萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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ほぼ原作の流れ追ってるだけなのに10000文字超えました。仕事や学校を休んでからお読みください。



XXX leagues under the sea(2/3)

 装弾。

 

 装填。

 

 構え───撃つ。

 

 撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。

 

 

 

「……ふぅ」

 

 使用武器はいつものS&W M&P9。50m先のダミーターゲットに、10秒間で8連射。6発は頭部に命中したが、2発ほど喉元に逸れた。

 『ウォールナット戦線』での負傷から約1ヶ月、肋骨の疼痛が消えた先々週から射撃訓練を再開しているが、今の私ではこんなものか。

 狙った場所にも当てられないのに、"錦木千束族"に当たるわけが無い。早く勘を取り戻さないとな。

 

 千束さんと御門かなはの動きを思い出しながら、頭の中で攻略法を練っていると……。

 

「───へえぇ。ヤバいッスね」

 

 軽薄そうな声が聞こえた。

 それが自分に向けられたものだと気づくのに、しばらくかかった。振り向く。

 

「ども〜ッス!」

 

 明るい茶髪を……ツーブロックというやつだろうか、女性としては珍しい刈り上げ風にした少女(リコリス)

 制服(階級)は私と同じ紺色(セカンド)。表情はにこやかだが、目元にどこか険がある。

 

「井ノ上たきな先輩、ッスよね? どうも初めまして! 自分、乙女サクラっていいます!」

 

 ……どうして私の名前を?

 私は関東本部には──京都支部でもだったが──友人が居ない。後輩にまで名前が知れ渡るほどフレンドリーな人間ではないのだが……。

 まぁ、初対面で握手を求められているのだから、応じねばなるまい。私は銃を置いて右手を差し出し、

 

「今後ともよろしくッス〜!」

 

「はい……はじめまし───」

 

「……なんちゃって」

 

「っ!?」

 

 妙に力が籠もっている。握りしめられた手のひらが痛い。

 なに……何なんだ、このリコリス? 私にどんな恨みがあって……!

 

「命令無視した挙げ句、仲間にブッ放したって本当ッスかぁ〜?」

 

 ……!

 

「うっわ、マジなんスね」

 

「……違うっ。私は───」

 

 手を振り払う。そうだ、違う。

 私は……。私は、あの時、自分に出来るだけのことを……。

 

「やっぱ敵より味方撃つ方が燃える〜、みたいな? 確かに、そこらのチンピラに比べりゃあ、リコリスの方がよっぽど歯応えありますもんね」

 

「やめてください」

 

「っと、おっかない。撃たないでくださいよぅ」

 

 両手を上げてへらへらと笑う。降参のサインのつもりか。

 

「あ、殺しの時しか笑わないんだって?」

 

「誰がそんな噂を……」

 

「いやぁ〜、あーし(あたし)は好きッスよ? 映画の殺人鬼みたいでカッコいいッス! っははははは!!」

 

 ……彼女は同胞(リコリス)だぞ。わかっているのか?

 (理性)()()()()()()()()をピックアップし始める。そうしなければ、本当に味方殺しの外道に成り下がってしまいそうだった。

 

「ま、ま、安心してくださいよ。先輩が抜けた穴は、後任のあたしがシッカリ埋めますから」

 

「後任?」

 

「あれぇ? 聞いてなかったッスか? これからは自分がフキさんの相棒(パートナー)を務めるッス。あんたの席は、もう無いッスよ」

 

 フキさん───春川フキ。

 確かに、彼女は関東本部における私のパートナーだったが……。

 この乙女サクラとかいうリコリスが、私の後任だと?

