騎影が行く   作:ごまぬん。

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(『私は新世界の扉の公開初週にデデデデ後編を観に行きました』と書かれた木板を首からぶら下げている)




現想世界ウマネストウォーク 〜大ウ魔王の逆襲〜・中

 

「いよぅ、ウ魔王軍新入り〜。調子はどうだ?」

 

 薄暗い部屋の中───銀髪(芦毛)に黒衣のウマ娘、大ウ魔王ピュア・ゴルシファーが言った。

 話しかけられた赤褐色(鹿毛)のボブカットに眼鏡をかけたウマ娘は、回転式のオフィスチェアをくるりと回して振り返る。

 

「あ〜、おかえんなさいゴルっさん。こっちはもう絶好調っすよ〜。おかげで貴重なデータ取れまくりの入れ食い状態、ゴルっさん様々って感じ」

 

「そいつはよかった。お前に声かけて正解だったぜ。シャカールの姐御はそもそも乗ってきそうにないし、逆にタキオン御大はナニしでかすかわかんねぇからな」

 

「にしし、それウチの前で言います?」

 

「素直で優秀な後輩を持ててアタシゃ幸せだよ。んで───トラン、ウマグネタイト反応はあったか?」

 

 その一言と共に、ピュア・ゴルシファーの瞳が鋭さを帯びた。弛緩していた空気が張り詰める。

 

「んにゃ、特に異常な数値は出てないっす。レイラインの励起と収束の方は順調ですね。このままの調子なら各『ゴルシカリバー』の鍛造には支障無いかと……あっはは、自分で言ってて意味わかんないなーこれ」

 

「わかる〜、アタシも最初聞いた時はそうだったもん」

 

「つかゴルっさん、これ何に使うの? 剣ってのは武器で、持ってて嬉しいコレクションじゃないっしょ……いやまぁ日本刀とかは美術品にもなるけど。ともかく、犯罪はダメっすかんね」

 

「アタシのこと何だと思ってんだよ。そりゃもちろん───愛と平和(ラブ&ピース)のためだっつの」

 

 ピュア・ゴルシファーはわずかに目を伏せ、すぐさまにやりと口角を歪めた。

 『ゴルシカリバー』が完成すれば、もはや凡百の怪異を警戒する必要は無くなる。トレピッピをヒマラヤ山脈のタコ部屋から解放することも出来るだろう。

 そして、()()との『ゲーム』に決着がついた暁には─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 『風の試練の場』───森林アスレチックの上を、少女たちが飛び回っている。

 中央トレセン所属のウマ娘は、たとえ成績が振るわなくとも、厳しい試験を突破し過酷なレースを戦ってきた全国レベルのエリートだ。

 ネコ娘との追いかけっこを続ける内に勘所を掴み、少なくとも足を踏み外して落下するような者は居なくなっていた。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

「しかし、いくら何でもタフすぎますね……」

 

「スタミナにはちょっち自信あったんだけどなー。凹むわぁ」

 

 とはいえ、敵もさる者。

 

「ふっふーん♪ ゴルシさんには悪いけど、ここはマヤの一人勝ちかな~?」

 

 誰とは言わないが、ネコ娘の正体はかつて逃げ・先行・差し・追込あらゆる作戦でレースを制した経験を持つGⅠウマ娘だ。レース展開を見極める類稀な眼力は無論のこと、スタミナ管理能力についても超一級品である。

 フィールドに対する慣れの差もあり、4対1の状況でも難なく逃げ回り続け───。

 

(……4対1?)

 

 そう、4対1だ。

 集合場所の市民ホールに仕掛けられていた*1監視カメラにより、各班の人員配置は割れている。

 ザグレウス班に配属されたのはリーダー・ザグレウス、ハートリーレター、エクセレンシー、ソワソワの4名。

 

 しかし、今こうしてネコ娘を追跡しているのは3()()だ。

 

「……気づかれた!?」

 

「やっば……! そっちはダメ~!」

 

