騎影が行く   作:ごまぬん。

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本作名物(?)のバトル回です。
じゃ、俺、影の地への出張に戻るから……。



現想世界ウマネストウォーク 〜大ウ魔王の逆襲〜・下

 

 サイバー流活殺空手は、シナモリクリスタルの父が創始した新時代の総合格闘武術である。

 かつてシナモリクリスタルの父が出会った"顔に傷のある男"より伝授された古流武術を基に、これまた交流のあった"紅色の髪の女子高生"から教わった新興忍術を組み合わせ、あらゆる戦闘条件における敵対者の幾何学的分布を統計学的に予測し最適化された完璧で究極の暗殺拳。

 

「……発気、用意」

 

 シナモリクリスタルは人智を超えた身体能力を持つウマ娘であるが故に、あと何か普通に怖くてキモいのであんまり真面目に修練してはいなかったが、それでも幼少の頃からサイバー流活殺空手に親しんできた。

 

「───残った!!」

 

「ふっ───!!」

 

 対する能面のウマ娘は、『突けばライフル、薙げばショットガン、引けばピストル───とにもかくにも外れあらまし』と謳われる、アメリカはケンタッキー州発祥のネオ宝蔵院流の達人。

 厳密には日本古流の宝蔵院流における薙刀術は既に失伝しているのだが、現存する槍術に西洋風の斧槍(ハルバード)術を組み込んで再興したのがネオ宝蔵院流薙刀術だ。

 

「せいっ、はぁ!」

 

 その真髄は、遠心力を乗せた斬撃と独特の足捌きによって生み出される、流水の如き優美な動作だ。

 すなわち、長柄武器の利点を最大限に活かした、円運動を軸とする攻防一体の()()()()()である。

 

()ッ───」

 

 首元を左肩で隠すよう半身に構え、シナモリクリスタルは果敢にも敵の射程圏内に踏み込んだ。

 サイバー流活殺空手の歩法は統計学的見地から算出される『最も効果的な立ち位置(ポジション)』への迅速な到達を旨とし、それは敵の攻撃に対する防御や回避から()()()()()()()()()()即時の反撃を可能とする。

 『攻めながら防ぐ』ネオ宝蔵院流に対し、『防ぎながら攻める』という同質でありながら真逆の結論に達したのがサイバー流活殺空手だ。

 

「なるほど……。立ち居振る舞いに(おそ)れ無し、されど決して自ずから踏み込むことはしない。根競べのおつもりですか?」

 

「そういうあなたも粘るじゃん、こっちは結構きついんだけど……もしかして、重賞とか勝ったことあるタイプ?」

 

「ふふ。秘密だと言うべきところですが、あなたほどの使い手を相手に隠し事は通用しませんね。機会があればターフの上でお会いしたいものです」

 

「そりゃ光栄───だ、ねっ!!」

 

 無形の激流と疾風迅雷が衝突する───相手の隙を探り、より有効な距離と角度を奪い合う死の舞踏(ダンス・マカブル)

 得物の射程で圧倒的に優る能面のウマ娘だが、それは決して安全を保証するわけではない。長物はコンパクトな動作に向かず、ひとたび距離を詰められれば反撃は難しい。

 

「喝ぁつ!!」

 

 流水が鋭く跳ねる。薙ぎ払いが左右への離脱を阻止し、そこから大きく踏み込み抉るような吶喊、重い一撃によって開かれた防御の隙を縫って、必殺の突きが点を穿つ。

 ネオ宝蔵院流第一の奥義『鷲羽三連(シュウウサンレン)』───ハルノエクリプス班の面々をことごとく屠った*1恐るべき戦技。その動きはウマ娘としての身体能力を差し引いても極めて洗練されており、明白に達人の域にあった。

 

「───りゃあぁッ!!」

 

 そして、統計学的集合知によって古今東西の武術を吸収・統合・最適化したサイバー流活殺空手にとり、対武器における無手での応戦は最も得意とするところである。

 初段の薙ぎを床に身を投げ出して避け、即座に立ち上がっては次の振り下ろしを弾いて受け流し、最後の突きは、

 

