騎影が行く   作:ごまぬん。

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台風超怖い
なんとかならないの?(ゴルゴコラ)



四天王 vs 復讐者 vs 古英雄…?

 

 某年某日、19:00─────。

 

 秋の聖蹄祭は例年通り大盛況の内に幕を閉じた。

 撤収作業を終えた生徒たちは、ある者は学園構内に残り、ある者は学生寮や自宅に帰り、ある者は街に繰り出してめいめい時を過ごす───。

 

 だが、今年に限っては、祭りの後の学園から離れようとする者は居なかった。

 

「それでは、本日の企画展示における人気投票の順位を発表する!!」

 

 中央トレセン生徒会長、"皇帝"シンボリルドルフが声を張り上げる。マイクと講堂のスピーカーを通してはいるが、それも無用かと思わせるほどの朗々とした発声。

 一拍置いて───生徒たちの歓声が、爆発した。

 

「まずは、第10位から。今回は新たなメンバーを迎えての新体制───マチカネフクキタル、メイショウドトウ、コパノリッキーの……」

 

 トレセン学園後夜祭、企画展示における評価順位の発表。無論、それもまた()()のひとつではあり、決して無視できるものではない。

 しかし、生徒たちの関心は別にあった。『今回はいつもの後夜祭とは違う』───そのような噂が、開催前からまことしやかに囁かれていたために。

 

「───第5位! ハルノエクリプス、『ビッグバン食堂』!」

 

 この時点で既に、会場のボルテージは最高潮に近い。

 現クラシック級最強、ハルノエクリプスの()()は決まったも同然だからだ。

 

「第4位! ジャングルポケット、アグネスタキオン、マンハッタンカフェ以下4名、『天下無双Laboratory』!」

 

 そこへ、さらに───。

 

「第3位! チーム『スピカ』、『スピカ印の特製ロコモコ丼』!」

 

 シニア級、ドリームトロフィーリーグの古豪を擁するチームが続々と登場し、

 

「第2位! チーム『トリスメギストス』、『麺屋三天』!」

 

 世代の頂点で鎬を削り合う『四天王』が名乗りを上げ、

 

「そして栄えある第1位は───ブリッジコンプ以下A-2組、メイドカフェ『ラムレイ』!! おめでとう!」

 

「よっしゃああぁぁぁ!!」

 

 完全に予測不能の刺客(イレギュラー)が、突如としてこの熾烈な選抜戦に加わった。

 

 ───改めて。

 此度の企画展示における人気投票の順位は、とある『レース』への出走権を占うものである。

 

「5番人気か。ハルノにしちゃ控えめだ」

 

「あまり目立つのも悪いと思いましたので」

 

「うへぇ、何だか思ってたより大事になっちゃったな……。ま、良い機会だしせいぜい楽しみますかー、なんつって」

 

「コンプちゃん、本当に出なくて大丈夫なの? ……お昼の内に張り切りすぎてもう動けない? そ、そっかぁ……。えっと、その……ライス、代わりに頑張るね……!」

 

「『スピカ』代表として、負けるわけにはいきませんっ。けっぱるべ〜!!」

 

「まったくシップもウマ遣いが荒い。チームメイト相手にいささか気まずいのはわかりますが……とはいえ、この面子を前に手は抜けませんね」

 

「……いずれも名の通った強豪古豪、相手にとって不足無し。出店の人気で敗れた屈辱は、この脚で晴らす」

 

「ハッ、面白ぇ。全員纏めてブチ抜いてやんよ───勝つのは俺だッ!!」

 

 第1位───メイド喫茶『ラムレイ』よりナイスネイチャ、ライスシャワー。

 第2位───チーム『トリスメギストス』よりスカイファルシオン。

 第3位───チーム『スピカ』よりスペシャルウィーク。

 第4位───カフェ『天下無双Laboratory』よりジャングルポケット。

 第5位───チャレンジグルメ『ビッグバン食堂』よりハルノエクリプス。

 第6位───執事喫茶『アルファ・ケンタウリ』よりドゥラメンテ。

 第7位───手作りスーベニア店『洞爺湖』よりハリボテエレジー。

 

「……。……、あの7位の人誰です?」

 

 正真正銘、トレセン学園が誇る最高峰のウマ娘8名。

 日本の競バ界を知る者なら誰もが目を離せない、一夜限りの幻の戦いが幕を開ける─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「あーあ、私たちは9位かぁ。惜しかったな……。でも、これだけお店があって10位以内なら十分すごいよ! また次の感謝祭で頑張ろうねっ」

