騎影が行く   作:ごまぬん。

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皆さん。9日後、ついにARMORED CORE VI FIRES OF RUBICONが出ます。
これ以上はあえて言いません。次は惑星ルビコン3でお会いしましょう。



Re:Boost

 

〈───速報です。たった今、東京都府中市の日本ウマ娘トレーニングセンター学園付近にて、巨大な爆発音が確認されました。繰り返します、東京都府中市にて巨大な爆発音です。原因は都市ガス管の爆発事故と見られ……〉

 

()()()()

 

「ガス爆発? うわ、ここ通学路じゃん。ヤバくない?」

 

「怪我人も出てるって……」

 

「怖〜……。うちの生徒じゃないといいけど」

 

「いやいや、うちの生徒じゃなくても大惨事だっての」

 

「明日から鎧とか着て登校すればいいのかな?」

 

「普通に迂回した方が早くね? てか事件現場なんだからしばらく封鎖されるっしょ」

 

「えぇ? ここの道使えないと3分ロスなんですけど、困る〜!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 たった今、ガス爆発()()()()()()()()()事故現場を辞して立ち去る。

 右手にはエデソ、左手にはスマホ。府中の街のあちこちで起こる『事件』の情報をリアルタイムで取得し続ける。

 

「どうなってんだよクソッ! 今までこんなこと無かっただろ!?」

 

 三女神サマが噂の"不審者"───もとい何らかの"怪異"の力を利用し、『世界の敵』(ハルノエクリプス)を探していることには早い段階から気づいていた。

 トレピッピ(アタシのトレーナー)がいまヒマラヤ山脈のタコ部屋(この宇宙の外側)でプレイしてる『ゲーム』はそれと対応していて、三女神サマの目であり手足である怪異を撃破してくれるようになっている。

 

〈んんんおかしいですねぇ!? 現実世界(こちら)と『ゲーム部屋(あちら)』では時間の流れが違いますから、怪異の撃破が間に合わなくなるなんて有り得ないはずなんですが! ……理論上は〉

 

「ピッピがサボってるって線は?」

 

〈いえ、トレピッピさんの端末(アバター)は確かに召喚されています。ですが……敵の数が多すぎる。"規律の女神(バイアリーターク)"の軍バとしての経歴を拡大解釈して、軍神(戦いの神)の権能に転化しているのか?〉

 

「あ───何言ってるかわかんねぇよ!」

 

 アタシにここまで言わせるとは相当だ。なんでそんな某未来を取り戻す偉人スマホゲーばりの概念バトルしてんだ?

 今のアタシはデキる凄腕トレーナーフォームを一旦解除して、麗しのGⅠウマ娘フォームに戻っている。エデソからの支援効果(バフ)を受けて、元々のウマ娘としての身体能力も加わってちょっとしたスーパーウーマン状態だ。故障の心配も無いとかでチートもいいとこだな。

 んで、そんなスーパーゴルシちゃんは街中で暴れ回る怪異を片っ端から封印、巻き込まれた民間人の記憶を改竄しながら走ってるわけ。

 

〈しかし、如何に軍神の側面を持つとは言っても、始祖の三女神は根本的に子孫繁栄を司る守護の神です。これほど攻撃的な性質を示すなど……〉

 

「そうか? そんだけなりふり構ってられねぇ、『世界の敵(えっちゃん)』が怖いってことじゃねぇの」

 

〈シップってたまにものすごくリアリストになりますよね。まぁこういう状況下ではありがたいですけど〉

 

「うっせ」

 

 相変わらず馴れ馴れしいなこの槍。

 

「この異変、いつまで続くんだ? さすがのスーパーゴルシちゃんもずっとは戦えない、というかお前からのバフが切れたら無力な一般ウマ娘に逆戻りだぞ」

 

〈我々のようなファンタジー存在の水準から見ても、これだけの規模の災いを引き起こす力は異常です。宇宙にはある種の修正力、現実を復元する性質がありますから、いつまでもそれを誤魔化し続けられるとは思えません……〉

 