 ネコ娘の挙動が変わる。ただ逃げるのではなく、より速く、より高所へ。

 生い茂る枝葉に視線を遮られる森の中だとしても、敵の動きを読むには高い位置からフィールド全体を俯瞰するのが定石だ。

 やがて、フィールド内で最も太く高い木の幹に、ネコ娘が飛びついた瞬間。

 

「───ここだああぁぁぁーっ!!」

 

「はにゃああああぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 ()()()()()()()

 否、正確には───周囲の土と木の枝を全身に纏って匂いを消し、風景に紛れて機を窺っていたザグレウスが。

 

「獲ったどー!!」

 

「「「よっしゃああぁぁ!!」」」

 

「マーベラース☆★☆★☆★」

 

「なんでマベちんも一緒に喜んでるのー!」

 

 トゥインクル・シリーズにて築き上げた高貴と優雅のパブリックイメージなど何のその。

 目的のためなら泥にまみれることも辞さない女、ザグレウスであった。

 

 ザグレウスはアイテム『風のゴルシカリバー』を手に入れた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 廃ホテル探索の道程にてお尻を(シバ)かれ続け、もうそろそろ痔にでもなるんじゃないかとブリッジコンプ班の全員(約1名除く)が思い始めた頃、ようやく光明が差した。

 医療研修用の軟質人体模型*2それを何とか制圧し、持っているメモ用紙を奪い取ったブリッジコンプ。

 ようやくおねむ状態から脱したスカイファルシオンを先頭に、書かれていたヒントに従って、中庭の礼拝堂(チャペル)へと歩みを進める。

 

「ウェディングチャペルだって~。ここはもう閉業しちゃってるけど、やっぱり憧れるよねぇ」

 

「ここまで来て普通に日常トークできる胆力すごいわね……。ま、言ってることはわかるけど」

 

「んだんだ、都会は何でもハイカラで進んでるべ。でも、(わだす)の村の結納の儀も負けてねぇだよ。実家にゃ白無垢着たおっかぁの写真が飾ってあってな、そりゃあ綺麗なもんだったんだぁ」

 

「どっちもそれぞれ良いところがあるし、おめでたいことには変わりないですからね。コンプさんはどんな結婚式が理想ですか?」

 

「何でそこであたしに振るの!? ……いやぁ……、その。強いて言うなら……し、強いて言うならよ? やっぱり……真っ白なドレスがいいかな〜、なんて……あはは……」

 

「ひゃ~!!」

 

 元々はブリッジコンプとソプラノリズムを除いてさほど交流がない組み合わせだったが、極限状態を共にしたことで、この短時間で確かな絆が生まれていた。

 

「ねぇねぇ、ファルちゃんは? 好きな人とかいるの〜?」

 

「? ハルノ」

 

「あー、ハルノエクリプス? 今となっては一強みたいなとこあるけど、戦績でいうとライバルだもんね」

 

「そうじゃなくてさぁ。気になる男の人!」

 

「別に……。おれより速い男の人とか居ないし……」

 

「ハードル高すぎませんか?」

 

「じゃあさ───」

 

 と、いったところで、目的地の中庭のチャペルに到着した。

 世間話は一旦切り上げ、建物の正面奥、聖卓に配置されたヒント用紙と『剣』を確認する。

 

「えっと……『おめでとう。よくぞここまで辿り着きました。"水のゴルシカリバー"はあなたたちのものです。もうビックリしてもペナルティはありません』?」

 

「や、やった〜!! これでクリアってことだよね? ね!?」

 

「……いえ。『ただし、帰るまでが"水の試練"です。くれぐれも気をつけて』……」

 

「まだ何か仕掛けがあるってことだべか? けんど、それらしいモンは見当たらねぇがなぁ」

 

「どうでもいい。さっさと持って帰ろう」

 

 そうして、ブリッジコンプ班はチャペルを後にする。

 すっかり楽勝ムードが漂う中─────。

 

「……ん?」

 

 最後の敵が、立ちはだかった。

 

「───……っ!?」

 

「!!」

 

「な……」

 

「ひぇっ……!」

 

「……!」

 

 憤怒で貌を赤く染めた、鬼。

 鬼面に編み藁の外套を纏ったそれは、東北地方はA県に伝わる怪異『なまはげ』の伝統的な行事扮装に近い。しかし───外套の下は、奇抜な配色の施された道化師(ピエロ)風の洋装だった。

