ナニカサレタ魔法少女   作:きし川

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襲撃

 綺麗に清掃された執務室で、二人が今後の――魔法少女達をどのように教育するか打ち合わせをしていた時、それは起こった。

  

 ドォォン!!

 

 突如、爆発音が響き、同時に執務室の窓がカタカタと揺れる。

 

「なんやっ!?」

「っ!」

 

 

 突然、発生した爆発にライヒメは驚き、異形の少女は状況の把握に集中した。

 

「正面のゲートが壊されとる……」

 

 窓から爆発地点を探していたライヒメが中央棟正面にあったはずの金属製の分厚いスライド式のゲートが外側から破壊され、敷地内に転がっている。

 

「……なんや、あいつら」

 

 壊されたゲートの向こう側、横一列並ぶ若い男女の集団をライヒメは見た。

 服装はバラバラだが同じ年齢層に思える若者達はそのまま敷地内に足を踏み入れ、制止しようとした警備員にあろうことか――どういう手段を用いたかはライヒメには分からなかったが――火を放った。

 警備員はあっという間に火だるまになり、のたうち回った末、炭化した焼死体と化した。

 

「何やっとんねん!」

 

 ライヒメは衝動的に窓を割って、瞬時に集団の前に移動した。

 同時に騒ぎを聞きつけ、待機中だった他の魔法少女達も駆けつける。

 襲撃者十数人に対し、ライヒメを含めて魔法少女の方は100人ほどだ。

 

「なにもんや、お前ら」

 

 ライヒメが鋭い目つきで若者たちを睨みながらそう言うと、パーカーを着た男が前に出る。

 

「来たな、守護者を騙る裏切者共め。――我らは、新人類真理教っ! 教祖様の名のもとに正義を執行しに参ったっ!」

 

 新人類真理教。

 その名を聞いた魔法少女達の反応は2つに分けられる。

 

 若い魔法少女は聞いたことのない名前に首を傾げ、15年以上魔法少女をしている者は面倒くさそうな顔をした。

 なぜなら、先日の酒盛りの際にライヒメが異形に語った“カルト集団”の名前が彼らが名乗った新人類真理教なのだ。

 

「まだ生き残っとったか……鬱陶しい奴らやのう」

 

 かつて、彼らの活動はあまりにもエリア運営及び魔法少女機関の阻害していた。

 そのため、二度と活動が出来ないように幹部クラスを殺害(・・)し、同じような事をする者が出てこないように記憶処理薬をエリア全域に散布して、徹底的に彼らの存在を封じ込めた――はずだった。

 

「それに、正義やと……? アホなことぬかすな。お前らに正義なんぞあるかい――気狂い共が」

 

 ライヒメは吐き捨てるように言った。

 

「魔法少女機関大阪エリア支部長ライヒメ……我らの偉大なる先人達を草を毟るかのように殺した悪魔め、貴様のような偽善者がいるから人々は未だに不安を抱えて過ごさねばならぬのだ」

「偽善で結構や――で? 何しに来たんや、はよ言えや」

 

 ライヒメは怒気と殺気を孕ませ言い放った。一応(・・)、聞いておかなければならないからだ。

 

 ライヒメにとって、彼らとの会話は“価値が無く、損しかない”ものである。

 だからこそ、前回の新人類真理教が起こした混乱の際に、幹部クラスを全員その場で、自らの手で殺害した。

 

 しかしながら、人類の守護者である魔法少女が人を殺す。

 その行いは市民を不安にさせたが、飲食物に向精神薬を改造した薬を混ぜることにより、運営委員会は強引に解決した。

 

 大阪エリアの秩序と平和の維持のための苦渋の選択だった。

 結果としてそれは、現在の大阪エリアの活気の源になり、この荒廃した世界で一番賑やかなエリアに仕立て上げている。

 だが、そんな偽りの平和も、このような輩がいては簡単に壊れてしまうだろう。

 そのため、ライヒメは一刻も早く彼らを抹殺したかったのだ。

 

「ふん、いいだろう察しの悪い貴様のために教えてやろう。貴様がここに匿っている“首輪付きの獣”を討伐するためだ」

「“首輪付きの獣”?」

 

 この場にいる全ての魔法少女は思った。

 なんだ、それは? と、

 パーカーの男は苛立ったように魔法少女達に言った。

 

「とぼけるな。私は目撃している――貴様が“首輪付きの獣”と仲睦まじくしているところをなあっ!」

 

 ライヒメを指さして勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

 後ろでは、他の若者達がライヒメに「エリアの中に化け物を入れるなんて!」、「それでも人類の守護者を自称する者かっ!」などの罵声を浴びせている。

 

「……あー、なるほど。先輩のことか」

 

 ライヒメは罵声を聞き流しながら、頭を掻いた。

 チラリと後ろを見れば、日の浅い魔法少女達が動揺し、比較的古参の魔法少女達も態度には見せないが、視線でどういうことか? と、説明を要求している。

 当然だ、大阪エリアに異形が来たことを知っているのは、ライヒメと藤村だけなのだから。

 

「……姐さん、すんません。自分の責任です」

 

 藤村がライヒメの側に寄り、小さな声で謝罪した。

 ライヒメ達を外に追い出してしまったことに責任を感じているのだ。

 

「気にせんでええよ。アレはウチが悪いからな……それより備えとけ、そろそろ仕掛けるぞ」

「……何人生かしますか?」

「パーカーのヤツは生かせ、他にも仲間がおらんか吐かせる」

「了解です」

 

