今回はちょっと短めです。
代わりと言っては何ですが、近い内に特別編を投稿します。お楽しみに。
やぁ、私の名前はザグレウス。どこにでも居る普通のウマ娘さ。
先日は栄えある皐月賞の舞台に上がったのだが、奮戦虚しく結果は4位。とはいえ、当然の悔しさはあっても、本当に実りの多いレースだった。
私の友人……友人? まぁたぶん友人と呼ぶべきであろう3人と、あれだけの熱い戦いを演じることが出来たんだ。今後の課題も見えたし、何より……。
「ミーク。ミーク」
あのハルノが、時折こんな感じで心を開いてくれるようになって……。
「何ですかハルノ」
「模擬レース、しましょう」
……うん。
「……、いえ。その……併走くらいならともかく、あまり本格的な負荷のかかる試合は……」
「待った。君の相手はおれでしょ、ハルノ」
「ファルは引っ込んでてください。あなたとの決着はつきましたよね? わたしは今ミークと話してるんです」
「へぇ、そう。だったら先にそっちから喰っちゃおうかなぁ……。ほら構えろよ、ミーク」
「いや……だから……」
おかしいなぁ。何がどうしてこうなったんだろう?
各人の情緒というか、矢印が複雑骨折してる気がするぞぅ。
「いい加減にしないか、二人とも。だいいち、自分のトレーニングはどうしたんだい?」
「今日は休養日なので趣味の時間に充てようかと」
「ハルノと
「君らね」
君らね……。
「おっかしいですわねぇ。ハルノやミークを口説くのはレウスのポジションだったはずですのに」
「口説くだなんて人聞きの悪い。あれは騎士として当然の礼節を尽くしていただけで……」
「あなた別に騎士じゃないでしょう。もう時効だろうから言っちゃいますけど、少し前までのあなたと大差ありませんわよアレ。よかったですわね、ツッコミキャラに着地できて」
「うっそだぁ! そんなふうに思ってたのかいシュガー!?」
◇ ◆ ◇ ◆
皐月賞以来、ハルノエクリプスの周囲の人間関係はかなり愉快なことになっていた。
一番の変化はやはり、同年代のウマ娘たち──特にハッピーミーク──との交友が増えたことだろう。
「で、もう本格的に手が掛からなくなっちゃって。嬉しいやら寂しいやら」
「あっはは、ネイチャさんらしい」
昼下がりの食堂。そう言って苦笑するナイスネイチャに、後輩のキタサンブラックが相槌を打つ。
ハルノエクリプスの
「歳もあるけど性格かもね、あれは。どっちも何かぽやっとしててさぁ……」
「ははぁ。あたしも早い内にお近づきになっとくべきだったかな~。春先に一度だけ話したんですけど、それっきりでした」
「ん? そうなの? ……あの頃のえっちゃんって……。……具体的にはどんな?」
「え? いや、まぁ、別に。見ない顔だなと思って、世間話程度ですよ。いま考えると、新入生なんだから見覚え無いのは当たり前だったんですけどね」
「そ、そう! そうね! よかった……」
「……?」
───秘密と言えば、『ロイヤルビタージュース事変』の事後経過に携わったキタサンブラックもそう。
ウマ娘は『たましいの生き物』だ。そして、そんなウマ娘たちが集うトレセン学園は、それに見合うだけの
学園中を席巻したロイヤルビタージュース事変の混乱の最中、その元凶と目される怪異に接触したキタサンブラックは、友人たちと共にこれを撃退した。一時は重体者も出るほどの大騒動だったが、彼女らの奮戦のおかげですべては丸く収まり、事件の原因だった"魔法の書"の処分も先日完了した。
今となっては、一春の良い思い出と言っても差し支えないだろう。
◇ ◆ ◇ ◆
「それでね、カフェ。効果としては期待通りのものだったんだが、胃酸と混ざった時に想定外の反応があってさ。モルモット君曰く『シュールストレミングとくさやとドリアンを同時にぶちまけたような』劇臭が……カフェ?」
「───……」
「うん? ……、あぁ。最近話題の皐月賞の子か。噂話に聞き耳立てるなんて珍しいね、気になるかい?」
「……難しい、ところです。常ならぬ身の上であるというのならば、私だってそう。公正に競う意志があるのなら、それを理由に排斥するのは間違っていると、私は思います。けれど……彼女は善良で在ろうとしていますが、それでも無垢で、危うい。そのことが、少し恐ろしいんです」
「ふぅン。まったく論理的でないが、何かしら危うい部分があると言いたいのかな? 確かにデジタル君の調べでも、結構ハードなスケジュールを予定してるみたいだしねぇ。う~ん、一度彼女のトレーナーとじっくり話してみたいものだ……ぶつぶつ……」
「あとあなたみたいな人種と引き合わせるのは絶対に良くない気がします」
「なんでさ」
◇ ◆ ◇ ◆
時間と空間の彼方、如何なる既知の宇宙をも超越した窮極の領域───すなわちは、多くの知恵持つ生命たちが神と呼ぶものの座す世界で。
虚空に浮かぶ脳と牙、星々を喰らう鏖殺の
遅い、と。
あらゆる天地と時空に偏在する上位者の例に漏れず、"それ"もまた形而下の物理現実に干渉するための手足を持つ。駒、あるいは苗とでも形容すべき端末を。
広大無辺なる三千世界の至る所へと枝葉を伸ばしながら、同じく多元宇宙規模の盤上遊戯に勤しむ他の神々と、日夜暗闘を繰り広げている。
"それ"はまだ目覚めていない。今はまだ。
数多の神性たちとの陣取りゲームに興じていながら、"それ"は盤面上の何も眼差してはいない。今はまだ。
ただ───ただ少しだけ、瞼の下の瞳が動いた。
◇ ◆ ◇ ◆
時間と空間の彼方、如何なる既知の宇宙をも超越した窮極の領域───すなわちは、多くの知恵持つ生命たちが神と呼ぶものの座す世界で。
三の目、三の権能、三の神格を持つそれは思う。遅い、と。地上に遣わした使徒が、しかし十全に機能していない、と。
勇敢、勇猛、勇気を示す真紅の瞳が燃える。
規律、秩序、摂理を示す黄金の瞳が煌めく。
愛情、慈悲、融和を示す紺碧の瞳が揺れる。
子孫繁栄を司る守護の女神と言えど、人智を超越した神の一柱である。
怒り、荒ぶることあれば、その嘶きは空間を震わせ万物を砕く破壊の力と化す。
渦巻く三色の光を包む、真塩の如き純白の波動が生じていたことを、今はまだ誰も知らない。