ナニカサレタ魔法少女   作:きし川

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防衛

 秘書から「東京エリアに魔界の軍勢が迫っている」と連絡を受け、機関に戻ったエスパーダは大急ぎで、作戦司令室へ駆け込んだ。

 多くのスタッフ達がコンソールを操作し、マイクを通して各魔法少女チームへ指示を出している。

 司令官席でエスパーダの代理で指揮していた東京エリアを担当する円卓の魔法少女レディグラスがエスパーダを見るやいなや、駆け寄った。

 

「エスパーダさん、どこに行ってたんですか!?」

「ちょっと、友達のところにね」

「友達? ……あっ、もしや。彼氏さんのところに行ってたんですか! 仕事中に何してるんですか!」

「は? 彼氏? なんのこと?」

 

 人の噂とは、広がるのが早いもので、すっかり機関の女性陣の間では、エスパーダに彼氏ができたという噂が広まっていた。

 出処は秘書であるが、最初は「いるかも?」という憶測が広がっていく間に「できた」という確定事項になってしまった。

 そんなことになっていることなど、少しも知らないエスパーダは首を傾げるばかりだったが、すぐに思考を切り替えて、目の前の緊急事態に向き合う。

 

「状況は?」

「敵の規模は従来の2倍。北を12時の方向にした場合の10時方向から進軍しています」

 

 魔界の軍勢の平均的な構成人数は1万程だ。今回はそれの2倍、約2万の軍で進軍していた。

 指揮官席の正面に設置された大型ディスプレイの中央に東京エリアを示す正方形の緑色の枠が表示され、左上から中央の正方形に向け、赤い矢印が少しずつ伸びてきていた。

 

「違うのは規模だけ? 構成は?」

「偵察ドローンで索敵したところ、騎兵とチャリオットで構成された先行軍、その後ろに歩兵と重装兵で構成された歩兵部隊、最後方に対城兵器を有した後方部隊です」

「構成はいつも通り……と、――まったくこっちは減る一方だってのに、なんで向こうは全然減らないんだろ」

「わかりませんよ? もしかしたら、向こうも人材の工面に苦労しているかもしれません」

「だったらいいけどね……。――各班に連絡! 絶対防衛線は『聖壁の軸』から2500メートル地点に設定、絶対にその線の内側に敵を入れないように!」

 

 魔界の軍勢が使用する大型バリスタは、強力な攻城兵器である。

 推定最大有効射程は2000メートル。その範囲内であれば、『聖壁の軸』を貫通して、内部の街に深刻な被害をもたらす。

 そのため、攻城兵器が確認された時は、必ず有効射程よりも長く絶対防衛線を定めるのが、セオリーなのだ。

 

 エスパーダの指示を聞き、スタッフ達が各班長達へ指示を伝える。

 数秒後、敵を示す赤い矢印とエリアを示す緑の四角い枠の間に味方を示す青い三角形が複数表示される。

 

「各班、配置完了しました!」 

「各班へ指示! 敵を視認次第、遠距離攻撃手段を持つ魔法少女は一斉射撃。着弾後、近接系魔法少女は切り込んで!」

「了解!」

 

 追加で指示を出したエスパーダは席を立ち、レディグラスに言った。

 

「じゃあ、あとの指揮はお願い。私は先行して数を減らしておくよ、漏れた分の処理はお願いね」 

「お待ち下さい、エスパーダさんは指示があるまで待機してください」

「は? どういうこと?」

 

 レディグラスの言葉を聞き、エスパーダはぽかんとした。

 ここの最高権限を持っているのはエスパーダだ。いったい誰が指図するというのか。

 

「評議会より指令がありました。エスパーダさんには、危機的状況に陥ったときのために待機してもらいます」

 

 それを聞いたエスパーダは眉を顰めた。

 

「……なんで評議会が口出してくるの? こういう事態の決定権は魔法少女機関(こちら)のものでしょ」

「基本的には、そうでした。しかし、先日のアフリカの件やその他の地域での戦闘で熟練した魔法少女の数が減っている現状、これ以上の熟練者の戦死を防ぐために、円卓メンバーを含めた第100位までの上位陣は危機的状況以外は後方で待機してほしいとのことです」

 

 評議会――正式名称、魔法国最高評議会。

 魔法少女機関の上位組織である彼らは、危惧している。

 ただでさえ不足気味な魔法少女の上澄みの実力者達を失い、未熟な魔法少女ばかりが残ることを。

 要するに、評議会は切り札を温存させたいのだ。

 

