萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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突如 千束の脳内に溢れ出した
()()()()()()()



#2.5 Last dark wing standing

 すべてを終えて、喫茶リコリコに帰ってきた。

 

 ……帰ってきたというのも変か。ここは私にとっては単なる左遷先だ。

 リコリコ・チームはみんな良い人だが、だからこそ甘えてばかりはいられないと思う。

 

 特に今回の一件で、ニコルには大きな借りが出来てしまった。

 『ウォールナット討伐作戦』の報告書から、DA視点では"敵"として行動していた私と千束さんの名前を消してもらうなど、言い訳のしようもない反逆行為だ。

 ニコル自身は快諾どころか半ば泣きそうになって謝ってきたけれど、時が来れば土下座でも何でもしなければならないのはこちらの方である。

 

 さて、それで。

 日も落ちて閉店時間が近づく中、喫茶リコリコの店内には、弛緩した空気が流れていた。

 

「はああぁぁぁぁ……」

 

「……いい加減、機嫌を直さないか。千束」

 

「先生。事前に教えてくれてもよかったんじゃないですかねぇ〜?」

 

「だってアンタ、芝居下手だし。たきなと一緒に自然なリアクションしてくれた方が助かったのよ」

 

 ノートPCで残務処理をしつつ、ミズキさんは手元のスマートフォンをいじる。

 何らかの画面を表示し、振り返って千束さんに見せた。

 

「ほ〜ら、こういう」

 

 そこには、涙と鼻水でちょっと世間にはお見せできない感じになった千束さんが写っていた。

 緊急車両に乗り込んだ時には()()()()()()()()()()ので、恐らくはウォールナットが正体を明かしてから撮られたものだろうけど。

 

「あっ!? あーっ……! 何撮って、いつ撮ったのそれちょっとぉ!」

 

「ふっふ〜ん」

 

 例の如くじゃれ合う千束さんとミズキさんを横目に、私は思考の海に沈んでいく。

 

 ───今回は『そういう作戦』だったから良かったようなものの、()()()()()()()()()()に失敗したのは事実だ。

 ハッキング機能付きのドローンなどという代物を見た瞬間から、常に考慮しているべきだった。敵に高度な監視能力を持つ指揮官が居ること。そんな相手が操るドローンの数が、たった2機程度で済むはずが無いということを。

 

 手落ちと言えば、とにかくDA本部と折り合いが悪い喫茶リコリコ支部の性質上、私たちが組織内での動きに対して完全に無知であったこともそうだ。

 DAが真剣に『ウォールナット』を追っていることさえ知っていれば、今回の依頼そのものの受注を考え直していただろう。

 千束さんは十中八九ウォールナットを助ける方向で反対しただろうが、本部と交渉して何らかの妥協点を探る機会もあったはずだ。例えば、"今回の国外逃亡は助けるが、もしまた日本に戻ってきたら排撃対象に再指定する"とか。

 少なくとも、同輩のリコリスに殺されかけ、必死で情報を隠蔽する羽目にはならなかったと断言できる。

 

「……そういえば」

 

「? どしたんたきな」

 

「いえ、特に何でも」

 

 一人で考え込んでいても仕方ない疑問だ。

 ()()に聞くのが一番早いか。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────『それ』と初めて出会ったのは、私が今の彼女と同じ13歳の時だった。

 

 

 

 DA本部・東京支部からの救援依頼。

 凶器を準備して集合している怪しい集団をやっつけに行ったら、その組織は海外のマフィアと繋がっていた。予想外に苦戦している内に増援を呼ばれ、現場に向かったリコリスが孤立しているらしい。

 天下御免のDA様も万能ではない。よほどの理由が無い限り、その活動は国内の治安維持に限定されるからだ。特に、充分な財力と組織力のある海外の組織が絡むと脇が甘くなりやすい。

 ……尤もそこまで()()()()()()非合法組織なら、DAが幅を利かせている日本(この国)で商売をしようとはあんまり考えないわけだが。

 

