萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
賢明なる読者諸兄には既にバレていることかと存じますが、筆者はMETAL GEAR RISING: REVENGEANCEが大好きです。
奇妙な、異様なリコリスだった。
まず、銃を持っていない。
鞄自体は携えていたものの、それもついさっき地面に落とした。銃器と弾薬が入っているにしては音が軽すぎる。
その代わりと言っては何だが、腰に銀色の細長い箱のような物体を、長短一対備えていた。
先端に灰色のグリップらしきものが見受けられる。特注のカスタム銃かとも思ったが、それにしてはグリップの配置が妙だ。銃身に対して垂直に付くのではなく、平行に伸びているのだから。
「すぅ……」
吸気と同時に、動く。
腰の『ケース』に左手を添え、右手はグリップをしかと握り込む。
右足を前へ、左足を斜め後ろへ、ぐぐっと背中を沈め、首を上げて視線はこちらへ。
千束さんも体幹の強い方だが……彼女はひとつ次元が違う。あんなに不自然な姿勢なのに、表情筋までもが完璧に制御されて微動だにしない。
「───推して参る」
刹那、私は
手に持ったままの銃を向ける。先に出しているぶん私の方が速い。
私でなくともリコリスなら誰だって、目を瞑って撃っても当たる距離だ。
銃口が火を噴き、私の撃った弾は狙い過たず相手の頭部を射抜く。
「え」
はず、だった。
「……おっと。結構やるですね」
───何だ。
今、彼女は何をした?
まったく見えなかった。さっきの『攻撃』もそうだが、こうも立て続けに意味不明なことが起こると嫌にもなってくる。
千束さんの目なら……いや待て、思考を放棄するな。今の一瞬を思い出せ。
黒髪のリコリスの、右腕が……。ほんの一瞬だけ霞んで───。
極限状況下で加速する思考、鋭敏になった感覚が、『ちゃちゃりん』という二重の金属音を捉える。
それは、真っ二つに両断された9mmパラベラム弾だった。
「……嘘」
「にひひっ。そういやお互い初見でしたね、ミカドたち」
「っ!!」
有り得ない……信じがたい……、考えられない。
馬鹿なことを言うな。これで今日何度目だ?
どんな論理の飛躍も、突拍子も無い想像も、検証する前から切り捨ててはならない。
撃つ。ひたすら撃つ。
頭に3発、心臓に4発、肩口に2発、腹部に3発、足に2発。
発砲音と共に甲高い金属音が鳴る、鳴る、鳴る───果たして、黒髪のリコリスは無傷だった。
「ややっ!? なんと、こんなに
あぁ───やっぱりか。
このリコリスは、"錦木千束族"だ。
「銃弾を、
「ご明察!!」
連射で空になったマガジンを排出した瞬間、銀色の軌跡が閃く。
それを咄嗟に横に転がって回避した時、ようやく見えた。
黒髪のリコリスの手に握られているのは、一振りの『
「たきなっ!!」
千束さんは目が良い。銃弾を『斬って』無効化する絡繰りにはとっくに気づいているはずだが、だからと言って、
M1911DCMカスタムが吼える。神速の斬撃が錦木千束の非殺傷弾を破壊する。
「ん〜。タイチョーやそっちの
2方面からの拳銃弾を当たり前のように切り払い、黒髪のリコリスは全身を左右に振った。
篠原氏の事件でニコルが見せたステップに近いが、こちらはより攻撃的だ。低く、滑らかに、地を這う蛇の如く飛びかかり、
「とやっ」
「っあ……!?」
───袈裟懸けの一閃を回避しようとして、跳ね上がってきた左脚に刈り取られた。
胸部側面への直撃は辛うじて防いだけれど、盾にした右腕から嫌な音がした。……肋骨も別に守れている気がしない。迸る激痛と染みるような鈍痛が意識を明滅させる。
というか……これ、私、宙に浮いてないか?
