してんのっ! ~魔王軍四天王のお仕事はアイドル活動~ 作:ぶしゅくろ
約束の時間を過ぎてしまったので、ユーフィは急いで城から飛び出した。予定外のドレス姿なので非常に動きづらい。
「ユーフィ様! こちらです!」
「ユウさん!」
物陰から名前を呼ばれたので、そっちに顔を向けると頼りになる有能マネージャーのユウさんが手招きしている。久々に顔を見たユーフィは嬉しくなってユウさんの手を取りぴょんぴょん飛び跳ねた。
「お久しぶりです! 元気でしたか?」
「それはこちらのセリフですが……。とにかくご無事で何よりです。……メイドをしていると聞いていたのですが、パーティに参加されていたのですか?」
「あっ、これは、え~っと……。まあ、いろいろありまして。えへへ」
道中、ドレス姿に突っ込まれたがユーフィは笑ってごまかした。
仕方がなかったとはいえ、踊ってて遅刻しましたとか言ったら呆れられてしまう。すでに手遅れな気もするが。
そうして、ユウさんに連れられて進んだ路地には、見覚えのある三人の少女たちが待っていた――。
「ユーフィちゃん!」
「ロザリーさん! お久しぶりで――。ぷぎゅっ!」
いち早く気づいたロザリーが、こちらに走ってきたと思ったらそのまま抱きしめられてしまった。会えなかった時間を埋めるような全力のハグである。もはや絞め殺しにきているのではないかとユーフィは恐怖を覚えた。
「無事でよかったよ~! 大丈夫? 変なことされてない?」
「ほんっと~に心配しましたのよ?」
「はぁ~安心したわ~。てかなんでドレスきとん?」
「く、くるちぃ……」
そんな四天王たちの仲睦まじい再会シーンを、少し離れた位置で幸せそうに無言で頷きながら見つめている四人組がいることにユーフィは気づいた。まるで後方腕組み見守りおじさんである。
――なんかすごいマッチョな人とすごいインテリ眼鏡な人とすごい普通の人とすごい紳士な人がいる。
マッチョな人と眼鏡の人は、それぞれ近接特化のコレット軍と魔法特化のエリーゼ軍なんだろうなとユーフィは当たりを付けた。そうなると残り二人のうち、どちらかが絶対役に立ちそうにない
「こちらはそれぞれの親衛隊ナンバー1の方々です。この方がユーフィ軍ナンバー1の、えー……」
「私の名前を覚えて頂く必要はございません。ただ、あなたに魅了された紳士たちの一人にすぎませんので」
ユウさんが名前を紹介するか迷ったところで、紳士さんがなんか変なことを言って下がっていった。つまりロリコンという名の紳士ってこと?
「なんかね、私たちのこと応援したいだけだから自分たちの名前なんて知ってもらう必要ないっていう方針なんだって。気にしないであげて」
私も知らないもん――、とロザリーが笑いながら教えてくれた。
だからユウさんも名前を言うべきか迷ったのか。あくまでも影に徹するファンの鑑ってことなんだろう。
ユーフィたんユーフィたん言ってくるあの
まあいっか。もう会うこともないだろうし――、とユーフィは
「無事にユーフィ様と合流できたことですし、急いでここから――」
「待て!」
さあ、出発しようところで、ちょっと待ったコールによりユウさんの言葉が中断された。
親衛隊とユウさんが、四天王たちをかばうように前に出る。
この声は――、と思ってユーフィが見てみると、そこにいたのはやはりあの男であった。
「うげ、勇者……」
「キミが四天王だったなんて信じられなかった……。だけど、この状況を見るに本当のことだったんだね。
数秒前にフラグをたてたことにより、勇者が現れてしまったようだ。ユーフィちゃんのせいです。あーあ。
「いや、あなたが勝手に勘違いして連れて行ったんでしょうが。誘拐ですよ誘拐! この犯罪者! ラーメン食べたかったのに!」
そういえば、こいつのせいで豚骨ラーメンを食べそこねたんだった、ということを思い出してユーフィは憤慨した。
それを聞いた四天王の面々からも「サイテー」「変質者ですわね」「誘拐は犯罪やで」と非難が飛んできた。
「ぐっ……。しかし、四天王だとわかった以上、キミを、キミたちを見逃すわけにはいかない!」
メンタルフルボッコにされても、めげずに武器を構える勇者。戦うつもりのようだ。対してこちらの
負ける要素ゼロですわ勝ったなガハハ――、とユーフィは勝ちを確信していた。戦いは数なんだよ。卑怯とは言うまいなあ勇者よ、こちとら魔王軍だぞ!
「――申し訳ないのですが、ここは私に譲っていただけますか」
数的有利を投げ捨てるアホがいた!
