してんのっ! ~魔王軍四天王のお仕事はアイドル活動~   作:ぶしゅくろ

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第9話:お料理するのっ!

「エリーゼの――」

「三十分クッキング~!」

 

 ちゃら~っちゃっちゃちゃちゃ♪

 タイトルコールのあと、軽快な音楽が流れてタイトルが画面に出ているであろうこの微妙な時間。横にいるエリーゼのマネをして、ニコニコしながらカメラを見ているとディレクターさんがサインを送って来た。

 

 3・2・1――

 

「――皆さま御機嫌よう。今週もはじまりました『エリーゼの三十分クッキング』、四天王のエリーゼでございます。先程のタイトルコールでお気付きかと思いますが、今日はかわいいゲストの方が遊びに来てくれました。……ご紹介いたしますわ、四天王のユーフィちゃんです!」

「はい、どうも皆さんこんにちは。四天王のユーフィです。今日はよろしくお願いします!」

 

 ――今回、ユーフィがゲストとして呼ばれている『エリーゼの三十分クッキング』とは、毎週放送されている人気お料理番組である。

 料理が得意なエリーゼが担当しており、マネして作ることでエリーゼの手料理と同じ味を堪能することができると魔王軍では評判らしい。

 放送が終わると、紹介された料理の材料が売り切れることが日常化しているので、魔王軍の寂しい男たちは頑張って独りで料理をしてエリーゼちゃんの手料理の味を再現しているのだろう……。

 

「今日のお料理はこちら、『夏野菜たっぷりドライカレー』。これから暑さも本番を迎えますし、しっかり食べて夏バテを予防するには最適のメニューですわ」

「へ~、ドライカレーですか。スパイスが食欲をそそりますし冷やしてもおいしいから、確かに夏にぴったりですね」

 

 中々に気のきいた知的なコメントを返せたことにユーフィは満足していた。これは、名アシスタントとして伝説になるレベルではないか――。

 

「ボクも普通のカレーは作れるんですが、ドライカレーの作り方は知らないですね……。簡単に作れるんですか?」

「――えっ」

 

 「HAHAHA! 安心しなよユーフィ、そんなの簡単SA~☆」みたいな返しを期待していたのだが――エリーゼはそんなキャラではない――、何故かエリーゼは驚いたようにユーフィを見つめていた。

 

「……ユーフィちゃんってお料理できるんですの?」

 

 何を驚いているのかと思ったら『カレーつくれる』発言に驚いていたらしい。まあ、確かに今の見た目はゆるふわ銀髪美少女ロリなので仕方のないことかもしれない。

 しかし、元の世界では一人暮らしをしていたのだ。料理の一つや二つくらい作れて当然である。ここは少し、大人として人生経験の違いってやつを見せつけておく(わからせてやる)か――、とユーフィはニヤリと笑った。

 

「いやいや。掃除とか洗濯とか、大抵のことはできますよ? こっちに来るまでは独りで生きてたんですからね!」

「――なっ!」

 

 だが、ドヤ顔で自分の生活能力の高さをアピールしてみたところで、その実、単純に独身で女っ気もなかっただけである。

 そのことを思い出すと、ひじょーに悲しくなってきた。どーしよ? 泣きそうかも。

 

「あ、なんか思い出したら悲しくなってきました――」

「ユーフィちゃん!」

「ふぎゅぅ……」

 

 感極まった様子のエリーゼが抱き締めてきた。

 はわわ、柔らかくて良い匂いがしましゅ! くんかくんか。

 

「大丈夫! もうユーフィちゃんは一人じゃないですわ!」

 

 エリーゼは、まだこんなにも幼いユーフィが一人で生きていたということを聞いて慰めてくれているようだ。

 なるほど、元の世界での姿を知らなければ、さっきの発言は確かに不憫な生い立ちを想像させる。

 これは訂正しておいた方がいいかな、とユーフィは考えたが――。

 

「うぇへ、ふひぃ……」

 

 四天王の中でも一番の高さを誇る二つの山に顔をはさまれ、ユーフィの理性は溶けてしまった。細かい事はどうでもいい。今はこの感触を堪能するのだ!

