騎影が行く   作:ごまぬん。

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なんか珍しく早めに書き終わった!
今の内に投稿しとけ!(鉄面皮)



えっちゃんと夏の悲喜交交

 

 皐月賞に続き、『四天王』と『白の勇者』による大混戦となった日本ダービー。

 熾烈な争いを再び制し、クラシック級も半ばにして絶対王者の地位を不動のものとしたハルノエクリプス陣営は、ついに次の目標を『三冠』レースの最終戦───菊花賞と定めた。

 

 菊花賞の開催は10月後半。

 3000メートルに及ぶ長距離レースは、これまで主にマイルと中距離で結果を残してきたハルノエクリプスにとって未知の領域だ。

 ほぼ毎月あるいは隔月ペースで戦線を荒らし回っていたこの1年とは打って変わり、当面の間は休養とトレーニングに専念する。

 また、もし菊花賞までに他のレースに出走するなら、それはあくまで長距離戦の試金石であり、大胆にも無敗の称号には執着しないとの方針も示した。

 尤も、その宣言を真に受けるトゥインクル・シリーズ関係者は一人として居なかったわけだが。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───さて。

 

 日本は高温多湿の温帯気候である。特に夏場の暑さは強烈で、トゥインクル・シリーズを運営するURAもそれは承知しており、この時期に開催されるレースはあまり多くない。

 トレセン学園も夏休みに入り、さりとてレース界の最前線を行くトップウマ娘たちが、2ヶ月や3ヶ月も暑さを避けて通るわけにもいかず───。

 

「「海だーっ!!」」

 

 そこでこの、トレセン学園伝統の『夏合宿』である。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 白い砂浜、照りつける太陽───そして波打ち際に居並ぶ、学園指定の運動水着(スイムスーツ)姿の優駿たち。

 

「ほらほら、海だよミーク! いや~来たねぇ夏合宿!」

 

「私たちは去年も参加したじゃないですか」

 

「え~? いや、でも、何かさ……みんなで一緒の方が、楽しい! って感じしない?」

 

 そういうものだろうか。そういうものなのかな。

 遊びに来たんじゃないんだよトレーナー……。これ、本来なら指導する(トレーナー)側の感想じゃあるまいか。

 

「まぁまぁ。たまにはこういうロケーションで親交を深めるのもいいじゃないか。なに、もしも不埒な輩が近寄って来るようなことがあれば、この私がたちどころに追い払ってくれるとも! 騎士として! 騎士として! 騎 士 と し て ! !」

 

「そんな()()()()()ぶら下げてる分際でほざくんじゃねぇですわよ。前フリ? 前フリですか? 確かにいつの時代も一定の需要がありますわよね姫騎士モノって」

 

「……シュガー、いつにも増して辛辣だね? 私、君に何かしちゃったかい……?」

 

「いいえ別に。あなたが……くっ、あなたが気にすることでは……ありません、わ……! グギギ」

 

 主にy軸(長さ)z軸(奥行き)において対照的な凸凹コンビなのだった。

 ちなみに私はy軸でシュガーに負けているものの、z軸ではギリギリ、……まぁギリギリ……勝ってると思う。いや、別にそんなの気にしたこと無いんだけどね?

 

「ありがたやありがたや」

 

 そして何やら姫騎士(笑)を拝んでいる芦毛の天才。例によって下らない痴話喧嘩だと一蹴するものと思っていたけれど……未だによくわかんないな、ファルのツボは。

 あと例のピッチリした戦闘兵装(コンバットスーツ)風の勝負服を見た時から思っていたが、この子も我々の中で一番背が低い割には、なかなかどうして立派な()()をお持ちである。

 ……、なんかちょっと腹立ってきた……。シュガーの気持ちがわかったような気がする。

 

「───装備換装、完了。原隊に復帰します」

 

 といったところで───何故か私たちとは別の場所で着替えをしていた彼女、我らが四天王筆頭・ハルノエクリプスが合流する。

 

「……うわ」

 

「……ひゅっ」

 

「……おぉ」

 

「……わぁ」

 

「……フフ」

 

 思わず変な声が出た。トレーナーと他3人も似たような反応だった。

 

「…………?」

 

 例えるなら、それは───国宝級の名刀。

 あるいは超々音速で飛翔する戦闘機、あるいはミリサイズの電子基盤……とにかくそういう種類の極まった、見る者すべてに問答無用の説得力を叩きつける()()()

 競走バとして厚くあるべき箇所はどこまでも厚く、一方で細くあるべき箇所はどこまでも細く、しかしながら全体の調和が保たれている。

 バ体の黄金比、とでも形容せざるを得ない。悔しいが、同性の私から見てもため息が出そうになるほどのプロポーションだった。

 一体なに食べたらあんな仕上がりになるんだ? やっぱりホウレン草のおひたし?