 とにかくそういう事情で、管轄地と現場の距離が近く実力もあるファーストとして、私にお鉢が回ってきた。私としても仲間(リコリス)の救出と言われれば是非も無い。

 今回は相手が相手で数も多そうだから、()()()()()()()に加えて普段使わないマシンガン(クリス・ヴェクター)まで持ち出して来ている。弾はいつも通り先生の特注品(非殺傷弾)だけどね。

 

 ミズキの車で現場に到着。件の『怪しい集団』の息が掛かった、海沿いのコンテナ置き場(物資集積場)

 太腿に拳銃のホルスター、右手にマシンガン、腰に警棒型特殊スタンガン(スタン・ロッド)を差して、いよいよ開戦の構えだ。

 

 先生の指示に従って、立ち並ぶコンテナの間を進んでいく。

 思っていたより静かだ。遠くから銃声と怒号が聞こえ、その音へ徐々に近づいてはいるものの、敵っぽい人に全然遭遇しない。

 何かおかしいとは思いつつ、そのまま一番開けた場所に出て─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、『それ』を見た。

 

 黒いスーツや暗緑色の防弾ベストを着た人々の中心で、暴風の如く飛び回る真っ赤な影。

 

「うゔぅぅああぁ────あ゛あ゛あ゛ああぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁ゛っ!!」

 

 一人の小さな女の子。リコリスだ。

 枯れた喉から迸る絶叫の音階だけが、辛うじて『それ』の正体を告げていた。

 私の視力ならこの距離でも姿形を認識できるけれど、そうして声を聞かなければ、とても小さい女の子になんて見えなかった。

 

 乱れた長髪も、明るいベージュ(サード・リコリス)の制服も、頭から爪先まで紅い血と肉片にまみれて。

 右手は周囲に散乱している銃器を手当たり次第に拾って発砲し、左手は何重もの布で固く巻きつけられたナイフを振るう。

 骨が折れているのだろうか、動きのぎこちない左脚には、しかし添木代わりのライフルがくっついていた。

 左目は赤黒くべとついたもので閉ざされており、限界まで見開かれた右目だけが爛々と輝いている。

 

「何だァ!? 何だコイツ、コイツぅッ!!」

 

「クソ!! どうして当たらねぇ!?」

 

「馬鹿言え、()()()()()()()! なのに止まらな……ギャアアァァア!!」

 

 壮絶。

 その一言に尽きた。

 

 包囲され、四方八方から銃撃を加えられているのに、『それ』は追い詰められてなどいなかった。

 致死の弾丸が乱れ飛ぶ中、一瞬たりとも足を止めない。速く、低く、力強い、猫科の肉食獣を思わせる疾走。

 五体すべてが命を砕くための凶器であり、『それ』が四肢を動かす度に、人体から彼岸花(Lycoris)が咲く。

 片目だというのに、その(リコリス)の射撃精度は異様なまでに高く、トリガーを引けば引くだけ敵が死んだ。時には、1射で3人の頭を同時に撃ち抜いていることすらあった。

 

 ───何か。

 何か、出来たはずなのに。

 私は、何かを期待されて、ここに呼ばれたはずなのに。

 

 錦木千束は何も出来なかった。

 目の前で積み上げられるおぞましい死に対して、何もしてあげられなかった。

 

 屍の山、血の海の上で、最後まで立っていたのは一人だけ。

 虚空を見つめる『それ』の顔には、もはや何の表情も浮かんでいない。

 

 私は─────。

 

 

 

 1分前まで完膚無きまでに破壊されていた『勇気』の機能が、ようやく復旧した。

 むせ返るような鉄と火薬の匂いの中、赤黒く染まった世界を歩いていく。

 

「……君」

 

 どんな顔で声をかければいいのかわからない。

 実際、どういう感情で『それ』の前に立ったのか、今はもう覚えていない。

 

「───……」

 

