暑すぎる
死
(自由律俳句)
夏合宿も無事に終了して9月に入り、トゥインクル・シリーズが最も盛況となる時期と言っても過言ではない秋冬戦線が始動した。
細かい事情はバラしてないので仮加入だが(怪異周りの話はしたので仮とも言い難いかも知れない)、
『ゴルシカリバー』が完成してから府中市に湧く怪異の出現率は目に見えて減ったし、元からあったRPG型迎撃システムは今、オリジナルのアプリゲームに姿を変えトレセン学園で流行の兆しを見せ始めている。これで討ち漏らしの心配は限りなく失くなったはず。
ついでに当初、トレピッピをそうと悟られず協力させる隠れ蓑として考えた『ウマリブの新モード』はマジで企画が通ったので(???)、そのインセンティブも入ってウハウハだ。いやぁ、己の才能が怖いなぁ!
「ねぇゴルシ……。ウチ、確か2週間くらいゲーム部屋にカンヅメにされててさぁ……。帰ってきたら何か……えと、1年半? くらい経ってる気がするんだけど……」
「エデソ」
〈はい〉
ピカッ。喰らえご都合怪光線。
う~ん……そういや、2週間も長い間の記憶を消しても平気なんだろうか。つーか、何なら今からここ1年くらいの話もしなきゃいけないというか……。
周りにはエデソ光線で適当なことを吹き込みまくっているので、今更トレピッピが帰ってきたところで誰からも怪しまれはすまいが、さて。
「あー、えっとぉ……。我が愛しのトレピッピ? あなたは1年半前に不慮の事故に遭い、意識不明の重体でした。それから何やかんやあって奇跡の大復活を遂げ、今はもう事故のことなど無かったかのように元の暮らしに戻っています。ただ、昏睡していた間に起きた世の出来事については、少しピンとこないかも知れませんね。ちなみにピッピが居ない間の仕事はスピカのみんなと、あと舩坂・オーバーソウル・金時っていう心優しく極めて優秀な新人トレーナーさんが手伝ってくれていたよ。お礼として白トリュフをたっぷり振りかけたキャビアの握り飯を贈呈しておくように」
これでよし。たぶん。きっと。メイビー。
……ん? アタシの話ばっかりで、肝心のえっちゃんの様子はどうなのかって?
決まってんだろ、絶好調さ。雨が降ろうが槍が降ろうが、どこのどいつにだって負ける気がしねぇ!
◇ ◆ ◇ ◆
─────『聖蹄祭』。
トレセン学園文化祭だとか春・秋のファン大感謝祭だとか色々と呼び名はあるものの、要するに中央トレセン主催のお祭りである。
ざっくりURA方面の資本もガッツリ関わっており、小市民的には多少訝る気持ちが無きにしも非ずといったところだが、まぁ私も半年に1度の楽しいイベントに陰謀論めいた難癖をつけるほど無粋ではない。
アスリート校である中央トレセンでは、この手の行事にそこまで厳密な参加義務を課されることはない。競走成績ないし出走スケジュールによっては通常授業すら免除される場合もあるのだから当然だ。
わけても春先から梅雨頃、秋口から年末にかけての期間はトゥインクル・シリーズでも重要度の高いレースが目白押しであり、本来なら学祭なんぞにかかずらっている暇は無い……と、私のような非才の身ではそう思ってしまうのだけれど。
「個人企画、ですか?」
「うんっ。理事長からのお願いでねー、
「はぁ……」
「その……思えば、打倒『四天王』のためとはいえ、ミークにはずっとトレーニングばかりさせてたような気がして……。だから、これはそのお詫びと───いつもいつもいつも頑張って、私に夢を見せてくれるお礼だよ。私も全力でお手伝いするから、たまには普通の学生らしいこと、やってみない?」
……これは、断る選択肢があるのだろうか? 色んな意味で……。
◇ ◆ ◇ ◆
そんなことのあった少し後、珍しくファルが話しかけてきた。
「というわけで勝負しよう、ミーク」
なにが『というわけで』?