「自分でファンタジー存在とか言っちゃう? いや、まぁ、とにかくしばらくしたら収まるってことでいいのか?」

 

〈えぇその通り。……たぶん。きっと。メイビー〉

 

「アテにならねぇなオイ!!」

 

 くそぅ、ゴルシちゃんは永遠のボケ役なんだぞ。リアルファンタジーな事態に巻き込まれてるとはいえ、どうしてこうもツッコミに回らなくちゃならんのだ。

 つっても……泣き言は言ってられねぇよな。『世界の敵(えっちゃん)』の面倒を見るって決めたのは、他でもないアタシなんだからさ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 この世ならぬ存在が霧散し、恐るべき異界の気配が遠ざかっていく。

 尋常の姿を取り戻した、逢魔ヶ時の夕空は朱く───そして、それよりもなお紅いものが、私の目の前に広がっている。

 

「ぅ……あ、ぁああぁぁ!! えっちゃん! えっちゃんっ!」

 

 半狂乱となって叫ぶ鹿毛のウマ娘は、右█の太腿から先を█って倒れた別のウマ娘に縋りついている。

 桜色の髪と鏡色の魚目。そういえば彼女、近頃トレセン学園でも話題のGⅠウマ娘ではなかったか。

 ……いや、先刻の()()()()()()を見るに、少なくとも普通のウマ娘ではなさそうだったけれど。

 

「はっ……。はっ……。……、……再生を……。肉体の再構築……、リソースが……」

 

「だめっ、だめだめだめ! しっかりして……うぅ、ごめ、ごめ……なさ、い……! あたしがっ、あたしのせいで、こんな……!!」

 

 気分は……良くない。当然、私だって。

 下手に()()()()()()と接した結果、命に関わる事態に陥ってしまったという例を、聞いたことはあった。

 だが、伝聞で知るのと実際に目の当たりにするのとでは、やはり違う。如何に真に迫った言葉であろうとも、この鼻を刺す()()()()()()と、刻一刻と虚空に吸い込まれていく"何か"の熱量を表現することは叶わないだろう。

 

〈───カフェ〉

 

 足が竦む。

 それでも。

 

「……、うん。わかってる」

 

 どんないきさつであれ、彼女は間違いなく、私たちの命の恩人だ。

 

「コタマさん。しっかりしてください。落ち着けとは言いませんが、そのままではいたずらに時間を浪費するばかりです」

 

「か、……ま、マンハッタンカフェ……先輩」

 

「カフェで結構です。えっと───ひとまず傷を塞いで、血を止めないと。包帯とか、もしくは何でもいいので、紐状のものを持っていませんか?」

 

 紅い水溜まりに浸かる。生温さを厭っている場合ではない。これは彼女の血の熱さで、目に見える生命の残量そのものだ。

 何かと危なっかしい友人(アグネスの物理的に危険な方)のため、そうでなくとも競技者に必要な知識として、この手の応急手当は心得ている。とはいえ、さすがにここまでの重傷へ完璧に対応できるほどではない。早く救急車を呼ばなければ。

 

「作業は私が。コタマさんは救急車をお願いします」

 

「はっ、はい! 待っててねえっちゃん、きっと助かるから……!」

 

「……救急、車」

 

 えっちゃん、と呼ばれる彼女は、朦朧としているが意識はあった。これが良い兆候なのか悪い兆候なのかは、素人には判別がつかない。

 

「コタマ、……さん」

 

「なに?」

 

「通報の……前に。わたしの、端末を……お貸しするので……。トレーナー……、わたしの……舩坂トレーナーに……連絡して、ください」

 

「っ……、カフェさん?」

 

 救急車より先に? ずいぶん信頼されているというか、懐かれているな。

 まぁ、担当のウマ娘に一番寄り添ってくれる人と考えれば不思議ではない。こういう瀬戸際にこそ傍に居て欲しいのだろう。そもそも、どこかのタイミングで必ず連絡はしなければならないし。

 

「手短にであれば」

 

「はい! それで───」

 

