ナニカサレタ魔法少女   作:きし川

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酒盛

 スルーガールの鍛錬を終了した異形の少女は、その足で大阪エリアにたどり着いた。

 当初の予定では、異形が魔法少女機関の――円卓を除いた――全戦力を迎え撃つ予定だったが、今回からは異形が先制する。

 

 とはいえ、急に予定を変更したため、大阪エリアにはまだ連絡が届いてないかもしれない。と、異形は思った。

 なので、異形は自分が来たことを教えるために大阪エリアの1km手前で小規模な爆発を起こすことにした。

 ドアチャイムの代わりだ。

 

「すんません、陸奥さん……ですやろか?」

 

 いざ、点火! というタイミングで異形は関西弁で声をかけられた――それも、自分の本名を呼ばれたので、尻尾が驚いてビクッと跳ねた。

 獣耳(けものみみ)感じた(・・・)体格や声音はどれも異形の記憶に合致するものではない。つまりは、初対面の人間――エリアの外にいることから魔法少女だろう。

 

「……誰だ?」

 

 異形は作業を止めて、声をかけてきた人物と警戒しながら向き合った。

 

 すると、その人物は「その反応するってことは、陸奥さんでおおてますね」とホッとしたように呟いた。

 間違えていたら恥ずかしいからである。

 

「ウチは大阪エリア(ここ)で魔法少女やらしてもらってます、“藤村”言うもんです――姐さんから、陸奥さんがもうすぐ来るから迎え行ってこい言われたんで来たんですわ」

 

 ニコニコと笑みを浮かべながら、一礼して藤村は名乗った。

 

「……姐さん?」

「ウチんとこのいっちゃん偉い人ですわ、“ライヒメ”って、聞いたことあります?」

 

 藤村に尋ねられたが、異形には心当たりがなかった。

  

「いや、聞いたことないな」 

 

 首を横に振って答えた。

 それを聞いた藤村は少し驚いたように言った。

 

「ほんまでっか! あー、関東の方じゃ、あんま知られてへんねやな……ま、ええか、姐さん気にせんやろし――ところで陸奥さん、何してはんのん?」

「私が来たのを教えるために、ここで爆発を起こそうと……」

「やめてください! 堅気の人らがびっくりしまっせ!」

 

 藤村は慌てて止めた。

 大阪エリアは他の生活圏と比べて、最も襲撃が少ないエリアだ。

 そのため、モンスターに対する危機感が薄い。

 そんな人々の近くで、爆発など起こせばパニックになることは間違いなかった。

 

「……すまん、配慮が足りなかった」

「あっ、こっちこそ怒鳴ってもうてすんませんでした」

 

 互いに頭を下げ、爆破チャイム作戦は中止となった。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

「こちらから降りていきます」

 

 藤村の案内の元、異形はエリアを囲む『聖壁の軸』のすぐ近くまでやってきた。ここまでエリアに接近したのは、こちらに帰ってきてから初めてのことだ。

『聖壁の軸』の外側の根元の部分には、魔法少女達が出撃するためのゲートがある。

 全てのゲートは直線的な地下通路でエリア中央にある魔法少女機関施設と繋がっている。

 藤村が『聖壁の軸』の側面に触れると左右にスライドして、下に降りる階段が表れた。

 

「階段ですけども、大丈夫ですか?」

 

 目が見えない異形を心配した藤村は言った。

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 異形は獣耳をピコピコ揺らしながら答えた。

 

「ほな、行きましょか」

 

 階段を20段ほど降りると先が見えないほどに長い通路だ。

 緊急時であれば、床のコンベアーが動き2分以内に端に到着するが、起動と同時に警報も鳴る仕様のため今は使えない。

 

 歩いてしばらくしたところで異形は「ところで、聞きたいんだが」と藤村に尋ねた。

 

「なんでっか?」

「これから会うライヒメっていう人は、私の知ってる人物なのか?」

「はい、そうです。陸奥さんが“最初の魔法少女”やった時に一緒に戦ってはった人ですよ」

「そうなのか」

 

 異形は20年前に一緒に戦った面々を思い浮かべる。

 一緒に魔界に行った面子を除いても、20人ほどいた。

 その仲間たちも異形が帰ってくるまでに数を減らしているが、

 いったい誰が、異形を待っているのだろう。

 

「ここ、登ったらすぐ近くにエレベーターがあるんで、それ乗って上行きます」

「わかった」

 

 藤村のあとをついていき、エレベーターに乗って、地上15階の中央棟の最上階へ異形は到着する。

 

「ここです」

 

 エレベーターから見て廊下の奥にある両開き式の木製の扉の前で藤村は言った。そして、扉をノックして「姐さん、陸奥さんをお連れしました」と、部屋の中にいる人物に声をかけた。

 

「おう、入ってええで」

 

 部屋の中にいるライヒメが許可を出した。

 その声を聞いて、異形は引っかかりを感じた。

 ――この声、もしかして?