「噂くらいは聞いてるだろ、トレセン学園の『後夜祭』。出店で売上が上位だったウマ娘の出られるエキシビションレース」
あぁ、そういう……。
聖蹄祭の裏の顔、トレセン学園後夜祭。
毎度お馴染みというわけでもないものの、関係各所のスケジュールに都合がついた場合のみ、ちょっとした模擬レースなんかも行われるらしい。となると、今年は運良くお日柄に恵まれたということか。
「今年の出走枠は8人。ほとんどは活動期間が長くて世間の認知度が高いシニア級やドリームトロフィーリーグの先輩で埋まるけど、もちろん人気ならクラシック級ないしトゥインクル・シリーズ現役世代も負けちゃいない。つまり、まず間違いなくハルノも出てくるってことだ」
「はぁ」
「というわけで、ミークとは残った枠を奪い合うことになると思う。でも残念だったね、ハルノと走るのはおれだ」
「いや……別に……」
先輩方との模擬レースには少し興味を惹かれるけれど、選抜基準が出店の売上となればいささか分が悪い。私に屋台で小銭を稼ぐ才能があるとは思えない。
元より、適当な展示企画でもやってトレーナーと一般のお客さんを納得させるつもりだった……推しの水族館の紹介とか。
「ふふ……いいさ、自分の手の内を明かしたくないってのは当然だ。どんな小細工も真正面から叩き潰してやるよ」
「そうですか……。……ちなみにファルは、というより『トリスメギストス』ですか。何のお店をやるつもりなんです?」
「ミークが秘密にするならおれも秘密だ」
言って、ファルはそそくさと立ち去ってしまった。
普通に参考にしようと思って聞いたんだけどな……。
◇ ◆ ◇ ◆
「あら、今年ももう秋の聖蹄祭なのね。時が経つのは早いわ……いえ、でも私の方が……」
「光速超えて時間止める気か? ……あ、そうだ。アタシ、悪ぃけど今回は『スピカ』名義での参加はパスな。知り合いの手伝いしなきゃなんねンだわ」
「わわ、強力なライバル出現だぁ。ちなみに、誰のお店を手伝うんですか?」
「ヘヘッ……ま、ここは当日までのお楽しみってことでいっちょ頼むぜ。それに、たまにゃレース以外で勝負ってのも面白ぇだろ?」
「お、言ったな~? よーし、じゃあ今回は俺がアタマ張るとするか! 毎度毎度焼きそばってのも芸が無いと思ってたとこなんだ。まずメニューから考えないとだなっ」
「ちょっと、勝手に決めないでよね! 食べ物の屋台じゃないとダメなんてルールは無いんだから、今回は趣味を変えてアクセサリーとか───」
「え……。す、スカーレットちゃんは屋台、嫌なの……? 私、みんなでお料理するの、結構好き……なんだけど……」
「いっ……やとは言わない、けど……! けど……! うぅ、そういうのズルいですよスペ先輩っ……!」
「でしたら、間を取ってスイーツというのは如何でしょう? 例えばパフェとか……そうですわね、パフェを所望いたしますわ!」
「そこまでにしときなよマックイーン」
◇ ◆ ◇ ◆
「シナー、クラスの出し物どれに投票するか決めた? あたしメイド喫茶とお化け屋敷で迷っててさぁ」
「えっちゃんが抜けるの確定って結構なハンデだよね。まぁ無難にお化け屋敷でいいんじゃないの」
「───みんな、朗報よ!! 今度のファン感謝祭、心強い助っ人が来てくれることになったわ!」
「お~? ふぅん。コンちゃん委員長、妙に気合い入ってんな」
「助っ人って、あれは─────」
◇ ◆ ◇ ◆
「まったくこの時期は誰も彼も浮かれちゃって実に下らないねぇ、勉学と競走こそ我々トレセン学園生徒の本分だろうに。学祭なんぞに現を抜かしてる暇がどこにあるっていうんだい」
「寝食もトレーニングも忘れて自分の研究に現を抜かしてる人が言うと説得力が違いますね……。まぁ、せいぜい去年のような化学テロまがいの騒動だけは起こさないようにしてください」
