騎影が行く   作:ごまぬん。

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春ですよ〜(インターネット古代呪文)
劇中の季節は夏ですが、春らしく賑やかで楽しい回をお届けします。



現想世界ウマネストウォーク 〜大ウ魔王の逆襲〜・上

 

 夏合宿の始まりから、およそ1週間が経過した頃───。

 

「あ、おはよーシナ。えっとー、……シナも?」

 

「おはよ、コタマ。……()、ってことはつまり……」

 

 最初に気づいたのは、早朝に起床し自主トレーニングに励むウマ娘たちだった。

 

「コンちゃん……やっぱりトレーナーさん、部屋に居ないみたい」

 

「ソプラのとこもか。そういや、先輩らの姿も見えないし……」

 

 自分がトレーニングに出た時にはまだ睡眠中だった、あるいは自分より早く起きていたトレーナーや先輩ウマ娘たちが、居なくなっている。

 それも1人や2人が諸事情で府中(学園)に帰った、などという様子ではなく、相当な人数が忽然と姿を消していたのだ。

 

「手がかりは───これだけだね」

 

 赤毛に長身のウマ娘、ザグレウスが手元に視線を落とす。

 その手の中には──失踪した人々の代わりとばかりに各々の部屋に残されていた──1枚の書き置き(メモ用紙)がある。

 

「『トレセン学園のウマ娘たちへ: 明朝、市民センターの講堂にて待つ』、ですか……」

 

「ふぁあ……」

 

 シュガールギンメがぼそりと呟く。無理やり叩き起こされ、この市民センターまで引っ張られてきたスカイファルシオンが欠伸(あくび)で答える。世代随一の天才は朝には弱いのだった。

 そんなこんなで、集まったウマ娘たちがめいめいに議論や世間話を交わしていると───。

 

 ガタン!

 

「───!!」

 

 突如として講堂の照明が落とされ、辺りは暗闇に包まれた。

 ウマ娘は常人よりも聴覚と嗅覚に優れるが、さりとて周辺知覚の大部分を視覚に依存している点はあまり変わらない。

 唯一、純粋なウマ娘ではない『世界の敵』(ハルノエクリプス)だけは即座に変身の権能を発動させ、眼球を人間の可視領域外の光線に対応したもの───すなわち赤外線などを捉える暗視センサーに作り変えて対処した。

 無論のこと耳と鼻にも意識を集中させ、想定される外敵の奇襲に備えたのだが、

 

〈───ハーッハッハッハッハ!! よく来たな、中央トレセンのウマ娘諸君!!〉

 

 ハルノエクリプスが警戒していたような事態は特に起こらず、代わりに講堂の壇上に設けられた大型スクリーンにひとつの陰が映し出された。

 宵闇の如き漆黒を基調とし、黄金色の装飾が施された豪奢な装束を身に纏う長身の女が、ぴかぴかに磨き上げられた玉座の上で足を組んでいる。人相は3日後に月が落ちてきて滅びそうな感じの異世界っぽい仮面で隠されているが、その髪は輝くような白銀───もとい()()で、頭頂部にはスクリーンの前に居並ぶ少女たちと同じウマ耳が鎮座していた。

 

〈我が名はウ魔王、ゴルシファー……否ッ! 大ウ魔王、ピュア・ゴルシファーどゥえあァるッ!!

 

「「「な……なんだってー!?」」」

 

 ピュア・ゴルシファーと名乗った仮面の女は、如何にも大儀そうな仕草で玉座から立ち上がった。血のような深紅のマントを翻して告げる。

 

〈貴様らのトレーナーと先輩はアタシが預かった! 返して欲しくば、日暮れまでに指定の場所に安置された『ゴルシカリバー』を集め、この大ウ魔王に献上するがいい! さもないと……〉

 

 マントによって隠されていた背景にカメラがフォーカスする。

 そこには───ピュア・ゴルシファーの言葉通り、旅館から消えたトレーナーたちが、鉄格子の部屋に閉じ込められていた。

 少々わざとらしいくらい迫真の表情で助けを求めている者が大半だったが、若干名かなり本気で困惑していたり、逆にうっすら苦笑している者も居た。

 

「くっ……! さ、さもないとどうするっての!?」

 

「コンちゃん!」

 