 

「……そん、な」

 

 じゃあ。

 それじゃあ、私は、本当に─────。

 

 

 

「おい」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 時は遡って─────。

 

「……あっ」

 

「? タイチョー?」

 

「どうせまたぞろ変な作戦でも思いついたんだろ」

 

「やば、ライセンス更新忘れてた! あーもー、ぜんぶ謹慎のせいだぁ……!」

 

「ありゃあ。それは大変なのです」

 

「ンだよそんなことか。あぁ御門、そこのイワシ取ってくれイワシ」

 

「……ゴッホちゃんはともかく、御門は? 何でそんな余裕かましてるの?」

 

「はいゴッホちゃん、どうぞ。ミカドはいつも更新時期のお知らせが来たらすぐに行ってるのです。ちょうど行った直後くらいで助かりましたね」

 

「えぇー裏切り者ぉー!! もぐっ……はぐ、んくっ。時間まだ平気かな?」

 

「むしゃむしゃ……ごく。別にアンタくらいヤバいリコリスなら、ライセンス更新なんて行かなくても組織が勝手に空気読んでくれますよ。オレならそうします。出来る限り関わりたくないので」

 

「出来る限り関わりたくないのに、お昼タカりには来るんだねー。わざわざ包帯取ってサングラスとマスクにしてさ。ていうかゴッホちゃん、()()()()()()()()()?」

 

「髪の毛ふわふわもこもこなのです! はむっ……あぐ、ごくん。そっちの方が可愛いですよ!」

 

「ハッ───こいつはなぁ、正当な報酬だよ!! テメェらの減刑のためにオレがどんだけ働いたと思ってんだ!? あとこの髪はカツラね」

 

「そっか〜。お寿司でゴッホちゃんを買えるなら安いなぁ……。もぐ。……ん! このアイナメっていうの、すっごくおいしいよ! ほらほら御門、あーん」

 

「いやそういう意味で言ったんじゃないから。二度は無いから。次は助けないから」

 

「あーん、ぱく。もぐもぐ……んん〜! 本当なのです! じゃあ、タイチョーはこのあと本部です?」

 

「まぁそうなるねー。そういうわけでゴッホちゃん、13時(いちじ)までにヘリ用意してくれる? 最速最短で帰りたいから」

 

「マジで言ってます?」

 

 断ると何をされるかわからないので、ゴッホは一応ヘリを用意した。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 何故か、聞き覚えのある声だった。

 頭の中に沁み渡る、蜂蜜のような声。

 今日、ここには居ないはずの、私の同僚。

 

「ニコル……」

 

「たきなお姉ちゃんに、何してるの」

 

 緩やかに波打つストロベリー・ブロンドの髪。

 オリーブ色の瞳に漆黒の炎を湛えて、星谷ニコルが立っていた。

 

「あん? 誰だよお前」

 

「何してるって聞いてるんだ」

 

「チッ……。あのチビ、先輩の知り合いッスか? えらく懐かれてるみたいッスけど」

 

「わたしはニコル。たきなお姉ちゃんの友達。わたしのお姉ちゃんを───いじめるな」

 

 心底面倒くさい、といった面持ちで、乙女サクラはニコルの方に向き直った。

 

「いじめてなんかないよ、ニコルちゃん。ちょっとご挨拶してただけだって」

 

「嘘。たきなお姉ちゃん、悲しそうな顔してる」

 

「はぁ……。これは、まぁ。少し誤解があっただけっつーか」

 

「謝って」

 

「……あぁ?」

 

「謝って。たきなお姉ちゃんに。もう二度とお姉ちゃんのことを馬鹿にしないって、約束して」

 

 乙女サクラの表情から虚飾が消える。

 

「あのなぁ、ちっこいの。あたしは本当のことを言っただけだぜ。コイツが命令無視で味方を殺しかけたのも、そのせいで変な支部に更迭(こうてつ)されたのも全部本当のことだ。DAは兵隊の組織だぞ? 料理人の手を離れてビュンビュン飛ぶ殺人ナイフが居ていい場所じゃねぇんだよ」

 

「そんなの関係ない。たきなお姉ちゃんはわたしの友達だ。わたしには、友達を馬鹿にされたら怒る権利がある」

 