「おいおいカフェ、アレは不幸な事故だったと第三者委員会の調査でも結論が出ただろう? 確かに2週間で5回消防車を呼ぶ羽目になったことは反省しているけれど───」
「おーっすタキオン!! いま暇かー? お、カフェも居るのかちょうどいいや。なぁ、後夜祭の模擬レースのことは聞いてるよな。フジさん辺りと走れるかはともかく、後輩どものツラ拝んどくのも悪かねぇと思ってよー。ちょいと知恵貸してくれ!」
◇ ◆ ◇ ◆
「じゃあ、そろそろ希望を聞かせてもらおうかな。ハルノ、君の人気なら売上上位は堅いだろうが……」
「過去にトゥインクル・シリーズおよびドリームトロフィーリーグで好成績を残したウマ娘のデータは概ね頭に入っています。この時期に模擬レースに参加して、消耗に見合うだけの有意義なデータが得られるとは思えませんが」
「あー……、うん。そうだな、私は時々、君が純粋なウマ娘でないということを忘れそうになるよ……。とはいえ、君も少なからず負けず嫌いというか、勝負事そのものは好きな方だろ? 合宿の時も八面六臂の大立ち回りだったそうだし」
「負けず嫌い……、……わたしが?」
「順調に地球の価値観に染まってきているようで嬉しいよ、
◇ ◆ ◇ ◆
さて、いざやとなれば準備期間などあっという間に過ぎ去り、秋の聖蹄祭当日がやってきた。
GⅡ・セントライト記念でファル相手に2着を取ったり──我ながらすっかりシルバーコレクターが板についてきたけれど、それはあの面子と競い合ってGⅠを総ナメにしているハルノがおかしいだけだ──、夏の間に地方戦線を荒らし回っていたシュガーが体調を崩しててんやわんやしたり、刺激的な話題には事欠かなかったがそこはそれ。
私はといえば、トレーナーに勧められ取材という体で都内の水族館を巡ったり、そうして訪れた先で私のファンらしいスタッフの人にえらく感激されたり、気がついたら某有名アイドルグループの看板番組が如くあちこちの水辺に連れ出され、希少な生き物の捕獲に精を出したりした。おかげで私の個人企画ブースはもはやちょっとした出張展覧会の様相を呈しており、完全に思っていたのと違う感じになっている。
「……壮観ですわね」
「うん。自信作」
こうでも言っておかなければやってられない。
ところで、夏風邪も治ってすっかり復調したシュガーは、白地にパステルブルーの映える可愛らしいワンピース風の制服を身に着けていた。なんだかどこかのパン屋さんとか喫茶店で働いてそうな感じだ。
「最初はメイド服の予定だったんですけれどね。それじゃどこかと被る可能性もあるし、何よりレウスが恥ずかしがってしまって」
「珍しい……。あのレウスが」
ちなみに後で見せてもらったところ、妙にお腹周りや太ももが寒そうな謎の代物だった。ある意味では裸よりも恥ずかしいかも知れない。
動きやすさ重視で手足が露出している勝負服のウマ娘も珍しくないが、さすがにどうなんだあれは?
「それで、結局何のお店を?」
「ラーメンですわ」
「ラーメン」
……その制服で?
と、口に出さなかった自分を褒めてやりたい。
「予算と設備はミークさんの展示ほどではありませんが、チーム『トリスメギストス』渾身の一品ですのよ! ぜひお召し上がりにいらしてくださいねっ」
誰の発案なんだろう。ファルかな。ファルだな。
実はここ最近、『トリスメギストス』の部室から猛烈に食欲を刺激する芳香が漂っているとの噂は聞き及んでいたものの、まさかシュガーまで抱き込んでいるとは思わなかった。あの二人と違って一番真面目なのに。
いや、まぁ、学祭の屋台くらい好きにやればいいんだけどさ……。
◇ ◆ ◇ ◆
───いっえぇ〜い!! ピスピース!!