「届い、た……!」

 

「……っ!?」

 

 差し込まれる穂先を()()()()()()()、以て相手の体幹(バランス)を大きく崩した。

 同時、全体重を乗せたその運足は、いわゆる震脚の要領で次の打撃の威力を極限まで引き上げる。斬撃の結界を超えて薙刀の射程の内側に入ったシナモリクリスタルは、簡素な競技用手甲を纏った拳を、能面のウマ娘へと叩きつける─────。

 

「……───はっ……! は……、は……」

 

「…………。……、ふぅ」

 

 寸前で、ぴたりと止めた。

 

「お見事。私の負けです」

 

「……、どうだか」

 

 二人のウマ娘は肩から力を抜いた。

 シナモリクリスタルは拳を下げ、能面のウマ娘は模擬薙刀を()()()()()()()、それぞれ柔和な笑みを浮かべる。

 

「柔道? 合気? 構えも重心も今の一瞬じゃ読めなかった」

 

「自衛隊式です、厳密にはブラジリアン柔術との混合で半ば我流ですが。それより、二の矢を用意していたのはそちらも同じでは? 左の手刀……恐らく、見えてはいても対処できませんでしたよ」

 

 それから二言三言と互いを讃え合い、後は武人同士、多くを語らず。

 

 ウマ娘は他者と競い追い抜くことを至上の喜びとする一方、あるいはその強大極まる身体能力ゆえに、競走ならぬ争い事を忌避する。

 とはいえ、何であれ『道』を志した以上は、積み上げてきた鍛錬の成果を誇りたくなるもの。それを共有できる友との出会いは貴重だ、特に武術というジャンルにおいては。

 

 シナモリクリスタル対能面のウマ娘───此度は、空手の勇士の勝ち。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 長短一対の木刀と、細く鋭い模擬刺突剣(フルーレ)が衝突して火花を散らす*2

 

「何やってんのか全然わからん」

 

「それな。つかレースで最強なのに剣道まで出来るとか、ハルノさんやっぱヤバいわ」

 

「あっちの人も大概スゴいよねー。時代劇見てるみたい。あ、いや、フェンシングする時代劇って無いか」

 

 フェンシング用のフルーレを得物としていながら、仮面のウマ娘騎士が操る剣は決して競技的ではなく、極めて実直かつ遊びが無かった。

 目にも留まらぬ超高速の刺突と、攻守の両面で振るわれるコンパクトな斬撃を組み合わせ、一瞬たりとも隙を見せない。

 細剣(レイピア)使いにしては獰猛に過ぎるその剣術は、つまりは膨大なスタミナと正確無比の集中力によって支えられている。

 

「そういやミークさん、ハルノさんと仲良いんでしょ? 何か弱点とか知らない?」

 

「別に仲良いってほどじゃ……。……弱点。愛想が悪いこと……くらいしか思いつかない、です」

 

「あーね……」

 

 対し、ハルノエクリプスが操る二刀剣技は、これまた奇怪な代物だった。

 清流のように淀みない連撃を行ったかと思えば、大岩めいて不動の姿勢で守りと反撃に徹し、疾風を思わせる高速の足捌きを見せたかと思えば、烈火じみて真正面から攻めかかる。

 まるで意志持つ嵐が如き、変幻自在にして回山倒海の剣だ。

 

「せっかく可愛いんだからもっと笑えばいいのに。……それとも、何かこう……難しい事情がある感じなのかな?」

 

「いえ……。滅多に無いですけど、レースで勝った後とかは笑ってますよ。……極稀に」

 

「えー!? 何それ知らなかった! 私も見たい〜!」

 

「あんたじゃ無理だよ〜、未勝利戦もギリギリだったのにさぁ」

 

「なにをぅ!」

 

 仮面のウマ娘の動きが変わった。剣を握るのとは反対の左手を遊ばせること無く腰に当て、背を反らして半身となる構え。

 激しくも美しかった均衡が破られる。

 