 尾花栗毛(金髪)のロングヘアーのウマ娘、ブリッジコンプが何故か突っかかった。

 ピュア・ゴルシファーは一瞬だけきょとんとした。内心『誰もノッてくれなかったらどうしよう』と思っていたところ、想定以上に活きの良い反応が返ってきたからだ。

 大ウ魔王がぐわははは、と呵々大笑して続ける。

 

〈そうだな……例えば……〉

 

「例えば……?」

 

〈耳元で黒板に爪立ててギャッとやる〉

 

 知らず、その場に居たほぼ全員が縮み上がった。

 黒板に爪立ててギャッとやった音───あの筆舌に尽くしがたい不快な高音。

 常人でも長く曝されれば発狂は不可避だというのに、まして聴覚に優れるウマ娘をや。

 

〈ま、アタシだってそこまで鬼じゃない。大ウ魔王だけど。それは最後の最後の処刑法にするとして……他にもあれだ、熱々のおでん食わせたり〉

 

「うまそう」

 

〈正座させて姿勢が崩れたら木の棒でしばいたり〉

 

「デスクワーク族の方には良い刺激になるかも知れませんわね」

 

〈中身の見えない箱に手ぇ突っ込ませたりするぞ!〉

 

「ある意味一番怖い! 一体何が入っているんだ……!?」

 

 世代四天王がそれぞれ感想を漏らした。

 ハルノエクリプスは警戒を解かず無言のまま。

 

〈とりまそういうわけだからー、オメェーら! アタシが求める『ゴルシカリバー』の場所は、オメェーらのトレーナーのLANEアカウントから随時お知らせしてやる。今どきあんま居ねーだろうが、スマホ持ってねぇやつは友達に見せてもらえよ!〉

 

「親切なのかそうでもないのかわかんないよ~!」

 

〈それじゃあ勇者ども、ウ魔王城で待ってるぜ~! ワ~ッハッハッハッハッハ!!〉

 

 スクリーンの映像、もといビデオ通話が終了し、建物の照明が再点灯した。

 と同時に、各ウマ娘たちが持つ携帯端末に着信。見れば、合宿所周辺の地図と、ある地点を中心に放射状に配置された『!』マークが表示されている。

 ちなみにそれと共に送信されてきたメッセージによると、ピュア・ゴルシファーの言う『日暮れまで』とは、具体的には午後6時を指しているようだ。

 現時点で、時刻は午前8時を回っている。つまり、タイムリミットはおよそ10時間。

 

「───任務(ミッション)了解。要求された戦略物資の回収、並びに人質救出作戦を開始する」

 

 かくして、大ウ魔王ピュア・ゴルシファー討伐の旅が始まった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 件の『ゴルシカリバー』は全部で4本あり、合宿所周辺に配置された『試練の場』を攻略した果てに入手が叶うという。

 集められたメンバーは、同年代間の催しで何かと仕切り役を買って出ることの多いザグレウスと、どういうわけかやたら義憤に燃えているブリッジコンプを中心に、4~5人程度の班を編成。

 それぞれ手分けして『試練』に挑戦することとなり─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「これは……」

 

 天然の要害、と言うべきだろうか(?)。

 シュガールギンメが見据える先の岩場には、なるほど如何にもといった風情の『剣』が、石造りの台座に安置されている。

 しかしながら、辿り着くための地面がそこまで続いていない。辺りは尖った岩に囲まれていて迂回路は無く、唯一存在する通り道は、

 

「つまり、ここの『試練』は『綱渡り』ということですか」

 

 崖から崖へと、差し渡された綱が1本のみ。

 長さは500メートル程度。ウマ娘の身体能力であればそこまで苦にはならない障害だが、とはいえ気になる点はある。

 

「だいぶ安直だね……」

 

「てかこれ、底どうなってんの?」

 

 幸いと言うべきか、崖下までの距離は意外と浅かった。もし落下してしまっても、よほど体勢が悪くなければ大怪我とまではいかないだろう。

 ただし───そこは何やら、()()()()()()()()()()()で満たされていた。

 

「まぁいーや、さっさと済ませちゃおう? とりあえず私、やってみるね」

 