 

「はい、トレーナー。喜んでもらえて何よりです。……それで、あの変な紙袋被った子は誰なんでしょう」

 

「? あぁ……えっと、匿名希望みたい。一応それなりの戦績らしいよ、噂じゃ海外の大きなレースで勝ったこともあるって」

 

 むしろ下手に出なくてよかったかもしれない。

 もし全員のスケジュールが合うならという話だったが、それにしても出来過ぎな対戦カードだ。トゥインクル・シリーズの熱狂的ファンが死に際に見る夢かな? いや約1名なんかよくわかんないヤツ混じってるけど。

 

「さて、肝心のルールについてだが……」

 

 ───とはいえ、学園中の注目が集まるこの一戦。

 経歴不明のハリボテエレジー(以下敬称略)を除けば、全員が2400m前後の王道距離(クラシック・ディスタンス)で結果を残してきた優駿である以上、やはりそのくらいの距離が戦場となるだろう。

 ファルやライスシャワーのような長距離気質(ステイヤー)にはやや不利だが、前者はそもそも総じて高い基礎能力に飽かしたペース勝負で周囲を磨り潰していくスタイルだし、後者はそういった強い相手を徹底マークして最後に一歩抜きん出る戦法で勝利を収めてきた。

 ハルノはこの二人のハイブリッドとも言え、表向き全体のペースに乗りつつ常に好位に陣取り、いざというタイミングで一息に決着をつけるタイプ。これはスペシャルウィーク、ジャングルポケット、ドゥラメンテも同じ王道の走りだが、言うは易く行うは難し。出来るからこそ彼女たちは強い。

 そして謎の紙袋ウマ娘、ハリボテエレジーは何をしてくるか読めない……もとい、読めないと言えばナイスネイチャもそう。この錚々たる顔触れの中では戦績こそ劣るものの、()()()()()()()()()()()という意味では十二分に評価に値する。盤面が中央でも最強クラスのウマ娘たちによる叩き合いに陥ることは間違いなく、それを見越して漁夫の利を得るように立ち回れば勝機はあるに違いない。

 

「それは見てのお楽しみ、ということで。さぁ、レース会場はこのすぐ隣だ」

 

 生徒会を中心とした聖蹄祭実行委員会の誘導に従い、みんなで外へ移動する。

 ……至って普通の練習用トラックだ。距離は目算2000m程度で、決して短いわけではないが、このメンバーで競うには正直不足ではなかろうか。

 しかし、それよりも重要なのは─────。

 

「これより───トレセン学園後夜祭、スペシャルチャレンジステークスを開催する!!」

 

 ルドルフ会長の宣言と共に、校内放送のスピーカーから微妙に聞き覚えのある調子のファンファーレが鳴り響いた。具体的にはコンビニに入った時とかに聞こえてきそうなやつが。

 

「ご覧の通り、本コースには最初の300mに障害レース用のハードルを、また600m地点ごとに3種のスペシャルチャレンジを設置してある。第1関門は縁日の花形である『かたぬき』、第2関門はパン食い競走ならぬ『にんじん食い競走』、そして第3関門はコースを飛び出しての『借り物競走』だ」

 

 ……たぶん今頃ファルあたりはものすごく不機嫌になっているんだろうな、と私は思った。

 選手のみならず、観客の生徒たちからも困惑の声が上がっている。真剣勝負を期待していた彼女らにとっては、拍子抜けもいいところだろう……とはいえ。

 

「……グル姉?」

 

「あぁ……その、皆の言いたいことはわかる。我々とて欲を言えば、というのは同じ気持ちだ。しかしだな、これは会長にもお考えがあって……」

 

「お前たちは世間一般における自分の人気だの影響力に無頓着すぎだ。トゥインクル・シリーズとドリームトロフィーリーグの最前線で戦うエース級の集まりが、()()()()()()をしていいわけがないだろう」

 

 ナリタブライアン副会長が一言で切って捨てた。ご尤もである。

 

「まぁ、ブライアンの言うことにも一理あるが……何より、今日この時は()()()()()だからな。それに」

 

 瞬間───無言の気勢が、練習用トラックの全域を覆った。

 視線、身振り手振り、立ち姿。『領域』に限りなく近い威圧と扇動、カリスマのスキル。

 ターフに立たずしてさえこれだけの圧力を与えてくるなど、『絶対の皇帝』の他には何者も真似できないだろう。

 