「つかここの面子、『四天王』と走ったことあったっけ? ミークさんは別としてさ」

 

「おっ、それ聞いちゃう? 実はあるんだな〜これが、葉牡丹賞でザグ様(ザグレウス)とねっ」

 

「ふふん。そんなんじゃ甘いよ。あーしなんて入学したての頃の模擬レースで、シュガーお嬢様(シュガールギンメ)に勝ってるかんな! まぁその時は結局3着だったし、今やったら勝てる気しないけど」

 

「お嬢にもそんな時代が……やっぱり努力の人なんだねぇ」

 

 防御を最小限に攻勢へと傾倒し、繰り出されるは流星群にも似た怒涛の連続突き。

 次々と切り替わる型にその場その場で対処するよりも、あらゆる技の出掛かりを先んじて潰した方が効率的という判断だ。事実その目論見は成功しており、ハルノエクリプスを徐々に後方へ押し込んでいる。

 

「……速い」

 

「えぇ、認めましょう。あなたは強い───ですがこの程度、想定の範囲内です!」

 

 防具の面頬を、フルーレの切っ先が掠めた。

 

「───、戦闘状況及び敵脅威度を更新」

 

 故に───()()()()()()

 

「臨時の権限拡張に相当する事態と判定。自己改造機能を一部開放します」

 

 七大権能(チートスキル)、発動。

 

「筋繊維増強、骨密度増大、神経増設、脳内物質複製、反応速度向上、視力上昇、聴力上昇、……██████まで残り██%……戦闘続行可能」

 

 跳躍して距離を稼ぐと同時、木刀を腰帯へ()()する。

 仮面のウマ娘の対応は即座だった。腰を低く落とし、足に力を溜めて突進の用意。見切る暇は与えない───居合(抜刀術)の迎撃よりも速く、自分のフルーレが相手の眉間を貫く。

 

「"魔神剣"」

 

 そう、思っていた。

 常人には───否、たとえ達人であっても目を疑ったであろう。

 

「……───ッ!?」

 

 抜刀の刹那、物静かな少女から膨れ上がった異様な気配。すなわちは殺意。

 構えを中断して身を捻った直後───斬撃を象る()()()が、仮面のウマ娘の真横を駆け抜けた。

 

「何……!? 今のは、そんな……有り得なっ」

 

「"爆縮地"」

 

 神速絶影。瞬時にして彼我の距離をゼロとし、対手の死角へと滑り込む韋駄天の歩法。

 下段より襲いくる一閃を、仮面のウマ娘はほとんど奇跡的な反射で捌いた。

 ペースを乱されてはならない、意識して息を吸う。そうしている内にも、ハルノエクリプスは腰の短刀に手をかけている。

 

「"二河白道"」

 

 何の変哲もない、しかし足腰と胴の捻りが加わり、満身の力が込められた二刀の横薙ぎ。

 回避は不可能。弾き、捌きに必要な最適な角度の計算が間に合わない。愚直に受けて防ぐ他ない───想像通りの、想像以上の衝撃。

 

「……まだまだ!」

 

 力の流れにあえて真っ向から立ち向かい、仮面のウマ娘はその場で踏み留まった。

 崩れかけていたバランスを一呼吸で取り戻し、鋼鉄をも穿たんとばかりに渾身の刺突を見舞う───。

 

「"彼岸蛍"」

 

 しかし瞬間、ハルノエクリプスの上半身はそこに存在しなかった。

 極端に低い姿勢から、床面を抉るようにして足元を払う回転斬り。

 防具で守られているとはいえ、もとい脚への被弾は人間にとってもウマ娘にとっても致命的だ。()()()()()()()と半ば察しながらも、仮面のウマ娘はこれを大きな動作で避けるしかなかった。

 

「っ───」

 

 空いた間合いを如何に詰め直すか、あるいは敵に踏み込ませぬよう立ち回るか。

 極限状況下、加速した意識の捉える停滞した視界の中で、尚も霞むような速度で二刀剣士が動く。

 

「"飛龍閃"」

 