やがて、背中に強い衝撃。
痛みで詰まっていた息が、肺から絞り出される。
「たき……」
「
「!!」
喰らいかかる凶刃。千束さんは文字通り紙一重で躱す。
神域の動体視力と反射神経、天性の洞察力を有する錦木千束に銃撃は効かない。
もちろん、剣による斬撃は銃撃より遅い。しかし、それらは『射程距離』の概念が根本的に異なる。銃を避けられるからと言って剣も怖くない、とはならない。
「チェストオォォ!!」
「わっ、わっ、わ!?」
銃弾はまっすぐ飛んでどこかで落ちるだけだが、黒髪のリコリスのブレードは、その間合いにある限り四方八方から叩きつけられる。点を穿つのではなく、面でもって薙ぎ払う。
別に普通の銃撃だって一発でも喰らえば重傷は確定なのだけれど、あのリコリスの斬撃はそれよりもよっぽど
「うはーっ!! 丸腰なのに5回も耐えた! 素晴らしい体捌きなのです!」
「はっ? 銃持ってるけど───」
「あ! その白い髪……赤い瞳……。もしかして、あなたがタイチョーの言ってた錦木千束さんでございますか!? お初にお目にかかります!
「待て待て待て待て、自己紹介するくらいならその手止めらんないかなぁ!?」
「『最強のリコリス』とお手合わせ出来て、誠に光栄なのです! それじゃあ死ね!!」
「情緒どうなってんのあんた!!」
荒い息を吐きつつ、せめて戦況の進行を見逃すまいと顎を上げる。
「天ッ……誅ウゥ!!」
千束さんのM1911DCMカスタムは、あまり装弾数が多くない。
銃撃が止んだと見るや、黒髪のリコリス───御門かなはは一気呵成に畳み掛けた。眉間と心臓と鳩尾を狙う三連突き、地面すれすれからの斬り上げ、大上段に構えて下ろす兜割り。
「んあぁぁ!!」
「ちょわ!?」
───白刃取り!
右手の銃床と、咄嗟に取り出したワイヤーガンのグリップの底で、迫りくる銀色の死を挟み込む。
千束さんはローキックを放つと同時に両手をねじり、御門かなはの腕からブレードをもぎ取った。
ワイヤーガンで牽制しつつ、ブレードを遠間へ蹴り飛ばして後ろに退がる。
牽制……そう、牽制にしかならなかった。得物を失っても御門かなはの身体能力は健在で、さすがに銃弾より遅いとはいえ、高速かつ横の線で射出されるワイヤーを易々とくぐり抜けていた。
「これはこれは。さすがは『最強のリコリス』なのです。賞賛に値するですよ」
「そりゃどーも。で? 多分何か勘違いがあると思うんだけど。ここは退いちゃくれないかな」
「? 勘違いしているのはそちらでは? ミカドたちは『ウォールナット』とその手勢を撃滅するために来たのです。同じリコリスと言えど、敵に
「……、……ウォールナットは……死んだよ。これで君たちの勝ちだ。もう私たちが戦う理由は無いでしょ」
「ふむん……、それはそうかもですが。しかし、あなた方がウォールナットと共に居た理由は問わねばなりません。あれはDAの
───ウォールナットが?
確かに、あのリスの着ぐるみが凄腕のハッカーであったことは間違いないが……最優先抹殺対象だと?
リコリスの名前こそ知っていても、そこまでDAとの因縁が深いという感じではなかったような……。
「とりあえず。本部までご同行、願えますか?」
御門かなはが、腰に佩いた
「あぁ……。申し訳ないけど、ちょっとやり残したことがあってさ。それが済むまでは応じられない」
錦木千束が、右手の拳銃のマガジンを交換する。
「それは良かった。
『英雄』は無言の先制攻撃で応えた。M1911DCMカスタムとワイヤーガンによる異形の二丁拳銃。
黒髪の剣士は脇差を逆手に構え、飛来速度の異なる2種類の弾丸を、しかし一切の淀み無く迎撃した。
「多少本気を出しますが、上手くやらないとミカドが怒られちゃうので───」
言葉と同時に、御門かなはの姿が掻き消えた。
剣術の神髄、一瞬にして彼我の間合いをゼロとする縮地の歩法だ。
「うっかり死なないでくださいね」
銀色の剣閃が空間を埋め尽くす。
「死なないよ。私も君も」
白金の髪の毛先が何度も散った。黒髪のリコリスの足元で、血の色の煙が何度も弾けた。
脇差が『最強』の前蹴りを受け止めると、冗談のように人体が飛んだ。
銃声。剣士は横に走って避ける。近中距離を維持して後方へ退いていく錦木千束に向かって、周囲に落ちていた一斗缶が投げつけられた。
当たる錦木千束ではないが、そちらに気を取られた隙に、脇差を腰だめに構えた御門かなはが突進する。
「甘いッ」
されど、迂闊だ。彼女が相対しているのは錦木千束なのだ。
脇差の突きを最小限の動作で回避し、それどころか肩口に触れて受け流す余裕すらある。