 さらに、右手には唸りを上げる歯科治療用のドリルを、左手には無数のヘビ*3を束ねた鞭を携え、足元によく調教されたシベリアンハスキーまで従えている。

 端的に言って、

 

「あ、あ、な……なな、なまはげ様だぁ……!」

 

「うえぇ!? あの音っ、近所の歯医者さんでいつも聞くやつぅ……!」

 

「はぁ!? じ……じゃあ、あの服装も」

 

「う……。その、自分もヘビはどうも苦手で……」

 

「……っ! ……!」

 

「───()()()()()()()()が、一緒になってるの!?」

 

 つまりそういうことだった。

 

「余に妖物魔物の扮装をせよとは、如何に道化の物言いとはいえ目に余ると思っていたが」

 

 付け加えて言うなら、仮装なり何なり抜きに威圧感が尋常ではなかった。

 明らかに常人ではない気配。恐らくはウマ娘、それもGⅠ級のレースを複数制したことのある強豪に違いないと、ブリッジコンプ班の全員が直感する。

 

「成程。このような趣向とあれば、否やは唱えるまい。喜べ貴様ら、我が後塵を拝する栄に浴すことを許そう」

 

「こう……えい……な、なんて?」

 

「……。まぁつまりだな、貴様らの庶民的な語彙に合わせた表現で言うと」

 

 なまはげはゆっくりと両手を広げ、手の中にあるドリルとヘビの鞭を見せつけるように構えた。

 突風が吹きつけたかのように錯覚するほどの、凄絶なプレッシャー。足元に侍る謎のシベリアンハスキーも立ち上がり、油断なくブリッジコンプたちを睨みつける。

 

「───この余、王たるオルフェ……ん゛んっ、なまはげ王・マスクド三冠が胸を貸してやる。来い」

 

 絶望的な逃走劇───あるいは、王の進撃の幕開けだった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 『火の試練』の内容は至ってシンプルだった。

 ピュア・ゴルシファーが派遣した、2名のウマ娘───能楽における増女(ぞうじょ)の面を着けた薙刀の女武者と、ドイツの祭典・ケルンのカーニバルで用いられる伝統的な仮面を被ったレイピアの女騎士を打倒すること。

 装備は安全のため、非殺傷型の模擬武器と標準的な競技用防具に限るが、それ以外にルールは無し。不意打ち、挟撃、何でもあり(バーリ・トゥード)のサバイバルである。

 尤も、複数人による包囲も許されるそのルールは───『言うてなんかそういうイベントの延長っしょ』とナメてかかったハルノエクリプス班のウマ娘たちを、情け容赦無くボコボコにする口実にしかならなかったが。

 

「防具……はまぁ慣れないけど、道着あるからこれでいいや。えっちゃん、どっちとやる?」

 

「お好きな方を。互いを気遣える余裕は無さそうです」

 

「了解。じゃ、薙刀の方は任せて」

 

 そうして、残ったハルノエクリプスとシナモリクリスタルは武器を取る。

 片や木製の長短二刀。片や革製の簡素な手甲と足甲。

 

空手(すきて)で長物に挑みますか。大した自信ですが、それが傲慢でないことを祈ります」

 

「サイバー流活殺空手はミサイルとだって闘ってみせる……ってのが父さんの口癖でね。見せてあげるよ、統計学的最強の技を」

 

「二刀流……なるほど。かの大剣豪、ムサシ・ミヤモトの技ですね。相手にとって不足はありません……!」

 

「生憎と此方、二天一流に非ず。我流にて御免───されど、その見立てに恥じぬ戦いを約束しましょう」

 

 額に赤い痕を作って脇に退いたハルノエクリプス班の一員、ハッピーミークがぼそりと呟く。

 

「やっぱあそこだけ世界観違うって……」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───瞬発力、持久力、膂力、戦術眼。いずれを取っても最高峰。

 

「いっ……、速……!?」

 

「ふむ。貴様、素養は十分だが、どうにも己を甘やかし過ぎる。歯の健康は食の喜びに相通ずるものだ、まずはその不摂生を改めよ」

 