 ライヒメの指示を受け、藤村は後ろにいる魔法少女達に目配せする。

 ベテランの魔法少女達は小さく頷いて、状況が飲み込めていない若い魔法少女達にこっそり指示を伝える。

 

 ライヒメは、ふと後ろにある中央棟を見た。

 一緒に降りて来なかった異形のことが気になったからである。

 どうして降りてこなかったのだろうと、思ったが、よくよく考えれば、異形とは表向きには敵対関係だ。ここで肩を並べて戦うのは難しい。

 それに、この程度の相手に尊敬する先輩の手を借りる訳にはいかない。

 

「そうか。そっちの用件はわかったわ。……んじゃ、いつぞやのようにやらせてもらうわ――そっちも一人殺っとるしな、文句はないやろ?」

 

 ライヒメが武器である薙刀を出現させ、右手に持った。

 同時に他の魔法少女達も武器を手にして、新人類真理教のメンバーを包囲した。

 

「くくくっ……」

 

 10倍近い数の魔法少女に囲まれ、武器を向けられているにも関わらず、パーカーの男は余裕を崩さないどころか、笑っている。

 その様子にライヒメは訝しんだ。

 

「何が可笑しいんや?」

「……滑稽だと思ったのだよ。我々を侮り、以前のように殺せると傲っている貴様をなっ!」

 

 そう言って、パーカーの男はポケットの中から、野球ボール程の大きさの、金属でできた球体を取り出した。

 そして、その球体を放り投げると、球体は空中に静止して青白い光を放ち、電流のようなものを周囲の空間に迸らせた。

 

「なんのつも、り――っ!?」

 

 急激にライヒメの体から力が抜けていく。いや、ライヒメだけでなく他の魔法少女も同じく糸の切れた人形のように倒れるか、膝をついた。

 

「なん、や、これは……っ!」

 

 薙刀を杖代わりにして倒れないようにしたが、力が入らずとうとうライヒメは膝をついた。

 

「無様なものだな、ライヒメ。我が教祖様から与えられた特別な力、貴様ごときには抗えまい」

「おまえ、なにした……っ!」 

 

 睨みながらパーカーの男を見上げるライヒメ。

 その様子に心底心地よくなった男は口が軽くなる。

 

「いいだろう、教えてやる。これは教祖様曰く、貴様ら魔法少女の力を封じ込める力を宿した宝具である。卑しくも人類の守護者を騙る貴様らを聖なる光が戒めるのだ」

 

 くはは、怖かろうと、パーカーの男は自慢げに語る。

 ライヒメは今すぐにでも、殴り飛ばしたい気分になったが、体に全く力が入らない。

 すると、若者の一人がライヒメに近づく。

 

「へへへ……同志、提案があります。この偽善者に罰を与えましょう。かつて公衆の面前で先人達を晒し首にして辱めたように、この者も辱めてやりましょう」

 

 若者の視線はライヒメの豊満な胸部に向いており、股間も膨らんでいる。いかがわしいことを企んでいることは容易に想像できる。

 

「この痴れ者があっ!」

「ぐはっ!」

 

 パーカーの男は若者を殴り飛ばした。

 

「貴様はこの悪魔に欲情したというのか、愚か者が! 裁きを受けよ!」

 

 怒りで顔を赤くしながら、尻餅をついた若者を指さして言った。

 他の若者達が「裁きだ! 浄化だ!」と、口を揃えながら若者を囲む。

 

「や、やめろ……っ! ――うわあぁぁぁああっ!」

 

 逃げようとする若者に炎が放たれる。

 断末魔をあげ、若者は黒焦げになって死亡した。

 その死体の周りでパーカーの男と若者達は十字を切るような所作をして、先程殺した若者を哀れんで涙を流した。

 その様子を見ながらライヒメは、改めてこの集団はイカれていると思った。

 

「……だが、確かに同志よ。君の意見も一理ある。――諸君、この場にいる魔法少女の首をはねるのだ! 民衆の前でこの偽善者共の首をはね、人々を恐怖から解放しよう」

「……っ」

 

 パーカーの男がライヒメに近づく。

 魔力を通して体を無理やり動かそうと試みるが、魔力が一切使えず、ライヒメは焦った。

 

「まずは貴様からだ、ライヒメ。正義の裁きを受けるがいい」

 

 ライヒメに男の手が伸びる。

 ――先輩……っ!

 心のなかで、異形に助けを求めた。

 

 その時だ。パーカーの男の背後に何かが飛んできて転がった。

 

「く……っ、やってくれますね」

 

 起き上がってそう言ったのは、白いスーツを着た男だった。

 だらんと下げた左腕は折れているのか、不自然に曲がっている。

 ――なにもんや……? 

 顔に見覚えはなかった。初めて見る男である。

 

「ずいぶん頑丈だな……本気で叩き飛ばして、その程度か」

「っ――せんぱ……っ!?」

 

 遅れて降りてきた異形に目を向けて――ライヒメは驚愕のあまり言葉を失った。

  

 そこには、獣耳と尻尾の生えた少女の姿はなく。

 

「まぁ、すぐにやられても困るがな……――この形態(・・)で試したいことは、たくさんある」

 

 かわりにワンピースを着た毛むくじゃらの獣が二本足で立っていた。

 

 

 

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