よりにもよって
そんなユーフィの心配をよそに、みんな「お前がそう言うなら仕方ない……」みたいな感じで下がっていった。おい、やめろ馬鹿。この作戦は早くも終了ですね。
「――勇者よ。これは、ただの八つ当たりに過ぎないのかもしれません。
「なに?」
「ですが、それでも! それでも私はあなたを許すことはできないのです!」
「何をわけのわからないことを! こないならこっちから――」
次の瞬間、大砲でも打ち込まれたのかというほどの轟音と衝撃が奔り、勇者が後ろの壁まで吹き飛んでめり込んでいた。
さっきまで勇者が立ってた場所には、杖を突き出したポーズの紳士さんがいるので、どうやら杖で突いてぶっ飛ばしたらしい――。
え、さすがに死んだんじゃないの勇者……、とユーフィが恐る恐る見つめていると「ガハッ!」とかいって吐血してゲホゲホうずくまっていた。一応生きてるみたいだ。
「あなたの敗因はたった一つ……。たった一つの
それはどうなんだ――、という決め台詞を放った紳士は、もう立ち上がることもできない勇者に背を向けてこちらへ戻ってきた。
「つっよ……」
「あの方は、元・魔王直属部隊の隊長ですからね。それこそ我が国では魔王様の次くらいに強いですよ」
思わずこぼれたユーフィの呟きにユウさんが答えてくれた。
なんでそんなすごい人が
ユーフィはこの世界の真理について思いを馳せていたが、ユウさんの呼びかけで我に返った。
「皆様、勇者を退けたとはいえ、他の追っ手が来るかもしれません。急いでここから――」
「お待ちいただけますかな」
ちょっと待ったコールによりユウさんの言葉が中断された(二度目)。
次は誰だよもう! とユーフィが視線を向けると、そこにはいかにも魔法使いですって感じのおじさんが立っていた。
――あ、あの人舞踏会で王様の隣に座ってた人だ。
クラリス姫とのダンスを見て、スタンディングオベーションをしてたノリのいいおじさんじゃん、とユーフィは思い出した。
「ぐっ……、マジーメ様」
「ふむ。勇者殿、派手にやられましたな。無理せずじっとしていなされ」
マジーメは勇者の状態を確認した後、ユーフィをじっと見つめてきた。
ユーフィにとって、マジーメのことはパーティで大騒ぎしていた姿しか知らなかったので、そのギャップに少し怖くなり、思わずロザリーの後ろに隠れた。
「あなたとクラリス姫とのダンスは、本当に素晴らしいものでした。……それだけに残念です」
「は?」
マジーメの話を聞いたロザリーがギギギとユーフィに振り向いた。怖い。
「ユーフィちゃんが予定時間になっても来ないから、みんなすっごく心配してたんだよ? それなのに、お姫様と楽しくダンスしてたの?」
「い、いや、違うんです!」
パーティに出席してクラリス姫と踊っていたら8時を過ぎていたので、何も違わない。
「お~、浮気がバレた人って『違うの!』って言うんはホンマやってんな~」
「何を馬鹿なこと言ってますの」
コレットとエリーゼが楽しそうに観戦している。見てないで助けてほしい。
「しかし、まさかあの冴えない感じのメイドが、このような見目麗しい少女だったとは――。この大賢者マジーメの目をもってしても見抜けませんでしたぞ」
「は?」
その言葉を聞き、ロザリーが今度はマジーメへとギギギと振り返る。怖い。
ロザリーちゃんが「は?」と言ったら用心せい。
「ユーフィちゃんのかわいさに気づかなかったとか、その目節穴なんじゃない?」
「おっちゃん一回眼科行ったほうがええんちゃう?」
「恥ずかしがらずに、老眼鏡をつけることをおすすめいたしますわ」
マジーメがユーフィのかわいさに気が付かなかったのは、単にユーフィが変装眼鏡(認識疎外魔法付き)をかけていたからなのだが、そんなことなど知らない四天王たちは、聞き捨てならんと言いたい放題であった。
「ほら! ユーフィちゃんも何か言ってやりなよ!」
ひどいことを言うおじさんに、本人からも何か言ってやれと促されて困惑したが、そういえば
「えーっと……、視力よわよわ髪の毛スカスカ〜♡ ざこざこおじさんかわいそぉ~♡ ざこざこざぁ~こ♡」
「………………」
突如、ユーフィの口から飛び出したメスガキ煽りに敵も味方も絶句した。
せっかくなので先輩から教わった煽りを披露してみたのだが、周りの反応的に使いどころを間違えたかも知れないとユーフィは恥ずかしくなってきた。所詮ファッションメスガキムーブである。
「――むおおおおおおおおお!!」
「ひぃっ!」
ユーフィのメスガキ煽りを受けたマジーメは俯いてプルプル震えたかと思うと、突然、うなり声をあげ光り輝きながら宙に浮き始めた。
マジーメモン進化ぁ~! って感じである。人間が進化するな。