 なまはげ王・マスクド三冠。

 中央トレセン所属のウマ娘を5人同時に追い回し、あまつさえバ体を見て助言する余裕さえある。シベリアンハスキーとの協働とはいえ、控えめに言って凄まじい実力者だ。

 

「トモエさん、パス!」

 

「へばなっ!」

 

 マスクド三冠の狙いはもちろん『水のゴルシカリバー』。これを持ち帰って集合場所に辿り着くまでがブリッジコンプ班の試練だ。

 とはいえ、早々にトロフィーを奪ってブリッジコンプ班を負かせるつもりは無いらしく、付かず離れずの位置をキープしている。

 

「貴様はフォームを見直せ。クラシック級の夏からともなれば不安はあろうが、必要な困難だ。強い走法と慣れた走法、両方身につけるのが理想だろう」

 

「ぬわっ!? あ!? うぅ……クラっちゃん、頼まぁ!」

 

「了解……!」

 

「貴様は……ほう。凡俗にしては卒なく仕上がっている。しかし、才ある者の喉笛へ喰らいつくには飢えが足らん。奮起の芽は確実に育っている、臣下……もといトレーナーの優しさに甘え続けるでない。一度くらい腹を割って話すことだ」

 

「っ!? う……コンプさん、お願いします!」

 

「任されたっ! 女は度胸ぉー!」

 

「そして貴様もだ、金髪の。なるほど、『流星』と『四天王』───あれらほどの怪物が一堂に会した世代はそうあるまい。さりとて、貴様はそこで腐っているだけか? 余は生まれながらにして玉座に就く運命にあったが、王へと至る道をすべて閉ざされた者こそ最も王に近いのもまた事実。挑まぬ者に勝利は訪れんぞ」

 

「わ、わかったような口を〜……!」

 

 ちなみにスカイファルシオンは──大変珍しいことに──動揺した隙をシベリアンハスキーに突かれ、すっかりおもちゃにされていた。

 マスクド三冠のシンパが飼っている3歳犬、人懐っこく元気いっぱいである。わふわふ、ペロペロ、ゴロンゴロン。

 

「……まったく、張り合いのない。然らば───」

 

 ドン、と一際強い足音。踏み込みと同時に、先程までとは比べ物にならない"圧力"が廃ホテルの全域に放射される。

 

「これで幕引きだ。その剣には()()()()()()()()が感じられる。貴様ら如きが持ち合わせていいものではない」

 

 ───そこからは一方的だった。

 『水のゴルシカリバー』を奪われ、追う側と追われる側が入れ替わる。5対2、実質としては4対1。

 『風の試練』のアスレチックとは異なり、この廃ホテルの敷地内そのものは特殊な環境ではない*4。如何にマスクド三冠が優れたウマ娘でも、数の利を覆すことは難しい。

 にもかかわらずブリッジコンプ班が追いつけないのは、相手がなまはげの面を被り、ピエロの服で装い、ドリルとヘビ(おもちゃ)の鞭を操っているからだ。それぞれにとってのトラウマ、過去より襲い来る恐怖の象徴を*5

 

「はぁ……、はぁ……」

 

「よい。絶望と挫折を許す。今の貴様らでは余に勝てん。より長き時間を先んじた者、そして王たる余に敗れることは恥ではない。……あの道化も、本気で貴様らのトレーナーを(おびや)かす意図は無かろう。この剣は余が責任を持って預かる」

 

 息一つ乱さぬまま、静かに宣告するマスクド三冠。

 生来の才覚はどうであれ、肉体性能の最大値に限って言えば、彼女とブリッジコンプ班の面々に想像しているほどの差は無い。

 彼女たちの唯一の違いは、その技巧と精神だ。トゥインクル・シリーズを駆け抜け、本格化を終えてなお強靭にして壮健。己が力量を熟知し、歴戦の経験を積み重ねることでのみ至れる境地に、マスクド三冠は立っていた。

 

 すなわち───ここで"殻"を破らねば、勝てぬ。

 