 

「ほう……。桐生院さんのミークさんもですが、着任して初めての担当とは思えませんな。私のような年寄りがお役御免となる日も近いやも知れません」

 

 こっちはレウス、シュガー、ファルの3人をチーム『トリスメギストス』として率いるベテラントレーナー、堀越大典(ほりこしだいすけ)さん。

 いつも柔らかく笑ってる白髪のお爺ちゃんだけど、背筋も腰も曲がってないし歩くのが速くて、何なら立ってるだけで拳法の達人みたいな"圧"がある。というか()()ファルが大人しく指導を受けている時点で、明らかに只者ではない。

 

「そ、そんなご謙遜を……! 私なんかまだまだです、ミークはもっとやれる子なのにっ」

 

「天下の堀越大典にそう言っていただけるとは、身に余る光栄です。しかし、『火竜』───『妖精翁』六平銀次郎と『魔術師』名瀬英人、世代双璧の天敵とも呼ばれたほどのお方が、勿体ないことを仰る。ご両名が一線を退いた今、彼らの遺産と正面から張り合える中央のトレーナーは、もはやあなたくらいのものではありませんか」

 

 何か今ものすごい名前聞こえなかった? 気のせい?

 

「ただの同年代というだけの間柄ですよ。ほら、戦績を見れば実力差は一目瞭然でしょう。実際私は、彼らに歯牙にもかけられていなかった。どうにか追いつけまいかと遮二無二働き続け、気づけば担当した()の数だけが取り柄の老骨が一人……、いえ。あるいは、死力を尽くして育て上げたはずの彼女たちでさえ……もし私でないトレーナーの下に居たならばと、何度も考えました」

 

「……トレーナー」

 

 レウスが不安そうに呟いた。シュガーとファルも怪訝な視線を向ける。

 

「───ですが、その後悔もようやく報われる。よもやこの歳になって、斯様に心揺さぶられる世代に関わり合うこととなろうとは! 本当に有難う存じます、ご両人」

 

 わざわざ頭を下げる堀越さん、無限に慌て倒すトレーナー、さすがに言葉が出てこず苦笑するばかりの舩坂さん。

 そういえば、この人とは不思議と顔を合わせる機会が無かったけれど……中央のウマ娘3人をほぼ同時にデビューさせ、大した故障も起こすこと無く、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()GⅠレースで掲示板入りを連発するなどちょっと尋常な指導力ではない。ある意味、ハルノよりよっぽど特異点じみている。

 

「じいちゃん、お喋りなら後にしてよ。どうせ今日も倒れるまで走れとか言い出すんでしょ。こっちは早くホテル行って寝たいってのに」

 

「こら、ファル? まったく君というやつは……いいかい、騎士ならば主君の言葉によく耳を傾けてだね」

 

「はいはい、下らないこと言ってる暇あったらさっさと準備しちゃいますわよー。ハルノさん、ミークさん、タイヤと縄の方お願い出来るかしら?」

 

「了解しました」

 

「ん……はい」

 

 ……改めて考えると私、とんでもない面子と戦ってるな。

 トレーナーの指導と三女神様の加護が無ければ、一生かかっても影すら踏めそうにない。

 

「……がんばろ」

 

 まぁ───だからこそ、背中を追う価値もあるんだけどね。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「じゃあ点呼するよー。スペちゃん!」

 

「はいっ!」

 

「スズカ!」

 

「はい」

 

「スカーレット!」

 

「はい!」

 

「ウオッカ!」

 

「おう! ……はいッ!」

 

「マックイーン!」

 

「はい、こちらに」

 

「キタちゃん!」

 

「はーい!」

 

「んで最後にゴルシ、は……あれ?」

 

