してんのっ! ~魔王軍四天王のお仕事はアイドル活動~   作:ぶしゅくろ

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第11話:筋トレするのっ!

「んっ、ふっ、腕立てはこうやってっ、胸が床につくくらいまでっ、しっかりと、んっ、下ろすんやでっ」

 

 動きやすいトレーニングウェアを着たコレットが、腕立てのフォームを説明しながら実践している。

 説明した言葉通りに胸が床につき、その谷間に汗が一筋流れ落ちたのを見つめながら、ユーフィはこの番組のすべてを理解した――。

 

 あ、これ知ってる。えっちなやつだ。

 

 美少女が真面目に運動してるのに、吐息やアングルでなんかえっちな感じになっちゃってて、それを言うに言えないやつである。なぜなら真面目にエクササイズしに見に来ているはずなのに、そんなことを口に出そうものなら、お前はナニしにきてるんだと思われてしまう。

 

 元男のユーフィは詳しかった。

 

 ――今回、ユーフィは四天王のコレットが担当しているトレーニング番組にゲストとして出演していた。コレットは運動を得意としており、四天王でダンスといえばコレットというのは周知の事実である。

 そんなコレットが、筋トレや軽い運動を紹介しつつ、運動不足な視聴者たちと一緒にトレーニングするというコンセプトの人気番組だ。

 

「……でも、コレット軍のみなさんに運動不足の人なんていないのでは?」

 

 ユーフィは至極当然の疑問を口にした。コレット軍と言えば魔王軍の中でも近接特化の高い戦闘力で有名なのである。ロリコン集団のユーフィ軍とは大違いだ。

 

「まあ、そうやな。だから、どっちかって言うとこの放送は、技術職とか引きこもりがちな人ら向けに、ウチと一緒に運動しよーって感じやねん」

「なるほど。みなさん、お仕事も大事ですけどしっかり運動もしてくださいね!」

「ユーフィもお菓子ばっかり食べとるし、ほっぺたプニプニになっとんちゃうか~?」

「ちょっ、や、やめてください!」

 

 ユーフィのほっぺたをぷにぷにするコレットと、抵抗するユーフィのいちゃいちゃはたっぷりと撮影された。四天王同士の絡みは非常に素晴らしいので仕方ない。いいぞもっとやれ。

 ただ、あまりの尊さに撮影していたカメラマンが、あら~と言って尊死したので一度カットが入った。

 

 

 

 

 

「じゃあ、ユーフィも腕立て10回がんばってみよか。最初は膝つけてやるのもオススメやで」

 

 カメラマンも蘇生させ、一通りの説明とコレットによるお手本が終わったので、いよいよユーフィが挑戦する番になった。

 ――なったのだが、ちびっこだと思って随分と低い目標設定のようだ。見くびられては困る。

 

「腕立てをするのはいいですけど――。別に、10回以上やってしまっても構わないんでしょう?」

 

 ユーフィは、コレットに背を向けて顔だけ振り返りながら、過去最高のドヤ顔で言い放った。

 

「いやいや、初心者にとっては腕立て10回でも結構キツイで?」

「まあ、運動不足の人がマネしちゃうと危険ですからね」

「もうなんかそのドヤ顔見たらオチわかったわ……」

 

 人生で一度は言ってみたいセリフの1つをキメてご機嫌のユーフィを、いつものドヤ顔ぽんこつユーフィか、とコレットは生暖かい目で見ていた。

 

 しかし、今回はユーフィなりにちゃんと勝算あっての発言である。

 

 確かに今までは、体がロリになったことでその違いから結果としてぽんこつ化していたが、今回は腕立て伏せという自重トレーニングだ。体が縮んだと同時に体重も軽くなっているので、自重トレーニングにおいて影響はほぼないはずである。

 むしろ軽くなった分、有利まであるかもしれない。

 

 わからせてやるか――、とユーフィは腕立てを始めた。

 

「い~ち、にぃい~……っい!、……さ、さ~……」

「……まだ3回目やで」

 

 ――2回目からすでにあやしくなっていたユーフィは、3回目でなかなか体が上がらずにプルプルしていた。

 