 なんだかよくわからないまま始まった『試練』だが、自分たちが成すべきことが一体何なのか、ブリッジコンプ班はようやく理解した。

 そも、何は無くともウマ娘は闘争心の強い生き物である。『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』と言われて、すごすごと引き下がるようなことは有り得ない。

 

「……さっきから黙って聞いてりゃ……王だの何だの、いい気になっちゃって」

 

 故に、火が点く。

 多くのウマ娘にとって、トゥインクル・シリーズの頂点は遥か遠い。絶対強者と目される個人が君臨する世代では尚更に。

 

「あぁわかったわよ、やってやろうじゃない!! ここで会ったが百年目、あんたらみたいのが踏みつけてきた凡人の意地がどれほどのもんか───思い知らせてやるわ!!」

 

 しかし、それでも───王へと至る道をすべて閉ざされた者こそ、最も王に近いのだ。

 掴めるか否かではない。悠遠なる天の彼方に輝く"星"へと、()()()()()()()()()()()ことには意味がある。

 

「ソプラ、クラさん! あたしに続いて! トモエさんはファルの救出!」

 

「お、おー!!」

 

「はいっ!」

 

「ばっちこーい!!」

 

 若干1名ノリ切れていない者も居たが、とにかくそこから反撃が始まった。

 

「ほう」

 

 基本はブリッジコンプを先頭、壁にして、他2人への空気抵抗を防ぎながら追跡。

 咄嗟の機転に優れたクラースナヤが要所で飛び出し、マスクド三冠の逃走ルートを阻害、誘導。

 然る後、手先が器用なソプラノリズムが隙を突いて『ゴルシカリバー』を奪う───という連携攻撃が完成した。

 

「おぉ、おぉ、おめさブリュンヒルデっつうのかぁ! わはは、めんこい奴めぇ。よーしよしよしよしよし」

 

 謎のシベリアンハスキー改めブリュンヒルデも、トモエナゲの手によって鎮圧成功*6

 そして、ブリュンヒルデが無力化されたということは、

 

「───よくもやってくれたな」

 

 マスクド三冠の首筋を、極寒の冷気が撫でた。

 それで怯むマスクド三冠ではない。殺気の正体は割れている。油断ならぬ相手ではあるが、後れを取るつもりは無かった。

 

「ようやく目覚めか。余を差し置いて王号を騙るなど、不届き千万だが……」

 

「別におれたちから言い出したわけじゃない。だいいち、王様なのに4人居るってのも変だろ」

 

「フ。……()い、それでこそ余の前に立つ資格がある。『絶剣』よ」

 

 世代四天王が一角、スカイファルシオン。

 眠気も恐怖も吹き飛び、何よりもマスクド三冠という至上の()()()を前にした今、コンディションはレース前後の完全状態に近い。

 

「ファルちゃん! ブリュンヒルデは(わだす)が引き受けた、あの剣のことは頼んだべ!」

 

「ん」

 

「させると思うか……!」

 

 幾度もの奪い合いを経て、『ゴルシカリバー』はブリッジコンプの手にあった。

 スカイファルシオンを除く4人の疲労はもはや限界に達しており、ここを逃せば勝機は無い。

 

「……あー、もう! あんな台詞ぶち上げといて悔しいけど、最後はやっぱり一番強い子がきちんと勝たなくっちゃね。さぁ、やっちゃいなさい!」

 

「ん。言われなくても」

 

 そうして、手から手へとバトンが渡ると同時に───『絶剣』は己の"世界"を展開した。

 

「……!? 貴様……!」

 

 領域、あるいは権能(スキル)過集中(ゾーン)状態から誘発される変性意識体験。

 "たましいの生き物"たるウマ娘に強大な力を与える一方で、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()であり、任意による発動は───否。

 

「あの犬のおかげだ。死にかけた……なんて大層なもんでもないけど、とにかく掴んだよ。領域(これ)のコツ」

 

 それは超一級のウマ娘の中でも、さらに選ばれたごく一部の者のみが開眼する極致の異能だ。

 マスクド三冠は心底より驚嘆する他なかった。よもや、これほどとは。よもや─────。

 

「フ、フ、フ……ハハハハハハハ!! そうか、()()()───余やかの『皇帝』と同じ……!」

 