 満身創痍だ。

 それはひどく傷つき、獣のように暴れ、ただ死んではいないというだけの、この世界に生きる一人の女の子だった。

 

「…………う、ぁ」

 

 握っても開いてもいない半端な形で、痙攣する右手を突き出す。銃は持っていない。既にそうするだけの握力が残っていないのだ。

 本当なら左手も同じ状態なのだろう。だから包帯か、服の切れ端らしき布でナイフを固定している。こちらももう満足に振ることは出来なさそうだけれど。

 

「うぅ、ぅ……!」

 

「大丈夫。敵じゃない」

 

 今まで特に意識してこなかったが、ファーストの制服が赤色であることを初めて恨めしく思った。

 赤は血の色だ。こんな状態の娘に見せたら、無駄に怖がらせてしまうに決まっている。

 

「もう、ここに、怖いものはいないよ」

 

 下手に刺激すると噛みつかれそうだったので、まずは優しく語りかける。

 目の奥に宿るものが『敵意』から『警戒』に変わったのを確認して、私は彼女の左手に触れる。

 ……ちょっと固いな。どうにかナイフを捨ててもらいたいところだったが、この布を剥がすのには苦労しそうだ。

 

「ほら」

 

 仕方ない。一芝居打つか。

 

「あ」

 

 小さな頭を抱き寄せて、胸に当てる。

 自分でもちょっと無理筋なんじゃと思うが、私にしか出来ない説得の仕方だ。

 

()()()()()()()()() 私はさ、ここに居る『死者(みんな)』と同じなんだ。君を傷つけない。君に銃を向けない。ここにはもう、怖いものは何も無い」

 

 血まみれのリコリスの肩が震えた。

 たぶん、傷と疲れのせいじゃない。

 

「───だから、もうおやすみ。よく頑張ったね」

 

 やがて、呼吸が平静に戻っていく。瞳の炎が瞬いて消え、ゆっくりと閉ざされていく。

 

「…………。……あ、は」

 

 この広い広い世界中でただ一人、私にしか聞こえない音量で、少女は小さく笑った。

 

 何だか今わの際みたいなことを言ってしまったものの、幸い少女にはまだ息があった。直前まで銃火器で武装した集団相手に大立ち回りを繰り広げていたのだから、知ってたっちゃ知ってたことだが。

 とはいえ、このままだと危ないのも事実。リコリスも、敵の人たちも───この娘を残してみんな居なくなってしまったけれど、それでも、この娘は生きている。

 ()()()()()()()()()()。たったひとつであっても、救える命があるのなら、私は諦めたくない。

 

「大丈夫」

 

 くれぐれも傷が酷くならないように気をつけながら、少女の身体を背負う。軽い。左脚のライフルを勘定に入れてもだ。

 

「……大丈夫。絶対、助かるから」

 

 あぁ。

 たとえこの少女(リコリス)が、どれだけの命を奪った殺人者であろうと。

 これからの未来、どれだけの命を奪う殺戮の機構に成り果てようとも。

 

 少なくとも今、『錦木千束』の目の前で、死なせていいはずが無いんだから。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 喫茶リコリコ、バックヤード。

 

「ほら、これでも食って落ち着け。私たちも騙すような真似をして悪かった」

 

「あ〜。先生、甘いもので買収するつもり?」

 

「要らないか?」

 

「ううん! 食べますぅ〜!」

 

 和風カフェらしく古民家をリノベーションした──ちなみに改装費用は10年前の独立当時、ミカ店長が私財のほぼ全額を投じて捻出したらしい──この建物には、資材倉庫として使っている分を差し引いても、いくつかの空き部屋がある。

 

「あ、たきなー。座敷に座布団出しといて」

 

「はい」

 

 私が向かったのは、そんな空き部屋の一角……。

 

「失礼します」

 

 ではなく。

 1階ホールから直通、廊下突き当たりの押し入れだ。

 座布団はここに入っている。ついでに、私の目的の人物もここに居る。

 

「すみません。こっちの作業が終わってから少し話せますか?」

 

「構わんが。入社初日から忙しい職場だな」

 

「今度はそこまで大した用事ではありませんよ。では」

 

「……ん?」

 

 千束さんが素っ頓狂な声を挙げた。

 それはさておき、押し入れの下の段から座布団を取り出して、っと……。

 

「……、は? え?」

 

「どうされましたか」

 

「い、いやいや! いま何か居たよ!? ほら押し入れ!」

 

 うん?