「わっかんねぇヤツだな……。お友達ごっこがやりてぇなら他所(よそ)でやれっての。尤も、戸籍の無いリコリスにDA(ここ)以外の(ねぐら)なんて───」

 

 夕焼け色のスカートが翻り、紺の袖が反応した。

 ほとんどノーモーションで繰り出されたニコルの回し蹴り。

 両腕を交差させてどうにか防いだ乙女サクラも、驚愕に目を見開いている。

 

「ウッ……ソだろ、マジかよコイツ……!!」

 

 リコリス制服とセットで支給されるローファーには、爪先と踵に防護シートを兼ねた金属カップが仕込まれている。

 軽金属とはいえ体術に優れたリコリスが使えば、コンクリート程度なら容易く砕き、人間を蹴り殺せるほどの威力を生む代物だ。

 防いでいなければ下腹部にヒットし、内臓を破壊していたかも知れない。

 

「───……!!」

 

「おいおいおいおい!」

 

 小柄な体格を補う、蹴り技主体の近接格闘術。

 乙女サクラも護身術の合気の要領で上手く衝撃を逸らしているが、ニコルの動きが速すぎる。最低限の防御を成立させるのに精一杯で、反撃の隙がまったく与えられない。

 

「クソ、フキ先輩のシゴキもここまでじゃねぇぞッ」

 

 ……というか、ぼうっと見ている場合ではない。

 

「ニコル! やめてください!」

 

 いきなり暴力を振るったのには驚いたが、要するに彼女は私のために怒っている。それも───恐らくはかなりの確率で、乙女サクラを()()()()()()()()つもりだ。

 何となく、千束さんの語る"星谷ニコル伝説"の片鱗が見えた気がする。ニコルは一度『敵』だと思ったものに容赦しない。たとえ自分と同じリコリスであっても。

 

「味方殺しの仲間は味方殺しってか……!?」

 

「たきなお姉ちゃんを」

 

 制服の袖に、不自然な膨らみがあった。曲線と金属。

 私の見間違いでなければ、それは、

 

「見下すな」

 

 ───超小型特殊2連装拳銃(レミントン・ダブル・デリンジャー)

 どうやって持ち込んだとか、あるいはどこから持ち出したとか、そんなことを疑問に思っている暇は無かった。

 

 止めなくちゃ。

 だって、ニコルが乙女サクラを攻撃したのは、かつての私のせいなのだから。

 あの子を、味方殺しの外道に堕とすわけには─────。

 

「……ちょーいちょいちょいちょいちょい!! ストップ!! ストーップ!」

 

 だが、ニコルの袖からデリンジャーが飛び出す寸前、それを制止する腕があった。

 白金の髪。紅い瞳。赤色(ファースト)の制服。……私の、もう一人の同僚。

 

「ニコル、ステイ! 落ち着けよぅ、もーあんたって子はー!」

 

 錦木千束。

 喫茶リコリコの看板娘にして、現役最強のリコリスがそこに居た。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────あっっっぶねええぇぇぇぇぇ〜〜〜!!

 

 

 

 医療棟での体力測定と健康診断、それから諸々の書類手続きを終えて後。

 やっぱり諦め切れなかった私は、楠木さんを探してあちこち歩き回った。

 すると、こちらも誰かを捜索中らしいフキとまた出くわし、互いに情報を交換していたら、

 

「千束。訓練所でニコルが暴れている。アレの鎮圧はお前の仕事だろう」

 

 と、楠木さんの方からやって来て、とんでもないことを言ってくれたのだ。

 

 ……いやまぁ、確かにそういう時期もあったけどさぁ。

 最近はほら、あの御門って子とか、頼れる身内が増えたって話じゃん? リコリコでも大人しくしてるし、依頼の時は私が弾薬をすり替えても文句を言うだけでキレたりしないから、すっかり更生したとばかり……。

 ていうかそもそも、ニコルは何で今日ここに居るんだ?