「2丁目のケ○タッ○ー……で。チキン10ピースを、20セット……購入し……。バーレルで……持って来る、ように、と……。……お伝えください……。なるべく、早く……ダッシュで……」

 

「「なんて???」」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────それから、およそ3時間後。

 

 午後8時を回った府中市の片隅、あえて訪れる者も無き小さな公園に、芳しい11種類のスパイスの香りが漂っていた。

 園内にある人影はたったの2つで、とにかく静かだった。無風の中で頼りなく揺れるブランコと、時折響く『バキッ』『ボリッ』という異音を除けば。

 

「はむはむはむはむ……」

 

「ハァ……」

 

 2つの人影の片方は、ビジネススーツのジャケットを脱いで着崩した長身の男───トレセン学園のトレーナー、舩坂金時。

 もう片方は、何故か()()()()()()()()()()タイツを履き、紙製バケツ(バーレル)に詰め込まれた大量のフライドチキンを一心に貪るウマ娘───暫定宇宙人、ハルノエクリプス。

 

「むしゃむしゃ。ガリッ……ボキ、はむ……」

 

「……何と言えばいいかな」

 

「はむっ……ごくん。……いえ。我々は最善を尽くしたと思います」

 

「そうだろうか」

 

 三女神の使徒、怪異の連続出現。府中市の一時的な半異界化。

 そして、ハルノエクリプスこと『世界の敵』と、三女神の使徒にして尖兵たる怪異の接触、交戦。

 激闘の末───半異界化の原因であった怪異の中核(ボス)はハルノエクリプスに討たれ、彼女はその代償として右足を失い、

 

「……まぁ、良かったと言えば良かった。本当に。安心したよ、君が無事で───その足も」

 

 今は、すべての傷が完治していた。欠損したはずの右足を含めて。

 

「無事……ですか。定義によると思いますが、そうですね」

 

「しかし、擬態や変身だけじゃなくて再生能力まであるのか。宇宙人(エイリアン)ってのはすごいな」

 

 身体再生、高速治癒───『世界の敵』(ハルノエクリプス)が持つ七大権能(チートスキル)のひとつ。

 破壊された身体を修復する養分がある限り、ハルノエクリプスは死なず、あらゆる機能を損なわない。故に大量のタンパク質と脂質、骨部分にカルシウムを含むフライドチキンは、彼女にとって実に都合の良い栄養源だった。

 

「故障の心配が無いのなら、もっと厳しいトレーニングを課してもよかったかな?」

 

「あまり頻繁に使っていい能力ではありません。もぐ。この通り損傷を補うに足るだけの食事が必要となりますし、もぐ。ゴリッ、バキバキ、んくっ……。……細胞に、極めて強い負荷が掛かるので。要は寿()()()()()()ですね」

 

「なんて?」

 

「とはいえ、全身を一挙に消し飛ばされでもしない限り、目に見えて消耗するようなことも無いですよ。完全再生で()()()()5()()()()から、この程度の傷ならせいぜい3ヶ月くらい───」

 

「ごめん私が悪かった。マジでごめん。反省してます」

 

 それは、いくらいかさま(チート)的であろうとも、何の代償も無い便利な不思議パワーではなかった。

 どれほど強大に見える能力を持っていたとしても、ハルノエクリプスは一介の、地球人より()()()()()()()()()進歩した生き物に過ぎない。

 

「自分の責任でないことに反省されても困ります。あのような水準の脅威を前にして、あなたが居たところで何が出来たというんですか」

 

「それは……。……けれど、私と君は対等な取引相手だ。私は君のトレーナーでもある。君の安全を守れなかったことは、私の責任だ」

 

 付け加えるなら、状況に直接干渉できる能力(エデソ)も、舩坂(ゴールドシップ)は持っていた。

 にもかかわらず、三女神は町中に怪異を溢れさせ、まんまとハルノエクリプスを襲撃し(おお)せた。この事態を予測できなかったこと自体、大いに悔やむべき失態だ。

 