「……さぁ~ん! ふぅ……。」

「10回どころか3回やったな」

 

 なんとか3回やったところで限界がきたので、いかにもやり遂げましたよという雰囲気で終わってみたが、コレットに冷静に突っ込まれてしまった。ごまかせなかったらしい。

 

「ほら、きつかったら最初はこうやって、膝ついてやってみ」

 

 コレットに促され、膝をついて追加で2回やったところで、やはり限界を迎え、ユーフィの腕立て収録は終わりとなった――。

 

 

 

 

 

「ダンベル持ち上げるときは、反動をつけないようにしてっ、んっ、下ろす時もゆっくり下ろすんやっ」

 

 腕立ての次は、ダンベルを使ったトレーニングらしい。

 コレットが3kgのダンベルを持ってアームカールについて説明している――。

 

「よしっ! じゃあ、ボクも3kgでやってみますね」

「初心者は無理せず1kgとか『錘スライム』にしといた方がええで」

 

 ――ちなみに『錘スライム』とは、小さいスライムに水を吸収させていい感じの重さになったもののことである。元の世界でいうところの「ダンベルがない人は、まずは2Lペットボトルでやってみよう」というやつだ。

 

「ダンスの練習とかで結構動いてますし、これくらい余裕です」

「さっきの腕立てから、なんでそんな自信持てんねん……」

 

 元の体なら5kgのダンベルでも10回はいけていたが、今はロリになってしまった――。

 それでも普段から体を動かしているし、3kgならいけるだろうとユーフィはダンベルに手をかけた。ユーフィはダンスやってるからな。

 

「ん゛お゛っ!」

 

 軽く持ち上げようとしたが、重くて持ち上がらずガクンっとなりユーフィは無様な声をあげた。

 ダンベル君によるイキりロリわからせ完了である。ダンス万能説は否定された。

 

「だからゆったやん。その様子やと1kgも無理そうやから、スライムから始めとき」

「……は~い」

 

 コレットが励ますように頭をなでながらスライムを渡してきた。

 さすがに反論の余地もなかったため、子ども扱いにだけはジト目で抗議しながらスライムを受け取る。

 大人しく渡されたスライムに水をコポコポ飲ませていると、その間にコレットがカメラに向かって説明していた――。

 

「いつもゆっとるけど、一番大事なんは重さとかじゃなくて、毎日続けていくことやからな。みんなも無理せず続けて習慣にするんが大事やで」

 

 毎日努力して未来のびゅーてぃふるすたーを目指そうかなぁ――と、思いながらコレットを眺めていると、こちらを見たコレットが慌てて駆け寄ってきた。

 

「ちょっ、それ飲ませすぎや!」

「――へ? わわわ、でかっ! おもっ!」

 

 余所見をしながらスライムに水をやっていたら、どんどん大きく重たくなってユーフィの腕では抱えきれなくなっていた――。

 

「わぷっ!」

 

 膨らんだスライムでバランスを崩したユーフィは、スライムを落としてその上へ倒れこんだ。ユーフィに上から押し潰されたスライムはパンパンに膨らんでいたこともあって弾け飛び、その破片はユーフィの顔や胸へと飛び散った。

 

「うえぇ~、ベタベタする……」

 

 へたり込んだユーフィが、顔や胸元についたベタベタと糸を引く粘液を拭いながら涙目でつぶやいた。

 

「あ~あ~、大丈夫か? ユーフィはまだちっこいねんから無理したアカンで?」

 

 慈愛の表情を浮かべたコレットが、タオルで顔をぐしぐしと拭いてくれた。もはや完全に背伸びをして裏目に出て涙目になっている幼女扱いである。

 ――ほとんど合っているのでは?

 

 

 

 

 

 後から聞いた話では、筋トレ番組のはずなのに、トレーニングとは全く関係のないこの『粘液ベタベタユーフィちゃん』のシーンが何故か視聴率が一番高くなったらしい。

 

 やっぱりえっちな番組じゃないかっ! と、筋肉痛に悩まされながらユーフィは怒った。

 

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