東京エリア近郊の廃墟街にて、東京エリアの魔法少女達とアンノウンと呼ばれる異形の少女が衝突していた。
「どうしたっ! そんなものかよ、魔法少女ってのはっ!」
異形の少女が瓦礫の山に座って、魔法少女達を煽った。
「畜生がっ! 調子に乗るんじゃねぇ!」
チンピラっぽい魔法少女が異形を指さして言った。
異形はカチンと来た。
「誰が畜生だ。失礼だろうがっ」
「ぶふぅ……っ!」
瞬時に瓦礫の山から飛び降りた異形がチンピラっぽい魔法少女の顔面に飛び蹴りを浴びせ、蹴り飛ばす。
魔法少女達は思った。
――コレ、倒すの無理じゃね? と、
一週間前、定期会議において魔法少女全体にエスパーダから「全軍をあげて、アンノウンを討伐せよ」という命令が出された。
表向きには評議会もとい異人類の命令に従う形で、裏では異人類にバレない形での若い魔法少女達の育成のためである。
アンノウンの現在地に最も近い東京エリアの魔法少女達が第一陣として、アンノウンに攻撃を仕掛け、他のエリアの魔法少女達が続々と加勢するという作戦が実行され、こうして魔法少女達はアンノウンと戦っている。
「さぁ――次は誰だっ!?」
「アンノウン!」
腕を左右に広げて、どこからでも来いとでも言うように、待ち構える異形を背後から奇襲する者がいた。
「また君か……ス
「ス
スルーガールは上段で構えた刀身が
「だいぶ上手くなったじゃないか、『重甲』」
異形も同じく『重甲』で硬化させた腕で刀を受け止めてそう言った。
「だけどな――」
異形は刀を力任せに弾くと、もう一方の腕に『重甲』を使った。
そして、突きだす。
「っ……!」
避けきれない。
そう判断したスルーガールは刀で受けようとした。しかし、異形の拳にいとも簡単に刀身を砕かれ、そのまま顔を殴られた。
「がふ……っ!」
殴られたスルーガールはキリモミ回転をしながら吹っ飛び、後ろにいた魔法少女達をボーリングのピンのように吹き飛ばした。
「まだまだ脆い……」
「クソ……っ!」
スルーガールはすぐに立ち上がり、腰の帯から鞘を引き抜いて、異形に向かって走る。
しかし突然、進路を変えて、何もない場所に鞘を振り下ろし始めた。
「……何をやっているんだ?」
突然の奇怪な行動に異形は首を傾げる。
そして、様子がおかしいのは、周りの魔法少女達もだった。
「なにこれえぇっ!!?」
「ひ、ひえ~~……っ!」
「グリッチ行為はルールで禁止っすよね」
半狂乱になって、
――どうした急に。
「お久しぶりです、
「……ああ、なるほど。アナちゃんのせいだったのか」
「ふふっ、はい、そのとおりでございます」
異形の背後から話しかけてきたのは、青いドレス風の衣装を着た魔法少女――アナスタシアであった。
いつものように鉄扇で口元を隠している彼女に異形は「お疲れ様、用事は済んだんだね?」と労うように言った。
「はい。王族と有力貴族の暗殺と王都を含めた主要都市のライフラインと居住区画の密集箇所を爆破しましたので、魔界の貴族達は対応におわれることでしょう」
「どのぐらい足止めできそう?」
「うーん、そうですね……」
アナスタシアは目を伏せて、計算した。
そして、目を開けて、答えた。
「半年ほどでしょうか。ライフラインの復旧と犠牲者の葬儀に、暗殺された貴族の後任を決めるのに、おそらくそのくらいかかるかと……
「そういえば、そうだったね。私が王都に踏み込んだ時も葬儀の真っ最中だった」
「それでも、あくまで予測です。
「なら、余計なことをされないようにさっさと潰そう――ま、その前に後輩を強くしないといけないんだけど……アナちゃん、今あの子達には何が見えてるの?」
異形は何もない地面を攻撃している魔法少女を指差して言った。
「さぁ……? とりあえず“悪魔を超えた悪魔的な存在が地面から生えて足を掴まれる”という漠然としたイメージで魔法を使ったので、何を見ているかは分かりません」
肩をすくめてアナスタシアは答えた。
異形は「そっか……」と呟いた。
「時間が惜しいから解除してくれない?」
「はい、構いません――ですが、私がここを去ってからにさせてください。まだ私が戻って来たことを知られたくないので」
「どうして?」
「私は
アナスタシアの言葉を聞いて、異形は納得した。
ようは、異人類達の目が向いていない自分ならば動きやすく、情報収集がしやすいからまだ見つかりたくない、ということだ。
「そうか、じゃあしょうがないね――このあとは、どうするの?」
「そうですね――一旦、祖国へ帰ろうと思います。20年経って、どうなっているか気になりますし……父の墓参りもしたいですから」
「やっぱり気になるよね。私もこっちに帰ってきて、すぐに実家に足が向いたからね、分かるよ」
うんうん、と、頷きながら異形は同意した。