 

 色々言いたいことはあったけど、かなりかなりかーなーりー危険な状態なのは間違いなかった。

 

「ああ〜ッ……! ったくもう、次から次へと。今度は何なんスか!? アンタ誰?」

 

 おや。この私を知らぬとはモグリだな、この刈り上げセカンドめ。

 

「そいつが千束だ」

 

「……、……チッ」

 

 もう何か色々と諦めた感じの楠木さんと、もう既に死ぬほど胃が痛いみたいな顔をしているフキ。

 このへんがフキちゃんと司令殿の差だね。人生経験が違うんだわ。

 

「フキ先輩! お、司令まで」

 

 ぷっ。楠木さんが後ろに来るのかよ。

 なかなか面白いなこやつ……。

 

「んで───千束? おぉ! これが電波塔の」

 

「"これ"とは何だ"これ"とは」

 

「いやただのアホだ」

 

 全然面白くなかった。

 君らね、いくら千束さんと言えど我慢の限界ってもんがあるんだぞ。なんつー先輩後輩だ。

 

「……。……何? こいつ、フキさんの知り合い?」

 

「そうだ。たきなの後任でな」

 

「へぇ……。ま、フキさんはDAの問題児の駆け込み寺だもんね。道理でこいつも品性の欠片も無い豚野郎だと思った」

 

 ふえぇごっつブチギレてますやんニコル嬢!!

 このツーブロ茶髪、どうやったらそこまで初対面の人間の地雷踏めるんだ? ましてや相手は『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』だぞ……!?

 

「あ? テメェ……」

 

「ニコルはやめときな。いや本当マジで」

 

「そのアホの言う通りだ。勇敢と無謀は違う。喧嘩を売る相手は選べ、サクラ」

 

「えっ。……えぇ……?」

 

 ちなみにフキは私と腐れ縁である都合上、ニコルともそこそこ交流がある。というか、ニコルがフキの指揮下に居た頃は、いざという時に私が出張って回収する役割分担になっていた。

 私とフキは性格が真反対なので割と喧嘩する方だが、このイチゴ色ロリに関してだけは共闘路線を維持している。

 

「─────司令! お話を!」

 

 え、たきな!? ちょっと待って情報量が多……あっそうか、確か訓練所に行くって言ってたな。

 

 ははーん……なるほど、読めた。そういうことね。

 これはまたちょっと、一波乱ある感じだな───。

 

「……たきなか」

 

「司令……私は件の銃取引について、新情報となる写真を獲得し提出しました! この成果ではまだDAに復帰できませんか!?」

 

 ……、……う〜ん。

 私が楠木さんなら、たきなの熱意は買ってあげたいところだが……。写真1枚だと、まだちょっと弱いかも知れないな。

 まぁ、それもクルミの画像解析が終わるまでのこと。敵に繋がるもっと有益な情報を手に入れて、私たちだけで真相を究明するくらいの功績を上げれば……。

 

「復帰? 何の話だ」

 

 ん。……あれ?

 

「だって、成果を上げれば私はDAに」

 

「そんなことを言った覚えは無い」

 

 ()()

 

「お前を送り出す時に私が何を言ったか、よく思い出せ」

 

 ───たきなは、最初は憤懣(ふんまん)やるかたないというような顔をしていたが、徐々に愕然とした表情となっていった。

 

「……。……ぁ、……そん、な……」

 

「ちょっと楠木さ───」

 

「だからぁ」

 

 茶髪ツーブロがしゃしゃり出てくる。

 フキは何やってんだ、司令の前だぞ。こんなやつに好き放題言わせていいのかよ。それとも、自分のパートナーの身が可愛いってか? たきなのことは殴ったくせに。

 

「『諦めろ』って言われてんの、わかんないんスか?」

 

 ─────、……。

 ……十中八九()()()()()()だろうとは思っていたが、ここまでとは。

 

「お前っ!」

 