 ハルノエクリプスの左手から弾丸の如く()()された短木刀が、仮面のウマ娘の得物(フルーレ)を叩きつけた。弾かれ、空中へと投げ出される。

 

「しまっ……!?」

 

「"仙峯寺菩薩脚"」

 

 もはや剣道剣術の体すら放り投げ、ハルノエクリプスの()()()()が仮面のウマ娘へ突き刺さった*3

 そのまま敵の身体を踏み台に、空中へと飛び上がった剣鬼の手に─────。

 

「九山八海一世界、千集まって小千世界───三乗結んで斬れぬ物無し」

 

 長刀一振り、短刀一振り、そして()()()()()()()()()()()()()細剣が一振り。

 是即ち、必殺也。

 

「"一大・三千・大千・世界"」

 

 銀色の軌跡*4が、万物を斬断する3重の螺旋を描く。

 まさしく神業、天衣無縫なる絶技絶巧。死の危険などあろうはずも無い稽古試合にて、しかし間違いなく命脈を絶たれたと錯覚するほどの───斬られた者が、()()()()()()()()()()()()()()()と思うほどの、美しく鮮やかな白刃の舞だった。

 

「───、Wunderbar(アッパレ)……!!」

 

 ハルノエクリプスは『火のゴルシカリバー』を手に入れた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 試合終了らしい。

 ハルノにやられたフェンシングの人が思いっ切りぶっ倒れたので少々心配だったが、あまりにも気持ち良い負け方をしたせいで、しばらく起き上がる気にもなれなかったんだとか。何それ?

 

「戦闘終了……」

 

「や、お疲れ。凄かったね今の……あの真空波とかどうやってんの? 結構真剣に気にな」

 

「……、───」

 

「!? ちょ、どうしたのえっちゃん!? 大丈夫っ!?」

 

 とか思ってたら今度はハルノがぶっ倒れた。

 多少の攻防はあれど、傍から見ている限り明らかに被弾した様子は無かった……というか、途中からは一方的に向こうを滅多切りにしていた記憶しか無いのだが……?

 

「……問題、ありません……。消費エネルギー、駆体損耗、いずれも許容範囲内。安静状態なら8時間以内に全身体機能を回復可能と自己診断します」

 

「えぇ……マジ? うぅん……。まぁ顔色は悪くなさそうだけど……」

 

 ……そうなの? ハルノは人形みたいな真っ白い肌をしている*5ので、顔色なんてよくわからない。

 この人は確か……ハルノがたまに話してくれる、同じクラスの娘だっけ。そうだ、案外友達多いんだったこの暫定宇宙人(エイリアン)ウマ娘。

 

「ただ」

 

「ただ?」

 

「あと2時間は一歩も動けません。申し訳ありませんが、"おんぶ"を要請します」

 

 コイツ…………。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ……とまぁ、そんなこんなで─────。

 

「みんな、お疲れ様〜っ!!」

 

 大ウ魔王ピュア・ゴルシファーが指定した集合場所は、なんと合宿所近くの神社だった。

 この神社、毎年今の時期に夏祭りを開催しており、夏合宿で訪れたトレセン学園の生徒でよく賑わうのだ。

 ……、うん。いや、その……何というか、知ってた。

 

「場所借りてるからトレセン学園の生徒さんたちはこっちでーす。カノープス印のフランクフルトはいかが、なんてね」

 

「おっと、ゴルシさん直伝のスピカ焼きそばを忘れてもらっちゃ困りますよ! せっかくのお祭り、目一杯楽しみましょー!」

 

「あ……あの、ライスたち、おにぎり作ったり、パン焼いたりしたから……これもどうぞっ」

 

 試練を終えてやってきた*6生徒たちが各々のトレーナーと合流し、めいめいグループを作っては夕飯の調達(とお祭り)に繰り出していく。

 今回の一件で新たな交流が芽生えたグループもあるのだろうか? だとしたら、あの変なレクリエーションにもいくらか意味があったのだろう。たぶん。きっと。メイビー。

 