「───本来なら、君にこれを伝えることは憚られるのだが。実は私の他にも、君のような宇宙人の到来を予期していた勢力がある。今回の一件はまず間違いなく、()()()()が引き起こした事態だろう」

 

「…………、……」

 

 エデソは半異界化による怪異の連続出現───此度の"百鬼夜行"を、『三女神のやるようなこととは思えない』と言った。

 ゴールドシップ(舩坂金時)としては、その意見を肯定する材料も否定する材料も無い。検討すべき可能性は多々残っている。だから、あえて()の名前を告げることはしない。

 

「黙っていてすまなかった。……だからこそ今、改めて誓おう」

 

 否。そも最初から、敵や味方がどうこうという話ではないのだ。

 事態が複雑になってきたからこそ、一番初めに抱いたシンプルな気持ちを思い出す必要がある。

 

「君が、私の担当ウマ娘(ハルノエクリプス)である限り───私もまた、君のトレーナー(舩坂金時)であり続ける」

 

「───……」

 

「今後も君が当事者であることに変わりはなく、再び君の周囲の誰かが傷つく可能性もある以上、この府中(まち)とトレセンで起こるどんな出来事にも首を突っ込むなとは言えない。だが、君や『マーベラス同盟』の仲間たち、友人たちが危機に晒された時、何でも君が背負って解決する義務は無いと覚えておいてくれ」

 

 スーツのジャケットを羽織り直し、ブランコから立ち上がって、舩坂はハルノエクリプスの方へ向き直る。

 いつも飄々として、あるいは誰も見ていないところではいつも厳粛そうな顔をしている(彼女)は今、何の仮面も被らない本当の笑みを浮かべていた。

 

「ウマ娘の重賞にも色々とあるが、『無事の名バ』に勝る称号は無いさ。(オメー)がラストランまで平穏無事に走り抜けること、それが(アタシ)の一番の願いだよ」

 

「トレー……ナー」

 

「……なんて、啖呵を切るには頼りないかも知れないけどね。今回の件を踏まえて、こっちも出来る限りの手は打っておくから。君はトゥインクル・シリーズを走ることに集中して欲しい───いいかな?」

 

 鏡色の目の少女は、静かに、けれど確かにこくりと頷いた。

 右手に熱々のチキンを握ったまま。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 エデソは時空を超える力を持ち、故も知られぬ一般通過ウマ娘の魂を宿せし神の槍である。

 その神通力は、多少の制約こそあれどほぼ全能に等しい。

 

 わけても、エデソを用いた他者の記憶の消去・改竄は、舩坂金時とハルノエクリプスの奇妙な同盟に必要な最大の機能だった。

 短槍の先端部から放たれる怪光線を浴びた者は直近1時間ほどの記憶を失くし、またその欠落を埋め合わせるような()()()記憶を自己暗示的に作り出す。

 

 ─────ただし。

 事実にまつわる情報としての記憶が消去されても、その経験を受けて生じた精神、内面への影響が完全に取り消されるわけではない。

 

「あれ。おはよ、コタマ。こんな早い時間に外出てるなんて珍しいね……朝練?」

 

「おはよーシナ。まぁね〜、ちょっと思うところがあって。あたしももう少し頑張ってみようかな、みたいな」

 

「うわー本格的に珍しい、こりゃ明日は槍が降るな」

 

「失敬な! あたしだってね、こう、この……あれ、あれだよ! そう……当たり前の喜びってやつをね! 最近実感しまして!」

 

「当たり前の喜び?」

 

「んっ。ほら、なんてーか……ウマ娘には怪我とか故障とか付き物じゃん? すっごい極端な話だけどさ、いつ何が原因で走れなくなるかわかんないし。だったら間違いなく元気な内に、いつダメになっても後悔しないくらい、毎日本気で走りたいなって」

 

「……コタマ」

 

「あっ。……あはは、なに語っちゃってんだろあたし……! ら、らしくないよね?」

 

「いや。───良いと思うよ、そういうの。私は好きだな」

 

 

 

 2人の凡才の行方は、まだ誰も知らない。

 

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