エクソシスト、それは神に魅入られたモノ達。彼らは闇より現れる禍々しきものを葬るためにある。
「ここが黒の教団本部。俺、馴染めるかな…」
水路を進む船に一人の人影。ローブを被っているので顔は分からないが、声からして15歳前後だろうと予想できる。彼がここに来た理由は一つ、正式なエクソシストとして認めてもらうためにきた。
AKUMAを破壊すること、そして千年伯爵を打ち倒さんとするヴァチカンが創設したローズクロスを担う者。それがエクソシスト。神の結晶と呼ばれるイノセンスを扱うことができる唯一の存在だ。
「にしてもあのクソマリアン。今度会ったら脳天ぶち抜いてやる」
しばらく進むと水路の終わりが見えてきた。この水路は通常、本部に出入りを許可されたものだけが知るとこを許されているもので、この少年にはその許可は降りていない。しかしそれを全く気にしない様子で少年は船を降りて本部に入っていく
「そういえばアレン、無事に来れるかな…」
アレン。それは彼の弟弟子にある少年の名前であり、本来なら一緒にくるはずだった。ひと月前に逸れてしまって以降、うまく連絡がつかず、仕方なく黒の本部を目指して合流しようと思ったのだが。
「アレンって迷子のプロだからなぁ…」
少年は本部を歩きながらアレンの心配をする。そのせいで少年は自分に向けられている視線に気づいていなかった。
「おい、そこの君、待ちたまえ」
突然声をかけられた。これは予想してなかったわけではない。自分は一度もここに来たことはなく、ここの人間達は皆顔馴染みと聞く。そんな自分が突然現れ歩いてたらそりゃ怪しまれるだろう。
「なんでしょうか」
「見たことのない顔だが、どうやってここに入った?」
「どうやってって、そりゃ普通に水路からですよ。元帥から招待状が来てるはずです」
「水路だと…?ちょっと待ってろ。おい!お前何か聞いてるか?」
クロスからはバックれる前に招待状を送っといてやると聞いていたので、いざとなればその事を言えば話は通じると思っていた。
「いえ、そんな話は聞いてないですが」
ええ、そう思ってた時期は俺にもありました。というかさっきまでそう思っていたんだけどなぁ。やべえめっちゃ怪しまれてる。どうしよ、なんか憲兵もめっちゃ集まってきたんだけど。というか囲まれたんだけど。
「おいお前。何が目的でここにきた!」
「いやぁ、クロス・マリアン元帥に言われてきたんですよ。正式なエクソシストとして認めてもらうために」
「それなら元帥も同行してるはずだ!元帥はどこにいる!」
「それが、3ヶ月前にロンドンで失踪して…」
やばい、やばいぞ。なんかどんどん苦しい言い訳してる風にしか見えない。その証拠に周りの目がどんどんきつくなってきてるぞ。よし、ならばここは
「散!」
「あ!おい待て!逃げるな!」
逃げの一手しかないな。しかしまさか俺のことが知られてないとは。流石にあの人でも招待状を送ってないのは考えずらいな。どんだけ腐ってもあの人も元帥だしなぁ、そうなるともうあの人しか原因が思いつかないなぁ。
「よし、とりあえず急ぐか。アレンも同じ目に合わせないようにしないと」
「な、なんでこんなところにあんなモノ建てたんだ?」
断崖絶壁というに相応しい壁を登る白髪の少年。そしてその周りを飛びわまる金色のゴーレムと呼ばれるモノ。そしてその姿を黒いゴーレムで監視するモノ達がいた。
「はぁ、はぁ、はぁ、やっと着いた…。ここがエクソシスト総本部、黒の教団…かな?」
一般人なら登ることがまず不可能である崖を登りきったが、あまりいい雰囲気が感じられないことにより少年ことアレン・ウォーカーは少し不安になる。
「話には聞いていたけど、雰囲気あるなぁ。ここでいいんだよね?ティムキャンピー」
金色のゴーレム、ティムキャンピーに聞いてみるが答えは返ってこない。そもそもゴーレムは喋ることはできないのでアレン自身、答えが返ってこないは最初から分かっていての問いだ。それにティムキャンピーが案内してくれている時点でここは間違いなく黒の教団の本部であることも分かっていた。
「とにかく行ってみるか」
「誰なんだい?この子。だめだよ〜?部外者入れちゃ。なんで落とさなかったの?」
「あ、コムイ室長。実は微妙に部外者っぽくないんすよね」