 そういえば、私たちが手に入れた4本の『ゴルシカリバー』は、あんまり見覚えの無い眼鏡の生徒が回収して去っていった。

 最後の集合場所を知らせるメッセージを寄越してきてから音沙汰が無いけれど、ピュア・ゴルシファーは今頃どこで何をしているのだろうか。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 火。水。風。土。

 土地の龍脈(レイライン)を流れる霊力(ウマグネタイト)によって鍛えられ、四大元素の属性を宿した4本の『ゴルシカリバー』。

 

「ついに辿り着いたな……」

 

〈えぇ……〉

 

 龍脈の流れとはつまるところ、土地が内包している生命力、()()()()()()()の在り処だ。

 それが収束し、交差する地点には確かに存在する───その領域を霊力の泉たらしめている"何か"が。

 

「どれ」

 

 ちゃぷん。指先を浸けてみる。

 温くはなく、かと言って熱すぎない。天然物とは思えないほどの絶妙な湯加減だ。

 周囲は鬱蒼とした森林であり、木々に囲まれたここには、アタシとエデソ以外の誰も居ない。

 

「フフフッ……ハハハッ───ハァーッハッハッハッハッハッハ!!」

 

 完璧だ。アタシは今日、世界を支配し得る力を手に入れた。大ウ魔王の面目躍如といったところか。

 

「よ〜し!! さっそく入るぞ入るぞ入るぞ〜……」

 

「もし、そこのお方?」

 

「Huh?」

 

 何……だと……!?

 

「マズい……! エデソ! いつものやつ! ほらあの記憶消す怪光線……あ!? 野郎、どこ行きやがった!」

 

「なんだかよくわかりませんが、ともかく観念なさい。メジロの『ブラックパレード(特務諜報部隊)』の目からは何人たりとも逃れられませんわ」

 

「いーやーだー!! この源泉はアタシんだ! いくらマックちゃんの頼みでも絶対ぇ譲らねぇかんなー!」

 

「はぁ? 別に温泉なんて知りませんわよ。そんなことよりあなた、ご自分の担当ウマ娘のことをお忘れで? 今日は随分と過酷な一日だったそうじゃありませんの。労いの言葉くらいかけてやりなさいな」

 

「……あっ。うぐ、ぐうの音も出ねぇ……。で、でもよぉ……。あぁ〜、温泉〜…………」

 

「……。……次に休暇が取れたら、またお声掛けくださいまし。骨休めのお手伝いくらいはいたしますわ」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ウマ娘に限らず、遊び盛りの学生というのは現金なものだ。

 謎の不審者と自分たちのトレーナーが結託して意味不明なレクリエーションに参加させられたことなど既に忘れ、みんなすっかり屋台と、さっきから始まった花火に夢中になっている。

 ……かく言う私も、今は何故かレウスとトレーナー(桐生院トレーナー)に押しつけられた浴衣を身に着けているのだが。

 

「もっきゅもっきゅ」

 

 ちなみにこの暫定宇宙人(エイリアン)も一緒である。今日食べた地球の料理では土手煮がお気に入りのようだ。ていうかそんな屋台どこにあったんだ。

 ハルノのことは、シナモリクリスタルというらしいあの黒鹿毛の空手娘に預けられた。一緒に居てもいいけれど、レウスやシュガーやファル(スカイファルシオン)と会うなら、と譲ってくれた感じだ。

 別に『四天王』+αだからといって、プライベートでまで友達だとは……ん? あれ? 言われてみれば私、あの4人以外に友達って居ない……? いやいや、そんなまさか───。

 

「……」

 

「…………」

 

「………………」

 

「「……………………」」

 

 そしてこの沈黙……。

 ファルもクール系だけど、あの子はあれでいて根が陽気なので、話してみると案外ネタが尽きなかったりする。

 その点、ハルノは余計な会話は一切しないから、えぇと……つまり、ただでさえ口下手な私と組むとこういうことになるわけで……。

 

 

 

 どぉん。

 どどん。

 ひゅう───どぉん。

 

 

 

