立て続けに3人殺したところで、さすがに異変に気が付いたのだろう。千束は一度奥の物陰に隠れると、再び現れて真っ直ぐたきなの方に走ってきた。
銃弾を避けながら応戦するが、明らかに威嚇射撃で相手を狙ったものではなかった。
たきなの元まで来ると、乱暴にたきなの腕を掴んでさらに奥まで後退した。そして肩で息をしながら、床を睨んで低い呟きを漏らした。
「どういうこと? なんで実弾が入ってる?」
「どうしたんですか?」
何も知らないように聞くと、千束が珍しく怒りの表情でたきなを睨みつけた。
「私は今日の準備をしてからここまで、たきなとしか会ってない。お前がやっただろ」
疑いのない糾弾。
リコリスの千束がバッグを手放すことはない。例外があるとすれば、理由があって仲間に預ける時だけだ。
だから、千束のマガジンを変えられるのはたきなだけであり、事実、やったのはたきなである。これ以上しらを切っても仕方ない。
「20対2ですから、今日は全力で戦った方がいいと判断しました」
「20対1で、いつもの弾で戦ったって負けない」
「まだ戦いの途中です。戻りましょう」
今、千束の武器は実弾銃しかない。前金はすでにもらっているが、後から支払われる報酬は殺した人数で決まる。千束にはもっと殺してもらわなくては困る。
軽く千束の手を引くと、乱暴に振り解かれた。視線も合わさずに千束が吐き捨てる。
「もうたきなと一緒には戦えない。信用できない人間とは組めない」
「その話は戦いが終わってからゆっくりしましょう。20対1でも大丈夫なら、17対1も大丈夫ですね?」
「帰る。今日は武器がない。任務は失敗だ」
「あるじゃないですか」
銃を指差し、平然とそう言ったところで、千束の拳がたきなの頬を捉えた。
相棒のファーストリコリスに殴られるのは、これで2回目だ。
壁に手をついて立ち上がると、視界がぐらっと揺れた。あの時フキに殴られた倍は痛い。
口の中が気持ち悪かったので唾を吐くと、血で真っ赤に染まっていた。バッグを背負い直して銃を取り出す。
「それでは、私がやります。バックアップをお願いします」
「無理だ。私はもうたきなのバックアップはできないし、たきなが17対1で勝つのも無理だ」
「それでは、一人でも多く殺して死にます」
千束が止めるようにたきなの肩を掴んだ。それを振り切って、たきなは銃を構えて広間の方に駆け出した。
今この戦場には、千束がDAから受けた仕事と、たきなが吉松から受けた依頼の他に、もう一つの依頼があった。
20人の男たちに与えられた、潜入してくる赤い服の女を殺せという依頼である。もちろん依頼主は吉松で、こちらにも莫大な金額が積まれていたが、これは失敗することが想定されたものだった。
その依頼はたきなも共有しており、同時に青い服の女には手を出すなという条件が付いていることも知っていた。交換条件として、たきなも男たちを殺さない。20人を殺すのは、あくまで千束の役目なのだ。
だから、広間で始まった銃撃戦は茶番だった。明らかに狂った狙いの狙撃に、たきなも極めて精度の高い、当たらない射撃で応戦する。近付いてきた男たちに取り囲まれて捕まり、助けを求めるように叫ぶと、追ってきた千束が冷たい瞳で言った。
「何やってんの?」
戦いのプロが、この茶番劇に気付かないはずがない。男たちが「この女の命が惜しければ、銃を置いて投降しろ」などと怒鳴るが、これも大根役者の三文芝居のようだった。
千束が心底軽蔑したように薄ら笑いを浮かべた。
「勝手にやってろ」
千束の足音が遠ざかる。ここまで嫌われるのは予想外だった。たきな自身は悪人を殺すことをなんとも思っていない。だから、千束も仕方ないというくらいのノリで、たきなと一緒に20人を殲滅してくれると思っていた。
そう考えていたのは吉松も同じだったはずだ。つまり、吉松のこの茶番劇は失敗した。3人しか殺せなかったが、果たしてそれでも成果と認めてくれるだろうか。
頭の中でそんなことを考えていたたきなの腹部に、男の一人が銃を近付け──引き金を引いた。