 シュガールギンメ班の一人であるリボンララバイ(芦毛の姫カット)が先陣を切る。

 綱は太くはないが決して細くもなく、充分に頑丈で乗って歩くのに不足は無い。もちろん相応のバランス感覚は要求されるものの、特に危なげなく目的地に到達───。

 

「にっしっし……そうはいかないんだな、これが!」

 

 とはいかなかった。

 崖の向こう側に、ピュア・ゴルシファーのそれと似た仮面を着けた少女が現れたからだ。

 手にはイカ型生命体が縄張り争いをする時に使いそうな狙撃銃型の水鉄砲を携えており、その存在に気づいたリボンララバイが慌てて引き返すより速く、銃口が火───もとい水を噴く。

 

「わあぁ〜っ!?」

 

「リボンララバイさーん!!」

 

 顔面に被弾してたまらず体勢を崩し、足を滑らせて奈落に消えるリボンララバイ。

 

「……ひっ!? 何これぇ、ベタベタする〜!」

 

 ちなみに崖下になみなみと注がれていたのは蜂蜜(はちみー)だった。

 ご丁寧に仮面の少女が持つ水鉄砲の方にも、レモネードと合わせた特製ドリンクが充填されている。

 

「よ、よくもララちゃんを……! 許さないっ! うおおぉぉぉ」

 

「甘いッ!」

 

「ぷぎゃ!」

 

「キャクタスー!! ……くっ、待ってろ! 仇は必ず取ってやる……! 行くぞおおぉぉぉ」

 

「次ッ!」

 

「ぐへぇ!」

 

「知らない人ー!! うぅ、何であたしがこんな目に……! 助けてシナ〜!!」

 

「逃がさないッ!」

 

「はにゃあ!?」

 

「ちょ、ちょっとお待ちになって!? なんで背中から撃たれたのに後ろに倒れるんですの!?」

 

 シュガールギンメ班は早くも全滅した。リーダーを除いて。

 

「ふっふっふ……。トゥインクル・シリーズ現役最強クラスのメンバーっていうのも、意外と張り合いが無いね。これはボクが相手するまでもなかったかな?」

 

「そういえば、その仮面……ピュア・ゴルシファーのお仲間とお見受けしますけれど、件の『剣』を求める方の仲間が、どうして(わたくし)たちの邪魔をするのです?」

 

「え!? あ、あー……そう、そうだね……。いや、まぁ、あれだよ! その……派閥争い、的な? 我が真の主人であるカイチョーをウ魔王にするため、お前たちにあの剣を渡すわけにはいかないのだー!」

 

「わけのわからないことを……!」

 

 とはいえ、ピュア・ゴルシファーに囚われたトレーナーたちを助けるため、この『試練』を避けては通れない。

 

「ヌメヌメして手が滑る〜!」

 

「すまねぇシュガーお嬢、これじゃ助けには……」

 

「あ、このはちみー結構おいしい」

 

 内心で若干呆れつつ、シュガールギンメはスタートダッシュの姿勢を取る。

 無駄な突撃を敢行して返り討ちにされたようにしか見えないシュガールギンメ班のメンバーだが、そのおかげで見えたものもあった。

 

「はぁ……、……いえ。(わたくし)、中距離路線に軸足を移しはしましたが」

 

 刹那、金糸の髪の令嬢から、紫電の如き獰猛な覇気が迸った。

 刺客の少女───"皇帝"シンボリルドルフの縁者である仮面のウマ娘が、生来の直感でもってそれを察知し、油断なく水鉄砲を構える。

 

「───短距離(こちら)もいける口でしてよ?」

 

 轟雷一閃。

 霞むような速度で駆け出し、平衡(バランス)感覚のみならず、慣性でもって細い綱の上を通り抜ける。

 仮面のウマ娘が迎撃を試みるが、シュガールギンメはすぐさま首を傾け、胴を沈め、驚異的な反応速度でもってはちみーレモネード弾を回避していく。

 

「はは……! そう来なくっちゃ!」

 

 シュガールギンメが綱を渡り切る寸前、『ゴルシカリバー』までの距離が50メートルを切った瞬間、仮面のウマ娘は狙撃銃型水鉄砲を放棄した。

 ひょいと振り返り、当たり前のように自分も駆け出す。

 

「なぁ!? そ、そんなの反則じゃありませんこと!? 卑怯ですわーっ!!」

 