日本ウマ娘トレーニングセンター学園東京中央校所属、チーム『スピカ』も所属のぉ、ゴルトレちゃんことpippi564ですぅ〜!!
いや〜、お久しぶりですねぇ。ん? そうでもない? こないだウマリブの配信したばっかり?
……そうでしたっけ? まぁいいや、とにかくおはこんばんにゃちわ!
本日はですねぇ、えー……秋のね! 聖蹄祭ということで!
なんかよくわかんねぇけど広報部長……広報部長!? を任されましてー。ねぇ……。こちらとしましては、どうしてカレンチャンさんとかああいう系の生徒さんにお願いしなかったのか甚だ疑問で……。
さておき、今日まで色々と告知を繰り返してきたわけですけれども、ついに! 無事開催当日に漕ぎ着けました〜拍手っ! わ〜ぱちぱち。
で、ですねぇ……今回の聖蹄祭もね! こんなにも盛り上がってますよ〜と。楽しいですよ〜と!
騎士として、もとい広報部長として! 現場から実況していきたいと思いま〜す!!
それで今回なんですけど、なんか食べ物の出店がやたら多くてー。
お昼ご飯がまだの人は飯テロ注意な! もしくは今すぐ中央トレセンに来い! 当日入場券の販売は16時からですが!
というわけでさっそく……はい! こちらはチーム『スピカ』の屋台でございます〜!!
初手から身内かよというツッコミは聞かない。校門からの目抜き通りにあるからよく目につくし寄りやすいんですよ。悔しいだろうが仕方ないんだ。
「あっ、トレピッピさん! こんにちは〜!」
「こんにちは。あら、撮影中ですか?」
スペちゃんスズカさんこんにちはー! ピスピース!
そうなんだよー、これでも広報部長だかんねっ。して、この度はいつもの焼きそばじゃないんだって?
「押忍っ。みんなで悩んだんすけど、やっぱ誰にでも喜んでもらえそうで、かつ特別感味わえるのがいいかなって。つーわけで───」
「『スピカ』特製ロコモコ丼だよ〜!! スペちゃんのご実家から届いたにんじんのトッピングもあるからよろしくね!」
やっほ〜い!! ありがとうウオッカちゃんテイオーちゃん!
お支払いはこちらの、学園運営からお預かりしている大人のカード(笑)でお願いするとして……。
いただきま〜す!!
もっきゅもっきゅ……。モニュ……ムニュ……ごくん。
─────うっっっっっっっっっっま!!
え!? いいんですか校門入ってすぐのお店がこのクオリティで!
いや……はむっ……、んん〜! うわ、うわ、うわぁ……! 肉汁すごいし食感も、学祭のレベル超えてますよこれ!
「ふふん。パティ……もとい、ハンバーグについてはちょっとした伝手がありましたの。今回こちらには不参加ですが、ゴールドシップさんの人脈もたまには役に立ちますわね」
「ソースもイチから手作りなんですよ! 商店街の皆さんが色々教えてくださって、材料も……今回ばかりはお助けられキタちゃんです、えへへっ」
ほへ〜、はぐっ……。あ〜、みんなの気持ちが沁みるなぁ。卵、見事な半熟……うまい。
よっし───はい、ごちそうさまでした! じゃあみんな、ありがとう! またね〜!!
……食うの早すぎないかって? うるせぇな。中央のトレーナーは多忙なんですよ、早食いは人権スキルってね!