「それは、100位以下の魔法少女は死んでもいいって言いたいの? ふざけないで」

「お気持ちはわかります。ですが――」

 

 エスパーダはレディグラスの胸ぐらを掴んだ。

 

「気持ちがわかるなら、なんで断らなかったの!?」

「っ……評議会は、魔法の国の中枢組織です。不興を買えば、人類は不利になります」

「だから、仲間を見殺しにするって!? 君は、それでも東京エリア(ここ)にいる1000人の魔法少女を任された人間なの!?」

「……人類が存続出来ているのは、魔法の国の協力があるからです。いま、その協力体制がなくなってしまったら、人類は滅びてしまいます」

 

 エスパーダは胸ぐらから手を離した。

 レディグラスは頭を下げ、そのまま言葉を続ける。

 

「お願いします。どうかご理解ください」

「……その危機的状況っていうのは、誰が判断するの? どうせこちらでは決められないんでしょ?」

「それは――」

「私が決めることになっているのですよ、エスパーダ殿」

 

 レディグラスの言葉を遮って、一人の男が二人の会話に割り込んだ。

 二人が声の方へ目を向けると黒いスーツに黒い中折帽をかぶった30代ほどに見える男が作戦司令室の扉の前に立っていた。

 男は微笑を浮かべながら、エスパーダに近づいた。

 

「あなたは……確かエージェントの」

「はい、中村と言います。お久しぶりですねエスパーダ殿」

 

 中村は帽子を取り、会釈した。

 それに対し、エスパーダは中村を睨みつけていた。

 

「どうも中村さん、久しぶり。ここは関係者以外立入禁止だから今すぐ出て行ってもらえると助かるんだけど」

「これはこれは……異なことを仰りますね、エスパーダ殿。私もここの関係者ですよ、危機的状況における指示を出さなければいけませんから」

 

 それを聞いたエスパーダは、露骨に嫌な顔をした。

 

「……じゃあ中村さん。いまこの東京エリアはいつもよりも2倍多い戦力で攻められようとしています。これは危機的状況ではないのでしょうか」

「いえ、問題ありません。想定される範囲内です」

「そんなわけないでしょ! いま戦線にいる魔法少女は防衛が初めてな子が多い。このままだと突破される可能性の方が高い、だから私が前に出て、数を減らしたほうがいいでしょ!」

「わかってませんね。あなたが単身で敵に突撃して、万が一があったらどうするんですか。評議会(我々)としては、新米魔法少女が何十人死ぬよりも貴方一人を失う方が痛い損失なのですよ」

「戦いは質もそうだけど、何より数が多い方がいい! いつまで続くか分からないこの戦争を勝つには、一人でも多く犠牲を減らして戦い続けられるようにしないといけない!」

「あなたの言い分はよくわかります。しかし、これはすでに決まったこと、子供のように駄々をこねないでもらいたい」

「エスパーダさん、お願いです。どうか今は辛抱してください」

「……勝手にしなよ、もうっ」

 

 眉間にしわを寄せ、荒々しく指揮官席にエスパーダは座った。

 ――恵ちゃん……お願い、助けて!

 おそらく、もう動き出しているはずの親友に、エスパーダは望みを託した。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 東京エリア防衛班の最前線。

 廃墟となった都市区画にて、遠距離攻撃手段を有した魔法少女達が廃墟の影から敵が来るのを、今か今かと待っていた。

 

「来た……!」

「射撃できる奴、構えろ!」

 

 エスパーダの指示通り、射撃体勢に移る魔法少女達。

 そして、ついにその時が来た。

 

「撃て!」

 

 魔法少女達が一斉に攻撃を開始する。

 弓、ボウガン、銃。

 異なる武装から放たれた矢と弾丸が同じ敵に向かって飛んでいく。

 

 それを受ける側の魔界の軍勢、その先行軍もただ受けるわけではない。

 デュラハンで構成された騎馬軍団が、褐色肌のエルフの乗るチャリオットの前に出て、左手の盾を掲げた。

 先行軍を守るように紫色の障壁が展開され、矢と弾丸が弾かれていく。

 先行軍は更に加速し、一気に魔法少女との間合いを詰めていった。

 

「怯むな! 返り討ちにしてやれ!」

 

 一斉に廃墟の影から魔法少女が飛び出し、それぞれの武器をぶつけ合わせる。

 

「おおおおっ!」

 