「常と多少条件が違う程度で足を止める者など、この中には居ないだろう? 存分に奮い、存分に競い、存分に楽しんでくれたまえ!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───600m地点・第1関門『かたぬき』

 

「やぁやぁポッケくぅん、ずいぶん苦戦してるようじゃあないかぁ! やっぱりこっちの一番簡単な"ネコちゃん"に変えるかい? 確かに難度の高い図柄の方が最終タイムへのボーナスは大きいがねぇ、見栄張っちゃってまぁまぁ。ドゥラメンテくんを見習いたまえよ、彼女もあまり手先は器用でないそうだが目先のプライドを捨てて1位通過だ。見事なものだねぇハハハハハハ!」

 

「テ……っメェ、タキオンん……!! レースに出る出ないであっさり引き下がったと思ったら、ハナっからそっち(運営)側だったのかよ……!」

 

「そりゃあ私だって走りたかったさ。けど、このメンバー相手だとどうにも()()できそうにないからね。楽しいお祭りの最後で身体を壊してちゃ世話がない。あぁ、これでも私は信用してるし羨ましいとすら思ってるんだよ? 君の頑丈さは実に───」

 

「あ、あの〜。かたぬき、出来ましたぁ……」

 

「おっと、やぁどうもスペシャルウィークくん! ほうほう……なるほど素晴らしい出来栄えだ、合格! さすが日本総大将はどこぞの田舎っぺとは違い文武両道でいらっしゃる。そういえば、先日また上等なヌワラエリヤが手に入ってねぇ。またお茶しにおいでとスカーレットくんに伝えておいてくれたまえ」

 

「誰がかっぺだ誰が! 下町の女ナメんなゴラァ!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───1200m地点・第2関門『にんじん食い競走』

 

「……ねぇライスさん」

 

「うん」

 

「なんか……高くない? 3階建てのビルくらいあるような……」

 

「そもそもなんでパン食い競走、もといにんじん食い競走に跳び箱とロイター板が必要なんだろうね……」

 

「ウマ娘の身体能力の水準なら適正な高度かと。クッションも完備しているので、何度でも安心して挑戦できますよ」

 

「イクノ。……あんた知ってて黙ってたわね?」

 

「ノーコメント」

 

「あの~、私この通り匿名希望なんですが……。え? 口だけ出してやれ? いやいや、万が一途中でポロリしちゃったらどうしてくれるんですか。まだ公式に登場するかも決まってないのに。集英社は怖いですよ、私だって出来れば敵に回したくな」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───1800m地点・第3関門『借り物競走』

 

「私のお題は……『いつもお世話になっている人』か。ならばやはりトレーナー……しかし、以前からの交流も含めればグル姉が……そもそも、人間を借り"物"扱いというのはどうなんだ……?」

 

「あはは……そんなに難しく考えなくてもいいんじゃないかなぁ。こういうのは直感が大事だよ」

 

「そうか。ならば効率から言って……グル姉と私でトレーナーを担いで走れば完璧だな。ありがとうキタサン、さっそく借りてくる」

 

「え? あっ!? ちょ……せ、せめてどっちかだけでいいと思うけどー!?」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 第3関門の借り物競走のお題は、表記こそ色々違えど、ニュアンスとしてはどれも『一番大事なヒト』あるいは『最高の友達』的なものだったらしい。

 

「おや。もしかしてこれ、私が最初にゴールしちゃってもいいのかな?」

 

「はははっ! まぁ、まさかナベさん連れて全力ダッシュってわけにもいきませんから。この一瞬だけ付き合ってくださいよ!」

 

「あら。ふふふ……ありがとうスペちゃん。けど、先頭の景色は譲らないわよ?」

 

「それでこそ私の大好きなスズカさんです! 最後まで一緒に頑張りましょうね!」

 

「ブルボンさん、お願いできる?」

 

「ライスの頼みなら是非も無く。それに……『マーベラス同盟』の成果を計るに相応しい機会です」

 

「ん。ハルノ敵だし、二人でいいや」

 

()()とは何ですか()()とは、言うに事欠いてッ!」

 

「まぁまぁ、同じチームの仲間じゃないか。……それにしても、ファル~? ふふふふふふ、私たちのことを友と呼んでくれるのか! いやぁ嬉しいなぁ、まったく普段からそのくらい素直ならあっちょっと待って二人とも〜!!」

 