「へっへーん!! 卑怯もらっきょうも大好きさ!」

 

 速い。後から走り出したにもかかわらず──綱渡りのために普段よりも脚を緩めていたとはいえ──、既に充分な加速状態にあるシュガールギンメにもう追いついている。

 もはやどう考えてもこのように奇怪な(アホみたいな)状況下で出していいスピード(本気の走り)ではなかったが、駆けて追い越すことについてはウマ娘の本能なのでどうしようもない。

 

「勝つのは───」

 

「こんなところで───」

 

「ボクだああぁぁぁ───っ!!」

 

「負けるもんですか───っ!!」

 

 ちなみに、仮面のウマ娘が最後のトラップとして設置していたはちみー落とし穴の存在を忘れており、二人とも見事に引っかかったため最終的に勝者無しということになった。

 シュガールギンメはアイテム『地のゴルシカリバー』を手に入れた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ザグレウス班がやってきたのは鬱蒼とした森林の中だった。

 とはいえまったくの未開の地というわけでもなく、丸太やツタを利用したアスレチックのようなものが組み上げられている。

 

「ようこそ未来のチャンピオンたち!! ここは『風の試練の場』だよ☆」

 

「チャンピオン?」

 

「気にしないで★ いわゆる様式美だから☆」

 

「はぁ……」

 

 彼女たちを出迎えたのは、黒髪(濃い栃栗毛)を二つ結びにした仮面のウマ娘。

 やはりピュア・ゴルシファーとの関係が気になるところだったが、時間も押しているので誰も気にしないことにした。

 

「ルールは簡単! あっちの───」

 

「にゃん♥」

 

「マヤ……じゃなかった、ネコ娘を追いかけて、持ってる『ゴルシカリバー』を手に入れるだけ☆」

 

 猫っぽい仮面を着けてはいるものの、耳の形からして明らかにウマ娘だった。

 とはいえザグレウス班はおおよそ社会性に長ける、つまりは空気の読めるメンバーばかりだったので深くは追及しなかった。たとえ明るい栗毛という特徴と、黒髪のウマ娘が口走りかけた本名からその正体を推測できたとしても。

 

「アスレチックか。あまり経験の無いフィールドだけれど……」

 

「まぁこっちは人数居るし、何とかなるっしょ!」

 

「えぇ。一刻も早くクリアしましょう」

 

「あ、ヘルメットとプロテクター着けてね! ささくれが刺さっても大変だから軍手はこっち★」

 

「だいぶ親切な試練だね……?」

 

 などと───油断していたのが運の尽きだろう。

 

「待て〜!!」

 

「いよっと!」

 

「く、このっ!」

 

「遅い遅い!」

 

「捕まえた───」

 

「ざ〜んねん☆ こっちだよ!」

 

「あっ!? ひゃ……わあぁぁ!?」

 

 ネコ娘は追手をするするとかわし、(ましら)の如き敏捷性で森の中を縦横無尽に駆け回る。

 なおアスレチックの下にはエアクッションが完備されており、足を踏み外して落下しても怪我をしないようになっていた。

 

「ふっふっ〜ん。いくら人数が居ても無駄だよ! みんながどこからやってくるか、どうやって逃げればいいか、マヤ……じゃない、アタシにはすぐわかっちゃうんだから☆」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 その後、小一時間追いかけっこを続けた末に、疲れ果てたザグレウス班はいったん休憩に入った。

 案内役の方の黒髪のウマ娘がスポーツドリンクを持ってきてくれたので、全員ありがたくいただいた。

 

「作戦が必要だ」

 

「それはまぁ、そうだね。もっと上手く連携できればって感じ」

 

「しかし、今回こうして集まっただけの我々では限度があります。付け焼き刃の小細工はあのネコ娘に通用しないかと……」

 

「んじゃあ、どうしろって言うのさ〜! マタタビとか探してみる? どう見てもネコじゃなくてウマ娘だけど〜」

 

 議論は紛糾し、なかなか纏まらない。

 その様子を『試練』の仕掛け人2名はニコニコしながら見ていた。表情は仮面で隠されていたが。

 やがて─────。

 

「私にいい考えがある」

 

 紅炎の智将、ザグレウスが立ち上がった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 『水の試練』担当となったブリッジコンプ班は、現在は営業停止となった古いホテル───つまりある種の廃墟に足を踏み入れていた。

 電気の通っていない屋内は昼間でも薄暗く、入口に用意されていた懐中電灯の他に頼れる明かりはほとんど無い。

 この中を探索し、『水のゴルシカリバー』を見つけなければならないという。

 その上、

 

 ───スパアアァァァン!!

