魔法少女機関本部。
地上20階、地下5階の巨大な建造物を中心に様々な魔法少女支援施設がある、広大な敷地面積を有した魔法少女達の総本山。
その本丸として扱われている建物の中の一室に10人の魔法少女が集まっていた。
彼女達は、魔法少女全体のトップ10までの実力者にして、魔法少女機関最高幹部“円卓”のメンバーである。
この日、集まったのは、月に一度の定期会議があるからだ。
開始予定の時刻になり、全員が出席していることを確認した軍服をアレンジしてワンピースのようにした衣装を身に纏った議長役の魔法少女――エスパーダが副議長役の魔法少女と目を合わせ、頷いた。
「時間になったので、定期会議を始めようかと思うんだけど、その前に先日、アフリカ防衛戦で戦死したストームシルフとレックス・リリーに黙祷を捧げようか」
エスパーダの言葉に全員が頷いた。
第8位――ストームシルフ。
第10位――レックス・リリー。
彼女達は、定期会議の2週間前に勃発したアフリカ居住区防衛戦で砂漠に散った。よって、今回の定期会議では、繰り上がりで円卓入りした2名が新たに席についている。
廃墟に住み着いているゴブリン等のようなモンスターとは違い、訓練され、統率された魔界の軍勢。
それによる侵攻は強烈であり、人類側に決して少なくない出血を強いている。
今回のアフリカ防衛戦でも、円卓メンバー二人と居住区常駐の防衛戦力の大半を失い。電気や水道等のインフラにも大打撃を受けた。
現在も各国から支援物資が届けられ、復旧作業が進められているが、失った魔法少女は補充されていない。
現地の支部からは、応援要請と共にほとんど不眠不休状態で警戒にあたっている魔法少女達が心身ともに限界を迎えようとしていると、発信されている。
今回の定期会議では、どこの支部から人員をどれだけ回すのかをメインに協議するつもりだ。
「黙祷――」
全員が散っていった二人へ黙祷を捧げる。静まった会議室に声を殺してすすり泣く音が響く。二人のどちらか、あるいは両方と仲が良かった少女が泣いている。
「――黙祷、終わり」
全員が顔を上げ、気を引き締めた顔つきになる。
同胞の死は何度も経験している。魔法少女として、上位であればあるほど、その経験数は増えていく。
円卓に名を連ねるほどであれば、その数はとても数え切れるものではないだろう。
その度に悲痛な気持ちになる。だが、切り替えなければならない。
それが出来ないものから死んでいくのだ。
「じゃあ、改めて定期会議を始めるけれど、議題は予め連絡した通り、アフリカ防衛戦で失った戦力補充についてだけど――」
「すみません、議長。その前に緊急で議論したいことが」
メガネをかけた魔法少女――レディグラスが手を上げて、そう言った。
「緊急? 何かあった?」
エスパーダは首を傾げたが、そのまま続きを促した。
「先日、東京エリアに所属する二人が人語を喋る知的生命体と接触しました。報告にあった外見の特徴から同一の個体であると思われます。最後に確認された場所が私の部下の巡回ルートに近いため、どう対処するか、協議したいのです」
「……あー、そういえばあったね。そんな報告が」
エスパーダは思い出した。
確かに上層部限定の情報共有用コミュニケーションアプリに人語を喋る知的生命体についての報告が書かれていたことを。しかし、当時のエスパーダは、アフリカの件についてや、その
「ちなみにそっちでは、どう対処するつもり?」
「一人目の報告を受けたときは、無闇に接触せず、遠巻きに監視しようと思っていたのですが……二人目の報告者の魔法少女が独断で接触してしまいまして、
「そっかぁ……ご苦労さま。今度、何か奢るよ」
二人目〜のあたりから、どことなく疲れたように話す彼女を見て、エスパーダは何かを察して同情した。
「……お気遣いありがとうございます」
レディグラスは頭を下げそう言った。周りの魔法少女達も彼女に、同情的な視線を送っている。
場の空気がなんだか変な感じになったので、エスパーダは、ぱんっと手を叩いて気持ちを切り替えさせた。
「さてと! とりあえず対応を聞かせてもらったわけだけど……質問いいかな?」
「はい」
「その知的生命体はどの程度まで意思疎通ができるの?」
「報告によれば、流暢な日本語で喋り、会話は問題なくできるようです」
それを聞いて、エスパーダは「ふーん」と、腕を組んで椅子にもたれかかるようにして考えた。そして、考えが纏まったのか、口を開いた。
「じゃあ、私が直接会って話してみるよ」
「それは……あまりにも危険ではありませんか?」
エスパーダの提案にレディグラスは心配そうに言った。
他の魔法少女も同じようで、「考え直してください」と、エスパーダに投げかける。