「ほらほらシップ、行きますよ! いやぁ幼少の時分を思い出しますねぇ、あの頃のあなたは多少やんちゃながら今よりずっと大人しかった。雪だるまに頭から突っ込んで芦毛になってからはウマが変わったように良くないハッスルをするようになりましたが───」

 

「爽やかなツラしてしれっとライン超えの思い出を捏造するな!! てめぇいきなり現れて熱湯ぶっかけて来たと思ったら、マジでふざけんなよこのコンプラ全盛のご時世に……!!」

 

 事ここに至って、生徒会の配慮はまったくの無意味になった。考えてみれば当然だが、どんな世界でも戦績や境遇の近い者同士が知り合い、友となり、競い合うのだ。GⅠウマ娘の友達はGⅠウマ娘なのである。

 

「ねぇこれどういう状況!? 何で担がれてんの俺! ドゥラもグルーヴさんもどうしちゃったの!?」

 

「狼狽えるなたわけ! 私とて不本意だがドゥラのためだ、今は耐えろ!」

 

「ははは……いち個人としては嬉しい限りですが、私でいいんですか? この距離とはいえ、皆さんには遠く及ばない速度しか出ませんよ」

 

「だ、大丈夫だって! タイムへのボーナスはかたぬきで稼いでるし……!」

 

 自分のトレーナーを選ぶ人も居る。確かに一番お世話になっているのは間違いないし、戦友とでも言い換えれば友達と呼べなくもない。

 かたぬきやにんじん食い競走の結果次第で最終タイムにボーナス、というシステムは主にこのためか。

 ……というか、『カノープス』(ナイスネイチャさんのとこ)トレーナー(南坂)さん、めちゃくちゃ足速くない? 間違いなく加減はしてるにせよ、普通にウマ娘と並んで走ってるんだけど?

 

「……、───」

 

 そして本レースにおける最注目株のひとりであるハルノはというと、何やら困惑気味に辺りを彷徨っていた。いつも通りの無表情で。あんな性格の割に知り合いは多い方のはずだが、手頃なパートナーが見つからないようだ。

 ……あれ? そういえば、舩坂さんはどこ行っちゃったんだ。ついさっきまで私たちと一緒に観戦してたはずじゃ……。

 

「ハルノちゃん……あー、舩坂さんどうしたんだろ。お手洗いかなぁ」

 

 うぅむ。薄情と言えば薄情だけれど、生理現象なら仕方ない。

 まぁ、夏合宿の時に会った黒鹿毛の同級生あたりでも捕まえてくるだろう。あるいはお世話になってる先輩方の誰かかな。またターフにGⅠ級ウマ娘が増えるな。

 なんか一瞬目が合った気がするけど、たぶん気のせいだろう。普段は微動だにしない耳がわずかに揺れたような気もしなくはないが、恐らく周囲の喧騒にあてられたせいで見た幻覚だ。あぁ、こういう時、ウマ娘として生まれ持った鋭敏な聴覚が少し嫌になる。もうずいぶん聞き慣れた蹄鉄の音が近づいて来─────。

 

「一緒に来てください、ミーク」

 

「…………。……私たち、そこまで仲良かったでしょうか」

 

「知性体の感情やコミュニケーションの様相を定量的に分析、評価することは困難です。わたしには『仲の良さ』などという曖昧な指標は理解できません。ですから───()()()()()()()()()()()()()を選ぼうかと」

 

 友愛もへったくれも無かった。やっぱり人、もといウマ娘の心が無いぞ、この『世界の敵』。

 ……でも、

 

「だって。光栄だねミーク、ご指名だよ?」

 

 トレーナーにまでこう言われてしまっては是非もない。

 ここからトラック上に戻ってゴールまで、およそ50と200m───通じるだろうか、私の脚で。

 

「戦況は不利ですが、ここは公式戦ではありませんので……少しだけチート(ずる)をしようと思います。ついてこれますね?」

 

 いや。

 

「───、ひとつ貸しですよ」

 

 たとえ私が私自身を信じられなくても、ハルノエクリプスが信じるというのなら。

 彼女ならば、きっと間違えない。

 

「筋繊維増強、骨密度増大」

 

 三女神様の加護、『勇者』の権能を()()()

 遍く衆生の"祈り"に応え、邪悪を祓うための力が五体に漲る。

 

「神経増設、脳内物質複製、反応速度向上、視力上昇、聴力上昇、……██████まで残り██%」

 