 

「───いったあああぁぁぁぁい!!」

 

 彼女たちの腕には『迷子防止用』という名目で、懐中電灯と共に配布された腕時計型の発信機(スマートウォッチ)がある。

 これには名目通りの追跡機能の他、何故か()()()()()()()()機能が付いており、一定以上の数値の乱れを感知する───すなわちは着用者が『驚いた』瞬間、どこからともなく現れる赤い全身タイツの怪人に、柔らかい謎の棒で臀部(お尻)を叩かれるシステムとなっていた。

 当然、広い廃ホテルの中には侵入者を歓迎する()()()の仕掛けが満載されており、ブリッジコンプ班を散々に苦しめている。

 

「波一つ立たない水面の如き心を……って」

 

「絶対こういう意味じゃないでしょ……!」

 

「ふぁ……」

 

 ちなみに現時点でのシバかれ回数はブリッジコンプ34回、ソプラノリズム36回、トモエナゲ27回、クラースナヤ18回、そしてスカイファルシオンが堂々の0回である。

 さすがにこれは才能云々で片付く話ではないので、未だにおねむなのが効いているとブリッジコンプは考えていた。

 

「むむ……。一番望みのありそうな子が一番やる気が無いなんて、ツイてないなぁ……」

 

「ファルちゃん、そんなに眠いなら少し休む? 私、おんぶくらいなら出来るよ。うち小さい親戚多いから慣れてるし」

 

「ん」

 

「『ん』じゃないわよ『ん』じゃ。ソプラも何フツーに甘やかしてんのよ」

 

「え〜? いやぁ、普段のファルちゃんってこう、クールで取っつきにくい感じじゃない? こんなとこもあるんだと思うと、可愛くってつい」

 

「ソプラさん、自分でよければいつでも代わりますよ。疲れたら言ってくださいね」

 

「んだんだ、こうして集まったのも何かの縁だべ。(わだす)も手伝うから頼ってくんろ」

 

「スカイファルシオン保護者の会?」

 

 謎の連帯感が生まれて結束したブリッジコンプ班であった。

 なお、スカイファルシオンをおぶっている者に対しては驚愕ペナルティの執行に猶予が与えられたため、結局はブリッジコンプも保護者の会に加わることになった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ハッピーミークは思っていた。

 公正なくじ引きの結果としてハルノエクリプス班に配備されてしまったが、どうせろくなことにならないだろうな、と。

 こんな大規模な茶番を用意してくる相手なら、何らかの方法でこちらを監視している可能性が高い。

 そして、『世界の敵』としての能力を抜きにしても、ハルノエクリプスはなんやかんや異様に多芸である。

 つまりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()───ということだ。

 

 結論から言うと、その推測は正解だった。

 

「───が、はっ……!」

 

 屍山血河───死屍累々。

 というのは誇張表現だが、ともかくハルノエクリプス班のメンバーはことごとくが地に伏していた。

 

「確かに、争いは好まぬと、無闇に人を傷つけるのは本意ではないと申しましたが……いざ抜くとなれば、手心を加えるつもりはありませんよ」

 

「パティシエの娘の手習い如き、と侮りましたか? 生憎と私、完璧主義者でして───挑戦するからには何事も、相応のものを身に着けないと気が済まないんです」

 

 立ちはだかるは、例によって仮面を着けた2人のウマ娘。

 片方は木と布を組み合わせた訓練用の模擬()()、もう片方は同じく細剣(レイピア)型の模擬刺突剣(フルーレ)を携えている。

 恐るべくはその絶技───単純な身体能力に大きな差は無いにもかかわらず、誰一人として彼女たちの剣から逃れられなかった。

 

「えっちゃん、行ける?」

 

「はい。望むところです」

 

 額に赤い痕を作ったハッピーミークは、道場の床に突っ伏しつつどうにか(おもて)を上げた。

 

「……あそこだけ世界観違わない?」

 

 という視線を投射しながら。

 

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