萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
たきなさんのアライメントが秩序・悪から中立・悪くらいになっちゃってる感じがしますが、仕様です。
────今日は何もかもが最悪だったが、最後にひとつだけ良いことがあった。
「ごめんなさい───」
「すまねぇ」
千束さんと色黒の男───武装集団のリーダーらしき人物が、同時に言って同時に顔を上げた。
「な……何で謝るの? だって、あなたの、仲間を……やったのは……」
「お前こそ何言ってんだ? さっきのあれとお前らに、どんな関係があるんだ」
「え?」
私たちを襲った黒髪のリコリス、御門かなは。
彼女は『ウォールナットとその護衛を討伐しにきた』『リコリスが敵だとは思っていなかった』という言い方をしていた。
つまり、今回の襲撃はDAによるれっきとした『ウォールナット討伐作戦』であり、御門かなはと───恐らくはもう1人、あの雷じみた"砲撃"をしてきたリコリスは、
「そうだったのか」
「……うん。だから」
「いや。
「何が! だって私たちは───」
「さっきからうちのハッカーと連絡がつかねぇ。俺たちを雇って、今回の襲撃を指揮してたヤツだ」
「……?」
「ハメられたんだよ。あのクソハッカー……最初から俺たちごとウォールナットを消すつもりでいやがった。俺たちはウォールナットの目を眩ますための
───たとえウォールナットの方にどんな護衛が付いていようと、横から全部消し飛ばせたんだからな。
目線はサングラスで隠れているものの、リーダーの男は苦み走った表情で告げた。
「ど……どういうこと?」
「……。……どういうことも、何も」
これは……いささか以上に厄介なことになったぞ。
御門かなはとの戦闘終了後、血相を変えて飛んできた千束さんの協力により、応急処置は完了していた。
右の二の腕と肋骨2本にヒビ、というところか……。まぁ、それはさておき。
「───そこの方」
「何だ」
「我々は本来、あなたたちのような無法者を討つのが使命なのですが」
左の後ろ手にS&W M&P9を隠し持ちながら言う。
先刻の"錦木千束族"との戦いでは不覚を取ったが、今度は油断も出し惜しみもしない。少しでも危険な動きをした瞬間に3度眉間を撃ち抜いてやる。
「たきな?」
そうならないように祈りつつ。
「たった今、我々の方でもすぐに対処せねばならない懸念事項が出来ました。なので、ここは一時休戦して、互いに見なかったことにしたいと思います。いいですね?」
リーダーの男は、しばらく腕を組んで考え込み……。
「それが良さそうだ。俺たちも暇じゃない───家族の仇を取らなきゃならねぇ。あのクソハッカーを見つけ出して、バラバラに切り刻んで、海の魚の餌にしてやる」
やがて、遠くからサイレンが聞こえてきた。店長が手配したという緊急車両だろう。
私たちは、『同じ相手に命を狙われた』という縁で奇妙な友情を感じ、二度と出会わないことを願いながら別れた。
◇ ◆ ◇ ◆
車内の空気は重い。
緊急車両───救急車の患者用担架に、血まみれのリスの着ぐるみが寝かされている。
この車が病院に行くことは無い。意味が無いからだ。着ぐるみの中に入っていた人間は、治療の余地も無く既に死んでいる。
「…………ウォールナット、さん……」
千束さんはずっとこんな調子だ。無理もない。
今日一日で、色んなことがありすぎた。
窓から差し込む優しげな夕日すらも、あの黒髪の剣士が着ていたリコリス制服を思い起こさせて、私たちの心を癒やしはしない。
<─────もういいんじゃないか?>
…………、……?
何だろう。幻聴だろうか。今、目の前の着ぐるみから声が聞こえたような。
あまりのストレスに、どこかおかしくなってしまったのだろうか、私は。
「……、!?」
「千束さん?」
あれ?
どういうことだ。その表情は……まさか、千束さんも幻聴を?