 刹那、()()()()()()()また己が『領域』を発動させた。

 先刻より迸る並ならぬプレッシャーといい、ブリッジコンプ班の面々は今更ながらに『もしかして三冠ってマジなの?』と思った。

 

「栄光と勝利に彩られし我が蹄跡、伏して(おろが)むがいい」

 

「上等。お望み通り素っ首叩き斬ってやるよ、王様」

 

 ともあれ廃ホテルの建物を抜けて敷地外に脱出するまでの距離は、直線でおよそ300メートルほど。

 ウマ娘にとってはほんの一瞬───しかし、確かに勝負を決するのに相応しい距離だ。

 

 極限の速度域、飴のように溶けて流れる世界を、それぞれが知覚する。

 2秒足らずでトップスピードに達したスカイファルシオンへ、それでも喰らいつくマスクド三冠。

 直線での速力は、互角───以上。これでもまだマスクド三冠の方が速い。

 衝突が怖くないのか、はたまた狂気に身を委ねたか、全力疾走するスカイファルシオンの前にマスクド三冠が躍り出て立ちはだかった。その目は油断なく『ゴルシカリバー』を見据えている。

 対するスカイファルシオンは、一切速度を緩めることなく、

 

 

 

 ひゅら

 

 

 

「─────何?」

 

 取った、と。

 抜き去ったという確信、『絶剣』の進行を阻んだという手応えがあった。

 そのはずなのに。

 

「……良いこと教えてあげようか、王様」

 

 マスクド三冠の背後、特にアナウンスとかはされなかったが事前に『挑戦者がここまで来たら終了』とされる場所まで辿り着いたスカイファルシオンが言う。

 

「ハルノが強いのは、間違えないから。足音を消してバ群に潜り込んで、全員が一番消耗した瞬間に、温存しておいたスタミナを解放してみんなぶち抜く。もちろん、言うのは簡単でも実際やるのは難しい───のに、どうしてその戦法が、毎度毎度狙ったように決まるのか」

 

 答えは()()()()()()()()だ、と続く。

 

「踏み込みの時、地面から足に返ってくる反作用。コーナーでかかる遠心力。ハルノはレースのあらゆる場面で発生するエネルギーを()()()()()コントロールしてる。足音が消えるのは()()()()()()()()()()()()()()すら推進力に変えてる……つまり、ロスが無いからだ。たぶん、全身の筋肉や関節に隅々まで意識を張り巡らせて、不随意的な運動を極限まで抑制して、エネルギーの流れを任意に最適化できるよう訓練したんだろうね」

 

 ブリッジコンプ班の面々は宇宙に浮かぶ猫のような顔になった。

 

「ま、あんな機械みたいな精度は真似できないにしても……今のはその応用で、アメフトのカット何とかって技。漫画で見て暇潰しに覚えたんだ。まさか、こんなとこで役に立つとは思わなかったけど」

 

「……あっ、わかった! コンちゃんコンちゃん、デビルバットゴーストだよあれ! すごいなぁ、本当に出来るんだ……!」

 

 マスクド三冠もなまはげの面の下で宇宙に浮かぶ猫のような顔になった。

 尊大な態度に隠れがちだが、マスクド三冠はどちらかと言うと常識でモノを考えられるウマ娘だった。

 

「んじゃ……とりあえず、今日はおれの勝ちってことで」

 

 スカイファルシオンは『水のゴルシカリバー』を手に入れた。

 

*1
公共の施設とはいえプライベートもへったくれも無い

*2
内蔵モーターが仕込まれており狂ったように暴れ回る

*3
ゴム製のおもちゃ

*4
諸々の驚かしギミックを除く

*5
具体的に言うと賢さと根性にエグいデバフが掛かっている

*6
代々マタギの家系らしい




















○ハルノエクリプス 所持スキル
・SBRのサンドマンのアレ Lv.3
 スタミナの消費を減らす。また、スタミナが減るほどスピードが上がる。

そういえばエピソード累計50話到達してました。
読者の皆様、いつもご愛読ありがとうございます。
今後もよろしくお願い申し上げます。
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