◇ ◆ ◇ ◆
ちゅるちゅる、ごきげんよう♪
謎のラーメン系ウマチューバー、ミストレス・ファインだよ。
「……なぁ、今更だけどそんな変装でいいのか? 前に出した動画……あの『はしゃいでもいいけど程々にしなさい』ってコメントさぁ……」
今日は秋のファン大感謝祭ということで……もとい、中央トレセンでいま話題沸騰中の大人気ラーメン屋さんが出店しているそうで、その調査にやってきました!
「すっごい語弊ある言い方〜! でも例のアレ、ラーメンの出汁の匂いだったんですねぇ」
「そしてお前は誰だよ」
「え? ……、フッ。んじゃあまぁ、謎の一般通過ウマ娘・ミライドン子とでも名乗っておきましょうか。というか聞いてくださいよー、うちいつも使ってる練習場所が『トリスメギストス』の近くでね!? こっちが必死こいて走ってる間にもあのバチクソ良い匂いがこれでもかというほど鼻にブッ刺さってぇ……! んで空腹デバフ避けたいなら場所的にプール行くしかないし、これはもうどうすればいいんだぁって感じでほんともーほんと!」
むむっ? おぉ、あちらから何やら芳醇な香りが。
どうやら件のラーメン屋さん───『麺屋三天』さんのようですね。うーん、見事なまでの行列っ。これは期待できそうです!
〜待つこと20分〜
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「はいはいはいはい!! チャーシューメン大盛り! チャーシューメン大盛りで!」
「おい、何だか知らねェがいいのか? 話聞いてる限りその……ウマ娘でも食い過ぎは毒だぞ、うん」
「いいんですよこの際ッ!! こちとら今まで散々苦しめられてきたんだ、ここで思いっきり食べとかなきゃかえって損ってもんです!」
じゃあ私もそれでお願いしようかなぁ。シャカールは?
「並でいい。背脂少なめで」
「かしこまりました。少々お待ちください」
〜再び待つこと10分弱〜
「お待たせいたしました! チャーシューメンの大盛りふたつ、三天ラーメンの背脂少なめおひとつですわ」
わぁ〜、ありがとうございます!
うふふっ。この見事なきつね色のスープに澄んだ背脂、そしてたっぷりのチャーシュー。見てるだけで幸せだ~♡
「来た来たぁ! ふっふっふ……これで生半可な出来だったらタダじゃおかねぇからな〜? それじゃ───」
「「「いただきます」!!」」
ではいつも通り、まずはスープから……。と言いたいところですが───。
「うっひょ〜〜〜〜〜!! あっ変な声出ちゃった……けど、おいしい……! すごくおいしい……!」
まぁ、せっかくのお祭りで勿体ぶるのも面白くないよね!
よぅし、私もさっそくすすっちゃうぞ〜!! ちゅるちゅる……!
「ん……、うぉっ。確かに、こりゃあイケる……」
んん〜っ!! ほんとだ、おいしい〜!
スープは王道の醤油ですね。背脂もたくさん入って、でもそれに負けない力強くて豊かな風味!
ある種の矛盾を条件とする、洗練された全点豪華主義……これぞ日本のラーメン文化って感じがします!
「え、変な仮面着けてる割に語彙力やば……。わたしなんてチャーシュー超うめぇぐらいしか言うことないわ。もしかして例によってどこぞのお嬢様なタイプ?」
「あァ。最悪国際問題になるから丁重に接しろよ」
「国際問題!? 何それ!? さっき駄弁ってる時とかめちゃくちゃタメ口聞いちゃってたんですけど!」
あはは、今日は見ての通りお忍びだし、そんな堅いこと言わないよぉ。
……ん〜、それにしても。ベースは豚骨と鶏ガラ、
店員さん! このスープの秘密は───ずばり、香味野菜ですね!? ニンニクにショウガ、玉ねぎ、あと大葉かミョウガ、それからそれから……あ~配合が気になる〜!