たたらを踏んだ御門かなはの進行方向には、また別の建物の壁面が迫っている。
不殺のリコリスがワイヤーガンを向けた。これで
「まだですよ!」
には、ならない。
黒髪の剣士は
およそ1.5mを上昇した位置で反転、中空へと飛翔する。
その体勢から、ギロチンの如く振るわれる銀光。
「いっ……!?」
空前の危機を前に、『英雄』の全神経が最高速度で稼働した。膝を折って上体を反らし、すんでのところで断頭を免れる。
これが錦木千束でなければ、確実に死んでいた───まさしく神業、無窮の絶技と言わざるを得ない。
さすがに姿勢を制御しきれずに背中から倒れ込むが、全身の筋肉を総動員してすぐさま跳ね起きる。
振り返りながら右手の拳銃を連射。剣士の着地の瞬間を狙っていたようだが、あえなく切り払われてしまった。
「……すごい」
陳腐な表現になるが、あの二人の戦いは異次元だ。
そもそもどうしてリコリス同士で争っているのかはよくわからないにせよ、これが───
……。……、いや。
圧倒されている場合ではない。黒髪のリコリス、御門かなはは私たちを殺す気だ。
一応『お前たちは敵だから殺す』ではなく『お前たちの行動には問題があるから出頭しろ』という方向に態度を翻したようだが、もはや口で言った台詞などお構い無しの暴れぶりだ。
また
右手は……使い物になりそうもない。
左手で撃つ訓練も積んではいるが、そもそも先刻の一撃で銃を取り落としていて、回収しなければならない。
大体、銃を回収したとて、慣れない左手で撃って
何か……。
せめて、何か一手、御門かなはの予想を上回ることが出来れば。
「……っ」
負傷のため精密な射撃は不可能。
だが───どうだ。
人間を殺すのに必要なものは、何も銃だけに限らない。
「ぐっ……ぅ……!」
大丈夫……大丈夫だ。
私はまだ生きてる。銃で撃たれたわけでも、刀で斬られたわけでもない。
ただちょっと強く蹴られただけだ。何だ、全然元気じゃあないか。
「───やってやる」
私だって。
私だって、選ばれし
◇ ◆ ◇ ◆
「? もしもし……。ゴッホちゃん? どうしたの?」
<オイイイィィィィ!! いや何やってんのお前ェ!?>
「何って……。
<嘘つけェェェェェ!! 狙撃銃で建物が爆発するかドアホ!!>
「さぁ……。ちょっと心当たりが無いな。あそこって確か、古い工場だったよね。何か化学物質的なのが引火しちゃったんじゃない?」
<嘘でしょ!? その言い分で通す気でいるんですか!?>
「まーまー、いいじゃん別に。DAはウォールナットが確実に死んで幸せ、わたしはかっこいい銃が撃てて幸せ、技研の人たちは最高の実戦データが取れて幸せ! Win-Winの結果ってやつだよ!」
<一般市民と工作部と情報部の幸せは?>
「……。……、……わたし知ーらない。あとはゴッホちゃん、よろしくね〜」
<あっオイ待てコラ!! テメェ!! とにかく、さっさと作戦中止して─────>
◇ ◆ ◇ ◆
たきなが状況に復帰して最初に行ったのは、自身の銃を拾うことでもなく、無手で千束の支援に向かうことでもなかった。
右腕の負傷。得意の精密射撃を封じられたものの、しかし、手そのものはまだ動く。
今のたきなが発揮できる最大の攻撃力とは、すなわち、
「───せやぁっ!!」
先ほど戦闘中に手元を離れた、
生憎とリコリス養成所で剣道のカリキュラムを選択していたわけではないが、元来、たきなは手先が器用だ。たとえ負傷していたとしても。
クロスレンジ用に護身術を修めていることもあり、重心の移動などには心得がある。『鉄の棒で殴る』ことくらいは出来るだろう、という考えがあった。
「んにゃ!?」
そして、剣の達人である御門かなはにとって、それは大いに計算外の行動だった───。
計算外だっただけだ。
かなはの目はたきなの一挙手一投足を完全に捕捉している。
負傷している割に素早いが、剣を使うことに慣れていないのは明らかだ。踏み込みも柄の握りも甘い。
「あー!! ダメですよぅ!」
乱雑に振り下ろされる太刀をひょいと回避し、かなはは脇差を千束に投げつける───と見せかけて、軽く放るに留めた。
高速を極める白兵戦の最中、まるで子供のキャッチボールのように緩やかに放られた脇差。
虚を突かれた千束の目の前で、かなはが跳んだ。胴体が回転し、空中から射出された右脚が、腕による
「ッ、は……!」
「千束さ───」
「返してください! 『
「うぁ!?」
即座に反転したかなはが、たきなの手首を掴んで捻り上げた。
取り落とされた太刀型ブレード『玉兎』を器用にも膝で捉え、天高く蹴り飛ばし、さらにたきなの胸元と脚を捉えて地面に倒す。大外刈りに近い組討術。