気持ちは痛いほどわかるが、幻聴が同時に聞こえるなんて少々変だ。何だか気味が悪
「よっ……と」
「あ!?」
「え───!?」
げ、げ、げ、幻聴どころじゃなかった……!!
自動小銃の一斉射撃で蜂の巣となり、噴水のような鮮血を飛び散らせて死んだウォールナットが、担架の上で身を起こしている!!
絶対なる境界を踏み越えたはずの魂が、いま冥府より舞い戻った。
「ぷはぁ〜ッ!!」
……、……。
……というか。
ウェーブのかかったブラウンの長髪。
私たちより一回り年上らしい顔つき。
「ええぇぇぇ─────ッ!?」
完全に、知っている人だった。
「暑ぅ〜!! ビールちょうだい!」
「ミズキさん……!?」
あと何故か運転席から缶ビールが飛んできた。
え? 今の、一体誰が投げて───。
「ミズキぃ!? ななななな何でぇッ!?」
「落ち着け。千束」
「ええぇ先生!?」
運転席から顔を出したドライバーの正体は、ミカ店長だった。
『こちらの息が掛かった車両が』とか何とか言っていたが、まさか自ら出向いてくるなんて。
「ぐびっ、ぐび……。かぁーっ!」
「えっ、あ、うぇ……はぁーあー!? い、いや、でも、だって血……」
「ん? あぁ、これ防弾。派手に血糊が出んのがミソね。マジクッソ重いけど」
ミズキさんが着ぐるみの腹部を押すと、随所に空いた穴から偽物の血液が噴き出した。
他方、缶ビールを持っていない左腕でグッとガッツポーズを作り、自分は健在だとアピールしてくる。
そして、そう───
「あの……。では、本物の『ウォールナット』さんは?」
「あっ!! そうだよどこ行った!? さ、さっきこの頭から声がして───」
<ここだ>
「うわっ!」
ここ? どこだ?
千束さんの言う通り、着ぐるみの頭部から例の加工音声が聞こえては来るが……。
<人間は常に自分が信じたいものを信じる。ぼくを殺したがってる奴が居るのなら、いっそ
「……!?」
「うわ!」
そうして、車両前部の助手席に置いてあった
「─────死んだ人間を追う意味は無いからな。遺産の相続人以外には」
気だるげで、皮肉っぽく、
肩口まで垂れた金髪はボサボサで、あまり手入れされている気配が無い。
一見した印象は星谷ニコルによく似ているが、背丈は彼女よりさらに低いかも知れない。
「んっ? ん、しまった電源を……暗い……」
目元から上と耳を覆うヘッドギア。あれでスーツケースの中からこちらの様子をモニターしていたのか。
両手でヘッドギアを取り外そうとする
「では……わざと撃たれたんですか?」
「……コホン。そうなるな。君が
店長が運転席から片手を上げた。
まったく……。敵を騙すにはまず味方からとは言うが、やはり店長は人が悪い。
「着ぐるみ以外にも色々用意してたんだけどねぇ、ハリウッド並みの大爆発とか……。……全部無駄になったというか、あんなガチでヤバいのが来るとは思わなかったわ……」
「同感だ。銃撃はどうにか耐えられたが、あの砲撃やサムライ・リコリスの剣はどうにもならなかった」
「途中からマジ生きた心地しなかったっての、まぁ実際
「とはいえ、想定外の事態にもよく対処して見事だった。……あぁ、砲撃とサムライはカウントしてないから安心しろ」
『ウォールナット』がヘッドギアを外すと、隠されていた蒼い瞳が露わになった。
頭には、ウサギの耳のような飾りのついた黒いリボンを着用しており、額を出している……というよりは、目元に髪が掛からないようにしているのか。
「これで今回の依頼は完了だ。ご苦労だったな」
「えっ……ちょ、は……、ちょっ……と待って」
千束さんの表情は、どうにも曖昧で一定しない。
……それもそうか。私だってあまり現実感が無い。