「ちょ、ちょっとユーフィちゃん何したの!?」
「何もしてませんよ!」
「ヤバ。おっちゃんめっちゃ光っとるやん」
「人間の方ってあんなに発光するんですのね。知りませんでしたわ」
四天王たちが目の前で起きている怪現象を見て楽しそうにワイワイ騒いでいるのを背中で聞きながら、ユウさんや親衛隊たち戦闘チームは油断なく警戒していた。
どういうわけか、マジーメの魔力がどんどん上がっていく。明らかにパワーアップ中の敵を前に緊張が走る――。
――光が収まると、そこにいたのは筋肉モリモリマッチョマンと化したマジーメであった。ずいぶん……鍛え直したな……。当然上半身の服は、はじけ飛んでいて半裸である。
「マ、マジーメ様……?」
勇者が恐る恐る声をかける。
倒れて動けない彼からはマジーメの後ろ姿しか見えていないが、明らかに変わり果てたそのシルエットに困惑していた。
「マジーメ? 違いますな勇者殿。……私は、
穏やかな心を持ちながらも
「メスガキは……わからせねばならない……」
筋肉モリモリ半裸の超マジーメがこちらにゆっくりと歩いてくる。なんか歩くたびに、『ギュピッ! ギュピッ!』という謎の効果音がどこからともなく聞こえてくる。もはや本当に人間なのか疑問である。
「――ユウさん、ここは私たちにまかせて、四天王の皆さまをつれて先に行ってください」
「……そうですね。申し訳ありませんがよろしくお願いします」
親衛隊が『ここは俺たちに任せて先に行け!』を発動し、ユウさんが了承した。
すごい死亡フラグな気がするけど大丈夫なんだろうか? とユーフィは不安になった。
これ、まかせて大丈夫なの? と四天王たちを見回すと、みんながアイコンタクトを交わしてうなずいた。なにかよくわからなかったが、とりあえずユーフィも合わせてうなずく。うん! ……なにが?
「けちょんけちょんにしたり!」
「決して無理はしないでくださいね」
「負けないで!」
四天王がそれぞれの親衛隊にエールを送る。さっきのは
「ほら! ユーフィちゃんも!」
「えっと……、がんばってください!」
ロザリーに促されたユーフィは、せっかくだし何かカッコイイことを言おうとしたが、何も思いつかなかったので小学生並みの語彙力で激励した。がんばえー。
「「「「御意」」」」
推しからの直接の
「やれやれ……。わからせの邪魔をするというのであれば、先にあなた方から倒させてもらいますかな」
チートバフにより強化された親衛隊と、メスガキ煽りにより強化された超賢者が激突した――。
ユーフィたちは敵への対応を親衛隊に任せたあと、ユウさんについて走っていた。
親衛隊とマジーメの戦闘が始まったのか、後ろの方でドッタンバッタン大騒ぎしている音が聞こえてくる。
「――それで、どうやって魔王城まで戻るんですか? まさかこのまま走って行くんですか?」
勇者が自分を抱えて超スピードで爆走してたことを思い出して、ユーフィが問いかける。
「いえ、馬車を確保しています。ご安心ください。――あちらです! 皆様、お乗りください」
言われて目を向けると、なるほど確かに一般的な馬車が用意されてあった。操縦はユウさんがするのだろう。みんなで、よいしょよいしょと馬車に乗り込んだ。
ユウさんは、四天王たち(主にユーフィ)が馬車に乗り込むのに手を貸した後、諭すようにユーフィへ声をかけた。
「あの、ユーフィ様……。くれぐれも馬車から体を乗り出したり、飛び降りたりしないでくださいね」
「そんなことしませんよ! ボクがそんな子どもに見えますか?」
ユーフィの言葉を聞いたユウさんは、なんとも言えない表情で御者台へ移動した。
なんだろう。もしかして馬車から身を乗り出して落っこちるような子どもだと思われているのだろうか……。別に、初めて乗るわけでもないしそんなことしないのだが。誠に遺憾である。
「やっぱり心配だなあ……。ほら、ユーフィちゃん私の膝の上においで」
「行きません! なんなんですかもう! みんなして子ども扱いして!」
「いや、勝手にどっか行って誘拐されたやん」
「あれは勇者が悪いんじゃないですか!」
「まあまあ。お菓子がありますから、一緒に食べましょう」
ユーフィは貰ったお菓子をもきゅもきゅほおばりながら、仲間たちからの子ども扱いに頭を悩ませた。その仲間たちは「怖かったね~」「もう大丈夫だからね~」と頭をなでてきている。遺憾の極み。
そのあとは、国境付近で馬車を乗り継ぎ、何事もなくオータク国の領域へ入ることができた。
途中で、ボロボロになってるけど割と元気そうな親衛隊の四人も無事に追いつき、魔王城が見えてくるころには、みんなで作戦の成功を乾杯して喜び合った。
こうして、ユーフィは一週間ぶりに魔王城へ帰還することができたのであった。