「では、私はこれで――墓参りが終わったら、諜報を始めます。なにか分かれば、すぐに連絡しに来ますね」
「うん、ありがとう。しくじらないようにね」
「ご安心を――諜報のやり方は、父と叔父達から学んでおりますので」
そう言ってアナスタシアは姿を消し、去っていった。
アナスタシアの気配が遠くに移動したのを感じ取った異形は、瓦礫に座ってひょうたんに入れた“血の酒(モンスターの血)”を飲みながら魔法少女達が正気に戻るのを待った。
◆
「結局、今日もあの子だけだったか……」
家のウッドデッキに座り、異形は独り言ちた。
あの後、正気に戻った魔法少女達と戦闘を再開した異形だったが、非固有魔法を使えたのはスルーガールだけだった。
「あの子だけ、抜きん出て優秀だな……いっそ、あの子を集中的に育てて他の子にも、コツとか広めてくれたりしないかな」
異形が“最初の魔法少女”だった頃、非固有魔法を教える時は手取り足取り、丁寧に分かりやすく教えていた。
しかし、今回は戦いながら――さり気なく教える(というよりは、叩き込む)やり方だ。
完全に受ける側の才能に依存するやり方なために、とても効率が悪い。
「でも、どうやって教えようか……ん?」
異形の
何者かが自分の方へ近づいてくるのを感じたのだ。
モンスターの気配ではない、人間のようだ。そして、歩いてきている。
エリアの外を歩ける人間なら、きっと魔法少女だろう。
――さて、いったい誰が来るのやら。
異形は“血の酒”を飲みながら待った。
やがて、気配の主が異形の家の前で止まった。
「そんなところで立ち止まってないで、入って来たらどうだ」
「っ……!?」
いっこうに入ってこようとしないので、異形の方から促した。
気配の主は驚いたが、観念したように敷地の中へ足を踏み入れた。
そして、異形の前に立った。
「なんだ君だったのか、スルーガール」
やってきたのは、スルーガールだった。
昼間と変わらず着物に袴の――侍のような衣装を着ているが、帯刀していない。
戦闘の意志はないという意思表示だった。
ガーゼと絆創膏が貼られた顔も今までと違い敵意がなく、なにか決意をした――真剣な表情だ。
もっとも、異形は目が見えないので、そのことに気づいていない。
「また単身で乗り込んでくるとは、ずいぶん不用心だが……死にたいのか?」
すでに異形とスルーガールの交戦回数は10回を超えている。
そして、その全てにおいて異形は完勝している。
ここまでくればどんな馬鹿でも実力の差はわかるものだ。それでも挑んでくるのかと、異形は呆れているのだ。
しかし、構わずスルーガールは言った。
「……殺すつもりはないんだろう?」
異形は片眉をピクリと動かした。
――気づかれてる? それとも、誰かがバラした?
今回の討伐命令の真意は、円卓メンバーのみが知っていることを異形は親友のエスパーダから聞かされている。
なので、スルーガールが何かしら感づいていることに疑問に思った。
「討伐命令が出されてから、私達は何度も戦った。だが、一人も死んでないどころか、重傷になった奴すらいない――だから、思ったんだ。あんたは殺すつもりがない。どうせ、上の連中とも話を合わせてるんだろう?」
「連中、苦戦しているのに、作戦を変えようとしないからな」と、スルーガールは続けてそう言った。
やはり知っているんじゃないのかと、思える鋭い指摘に異形は、内心舌を巻いた。
「そんな思い込みで一人で来たと? 正気じゃないな」
だが、異形はそのことを顔に出さずに呆れたように言った。
スルーガールは頭をかいて、苦笑いを浮かべる。
「全くもってその通りだ……だが、当たらずとも遠からずといったところだろう」
「なんでそう言い切れる?」
「だって――」
スルーガールは異形を指差しながら言った。
「さっきから耳と尻尾が慌ただしいんだ」
「え……?」
先程、スルーガールに指摘された時、異形は確かに驚きを
「え、嘘……やだもぉ~……」
今の今までそのことに気づかなかった異形は、恥ずかしそうに顔を赤くして、獣耳を手で抑え、尻尾を尻の下敷きにして足で挟んだ。
もしかしたら、エスパーダと再会した時も獣耳や尻尾を動かしていたかもしれないと思うと、余計に恥ずかしくなった。
「プフ……っ」
あの恐ろしく、歯がまったく立たない怪物が縮こまっている。
そんな光景を見て、スルーガールは吹き出すように笑った。
「なんだアンタ、案外可愛いところがあるじゃないか」
「笑わないでよ……私だって、知らなかったんだ……知らなかったんだよぉぉ……ううっ」
もはやこんな醜態を晒した後では、いつもの肩肘張った態度をとっても、滑稽だと判断した異形は友人や身内にしか見せない――砕けた口調で弱々しく言った。
――なんだこれは、こんなことがあっていいのかっ!