そんな彼女達にエスパーダは語る。
「確かに遠巻きに監視して、どの程度危険なのか探る方が安全ではあるけどさ。そのために、かつかつの人員を監視に回すのはあんまりしたくない。それにさ、せっかく言葉が通じるんだから直接聞いた方が早いでしょ」
エスパーダの言葉に「確かに……」と、周りの魔法少女は思った。
この東京エリアだけでなく、世界各地のエリアで魔法少女の人員不足に悩まされている。
毎年、魔法の国から派遣されたエージェントが素質のある少女をスカウトしているものの、一年魔法少女を続けられるのは一握りだ。
大抵の場合、一ヶ月以内に辞めるか、戦死するケースが多い。
「しかし、万が一あなたの身に何かあれば――」
「私相手にその
そう言われてしまうと、レディグラスは何も言えなくなった。
エスパーダは第一位の魔法少女。つまりは、現役最強の魔法少女だ。
もし件の知的生命体が彼女と対等に渡り合える存在だとしたら、どんな魔法少女を差し向けたところで死にに行かせるようなものだ。
「……他に意見もなさそうだし、知的生命体の件は、それでいいね?」
全員が静かに頷いた。
「それじゃ、そういうことで……じゃあ次、本題に入ろうか」
エスパーダは、本来の議題であるアフリカの件について、話し始める。
先述した通り、魔法少女の人員はどこも少ない。
だが、少し切り詰めれば回せる人員があるかもしれないと、エスパーダはそれぞれのエリアの運用状況を詳しく聞いて、人員を減らせそうな所を指摘して、それによる影響をそのエリアを担当する魔法少女と話し合い、妥協点を探した。
最終的に、各エリアから二人ずつ派遣することになった。期間はインフラの完全復旧と現地採用の魔法少女がある程度育つまで。
派遣期間がいつまでになるのか分からないため、派遣される魔法少女から不満が出ることは間違いないが、のみこんでもらうしかない。
「正直、だいぶ無茶を言っていることは私も自覚してるし、この提案を受け入れてくれたことには感謝しかない。私も人事部にもっと魔法少女をスカウトできないか催促して、抜けた分の人員を確保してみるからね……それじゃ、定期会議を終わるね」
エスパーダがそう言うと、魔法少女達は席を立ち、会議室を出ていった。
「はぁ~……」
ひとり会議室に残ったエスパーダは机に突っ伏して、ため息を吐いた。
「これで良かったのかな……」
エスパーダは思った。
自分は間違った選択をしているのではないかと。
現在、人類に残された生活圏は大きく2つに分類されている。
広い土地を有し、様々な施設があり、大厄災前と変わらない生活が出来る都市エリアと最低限のインフラと人が雨風をしのげる程度の小さな家が密集しているだけの居住区。
都市エリアは、元々あった都市をそのまま使っているのに対し、居住区は1から人の住める環境を突貫工事で作っている。そのため、ここまでの格差が生まれてしまった。
襲撃を受けた時の被害を考えれば、都市エリアだけ守ればいいのではと、エスパーダは時折思うことがある。しかし、それをしないのは、かつて肩を並べて戦った戦友であり親友でもある“最初の魔法少女”の頼みのためだ。
20年前の魔界侵攻前夜、エスパーダは“最初の魔法少女”から「自分が留守の間、すべての生活圏を守って欲しい」と頼まれた。
エスパーダはその頼みを受け入れ、それを
だが、エスパーダは“最初の魔法少女”ではない。
襲撃の度に、犠牲は増え、ついには一つの居住区が滅んだ。
――これ以上の失敗は許されない。
当時のエスパーダはそう思い、より一層、防衛力の強化に勤しんだ。
だが、各地へ戦力を分散させたことにより、重要施設の防衛力が弱くなり、危うく破壊されかけたこともあった。
――もう、無理かもしれない。
今回の一件で、エスパーダは思った。
これ以上は守りきれない。居住区の防衛力を都市エリアに集中させるべきだ。
――でも、あの子の頼みなんだ。
エスパーダは迷っている。
合理的な選択を取るか、友の頼みを貫くか。
もう何年も続く葛藤に頭が痛くなる。
「……今日はもう休もう」
これ以上は何もできそうにないと、エスパーダは気怠げに席を立って重い足取りで会議室を出た。
「……」
エスパーダは廊下の窓から外を見た。
街が夕焼けに照らされて、少し眩しく目を細めた。
ビルが立ち並び、道路を車が走り、歩道を人が歩いている。
大厄災の前からある、当たり前の風景がそこにあった。
「ねえ……私、今日も守ったよ」
エスパーダはこの光景を見るたびに、“最初の魔法少女”を思い浮かべながら呟く。
「だからさ、早く帰ってきてよ……」
“最初の魔法少女”を見送ってから20年。
彼女は、友の帰りを待っている。