萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
はじめまして。もしくはこんにちは。
だいたいタイトルの通りです。お楽しみいただければ幸いです。
Call of limbo(1/3)
東京某所、とあるビル群の一角。
その屋内はひどく荒れ果てていた。割れて散乱した窓ガラス。引き倒された棚や机や椅子。壁に空いた無数の穴───弾痕。
「ぁ、がっ……は、あ……!」
「おいッ!! 動くな! 銃を捨てろ!」
屈強な男たち数人が、まだ年端も行かぬ少女を拘束して叫んでいた。
手の中には大小種々の銃がある。引き金ひとつで容易く人間の命を奪う、無窮の殺戮機械だ。
───そして、それだけの暴力を所有していながら、男たちの顔には余裕が無い。
「司令部、指示を乞う。司令部───」
建物内を区切る壁面を挟んで対峙しているのは、同じく銃器で武装した少女たち。
一見奇妙にも思えるその光景はしかし、この空間が暴力と暴力が衝突する致命の鍔際であることを雄弁に物語っていた。
「ダメです、いま本部でも何らかの技術的トラブルが発生しているらしく」
「クソが……何モタモタしてやがんだ!! あぁん!?」
戦況は膠着していた。
彼らが相争っている地点を除いてビル全体の『制圧』は完了しつつあり、数の上では少女たちが有利だ。
だが乱戦の中で、男たちは敵の一人を捕縛することに成功した。それが人質となり、少女たちは再び攻勢に出ることに二の足を踏んでいる。
このような場合、より上位の責任ある人間の指令に従うのが少女たちの常だった。だが、先刻より通信が途絶しており、それも叶わない状態だった。
「……っ」
皆が皆、互いに
眼下に転がる無骨な金属塊。元の使い手が死んだか、混乱の最中に放棄された武器───PKM汎用機関銃。
大型火器だが、機関銃というカテゴリーで見れば比較的軽く、女の自分の膂力でも辛うじて扱える。
少女たちの
無茶な突入を敢行するよりは、火力と射程で優るこれを使って奇襲を仕掛けた方が───。
「ここは現場判断で突入するしか」
「よせ、刺激するな! 味方が捕まってるっ」
「とっととしねぇとお仲間が
「ひ……!」
いや、ダメだ。味方に当たる。
紺色の学生服に似たユニフォーム。組織における階級は
仮にも『セカンド』なら相応の実力はあるだろうに。彼女の無能に辟易すべきか、あるいは敵が手練であったと考えるべきか。
ただ、どちらにせよ『
「───たきな?」
どうする。どうやる。
考えろ。考えろ。急げ、決断しろ。
敵が逃げる。ダメだ。仲間が死ぬぞ。混乱しているからこそ規律を保て。迷うな。自分だけで判断してはならない。
撃て。戦え。やめろ。よく考えろ、迷うな、撃て、戦え、よせ、撃て撃てやめろ戦え撃て見捨てろ諦めるな撃てやめろやめろ撃てやめろ─────。
<だいじょうぶ>
インカムから声。通信障害により音質は悪いが、通信が繋がっているということは、相手は近くに居るはずだ。
黒髪の少女は改めて周囲を見渡すも、それらしい声の主は見当たらない。
そも、この距離なら直接話した方が早いだろう。何故わざわざ通信をかけてきたのか。
<よーく見てみよっか。相手は男の人ばっかりで的が大きい。でもあの子は小さいし、膝を曲げた姿勢でいる。だから、きちんと狙って撃てば当たらないよ>
「……、本気ですか?」
<うん。さぁ、それを手に取って>
ごく幼げで甘い声が、黒髪の少女の耳朶を打つ。頭の中に直接、蜂蜜を流し込まれているかのような錯覚。
奇妙な通信だった。最初こそ警戒するだけの理性が残っていた、が───。
<深呼吸、深呼吸。すぅ……>
深呼吸。なるほど、クールダウンが必要なのは尤ものように感じた。
指示に従って息を吸う。約4秒間の吸気。
<はぁ……>
そして、約4秒間の呼気を終えた瞬間、全身に猛烈な万能感が充満した。
自分は今、誰に憚ることも無く
<ふふっ。お姉ちゃんなら、きっと出来るよ。わたしがついてる>
耳元で囁かれる愛らしい響きが、鉄火場でささくれ立った黒髪の少女の心を、完膚なきまでに優しく包み込んでいた。
「…………」
「───ん? おい、お前それ」
<しっかり狙って、ほら。一緒に悪い奴らをやっつけよ?>
黒髪の少女の視界が青く染まり、目に映るすべての運動が停滞する。
何も見えず、何も聞こえず、何も感じない。自らを導くこの声と、銃口が捉える男たちの心臓と、指に伝わる引き金の感触の他には何も。
<さん……>
「バッ、てめぇ……!!」
<にぃ……>
「───問題ありません。一掃します」
<いち>
カチリ。
どん。
刹那、7.62×54mmR弾の豪雨が横殴りに叩きつけられ、哀れな羊の群れを血の海に沈めた。
◇ ◆ ◇ ◆
─────独立治安維持組織『
古くは明治政府の樹立以前、日本の中枢にて創始された影の衆を源流とする暗殺部隊。
国体を脅かす重大な犯罪者、あるいは悪逆の兆候を闇の中で討ち、もって平和の礎と為す秩序の剣。
かの組織によって各地から集められた
学生服という都会の迷彩を纏い、世に蔓延る悪意を人知れず抹殺するエージェント。
陽の当たらぬ裏社会にて、少女たちはこう呼ばれていた。
罪人の魂を冥土へと流し渡す、現世の彼岸花───『
◇ ◆ ◇ ◆
黒髪の少女───リコリスが、別の仲間のリコリスに詰問されている。
正式な指令を待たないままでの独断専行。味方を巻き込んで行われた大火力投射。本来は尋問のために捕縛する予定だった敵勢力を、一人残らず鏖殺した作戦不履行。
銃という究極的な暴力装置の行使を一任され、国家の安寧を背負い、規律ある組織に属する人間としては、およそ最悪の選択だった。
<だいじょうぶ>
インカムから、より鮮明になった声が聞こえる。通信障害は既に解消されつつあった。
脳髄の奥底に触れられるような、何もかもを蕩けさせて夢見心地にする魔性の声音。
<お姉ちゃんは悪くないよ。仲間の子も無事だったんだし、敵はみんなやっつけた。でしょ?>
───そう。その通りだ。
『声』の見立ては正しかった。人質になっていたリコリスは、男たちとの体格差が幸いし、敵方の上半身のみを狙った掃射には巻き込まれなかった。
唯一尋問するための捕虜を得られなかったのが手落ちと言えば手落ちだが、作戦自体が想定通りに進行していなかったのだ。多少のイレギュラーは仕方がない。
隊長格の少女は変わらず自分を糾弾しているが、まるで耳に入らない。
自分以外の誰にもあの状況を打破できる者は居なかった。戦場では結果がすべてだ。そのように反論する。
「……ッ!!」
一瞬だけ意識が空白になる。
黒髪のリコリスが『自分は殴られた』と気づくのに、しばらくかかった。
左の頬が鈍く熱を持っている。運悪く切れてしまったか、少なくとも内出血で痣にはなっているだろう。
<あは>
未だに完全な現実感を取り戻せていない視界の隅に───されど、強く注意を引くものが映った。
<───また一緒に遊ぼうね、お姉ちゃん>
真紅に染まった部屋の奥、ステンドグラスの如く砕け散った窓ガラスの向こう。
紺の学生服を着た少女が、蛇のように伸びる髪を宙に靡かせ、どこへともなく消えて行った。