「───……ウオオオオオオ!! ギリギリセ───フッ!!」

 

「アウトだよ。にしても……バス降りてからこの短時間で、一体どこ行ってたのさ?」

 

「あ!? あー……いやまぁ……ちょっと、うん、海の幸ブッ掴み獲りゾーン? 的な? そんな感じだ! ガハハ!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ミーク、舩坂さん見なかった? さっきみんなで話してたオンバランスとオフバランスの考え方なんだけど、まだ少し飲み込めてない部分があって……」

 

「さぁ……。お手洗いじゃないですか」

 

「───はい!! 私に何か御用でしょうか!?」

 

「あ、舩坂さ……、!? い、一体どうしたんですか!? びしょ濡れですけど……!」

 

「いやぁ、えっと……その、軽く海の下見をね! 水温とか……まぁ自治体側も細心の注意を払っているとは思いますが、クラゲなど浮いていたら事ですからねぇハッハッハ!」

 

「海の下見行っただけでそんなに濡れる……?」

 

「アッハッハ! しかし抜かりました! 岩場から足を滑らせてしまいまして! ハハハ……!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

「ずいぶん長くトイレ行ってたな。体調でも悪いのか? もしかして熱中症とか……」

 

「ハ……ァァ? ヘッ……まぁまぁまぁ、気にすんなよ。ニューヨークに爆誕せし真夏の旋風とも呼ばれたアタシだぜ? この程度の暑さでへばって堪るかってんだ」

 

「あぁウオッカ、ちょうどよかった。フラッグ取ってきてくれない? 確かあっちに……」

 

「しょーがねーな空前絶後の超絶怒涛の仲間思いサンシャインゴルシちゃんが取ってきてやんよぉぉぉ!! 待ってろキャンパスライフウゥウゥゥゥゥアァ!!」

 

「え……俺まだ何も言ってない……」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「えぇ、宝塚のことは残念でしたが、シニア級の古豪に混じって3着ならば大健闘でしょう。『火竜』とザグレウスで勝てなかったなら、たとえハルノやミークさんでも結果は大差無かったはずです。しかし、決して無謀だったとは思いませんよ。レースにもしもは無いにせよ、強いて言うなら……おっと。申し訳ない、着信が」

 

〈もしもし? ゴールドシップ?〉

 

「おん? 何だよマックイ……ん゛ん゛っ!! 『アサマ』さん! ご無沙汰してます!」

 

〈アサ……いえ、これは失礼。ご歓談中でしたか?〉

 

「いえいえお気になさらず! ……で、実際何の用?」

 

〈はぁ? もうお忘れになりましたの? アレですわよ、あなたが漂着ゴミから作り上げた模擬ゲート! 早く回収しにおいでなさい!〉

 

「マジぃ? どうにかそっちで片しとけね? ……あーはいはい、わかったわかった(アタシ)が悪ぅございまーしーたー! いいよもう、こっちでも使ってやるもんねー! はぁいっ!! ───いやぁすみません、さっきちょうど知人に頼んでいたトレーニング器具が届いたようでして。少し取りに行って来ますね!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「しんどい」

 

「自業自得じゃありませんの」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「スイカパンツ」

 

「レッドブル」

 

「ふんどしコアラ」

 

「……のりしお、寝起き」

 

「豆乳……いえ、地球」

 

「ちっ。……青春」

 

「かかりましたね。グルメスパイザー」

 

「いいえ、まだです。フォビドゥンガンダム」

 

「……。ハルノとミークは……座って向かい合って、何を……?」

 

()()()()()()使()()()()()()()らしいですわ。あの二人、今お互いの頭の中で将棋打ってましてよ」

 

「なんて???」

 

「レウスとシュガーも慣れれば出来るよ。おれは3日で覚えた」

 

「「いやいやいやいやいや」」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 三女神様の目を欺くため、中国はバヤンカラ山脈の麓にて『呪いの泉』を求め、ヒトミミ男性に変身する能力を手に入れた舩坂金時ことアタシ───ゴールドシップ。

 そんなアタシは今、大いに悩んでいた……。

 

 『呪泉郷(チョウチュアンシアン)』の泉は『最初に溺れた者の姿を記憶』しており、同じくその水に溺れた人間を『記憶』されている姿に変える。

 以後、その者は冷水を浴びることで泉の記憶の姿に変身し、温水を浴びることで元の姿に戻る体質となるわけだが……。

 

 さて、トレセン夏の強化合宿では期間中、学園と提携している地元の宿泊施設で厄介になるのが通例だ。

 この宿泊施設もとい合宿所は、秋冬戦線に向けて修行中のウマ娘でごった返す砂浜の他にも、トレーニングで疲れた身体をすぐさま癒せる大浴場が有名であり……。

 

 いやさぁ、まぁね?