 しかし、くんかくんかしながら、頭をぐりぐり動かしたりしているとエリーゼは離れてしまった。

 

「あ、ごめんなさい。苦しかったですわね」

「むふぅ……。いえ、大丈夫です! ありがとうございます!」

 

 苦しくてもがいていると勘違いされてしまったようである。

 もう少し堪能したかったが仕方がない。気持ちをお仕事に切り替えていこう――。

 

「でも、エリーゼさんが料理が得意なのも意外、と言うか驚きなんですが」

「え?」

「ほら、だってお嬢様っぽいキャラだし。料理とか全くしたことないのに作って、変な謎の物体を錬成しそうな――」

「……あらあら?」

 

 あらあら、うふふ。エリーゼさん激おこであった。

 

「――しそうな一般的なお嬢様キャラとは一線を画する感じなので、料理が得意なのも納得ですね!」

「……ほんと、ユーフィちゃんは調子がいいんですから。……めっ! ですわ」

「ごっふぅ!」

 

 してんのうの エリーゼの めっ! こうかは ばつぐんだ!

 

 お姉さん系美少女に不意打ちで『めっ!』されたユーフィは崩れ落ちた。危うく死にかけたが、なんとか生命活動は維持できたようだ。

 

「そ、そんなにショック受けなくても……。大丈夫ですの?」

「だ、大丈夫です。エリーゼお姉ちゃん」

「うぐっふぅ!」

 

 してんのうの ユーフィの おねえちゃん! こうかは ばつぐんだ!

 

 エリーゼの『お姉さん属性』にやられていたユーフィは、思わず『エリーゼお姉ちゃん』と呼んでしまった。

 呼ばれたエリーゼは変な呻き声を出した後、苦しそうに俯いているがどうしたのだろう。まさか、そんなに嫌だったのか――。

 

「あ、ごめんなさいエリーゼさん。つい――」

「ユーフィちゃんがそう呼びたいなら……、いえ、やめておきましょう。あまりに破壊力が強すぎますわ。私、理性が持つ自信がありませんもの」

「えー……」

 

 これ以上『お姉ちゃん』呼びを続けるとブチ切れるらしい……。こわ。二度と呼ばないでおこう、とユーフィは心に誓った。

 

「――さて、とりあえず、ユーフィちゃんには玉葱の皮剥きをお願いしますわ」

「はい、まかせてください」

 

 気を取り直し、与えられた仕事をこなしてやろうとユーフィは張り切った。

 むきむき……。むきむき……。

 玉葱の皮を剥いている横でエリーゼが味付けに使うものを紹介している――。

 

「おろしにんにくを小さじ1杯、ソースを大さじ1杯用意しましょう――」

 

 アシスタントとして呼ばれたくせに黙ったままというのもアレだし、気のきいたコメントをしておこうかとユーフィは横から口を挟んだ。

 

「小さじが『ピャッ』って感じで、大さじが『ビャッ』って感じで入れると良いと思います」

「よ・く・あ・り・ま・せ・ん・わ! 何ですのそれは!」

 

 ……怒られてしまった。

 

「いや、小さじっぽいスプーンを持ってない人とか、量るのが面倒な人向けへのアドバイスですよ! こういうのは、多めに入れるのか少なめに入れるのかだけ分かってれば、後は目分量で大丈夫なんですって!」

「……」

 

 エリーゼちゃんがジト目で睨んでいるよ! かわいいね!

 

「――はぁ。この番組は、これを観て同じように作った方が、同じ味を再現できることが大事なんですから、そこをきちんとしないと毎回違う味ができてしまうでしょう? 慣れている方なら、それでもいいのかもしれませんが」

「なるほど……。少し上級者向け過ぎるアドバイスだったようですね」

「なんでドヤ顔してますの……」

 

 レベルが高すぎるアドバイスだったようだ。もう少し初心者に合わせてあげないと駄目らしい。

 しかし、その後も何かと『できるアシスタント』っぷりを発揮しようとしたユーフィだが、玉葱のみじん切りのやり方を知らないことが明らかになるなど、『ぽんこつアシスタント』化が加速していった――。

 

「――と言う訳で、『夏野菜たっぷりドライカレー』の完成です。皆さまが本日のまとめをご覧いただいている間に、私たちはお食事の準備をしたいと思います」

「はい、しっかり復習して下さいね!」

 