「……へぇ、やるじゃん。ただのマニアじゃなかったんだ。けど、レシピは企業秘密……知りたかったらうちの
「マジか。リアルグルメ漫画かよ。……あっ、メンマもおいしい。何だろうねぇこれ、この……何か……ややお魚のようなかほりがうっすらと……ごめん嘘、やっぱわかんないわ」
複雑で重厚な味わいの中にも一本筋の通った香気、まさに職人技ですねぇ。
このスープがよく絡む中細麺といい、程よく散らされたネギとモヤシといい、一杯に込められた設計思想……美学が垣間見られて、とても素敵ですっ。
「ガチすぎない? なんでやんごとなき身分のお方がこんなジャンキーな大衆食に詳しいの?」
「これでも最初の頃は、雑にオマール海老とか使って1杯3000円のラーメン作ってたんだぜ。ただ、その動画を見た本国の料理長からずいぶん絞られたみてェでな……。今はどんだけ安上がりで美味いラーメンを作れるかにハマってんだ。こないだアップしたカップヌードルのアレンジ動画なんか50万再生まで行ってよ」
「何それ超面白い。チャンネル登録しよ」
◇ ◆ ◇ ◆
タマのたこ焼き屋さんを手伝っていたら、すっかり昼食が遅くなってしまった。
まかないのタコ玉風、唐揚げ、フライドポテト、ロコモコ丼、ラーメン、オムライス、ドーナツ……うん、今回は美味しい屋台やご飯のお店がいっぱいでとても嬉しい。
さて、もうあと一品くらい欲しいところだけれど……何がいいだろうか。
……おや?
「カフェ『天下無双
すごい名前だ。えぇと、どれどれ……パンフレットによれば、コーヒーと……カレーのお店か。
都会では定番の組み合わせだ。コーヒーの方は正直よくわからないが、カレーならきっと間違いないはず。よし、ここに決めた。
「らっしゃあせー!! おひとりですか? 1名様入りま……、お? おっ……おぉ!? マジか、オグリキャップさんじゃないスか!」
「あ、あぁ」
「いやぁ、活躍の方はかねがね! お会いできて光栄ですっ。うし、こいつは気合い入れないとだな……!」
やたら元気な店員の子に席へ通された。
店内は……何やら多少急いで片付けた形跡は見られるものの、元々が空き教室にしては小綺麗に仕上がっている。
「ご注文は……つってもカレーとコーヒーと水しか出ませんけど、どっスか?」
「うん。頼む」
それで結構コケコッコー、だ。
待つこと数分……教室に充満するコーヒーの香りに混じって、慣れ親しんだ、けれどどこか普段と違う
「お待たせしました! 天下無双ラボ特製カレー、ちょいとサービスしてトンカツ乗せの特盛です! ごゆっくりっ」
「ありがとう───おぉ」
〜天下無双ラボ特製カレー〜
上品な色味のルゥ
コロコロしたにんじんとジャガイモ。一口サイズのようだがよく煮込まれて原型を失っている
特盛トンカツ。分厚い!