 ……でも、これでいいのかも知れない。

 『世界の敵』と三女神様の使徒。本当なら、というか去年の今頃くらいまでは、もっと殺伐とした関係だったはずの私たち。

 それが今は、学校の合宿で一緒に夏祭りに来て、こうして花火を見上げている。

 

「───ハルノは」

 

 だから。

 

「……? 何か言いましたか、ミーク」

 

 だから、だろうか。

 

()()()()()()()()()()、どうするんですか」

 

 口下手なんてもんじゃない。まるで要領を得ない、質問になっていない質問。

 私はまだ自分の正体を明かしていないし、ハルノもまた私が自分の正体に気づいているとは思っていない。……と思う。

 それでも───この時だけはお互いに、何かが伝わっているような気がしていた。

 

「どうとも。仔細は明かせませんが、トゥインクル・シリーズへの参加は、わたし本来の任務に伴う小目標に過ぎません。状況は変化するものです。トレーナー(舩坂トレーナー)との協力関係が続く限りはこれまでと同じように活動することになるでしょうし、そうでなければまた別の任務に移行したというだけのこと」

 

 ……うん。まぁ、そうだろうな。

 普通のウマ娘が聞けば冗談にしても性質(たち)が悪いと思うだろうが、彼女(『世界の敵』)にとっては今の状況こそが異常なのだ。むしろ、三女神様が直々に警戒するような存在が、どうして普通のウマ娘みたいにトゥインクル・シリーズを走っているのか疑問まである。

 

「───、……ですが」

 

 ひゅう。どぉん。

 夜闇が一瞬だけ遠ざかり、見えたのはわずかな憂いと困惑の色。滅多に変わらない人工物じみた無表情の中で、長く整った睫毛が少しだけ俯いている。

 

「最近は……、なんというか……。ふと、こんな日々が……ずっと続けばいいのに、と。そんな風に考えてしまうことも、あります」

 

 途切れ途切れに紡がれたその言葉を聞いて、私は初めて気がついた。

 これは、ハルノは───()()ハルノエクリプスが、悩みを他人に話している?

 

「……でも、それを認めたら……わたしがわたしでなくなるような……。わたしが本当にあるべき場所に、二度と帰れなくなるような気がして……」

 

 もちろんのこと、彼女はウマ娘ではない。

 けれど今、彼女は『世界の敵』でもない。

 誰がそうしたのかと言えば、それはたぶん、彼女のトレーナーとして手を挙げた舩坂さんで……あとは、きっと、ここまで一緒に走ってきた─────。

 

 この日々は、一体いつ終わるのだろうか。

 その時、彼女は、どんな顔をしているだろうか。

 いつかの終わりが来た時、私は、ハルノのことを、

 

 

 

「逃がさない」

 

 

 

 ───自分でも一瞬、何と言ったのかわからなかった。

 

 気づけば身体が彼女の目の前まで動いていて、その白い手を握っている。

 『世界の敵』。『四天王』筆頭。世代最強。『流星』。様々な名前で呼ばれ、今は何者でもない狭間の少女へ、私は。

 

「……勝ち逃げなんて、許しませんよ。あなたがどこの誰であろうと……もとい、この世の誰にだって、あなたを渡してやるもんですか」

 

 そう。

 そうだ。ハルノが何者かなんて関係ない。一度同じ道を選んだからには、私たちは頂点を巡って争うライバルだ。そこに他のものが入り込む余地なんてありやしない。

 

あなたのこと(『世界の敵』)は、私が倒す」

 

 何より私は、トレセン学園の生徒で、桐生院葵のウマ娘で、三女神様の使徒で、『白の勇者』なんだから─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
模擬薙刀なので死んでいません

*2
イメージです

*3
ウマ娘同士かつ防具を使用し、最大限安全に配慮しています。絶対に真似しないでください

*4
木刀と競技用フルーレです。殺傷力はありません

*5
夏合宿の炎天下でもまったく日焼けする様子が無い謎

*6
用意の良いことに既に浴衣に着替えている娘まで居る




なお、本作に登場する武術云々はすべて適当であり、いずれの流派や技も現実に存在しません。ご了承ください。
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