 冒頭での、料理できますオーラは何処へやらのぽんこつユーフィに振り回されながらも、エリーゼがしっかりと料理を完成させたところで一度カットが入った。放送では、この間に『今日のまとめ』が表示されているらしい。

 そして、作った料理を食べるところから再び撮影がスタートする――。

 

「では、いただきますっ!」

「はい、召し上がれ」

「……はむっ! ――おいひいです! ね!」

「――ふふっ」

 

 「おいしい、おいしい」と言いながら、もっきゅもっきゅとほっぺを膨らませてご飯を頬張っているユーフィ。そんな彼女を見つめながら、エリーゼはやさしく微笑んだ。

 

「ユーフィちゃん、一度にそんなにいっぱい詰め込まなくてもお料理は逃げませんのよ? ふふっ、ハムリスーみたいですわ。かわいい」

「むっ」

 

 別にユーフィもわざとそんな食べ方をしている訳ではない。

 この体になってからというもの、前と同じ感覚で食べ物を入れると、小さくなった今の口では容量がいっぱいいっぱいになってしまうのだ。ハムリスーみたいだと笑われたので抗議の一つでもしたかったが、口いっぱいにご飯が入っていたので諦めた。

 

 ――ハムリスーとはこの世界にいる、愛くるしい顔をしているがどこかアホっぽい小動物である。後先考えずにエサを頬張り、よく巣穴の入り口などで詰まるアホかわいい生き物だ。

 思慮深い自分とは、似ても似つかない生き物じゃないかとユーフィは思った――。

 

「でも本当にユーフィちゃんはおいしそうに食べてくれますから、こちらとしても作りがいがありますわ」

「えへへ。なんなら毎回ゲストに呼んでくれてもいいんですよ!」

 

 グラビア撮影のお仕事とかより、よっぽどマシである。しかも、おいしいご飯が食べられるし、良い事尽くめだ。

 

「そうですわね……。次はユーフィちゃんの料理も見てみたいですし――」

「おっ! じゃあカレー作ってあげますね!」

「いえ、カレーはちょっと……。今回がドライカレーでしたので」

「え……。じゃあ、カレーうどん?」

「――カレーから離れてくださいます? 他に得意なお料理はないんですの?」

 

 「カレー以外に何が作れるのか」と問われてユーフィは答えに窮した。

 

 ――自炊はしていたが、カレー以外でまともに料理を作ったことはなかった気がする……。

 

 お米だけ炊いておけば、後は納豆とかスーパーの惣菜を買ってくれば生活できていたのだ。たまに、豆腐を入れるだけで完成する『麻婆豆腐の素』を買ってきて麻婆豆腐とか作っていたので、すっかり自炊できている気になっていたが、一から自力で作れる料理なんてカレーしかないのでは……。

 エリーゼを見るとユーフィの様子から全てを察したのか、残念な子を見るような慈しみの目でこちらを見ていた。これはまずい。何か、何かいつもよく作っていたメニューを言わなければ――。

 

「お肉焼いたりも……、できます」

「大丈夫ですわ、ユーフィちゃん。その歳でカレーを作れるだけでもとってもえらいですわ。他のお料理も一緒にお勉強していきましょう」

「……」

 

 頭を撫でられ、完全に子ども扱いされてしまった。だが、ここで何か言うと余計に子どもっぽくなりそうなので、ユーフィは黙ってご飯を食べることにした。沈黙は金である。

 

 ――もっきゅもっきゅと拗ねたように無言でご飯を頬張るユーフィを、エリーゼや現場のスタッフたちは微笑ましく見つめていた。

 

 この回が放送されたところ、料理なんて簡単だと背伸びしたがるユーフィちゃんと、それをやさしく導く料理上手なエリーゼちゃんという『おねロリ』が人気を博し、ユーフィはアシスタントとしてレギュラー出演することに決まった。

 おいしい料理が食べられるのでユーフィも喜んでいたのだが、『名アシスタント』ポジションではなく、普段料理をしない視聴者の声を代弁するような『ぽんこつアシスタント』枠として採用されたことは、唯一の不満であった。

 

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