 乱戦になった戦場で一際、激しく戦うのは、先日、異形の少女と邂逅していた侍少女――スルーガールだった。

 一太刀一太刀に全力を込めるような彼女の剣は、デュラハンの胴体を鎧ごと真っ二つにし、次々と屍に変えていく。

 攻撃前後の隙が大きい戦い方であり、この乱戦状況では、真っ先に討たれてしまうはずだが、そうならないのは、彼女の固有(・・)魔法のおかげである。

 

 一人のエルフがスルーガールの無防備な背中に矢を撃った。しかし、放たれた矢はスルーガールの背中に突き刺さることなく、彼女の体を通り抜け(・・・・)向こう側に飛んでいく。

 スルーガールがエルフの方を振り向いた。

 まっすぐエルフを見据え、返り血を浴びた顔で笑みを浮かべている。

 それを見たエルフは、鳥肌が立った。

 手綱を操作してチャリオットを走らせた。一刻も早く、スルーガールから離れようとしたのだ。

 

「あ……ッ!?」

 

 大腿部に激痛が走り、エルフが呻いた。

 見れば、左の太ももに刀が突き刺さっていた。

 スルーガールが逃げるエルフに向け、投擲したものだ。

 そして、運の悪いことにエルフの乗るチャリオットの車輪が地面に落ちていた瓦礫を踏んで車体が跳ね上がった。

 

 足に刀が刺さったエルフは踏ん張ることができず、チャリオットから投げ出され、地面を転がる。

 そこへ、追いついたスルーガールがエルフの上に馬乗りになって、帯から抜いた鞘を両手で持って、エルフの首に押し付けた。

 喉を潰され、首の肉を潰され、最後は首の骨を潰されてエルフは絶命した。

 

 スルーガールはエルフの亡骸から立ち上がり、刀を抜き取って、次の敵へ襲いかかった。

 そんな時、スルーガールは敵の後方に奇妙なものを見た。

 

「なんだ、あれ」

 

 大型の攻城兵器であるバリスタがバラバラになって空を舞っていた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 同じ頃、エスパーダの予想通り、異形の少女も動いていた。

 異形は魔界の軍勢の後ろから近づき、瞬く間に後方部隊を壊滅させていた。

 彼女の足元には、鎧を着たドワーフの骸と先程蹴り飛ばして空中分解した大型バリスタの残骸が転がっていた。

 

「……昔に比べて、少ないな(・・・・)。帰るときに減らした(・・・・)のが効いたか?」

 

 歩を進め、異形は訓練されたゴブリンの歩兵とオークの重装兵で構成された本隊へ追いついた。

 邪魔をしてくる兵隊を両腕の鎖を振り回して、切り刻みながら進み。

 軍勢の中で一番強そうに感じる存在の前に立ちふさがった。

 

「よぉ、おたくがここのリーダー?」

「貴様、どこから現れたッ!?」

 

 突如、目の前に現れた獣耳と長い尻尾を生やし、手足に拘束具をつけた異形の少女に警戒心を抱くのは、この軍勢の指揮官に任命されたワーウルフだ。

 ワーウルフは背負っていた大剣を掴み、剣先を異形に向け言った。

 

「何者だ、貴様は。本国からの使いという風には見えんし、人間でもない。……気色悪い、とっとと目の前から失せろ」

 

 ワーウルフはまだ気づいていなかった。

 異形が後方部隊を壊滅させ、攻城兵器をすべて破壊したことを。

  

「気色悪いはともかく、人間じゃないとは、遺憾だな。確かに内側も外側も弄られたが心は人間のつもりだぞ、私は」

「意味のわからんことを……だが心が人間だというのなら、それはつまり――我々の敵ということだな」

「その通りだけど?」

「ならば、死ねいッ!」

 

 ワーウルフが大剣を振りかぶり、突撃する。

 それに対し、異形は飛び上がって、鎖をワーウルフヘ叩きつけるように振るった。

 

「おのれ――」

  

 ワーウルフは大剣を上段に掲げ、振り下ろされる鎖を防御しようとしたが――大剣ごと両断された。

 

「……なんだ、呆気(あっけ)ない。リーダー格だからどんなものかと思えば、この程度なのか」

 

 拍子抜け。 

 そんな風な表情で呟いたあと、異形は自分を囲うゴブリンとオーク達へ鎖を振るった。

 

 一方、少なくない死者を出しつつも、先行軍を全滅させた魔法少女達は次の標的を指揮官の死亡と異形の強襲により混乱状態の本隊に定めた。

 完全に統制が取れなくなった本隊は前から魔法少女、後ろから異形に挟まれる形で次々と数を減らしていった。

 

 そして、異形とスルーガールは――戦場の真ん中で再び対峙する。

 

 

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