(─────あ)
やや不完全な馬乗り。しかし、致命的なマウントポジション。
示し合わせたかの如く、否、実際に最初から狙っていたのだろう。
剣士は落下してきた『玉兎』の柄を掴み取り、両手で突き刺す姿勢に入る。
「たきな─────!!」
死を目前にして脳内物質が噴出し、たきなの視界を流れる時間が停滞した。
御門かなはの縮れた毛先と開いた瞳孔。『玉兎』の鋭利な切っ先が照り返す陽光。こちらへと駆け寄ってくる白金の髪のリコリス。
すべてが認識できる。すべてが理解できる。すべてが、手に取るように、感じられる。
(間に、合わな)
高鳴り続ける心臓を、一息に止めるものが迫った。
「御免」
◇ ◆ ◇ ◆
<御門〜? ストップストーップ。ゴッホちゃんがさぁ、話あるからすぐ帰ってこいって〜>
───敵のインカムから、どこか覚えのある声が聞こえ、剣先がぴたりと止まった。
少しでも顔を動かせば、首の皮が裂けるような距離。
あと1秒、いや半秒、もしかすると10分の1秒遅かっただけでも、私は死んでいた。
刀を横にやりつつも私の腹の上から退かないまま、御門かなはは耳元に指を当てた。不満そうに言う。
「えぇー!? そりゃ無いですよタイチョー、ちょうどいま一人仕留めるところだったのに!」
<ごめんねぇ。書類はちゃんと全部出したんだけど、なんかやっぱりダメだったらしくて>
「ぶーぶー。タイチョーはあんなにおっきい花火上げてたじゃないですかー」
<そんなこと言ってられるのも今の内だよ。帰ったらゴッホちゃんと楠木さんからのお説教だからね、あは……>
「ぎにゃあ!! それって結局ミカドだけ損してないです!?」
<いやー、上げてから落とされるのも辛いよ? とにかく、ちゃっちゃと戻ってきなさいな>
「ちぇ。了解しましたぁ……」
<全部終わったら一緒に焼肉行こーね。今日は特別にわたしがおごってあげる♪>
「わはーっ!! タイチョー大好き! ダッシュで戻るのですー!」
剣士は通信を切ると同時に飛び上がり、私はようやくマウントから解放された。
脇差型ブレードと
「というわけで、この勝負は預けるのです。ミカドもとっても勉強になりました! いつかまたやりましょーねっ。それじゃ!」
一つ結びのおさげを揺らして、黒髪のリコリスはにっこりと笑った。
鞄から取り出したカバーを太刀『玉兎』のグリップに装着し、脇差の方はそのまま収納してしまえば、吹奏楽部か何かに所属する女学生にしか見えなくなる。
私がどうにか上体を起こした頃にはもう、御門かなはの姿はどこにも無かった。
筆者自身ちょっとわかりにくいな、と思っているので、ここで本作#2の時系列を整理しておこうと思います。
【ちさたきコンビ、苦難の歴史】
ロボ太、吉松の依頼を受ける(吉松曰く『先月から』)
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ロボ太、色々と手を回す。ウォールナットとの対談(#2冒頭)
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ニコル、DA技研から新装備運用試験のため本部へ招聘される
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ウォールナット、喫茶リコリコに護衛を依頼(↑で本部に出向いていて不在のためニコルは知らない)
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ニコル、ロボ太からウォールナットの情報を得る(情報操作により、ニコルは『リコリコ筋から得たタレコミ』だと思っている)
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ニコル、ゴッホ経由で楠木を丸め込み、(人間に向かって撃ちたかったので)技研からレールガンを持ち出す。ついでに後詰めとして御門も呼ぶ
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リコリコチーム、ウォールナットの護衛に失敗
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ニコル&御門、ロボ太からの連絡不行き届き(そもそもロボ太視点では狙い通りDAが内ゲバしてるだけ)でそうとは知らずに状況開始
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大☆惨☆事(今ココ)