 何かとは何だ。得体の知れないものなど入っていないはずだが……。

 

「ぃよいしょっ……んん? 固……!?」

 

「おい、ぼくが居る時は無理に開けようとするなと念押ししただろう。声をかけろ声を」

 

「のわぁ!?」

 

 押し入れが()()()()()()()()()()、取っ手に齧りついていた千束さんは勢い余ってつんのめった。

 開けたのは、押し入れの上の段に居を構える金髪の幼女───ウォールナットだ。

 

「あぁ、うちでしばらく匿ってくれって。あんま散らかすんじゃないよ〜」

 

「嘘ぉここで!? 完全にドラ○もんじゃん!」

 

 今日は驚きっ放しだな、千束さん。

 元より喜怒哀楽すべての感情表現が激しい人だが、基本的にはどこか飄々としているものだから、こうも余裕が無いのは珍しい。

 

「ド○えもんと同じにするな。家賃は払ってやる」

 

「家賃?」

 

「お前らの仕事を手伝うと言ってるんだ。『ウォールナット』を雇うにしちゃ格安なんだからな」

 

 帰りの道中で店長たちから説明されたはずなのだが、どうしてまた何も知らないんだ?

 ……あっ、そういやあのあと泣き疲れて、ウォールナットを抱き枕に居眠りしてたな……。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ラストオーダー10分前になってから、喫茶リコリコにその日最後の来客があった。

 

「───いらっしゃい」

 

 痩身の男は右手を挙げ、にこりと笑って応える。

 

「やぁ。相変わらずかしましいね」

 

 貿易商の吉松シンジ。店長・ミカの旧友であり、長らく疎遠になっていたところを偶然再会して以来、リコリコに通い始めた常連客の一人だ。

 

「少し、な。色々あって()()()()、子供を預かることになったんだ。うちは幼稚園じゃないんだが……」

 

「幸せなことじゃないか。我々のような大人にとって、未来ある子供たちの道行きを見守ることは最高の喜びだ」

 

「……。それも……そうか」

 

 ミカはどこか陰のある声で答え、そのような言い方をしたことに自分でも驚いた。

 半ば強引に話題を変えにかかる。

 

「ところで、最近よく来てくれるな。忙しいんじゃなかったのか」

 

「たまたまさ、仕事が一段落ついたからね。ようやく目当ての相手を捕まえたんだ。リスのようにすばしっこい奴だった」

 

「ほう。それはまた、えらく気難しいのと商談をする気になったもんだ」

 

「でも、良い時間と金の使い方をしたと思っているよ」

 

 表情は抑制されているものの、吉松は心底嬉しそうに呟いた。

 実を言えば、吉松とミカの間には友情のみならぬ因縁があるのだが、近頃は一時よりずっと取り繕わずに話が出来るようになっていた。互いを知り、互いを尊重するからこそ隠している腹の内を除けば。

 

「注文は?」

 

「コーヒーとおはぎを。ここの甘味はどれも美味い。このあいだ()()と話していて思い出したが、昔の君はスクランブルエッグひとつ作れなかったのに」

 

1()0()()()()()()()

 

 ミカはそう言い返して厨房に消えた。

 ほんの一時とはいえ途切れた会話を惜しむように、吉松は店の奥に向かって声をかける。

 

「千束ちゃん!」

 