 異形と藤村は部屋の中に入った。

 

 部屋の中には執務机と椅子、ソファが対面するように2つ、その間にテーブルがある。

 奥の椅子に異形達に背を向けて座っているのは、金髪のミニスカートの着物を着た魔法少女――ライヒメだ。

 

「藤村、ご苦労やったな。悪いけど、ちょっと外してもらえるか」

「はい、わかりました。――陸奥さん、失礼します」

 

 藤村が部屋を出ていき、異形はライヒメと二人きりになった。

 ライヒメは椅子をくるりと回し、異形と対面する。

 そして、異形の頭頂からつま先までじっくりと見た。

 

「……」

「……なんだ?」

「っ……ホンマに先輩(・・)なんやなぁ……」

 

 椅子から立ち上がり、目に涙をためながら異形に近づく。

 そして、その豊満な胸部に異形の頭を押し付けるように抱きしめた。

 顔面に押し付けられる柔らかい感触で、異形はライヒメが誰か、確信した。

 

「ああ、やっぱり――茉莉(まつり)ちゃんだったんだね」

 

 砕けた口調で異形は言った。

 

「……分かるんですか?」

「さっきの子が私の知ってる人だって言ってたし、声も聞いたことある声だったし――何よりこの大きくて柔らかいのは、茉莉ちゃんのしかないよ」

「……もう、先輩スケベですわ。涙が引っ込んでしもうたわ」

 

 涙を拭いながらライヒメは微笑んだ。

 魔法少女ライヒメ。

 本名を園田(そのだ)茉莉(まつり)

 “大厄災”の一年後に“最初の魔法少女”によって保護され、エージェントにより魔法少女となった少女。

 助けられた恩から“最初の魔法少女”を慕い、“最初の魔法少女”が魔界へ行くまでの一年間を共に戦った“最初の世代”のひとりである。

 

「あ、いや……そういうつもりで言ったんじゃなくて」

 

 スケベと言われ、誤解されてると思った異形は慌てて訂正した。

 その様子に懐かしさと変わってないことへの安心感を感じつつライヒメは笑った。

 

「こういうシモ(・・)の話が苦手なところ。変わりまへんなぁ――それに、こうやってウチが抱きつくと離れようとするところも変わってへんしー」

 

 異形の一歳年下とは思えない恵体をぐいぐい押し付けるライヒメ。

 

「ちょっと、茉莉ちゃん……」

 

 やんわりと押し返そうとしたが、ライヒメが力いっぱい抱きしめるのでなかなか体を離せない。 

 

「えい」

「ひゃあ……っ!?」

 

 仕方なくガラ空きの腋下を突っついて、ライヒメが反射的に腋を締めた隙に異形は身体を離した。

 

「先輩、セコいわー。ウチの弱いトコついてくるとか……」

「弱点晒した、茉莉ちゃんが悪い」

 

 ふくれっ面で講義するライヒメにしてやったりという風に異形は言った。

 そして、こんなやり取りもずいぶん久しぶりにしたなぁ、と、二人は同時に吹き出して笑った。

 

「おかえりなさい、先輩」

「ただいま、茉莉ちゃん」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「さてと、ほな先輩が無事に……ではないけども、帰ってきてくれたことを祝して――かんぱーい!」

「遅れてきてごめんなさーいっ!」

 

 二人は酒の入ったグラスをお互い当て、ぐいっと飲み干した。

 そして、プハッと息を吐いてライヒメが言った 

 

「ホンマになっ! どんだけ()たすんですか、先輩」

「いやぁ、私も早く帰りたかったけど、色々あったんだよー」

「じゃあ、しゃあないなっ! というわけでかんぱーいっ!」

「さっきもやったし、強引だー」

 

 と、言いつつグラスを当てる二人。

 テーブルの上には栓を開けた一升瓶が一本と未開封のものが四本。

 床には、空の瓶が5本転がっている。

 すでにかなりの量の酒を異形とライヒメは飲んでいた。

 

「それにしても、茉莉ちゃんさ~……なんでこんなにお酒置いてるの~?」

 

 顔を真っ赤にして、異形が尋ねる。

 

「そりゃ先輩、あれですわ。無性に飲みまくりたい時があるんですわ」

 

 そう言ってとうとうグラスに注ぐのが億劫になったのか、一升瓶に口を付け、飲み始めるライヒメ。

 

「飲みたくなる時~?」

 

 ライヒメの飲んでいた瓶をかっさらい、一気に空にした異形は言った。

 