らっきょう別添
「いただきます」
あむ。んむ。んぐ、んぐ……こくん。
……うん。
「美味しい……」
口に入れた瞬間、全身を通り抜けるように立ち上るスパイスの香り。
舌が熱を持つが決して辛すぎず、むしろそれを包み込むようにして旨味、お米と野菜の甘味、そしてわずかな───不思議な酸味と苦味が後を追ってくる。
噛みしめるごとに味わいと香りが弾け、スプーンを動かす手が止められないほどだ。
「そうだろうともそうだろうとも、何せこの私が手ずから作り上げたレシピだ。味のみならず栄養バランスも完璧で、この1杯で平均的なウマ娘が1日に必要とする必須栄養素の74.8%を補うことが出来る。いやぁ、いま思えば大変味気ないあの粗略な混ぜ物を常飲していた頃の私が見たら嫉妬に狂うだろうねぇ!」
いつの間にか現れていた栗毛の子が何やら説明してくれている。なんと美味しいだけでなく健康にも良いらしい。
それはさておき、トンカツの方はどうだろうか……。さくっ。もぐもぐ。
「ふふ」
カラッと揚がっていて、なおかつジューシー。思わず笑みがこぼれてしまうな。カレーとの相性もばっちりだ。
このらっきょうも、ぽりっ。カレーとカツに対してすごく爽やかな、まるでタマのツッコミのように切れ味鋭い名脇役だ。
「はふはふ」
穏やかな時間。やはりモノを食べる時はこうでなくては。
誰にも邪魔されず、なんというか救われていて……。独りでも静かで、豊かで。
「───ふぅ」
……楽しい時間とはいつも一瞬だ。ウマ娘なら尚更に。
最期の一口を飲み込む……あぁ、それにしても本当に───美味しかった。
「どうぞ。セットのオリジナルブレンドです」
「ありがとう」
「ちなみに極めて不本意だが今回はコーヒーとの相性も計算に入れてある。まったく忌々しい非科学的存在Xめ、ポッケ君やダンツ君が一緒の時はポルターガイストを起こさない辺り実に姑息と言わざるを得ないよまったく……」
何やらかなり気になる台詞が聞こえたが、あまり首を突っ込むべきでもなさそうなので今回はスルーしよう。
それに……、おぉ。このコーヒー、何だか普段口にするものよりも──元よりよく飲んでいるわけではないけれど──すっきりしているというか、苦味や酸味が
「ごちそうさまでした」
「はい、お粗末様。今後とも……もとい、カフェが卒業後にトレーナー氏と店を開いた時はどうぞよろしく」
「ちょっ……! と、トレーナーさんは関係ないでしょう……!?」
「あっははは! ……あっそうだ、ルー! シマ、メイ、ダンツー! オグリキャップさん来てっぞ、そうそうその……てかさっきも言ったろー? とにかく、挨拶するなら今だぜ!」
うん。なんだか温かくて、良い店じゃないか。
こういうのでいいんだよ、こういうので。
さぁ、午後からも頑張るとしようか───。
◇ ◆ ◇ ◆
「あらあら残念、タイムアップです。挑戦ありがとうございました……惜しかったですねぇ、しかし良い食べっぷりでした」
慇懃無礼の四字熟語を人型にしたような銀髪の男が、三日月じみて冷ややかな笑みを浮かべながら言った。
その足元には、おぉ! 読者の皆様はご存じであろう。パーカー姿のやや没個性的な青年と、眼鏡をかけた小太りの青年───ここでは個人名は伏せるが、さる界隈では有名な一般トゥインクル・シリーズファンの二人組が倒れ込んでいる!
「ま、まだだ……うぷ。俺には、あの日誓った……キタちゃんとの大事な約束があるんだから……!」
「どうした急に……げっぷ。初めて聞いたぞそんなの……」
「みなみさん! ますおさんっ!」
「ねぇキタちゃん、約束って何の話?」
「私も初耳だけどこういう時は野暮なツッコミ入れちゃダメなんだよダイヤちゃん」
厨房には、桜色の髪を持つウマ娘が一人。
今も殺到する料理の
さながら厨房の支配者の如く君臨する少女の横で、男は口角を吊り上げ─────。
「それでは───お会計、おひとり様3000円になります」
あっ、言い忘れてましたけどご飯回です。
お食事がまだの方はご注意ください。
○ハルノエクリプス 所持スキル
・スキルコピー Lv.4
これを覚えているウマ娘は通常のスキルを取得できない。
セットできるスキルの上限数およびレベルは、このスキルレベルによって増加する。
[セット中]
・ナイスネイチャ: 料理上手 Lv.3
・ミホノブルボン:体内時計 Lv.4
・オーバークロック Lv.2
『スキルコピー』を取得している場合のみ取得できる。
『スキルコピー』でセット中のスキルから1つ選び、自己改造によって強化する。
[セット中]
・ライスシャワー:健啖にして美食家 Lv.2