スルーガールは、大声で笑いたくなった。
同時に眼の前の――今まで化け物だの怪物だのと、恐れていた少女が急にかわいいものに思えてきたのだ。
「……と、目的を忘れるところだったな」
このまま眺めているのもいいかと、スルーガールは思ったが、気持ちを切り替えて、ここへ来た本題に移った。
「アンノウン。私はアンタに頼みがあってやってきたんだ」
「グス……たのみぃ……?」
――可愛らしい声を出すな、神経が昂ぶる。
スルーガールは、咳払いをして、深呼吸もして――異形のギャップにやられかけている自分を落ち着かせ、話を続ける。
「どうか私に非固有魔法を教えてほしい――いや、教えてください」
その場に正座し、手を付けて――頭を下げた。
典型的な土下座の姿勢だった。
「どうして? 君はもう『重甲』を使えるじゃない?」
「使うだけなら、アンタの真似でなんとかなった……問題はその先だ。どうすれば、もっと硬くなるのか、発動を速くできるのか――それがわからない」
スルーガールは異形との戦闘の後、ボロボロの体にムチを打って非固有魔法の特訓を自分なりに行っていた。
だからこそ、彼女だけが非固有魔法を使えるようになったと言える。
「アンタ以外の非固有魔法を知っている
頭を下げたまま、返事を待つスルーガール。
そんなスルーガールを見て異形は内心、感心していた。
初見の印象からスルーガールはプライドが高く、それにこだわる性格だと異形は思っていた。だが、必要であれば、プライドを捨てて考え、行動できることを知って、嬉しくなったのだ。
そして、こういう人種は強くなれるということを、異形はよく知っている。
「いいよ。教えてあげる」
「……いいのか?」
頭を上げるスルーガール。
異形は頷く。
「もちろん、そのつもりだったからね」
磨けば光る原石が、自分から転がってきたのだ。見逃す手はない。
「それじゃあ、行こうか。時間も惜しいことだしね」
異形はウッドデッキから立ち上がった。
「どこへ?」
「北陸地方。遠くもなく近くもなく、邪魔が少ないからね――あ、そうそう」
異形はスルーガールへ顔を向けて言った。
「教えるからには、かーなーりー厳しめにいくから――覚悟しておくように」
フッフッフと、怪しい笑みを浮かべて異形は言った。
その笑顔を見て、なぜかスルーガールは一瞬だけ悪寒を感じた。
「……ああ、よろしくたの……じゃないな、よろしくお願いします」
こちらから頼んだのだから、いまさら引き返せないと、スルーガールは覚悟を決めた。
「お任せあれってね――じゃ、手、貸して」
「? なにを?」
「足で行くと、時間がかかるから魔法で行くよ」
「ああ、そういうことか」
スルーガールは差し出された異形の右手を握った。
そして、異形とスルーガールの姿は忽然とその場から消えた。
始点と終点の距離をゼロにする、ワープのような非固有魔法『縮地』を異形が使ったのだ。
異形がスルーガールをどのように鍛えたかは、あえて割愛させてもらうが、その鍛錬が想像を絶するほど過酷だったことは、2週間後に満身創痍の状態で機関に帰ってきて、入り口の前で倒れたスルーガールを見れば一目瞭然だ。
しかし、「得たものに比べれば、こんな傷は安いものだ」とスルーガールは、見舞いに来た同期の魔法少女に話したという。
回復後、スルーガールは他の魔法少女に非固有魔法のコツを教え、少しずつだが、使える者を増やしていった。
鍛錬の終わり頃、スルーガールは異形から「非固有魔法を他の魔法少女に教えやってほしい」と頼まれていたからだ。
こうして東京エリアの魔法少女の育成に尽力した彼女は、その働きと実力を認められ、エスパーダとレディグラスから昇級を許された。
一方、異形は東京エリアには戻らず、ある場所を目指していた。
「ここが……大阪エリアか……」
どこにでもある廃ビル街のビルの屋上で異形は呟いた。
異形が向いている先には、東京エリアと同じく『聖壁の軸』に囲まれ、文明の光に照らされている限られた人類の生活圏。その一つである大阪エリアだ。
年がら年中お祭りをしている、と、言われるほどに賑やかな都市であり、廃ビル街にいる異形にも、耳をすませば人々の笑い声が聞こえるほどである。
「東京エリアの方は、スーちゃんに任せたし――次はここで暴れさせてもらおうかな」
スーちゃんとは、スルーガールのことだ。2週間でなんだかんだ仲良くなったので異形がつけた愛称である。
東京エリアでの戦闘方式の研修では、効率が悪いと思った異形は、急きょ、予定を変更して自分から襲撃することにしたのだ。
もちろんそのことはスルーガールに伝えてもらえるよう頼んでいる。
報連相は大事。メソポタミア文明の石版にも書かれている。
「フフフ……」と、悪役のような笑みを浮かべる異形。いったい、彼女は何をしようとしているのか。
人々の笑顔があふれる大阪エリアに異形の魔の手が迫る……!
鍛錬っていうサブタイなのに鍛錬描写がない。