 通路の向こうから、パタパタという足音。

 やがてリコリコの看板娘・錦木千束がひょこりと顔を出し、満面の笑みを浮かべた。

 

「あぁっ、ヨシさんいらっしゃい! でもごめんなさい、今ちょっと忙しいから後で!」

 

 しかし態度とは裏腹に、白金の髪の少女はさっさと奥に戻ってしまった。

 吉松が内心、これは振られたな───と苦笑していると、ちょうどそのタイミングでコーヒーが差し出される。

 

「フ……。すっかり淑女(レディ)だな」

 

「あれが? 冗談にしてもきついぞ」

 

 男はコーヒーを一口啜り、ソーサーに戻して、しばしカップの中の水面を見つめる。

 温和で人の良さそうな微笑みを維持したまま、何でもない世間話のように問うた。

 

「ミカ」

 

「何だ」

 

「─────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 用意していた答えがあったはずだが、ミカはそのどれも口にすることが出来なかった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 最初こそ驚いてばかりだったが、さすがは錦木千束と言ったところか。

 すぐさま我を取り戻し、私も転属初日にやられた質問攻めをウォールナットに敢行していた。

 

「ん、ということは……今日から仲間ね! やったぁ! 名前は?」

 

「は? 決まってるだろ、『ウォールナッ』……」

 

「ちょちょちょ! ()()()は死んだんでしょ?」

 

 ……。

 いつ終わるのかな……。

 

「本当の名前を教えなさ〜い!!」

 

「……、───"クルミ(Walnut)"」

 

「えぇ? 日本語になっただけじゃーん!」

 

 ───その時、私の脳裏に天啓が訪れた。

 具体的に言うと、現状に対するささやかな抵抗(ちょっとした悪戯)の手段だ。

 

「けど、そっちの方が似合ってるね。よろしくクルミ!」

 

 幸い、御門かなはに入れられた腕と肋骨のヒビは大して重傷ではなく、安静にしていれば1ヶ月で快復する見込みだ。射撃訓練が満足に出来ないのは手痛いが、無理さえしなければリコリコの業務にも充分対応できる。

 店長のコネでDAの医務室から骨粗鬆症(こつそしょうしょう)治療用の薬剤も都合してもらえたし、実際はもっと早く治るはずだ。

 

「ん。よろしく、千束」

 

 だが───この程度は、『無理』の内には入らない。

 

「ね〜、出といでよぅ。一緒にお団子食べようぜっ」

 

 ヘアゴムを片方取り、右手の人差し指と親指に"装填"する。

 

 錦木千束の異常な回避能力の源泉は、神域の動体視力と反射神経、天性の洞察力にある。

 さらに恐ろしいことに、彼女と同じ芸当が可能な──完成度や方向性こそ違えど──人間は、この世に複数存在する。

 

 ならば、もしまた今後、彼女らのような"錦木千束族"と交戦する機会があった時。

 対抗手段として取り得るのは、例えば───。

 

「たきなも……」

 

 ─────視界外からの、完全なる奇襲!!

 

「いっ!?」

 

「……へ?」

 

「あ」

 

 そして、私が放った"ヘアゴム弾"は、本物の『ウォールナット(クルミ)』の露出した額を見事に撃ち抜いた。

 

「いった〜……!」

 

「た……たきな、さん? 何してらっしゃるの……?」

 

「え、あっ……いや。その」

 

 ───……、偶然……だよね?

 だって、千束さんは今、私に背を向けていて。私は有効視界に入ってなんかいなかった。

 それを……偶然、ほんの偶然、私を呼ぶために振り向いて……。で、後ろに居たクルミにヒットした……そうだよね?

 

「……何なのこの人……」

 

「いやお前が何なんだよ!? くそっ、ぼくが一体何をしたっていうんだ? 心当たりがありすぎる……!」

 

「ありすぎるの!? というか、たきなのその目は何!?」

 

 "錦木千束族"代表、錦木千束。

 『最強のリコリス』の力の底は、未だ知れない。

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