ちょっと、カフェ!? どこ行くんだ、おーい!!」
けれども、そんな時は『大樹の洞』へ。
胸の中のモヤモヤ、イガイガは大声と一緒に吐き出しちゃえ!
だって、そうでもしなければ─────。
◇ ◆ ◇ ◆
その日の夕方は曇りだった。
西日が灰色の雲を赤く染めていて、幸い雨はまだ降りそうにない。
「あ~、お腹空いたぁ。早く帰ろ」
トレーニングを終えて寮に向かう。いつも通りの日常だ。
明日からの予定をうっすら思い浮かべながら、たまにスマホをいじりつつ歩く。
「ら~いど~ん、た~いむ♪ ご~でっか~、ふ~んふ~んふ~んふっふ~ん♬」
右手に雑居ビル。左手に公園。公園の少し向こうに、個人経営の小さなコンビニ。
もうとっくに慣れ親しんだ通学路。普段なら気にも留めない、当たり前の風景。
「ゆー! かうん! なう! せん、しっ、が……、───。……?」
強烈な違和感と胸騒ぎを覚えて、あたしは思わず立ち止まった。
だけどこの時間なら、学校帰りのトレセンの生徒がたくさん通っている。いくら頭のガンギマった変質者が相手だろうと、人間がウマ娘に勝てるわけがない。
「あれ」
───気がつくと、周りに誰も居なかった。
空は不自然な赤紫色に。辺りの看板は文字がぐちゃぐちゃに書き換えられてマーブル模様みたいに。
道路のアスファルトのヒビや窪みからは、コールタールのような粘ついた液体が染み出している。
明らかに普通じゃない。
「あっ……、わ、わわ……!!」
どうしよう。わからない、とりあえずスマホを取り出す。よかった、アンテナは立ってる。
LANEを起動、でも誰に連絡する? シナ? それともトレーナー? ネイチャ先輩なら、こういうオカルトな出来事に強い知り合いが居るかも? えっちゃんは……やば、連絡先知らないじゃん。後で聞いとこ、後なんてものがあればだけど。
「とと、とりま大人の人……! お願いっ、出てよトレーナー!」
震える指先で通話のボタンをタップする。発信音が1回、2回、3回……。
バツッ、というノイズが走って切れた。こんな時にと思ったけど、よく見たらスマホの画面も全体的に文字化けしてる。もう使い物になりそうにない。
そして、極めつけに、
〈─────████████〉
『何か』が、あたしを見ていた。
遠目からだと、パッと見は灰色のゴリラっぽい。けれど、そいつの体表面は絶えず砂のように流動していて、この世のものじゃないみたいに輪郭が曖昧だった。
そいつはのっそりと腕を動かして、下半身を引きずりながら近づいてくる。指のある手というよりは、ウシとかトナカイと同じ
〈████───〉
動きは速くない。全力で走れば余裕で逃げられそうですらある。でも……足が動かなかった。
頭は不思議と落ち着いていた。こうやって相手をよく見て、物事を考えられるくらいには。
その上で、身体が動かない。動かせない。
「う、ぁ」
〈████████████████〉
灰色の、ノイズじみた『何か』が迫る。改めて近くで見ると、まったくゴリラっぽくはなかった。
長い首がうねうねと伸びてくる。先端には白い石で出来た仮面のようなものが付いており、そこに6つの穴が空いている。わずかに覗ける中身は真っ暗で、目も鼻も口も存在しそうにない。
そいつの胸? の辺りが
「───いけないっ!!」
◇ ◆ ◇ ◆
【配信延長中】一般トレーナーだけど世界救うよ!【ウマリブ新モード体験版 #04】
乱入システムとか聞いてないんですけどおおおぉぉぉぉぉ!?
ぬわーッ!! 敵の数が多い! MP足りねぇ! ボーボボちゃん大ピンチ!
この! ちきしょー! やめてやる!! こんなクソゲーやめ……て……え!?
減っ……てる? なんか知らんけど味方の増援が来てる?
味方の増援が来てる? 味方の増援が来てる?
味方の増援がボーボボちゃんを助けてるぞ! 味方がうちらを助けに来たぞ!
なんかめっちゃ強そうなNPCが無双してるぞ!! カフェちゃん似の謎の黒髪ウマ娘と、ウルヴァリンみてぇな奴がエイリアンどもをボコボコにしてるぞ!!!
よかった……世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ! いやっほぉおおおおおおお!!!