大体、諸々の作戦を抜きにしたって、『ウォールナット』の正体が金髪の幼女だったという事実だけでも……こう……。
「い、色々聞きたいことはあるけど。つまり、その……本当は全部、予定通りで……。少なくとも、私たちは、誰も死んでないってこと……?」
「ん。───そうよ」
『最強のリコリス』の顔が、くしゃりと歪んだ。
「……。……、……よかったあああぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!」
頬と目元を真っ赤にして、色んな意味のこもった涙を流して、錦木千束は叫んだ。
「みんなっ……みんな、無事、で! ううぅ……!」
「まぁこの子、とにかく気前良かったしねぇ。こっちも命懸けちゃった」
「もぉぉ……。……死なせちゃったと、思ったし……! あ〜、もうぅ!」
「ちょ───」
助手席を降り、リスの着ぐるみをつついて──多少は思うところがあるのだろうか──いた『ウォールナット』に、千束さんは抱きついて頬擦りした。
「よかった〜!! 無事でっ、無事でよかったぁ、ほんとっ……! ほんとぉぉ〜!!」
「わ、わかった。わかったからやめろ。鼻水が……」
……やれやれ。
本当に……本当に、色々あったけど。
私たちは確かに、ひとつの命を守ったんだ。
◇ ◆ ◇ ◆
ところで。
やるべきことが、もう一つある。
これは多分───仕事の終わりじゃなくて、もっと大きい何事かの始まりなのだから。
「すみません、ウォールナットさん」
「ん? 何だ?」
「お疲れのところ申し訳ないのですが、もう一仕事だけお願いできませんか。
「ちょっ待、たきな? アンタ何勝手に……」
「ふむ。一応聞いておこう」
懐からスマートフォンを取り出して手渡す。
昼間の会話を覚えていたのか、『ウォールナット』は相当に怪訝な顔をした。
「それの電話回線に、いま出来る限りのセキュリティを施してください。どこからも盗聴できず、通話履歴も残らないようにするのがベストです。このあと一度きりでも構いません」
「いいのか? ぼくに触らせて。せっかく助かった命、リコリスの3個大隊を差し向けられるのは御免だぞ」
「少々事情が変わったんですよ。あなたも聞いていたのでは?」
「待て、たきな。ずいぶん長いこと通信を入れて来なかっただろう。まずは私たちに情報を共有しろ」
む……そうか。
ミズキさんは着ぐるみの
いざ改めて口にしてみると、なかなか恐ろしい話だが……。
「───
「……。……、あぁ。そりゃまずいな」
「???」
「おーい千束ー、帰ってこーい。……いや、ボケかましてる場合じゃないわよマジで」
「ハッ、こいつは傑作だ。トラブルの絶えない最高の職場で働けて光栄だよ」
伝説のハッカーは、片頬を上げてニヒルに笑った。
◇ ◆ ◇ ◆
<……もしもし、ニコル? 今いいですか?>
「たきなお姉ちゃん? お姉ちゃんから掛けてくるなんて、珍しいね。それに知らない番号だったからビックリしちゃった」
<えぇ、リコリコ支部専用の秘匿回線だそうで、私もついさっき存在を知りました。それはともかく、少し聞きたいことがあるんです。御門かなは、というリコリスを知っていますか?>
「御門? ……たきなお姉ちゃん、知り合いだったっけ? 確かに今、わたしの隣に居るけど」
「ほぇ?」
<知り合いというわけでもないのですが。ついさっき
「えっ」
<いいですか。今から大事な秘密の話をするので、よく聞いてください。私たちリコリコ支部は今日─────>
「……みーかーどー? 何でそんな大事なことを言わなかったのかな?」
「ひょえ……。だっ……だって、えと、タイチョーが先に言ったんじゃないですか! 今は仕事の話は無し、どこの焼肉屋がいいかって!」
「……」
「ひぃぃぃ無言でにっこりしないでえぇ!?」