黒の教団内部、そこにはゴーレムを通してアレンを監視していたモノ達。そのうちの一人が本部室長であるコムイ・リー。そしてその部下であるリーバー・ウィンハム。
「ここを見て、兄さん。この子、クロス元帥のゴーレムを連れているのよ」
そしてコムイのことを兄さんと呼ぶ黒髪ツインテールの彼女の名前はリナリー・リー。コムイの実妹であり、本部に所属するエクソシストの一人だ。
「ん?あれ、ほんとだ」
「どうします?今からでも突き落としますか?」
「いきなりそうするのもねえ。どうしよっかなぁ?」
『すみませーん。クロス・マリアン神父の紹介で来たアレン・ウォーカーです。教団の幹部に方に謁見したのですが』
「紹介って言ってますけど、室長何か聞いてますか?」
「知らない」
「あぁ〜、そこの君。後ろの門番の身体検査受けて」
「え?後ろの門番って、まさかこの顔?」
アレンが振り向くと、そこには壁に張り付いた大きなモアイのような顔があった。
「ど、どうも…?」
どうしていい分からず、なんとなく挨拶をしてみるといきなり顔が伸びてきてアレンに近づいてきた。一種のホラーである。
《レントゲン検査!人間かAKUMAか判別!》
門番と言われる顔の眼から光が放射される。ここの門番の役目はただ一つ、AKUMAをこの本部に侵入させないこと。悪人だろうがなんだろうが侵入されたのが人間であればそこまで大きな問題にはならない。しかしそれがAKUMAとなれば話は別だ。それを防ぐためにまず、人間であることを判別するのがこの門番の役目。
《!?映らない?バグか?》
人間であればその中身が映る。それこそ普通のレントゲンと変わらない。だがAKUMAの場合はそうはいかない。AKUMAの材料の一つ、ダークマターで作られたAKUMAの骨格。文字通り人の皮を被り社会に紛れ込むそれは、見た目で判断することはまず不可能だ。
そしてもう一つ、AKUMAかどうか見分けれる方法。人間とAKUMAの決定的な違いがある。それは
「あ〜、ちょっと遅かったか」
「「!?」」
その場にいる全員が、モニターの前にいるローブの少年に気付かなかった。全員がその場から離れ、リナリーは自分のイノセンスであるダークブーツを発動させると問いをかける。
「あなた、誰?」
「いや、俺のことよりまずはアレンのことだ。あいつ呪われるかなぁ、門番の検査に引っかかるぞ?これ」
「呪われてる?」
リナリーはこのローブの少年が何を言っているのか全く分からなかったが、その答えはすぐにやってきた。
『こいつアウトォォォオオオ!!!』
「ほらやっぱり…」
ブー!と大きな音と同時に門番の叫び声が聞こえた。人間とAKUMAのもう一つの違い。それは
「おい!場内のエクソシストは!?」
「大丈夫じゃ、神田がもう着いておる」
「神田くんなら安心だね。それで、さっきのリナリーの続きだけど君は誰なんだい?」
今度は黒の教団本部の室長であるコムイが問いかける。しかしその問いに答えることはなく、重く静かな空気がこの場を支配しいた。今自分たちの目の前にいるのは敵か味方か。人間かAKUMAか。誰もがそう思考を凝らしていると。
『あれ?この気配ってヘブラスカ?ねえねえ!もしかしてここにヘブラスカいるの!?』
「なんだ、起きてたのか。てっきり寝てるかと思ってた」
突然響いた声。だが周りを見渡しても声の主は見つからない。そしてその声の主はあろうことか "ヘブラスカ"のことを知っていた。
「今の声は?それに、どうしてヘブくんのことを」
「そりゃ知ってますよ。というかコムイさん、また机の上整理してないでしょ。たまには整理してください」
『ねえねえ!ヘブラスカのところに行ってもいい!?行ってもいいよね!それじゃ行ってきまーす!』
「あ!こら待て "キャスパリーグ" !」
強い風と同時にローブの中から白く光る何かが飛び出してきた。それは壁をすり抜けてどこかに行ってしまった。その時、顔を隠していたローブが取れて、少年の素顔が露わになる。その顔をコムイはよく知っている。4年前に一度だけ会っただけだが、それでもよく覚えていた。
「アーサー君!」
「どうもお久しぶりです、コムイさん。そして初めまして、黒の教団の皆さん。俺の名前はアーサー・ペンドラゴン」
クロス・マリアン元帥の弟子です