◇ ◆ ◇ ◆
二人のウマ娘が、
片方は、強大な怪異の気配を感じて駆けつけた青鹿毛のウマ娘───マンハッタンカフェ。
もう片方は、星間活動用の権能たる『超空間知覚』に"救難信号"をキャッチしてやって来た桜色の髪のウマ娘───ハルノエクリプスである。
「っ!? ……あなた、どうしてこんな場所に?」
「それはこちらの台詞なのですが。マーベラスさん以外にこの手の
じっと互いを
「───んっ、あ!? えっちゃんん!? と……誰だっけ、ってあぁ言ってる場合じゃない! 助けてーっ!!」
〈……██。██████……!!〉
正気を取り戻したコタツマルタマが叫んだ。
どうやら腰が抜けて立てないらしく、迫り来る『何か』に対しておたおたと手を振り回している。
「悠長に話している暇は無さそうですね。どなたか存じませんがウマ娘なら心強い、コタマさんのことを頼みます」
「それは……いえ、あなたはどうするんですか」
ハルノエクリプスは迷わない。
ウマ娘はその高い身体能力と苛烈な
「無論。敵性体の排除を」
変身の権能を発動し、体内のカルシウムとミネラル分を操作。両手の
未知の外敵に対する継戦能力の観点から許容される最大限の出力で脚部を駆動させ、ハルノエクリプスは『何か』へと躍りかかった。
〈███████████████───!!〉
「……───」
怪物は、先刻までの重々しさが嘘のように機敏な動作で両腕を振り上げた。
コタツマルタマに振り下ろされようとしていたそれを、ハルノエクリプスの『骨刀』が容易く斬り飛ばす。
「え……えっちゃん───」
「下がってください、コタマさん。あれの相手はわたしがします」
「色々と気になることもあると思いますが、ひとまず離れましょう。ここは危険です」
「あ、はい。……てか、え!? ままま、マンハッタンカフェ……先輩ぃ!?」
二人がおよそ安全な位置にまで離脱したのを見届け、ハルノエクリプスは意識のギアを引き上げる。
切断した
主な武器はあの蹄を持つ大きな両腕。下半身にはずんぐりとした小さい脚が複数あり、昆虫の幼体を彷彿とさせる。鈍重そうな外見に反し、特に腕に関してはかなり素早く、またフレキシブルに動く。
〈████████、███████!〉
「……」
ラリアットめいて繰り出された一撃を、ハルノエクリプスは身体を深く沈めることで回避した。
生白い刃が
〈████、████、███████……!〉
「……。……」
〈█████! ███████! ███████ッ〉
腕の殴打、巨体の突進、尾の薙ぎ払い。ことごとくを回避しながら、桜色の少女は"敵"を切り刻んでいく。
ウマ娘の身体能力を加味しても、異常なまでの戦闘センス。端的に───住んでいる世界が違うと、コタツマルタマとマンハッタンカフェは思った。
〈██████████───〉
「うるさい」
跳躍し、背面からの一閃が『何か』の肉体を大きく削り取った。
この怪物に血液らしきものは流れていないが、傷口からは大量の灰とも砂ともつかぬ黒煙が噴き出している。その度に少しずつ動きが鈍っていて、如何にこの世ならざる怪異といえど、体力の限界が近いのは明らかだった。
「怪異を……。祓うでも退けるでもなく、破壊しようなんて……」
「いけるっ……いけるよ、えっちゃん! 頑張れ!!」
ハルノエクリプスは大きく腕を振り上げ、『骨刀』の射程に怪物の首筋を捉えた。
刀身には彼女が持つ『世界の敵』としての権能、万物を焼尽する漆黒の炎が灯り、魔なるものを現世から放逐する─────。
◇ ◆ ◇ ◆
パキッ。
ウマ娘に特有の敏感な
次の瞬間、視界が灰色に埋め尽くされる。
あたしたちを襲った
ぶっといミミズの内側に、鋭い牙がヤスリのように生え揃ったグロいやつ。頭の中が、レースの終盤と同じ感じに
目では追えるのに、身体が追いつかない。これは避けられない。隣であたしの手を握ってくれてるカフェさんも、虚を突かれて動けていない。
そんなあたしたちに、また別の影が覆い被さって。
桜色の髪が揺れて、鏡色の瞳が、一瞬だけ振り返って。
ぞぶり、とか、ぐしゃり、みたいな。
赤い、なにかが、飛び散った。
目の前に
「───、……ひ」
「……っ」
「や、ぁ、あ……う、ぐ」
██を█くしたえっちゃんが、右手の剣を『何か』の首に突き刺した。
暴れる『何か』に必死でしがみつきながら、狼の如く口を開ける。いやに発達した犬歯が見えた。
〈████████……、███████……!〉
「わたしの友達に、手を出すな」
〈████████████████████─────!!〉
そうして、この日の記憶はここで途切れている。
○
・変身: 骨格、筋量、内臓器官の操作。あるいは組み換え。宇宙空間を航行し、あらゆる惑星の環境に適応する。
・超空間知覚: 極めて広範囲かつ超光速での通信を可能とするテレパス能力。第六感。最大出力ならば限定的な未来予知も可能。
・廃滅の黒炎: 万物を焼尽する黒い炎を放つ。この炎は単なる酸素の爆発的反応という物理現象ではなく、恐るべき異界の存在に由来する真性の神秘である。
・抗体生成: 病原体や毒物に対する抗体を生成する。変身能力の発展形。抗体の情報から逆算して過去に受けた病毒を再現し、牙と毒腺を用いて外敵に打ち込むことも可能。
・重力操作: 元は星間航行用の能力。ウマ娘に擬態中は封印している。
・██: ███な██を含めたあらゆる██を高速で██する。ただし、███な██であるほど相応の██を必要とする。
・██: ██████。████████████████████。