 適当も適当だがゆるりと身体を(ほぐ)しつつ、踏み出す一歩一歩に神経を集中する。

 レースの直前とよく似た感覚。ハルノエクリプス(打ち倒すべき『世界の敵』)の隣に立つ。

 

 その刹那にファンファーレは無く。

 私とハルノは、まったくの同時に駆け出した。

 

〈さぁ、クライマックスだ!! 中央トレセン最強の称号を掴むのは─────〉

 

「行っけぇライスーッ!! 美浦寮の意地、向こうの寮長に見せつけてやってくれ!」

 

「なんだか孫とその友達の運動会を眺めてるような気分ですわねぇ。ふふ……皆さん、ファイトですわよー!!」

 

「えっちゃーん!! がんば、あっ! ね、ネイチャ先輩とライス先輩も! あぁ〜もう誰応援したらいいの〜!?」

 

「バーロー、こういうのはどっちも応援すりゃいいんだよ! ポッケさーん!! フジ寮長ーっ!!」

 

「ファルちゃーん!! レウスさんもシュガーさんも、がんばれーっ!!」

 

「やっぱシニア級の先輩らってすっごいわねぇ。けど、あたしら世代の最強だって負けちゃいない……!」

 

「リベンジマッチだ、『2代目勇者』ぁ!! そのままみんな追い抜いてやれーッ!!」

 

 ルドルフ会長の実況の声に倍して掻き消す、濁流めいた歓声。

 ……普段のレースじゃあんまり気にしたことがなかったけれど、そうか。

 私たち、こんなにたくさんの人から応援されてたんだな─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ゴールに駆け込んだのは、みんなほぼ同時の横並びで。

 けれど───たぶん、私たちがテープを切ったという感触は無かった。

 

〈さて、レースの結果はこの通りだが。道中のチャレンジにおける成績をボーナスとして……トレセン学園後夜祭、スペシャルチャレンジステークスの優勝者は!〉

 

 偉大なる先駆者たちの背中は未だ遠く。

 それを差し引いても尚、立ちはだかる壁は厚く険しい。

 

〈『かたぬき』の紫綾金銀泥絵両界曼荼羅図をほぼ満点でクリア! 『にんじん食い競走』もほぼタイムロス無く完璧なフォームで通過し、その後に多少の遅れはあったものの最終4位につけた───『流星』、ハルノエクリプス!!〉

 

 ……とか何とか物思いに耽ってたら、どんでん返しで勝っちゃった。

 いやまぁ、あのハルノのことだ。私だって、いわゆる『最初の3年』を駆け抜けて以降のレジェンドたちと正面切って競い合うのがどれだけ無謀かは理解している。

 それでも()()()()()ことを諦めないなら、他のチャレンジでタイムボーナスを稼ぐしかなかったわけだ。まったく惚れ惚れするほど手際が良い。

 

「さすが。また勝ち星を増やしましたね」

 

「いえ……」

 

 うん?

 

「……。───、いえ。何でもありません」

 

 うーん。

 ───あ、そうか。

 

「気に障ったならごめんなさい。走りで負けたこと、やっぱり悔しいですか」

 

 そりゃあそうだ。たとえ最初から勝てる相手じゃなかったとしても、走りで負けたなら悔しいに決まっている。ましてや同世代の中では無敗だったハルノでは……ちょっと無神経すぎたな。

 

「悔、しい?」

 

「少し安心しました。そういう気持ち、ハルノにもちゃんとあったんですね」

 

「わたしが……」

 

 ぱちくりと瞬きを繰り返すハルノ。何とも珍しい。必死こいて先輩方に喰らいついた甲斐があった。

 

「いいと思いますよ、それで。出会った頃よりも、今のハルノの方が私は好きです」

 

 何かとんでもないことを口走ってしまったような気がするけれど、きっとこの祭りの熱気に浮かされたせいなのでノーカウントだ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「おかえりライス、ネイチャ、ブルボン☆ みんな強い人たちばかりだったと思うけど~、えっちゃんと走ってみてどうだったかなっ?」

 

「ぜんぜん勝った気しない……」

 

「怖い……なに仕掛けても正面からぶち破られそう……」

 

「ステータス『憔悴』を検知……」

 

「フッ。ったりめーだろ、このアタシが育てたウマ娘だぜ?」

 

「ちょっと油断しすぎですよシップ!! 失礼しましたッ、喰らえ記憶改竄ビーム!!」

 

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