 寝泊まりする個室にだってシャワーはあるよ。あるけどもさ。

 アタシだって乙女なのよ。やっぱり温泉、入りたいじゃん? 気の置けない友達と来てるからには余計にさ。

 でもさ、例えばナカヤマ(ナカヤマフェスタ)誘ったりスペのやつ(スペシャルウィーク)拉致ってサウナ入るとするじゃん。出てきて水風呂入ってととのうとするじゃん。

 

 アタシ、舩坂金時になっちゃうのよ。

 

 女湯のド真ん中で、大○翔平ばりの我ながらエグいガタイした水も滴る良い男が爆誕しちゃうわけよ。

 何なら、逆でもそうなるかんね。大谷○平が男湯に浸かった瞬間、プロポーショングンバツのGⅠ6勝ウマ娘にムーンプリズムパワーメークアップしちゃうんだかんね。あらゆる意味で大事故だからそれ。

 

 クソ……こうなったら、かくなる上は───。

 

「探しに行くしか……ねぇよな。源泉」

 

「お待ちなさい。またぞろ何かしでかすつもりですわね?」

 

「そういやここ、今年の3月から午後のケーキバイキング始めたらしいぜ。ほら、クーポン券やるから行ってこいよ」

 

「えっ!? まぁ、いいんですかこんなの貰ってしまって……あっ!? ちょ、速っ……何なんですのその綺麗なスタートダッシュ、あなたらしくもない! お待ちなさいったら、もー!!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「あ、えっちゃん。来てたんだ、他の人たちも……。そっかぁ。クラシック級の夏だもんね」

 

「時が経つのは早いもんですねぇ。あの子が友達と一緒に合宿なんて、去年の春には想像も出来なかったな」

 

「ですが、外星人支援啓発機構『マーベラス同盟』のミッションは変わりません。願わくば……より長く地球に留まり、より多くの経験を持ち帰ってもらいたいものですが───」

 

「えっちゃーん!! 久しぶりっ、ターボだよ! 覚えてる?」

 

「はい、ツインターボさん。お久しぶりで……」

 

「つつつツインターボ師匠ッ!? ハルノあなた、いつどこでこのお方と知己に……!」

 

「はじめまして、チーム『カノープス』の皆様。ご活躍はかねがね聞き及んでおります。私は『トリスメギストス』のザグレウスと申す者、以後お見知りおきを。それにしても……いやはや、過去のレースは何度か拝見しましたが、皆さん記録で見るよりずっと美しい」

 

「ふぇっ……!? や、そ、それほどでもないよ〜? えっへへへへへぇ……♪」

 

「これはご丁寧に、どうも。ではお近づきの印に、こちらの骨抜きタンホイザさんを差し上げます」

 

「イクノ、ステイ。アンタまでボケ始めたら一巻の終わりだっていつも言ってるでしょーが」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「すごい数の有名人が集まってきている……」

 

 トレーナー、気が変になりそうです。

 

「ふぁ……」

 

 ……ファルのことは今も若干苦手だけれど、このマイペースさはちょっと見習いたいかも知れない。

 















夏合宿回、まだまだ続きます。

○堀越トレーナー
ザグレウス、シュガールギンメ、スカイファルシオンの3名をチーム『トリスメギストス』として率いるベテラン。
筆者がリアルの競馬に詳しくないので、特にモデルとなった人物は居ない。
強いて言うなら、『史実にモデルが居そうな感じでもないのにやたら強いモブウマ娘』いるじゃないですか。あれ育ててる人。



余談ながら、活動報告の方にハルノエクリプス・ザグレウス・シュガールギンメ・スカイファルシオンのイメージ画像を投稿しました。
生成AIによる出力物であり、筆者が直接制作したものではありませんが、ご覧になっていただければ幸いです。
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