「先輩居らんなってからな~ウチ、ちょー頑張ってんけどなー……先輩みたいにいけへんのよ……」

 

 新しい一升瓶の栓を開けながらライヒメは愚痴る。

 

「先輩が魔界、行って5年ぐらいした頃にな、変なカルトが出てきてん。で、そいつらがな、やれ「“最初の魔法少女”は死んだ」だの「この世は魔神によって滅ぼされる」だの。根拠のないこと言いまくってやな、エリアに住んでいる人らの不安を煽りまくりおったんよ」

「カルト? どんな名前?」

「さぁ? 何やったかな? もう憶えてへんし、思い出したくないわ」

 

 酒を口に流し込み、ライヒメは続ける。

 

「でや、そんなことされたら住んでる人ら不安になるやろ? だから、警察で厳しく取締して逮捕とかしとったんよ。やけど……連中、ゴキブリみたい次々出てきよってな……とうとう、やらかしおったんよ」

「何をしたの?」

「小さい爆弾を作ってな、町中で爆発させおったんよ。まぁ……爆弾自体は殺傷力の低いやつやったけど、音がデカくてな。みんな大慌てで……パニックになっとったわ」

 

 空になった瓶を床に転がし、さらに新しい瓶の栓を開けるライヒメ。

 そして、瓶を煽って半分ほど飲んで、話の続きを話す。

 

「でな、これだけやったら良かったんやけど……連中、爆発させた直後にモンスターが襲撃してきたとかテキトーなこと言って、騒ぎおこしよって……色々、あったんよぉぉっ!」

 

 ライヒメは叫びながら隣に座る異形に抱きついた。

 完全に酔っている。それもめんどくさい感じに。

 

「うわぁ、なに? どうしたの?」

「ウチ頑張りました、20年頑張りました。せやから、ごほうびほしー」

「いいよ~」

 

 異形は抱えてた酒瓶を太ももの上に寝かせ「どう? 茉莉ちゃん?」と酒瓶を撫でながら声をかけている。

 こちらも相当酔っている。

 

「なんでやねーん!」

 

 ライヒメは酒瓶をはたき落とし、床に転がした。

 

「先輩っ! これ、酒の瓶やないですかっ! ウチはここですっ!」

「えー? あ、ホントらぁ、ごめんねぇ……」

 

 異形は呂律の回っていない口調で謝った。

 

「もう気をつけてくださいねー」と、ライヒメは改めて異形の太ももに頭をおいた。

 

「あー……やっぱ、これよ。疲れた時は先輩の膝枕に限るわー」

 

 幸せそうに異形の太ももに頬ずりしながらライヒメは言った。

 それを聞いた異形は以前から疑問に思っていたことを口にした。

 

「前から思ってたけど、これそんなに気持ちいいのー?」

「気持ちええですよ、これ以上の枕はないですわ……zzz」

 

 心地よさに負け、ライヒメは眠った。

 

「ありゃ、寝ちゃった? だめだよ、ちゃんとベッドで寝ないとー」

「――あだっ!」

 

 異形はライヒメの体を押して、ソファーから落とした。

 その衝撃でライヒメは目を覚まし、「何するんですか先輩ー……っ! お返しやーっ!」と、異形のボロワンピースのスカートを捲った。

 その中を見た瞬間、ライヒメは見開いて固まった。 

 

「コラコラコラッ! それはだめだってっ!」

 

 異形は慌ててスカートを抑えた。

 そんな異形にライヒメは恐る恐る言った。

 

「先輩……なんでノーパンなん?」

「……その、向こう(魔界)にいた時に、履かせてくれなくて……そのまま過ごしてるうちに慣れちゃった……」

「せやかて先輩。ノーパンはさすがに……」

「う、うう……うるしゃあぁぁいっ! 私のせいじゃないやいっ! 全部、あの変態(・・)伯爵が悪いんだぁーっ! アイツのせいで、私の体はめちゃくちゃだよーっ!」

 

 うがぁぁああっ! と、ライヒメに抱きつく異形。

 ライヒメはそんな異形の背中に手を回して、優しく抱きしめた。

 

「……そっか、先輩もすんごい苦労してたんやなぁ」

「したぁ……いっぱいしたぁ……」

「よしよし、今日は飲もうや先輩。いっぱい飲んで嫌なこと全部酒で流してしまおうや」

 

 すでに飲んでいる。

 

「じゃあ、カンパーイ」

「カンパーイ」

 

 そう言って二人は互いに持った一升瓶を鳴らした。

 

 それからも、きったねぇ女子会は続き――朝になって、藤村が目撃したのは、酒の匂いが充満する部屋で異形に腕十字固めを受けながら気絶しているライヒメの姿だった。

 

 




この二人のような飲み方はしないでください
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