「やめなニコル。……私もムカついてるのは一緒だから」

 

「おぉ、こっわ。さすが電波塔のヒーロー様、迫力ありますねぇ」

 

「サクラ、いい加減にしろ。訓練の時間だ。行くぞ」

 

「残念。もっとお話したかったのに〜」

 

 そうして、ツーブロ茶髪を連れて去っていくフキ。

 『問題児の駆け込み寺』、ね……。なるほど。

 あのサクラってリコリスも……、いやちょっと待てい。あんなんと我らがたきなを一緒にしてもらっちゃ困るぞ。

 

「───……、!」

 

「……?」

 

 ───しかし、そそくさと場を離れようとするフキの腕を、たきなが掴んで止めた。

 何かの意図があっての行動というよりは、ほとんど反射的にそうしたみたいだった。

 

「ンだよ」

 

「っ……。……すみま、せん……」

 

 フキはたきなの手を振り払い、歩き出そうとして、一瞬だけ楠木さんとサクラの方を見た。足が止まる。

 それから、たきなへと───少し前までパートナーを務めていたリコリスに向き直って、告げた。

 

「───あの時ブン殴られたので、理解できなかったみたいだが」

 

「フキ?」

 

「だったら解りやすく言葉で教えてやる。リコリスは兵士だ。完全に統率された戦闘単位でなくちゃならない。いいかたきな? 私たちには()()()()()()()()()()んだぞ。それを踏まえて、()()()()()()()()()()()()()。お前はもうDAに必要ないんだよ」

 

 そして最後の一言を吐き捨てた時、春川フキの口角は歪んでいた。

 ……あぁ、くそ。そうか。そうなんだな。

 後輩が後輩なら、先輩も先輩か。

 

「やめろフキ!!」

 

 私はたきなよりもニコルよりも早く、フキに詰め寄って胸倉を掴み上げる。

 

「おいおい、お前まで聞き分けの無いこと言うつもりじゃないだろうな? 何年リコリスやってんだよ……あぁ。そうか、お前はリコリスもどきの半端者だもんな。『旧電波塔の英雄』」

 

「そういう問題じゃないって、フキもわかってるでしょ!? どうしてそんな言い方……!」

 

「そういう問題だよ。だったら試してみるか? ()()()でも何でも受けてやる。ソッコーでブチのめして、私たちの方が正しいって身体に叩き込んでやるよ」

 

 おうおうおう、良い度胸だな春川フキ。勇敢と無謀は違うんじゃなかったのか?

 

「おーおーおー、いいじゃん。やろうたきな!」

 

「……離せよ」

 

「あっごめん」

 

 襟は離した。

 たきなの方を振り返る。だが……。

 

「っは、さっすがフキ先輩! 話がわかるぅ!」

 

 あれは……しまった、

 

「……」

 

「……?」

 

 こっちだけで勝手に盛り上がっちゃった。

 たきなは未だに意気消沈したままだ。話が頭に入っていない。

 

「あっれぇ? もしかしてビビってんスかぁ〜?」

 

 あんのツーブロ茶髪! あそこまで行くともう才能だな……!

 

「───っ!」

 

「たきな!」

 

「たきなお姉ちゃん!」

 

 居た堪れなくなり、唇を噛んで走り去るたきな。

 あぁ、もう……! 今すぐ追いかけたいのは山々だけど、この後の展開を考えると……そうだ!

 

「あっはははははは!! 逃げやがったよ!」

 

「ごめんフキ! ニコルのことお願い!」

 

 40秒前まで胸倉を掴んでいた相手に変な話だが、この際しょうがない。

 私の言葉にフキが目配せで応えたのを確認して、たきなを追うべく走り出す。

 

「あっ? おい! お前も逃げんのかー!?」

 

「お前───」

 

「サクラ、先に演習場に向かえ。私はここで司令たちに直接、模擬戦の申請をする。早く行って準備しろ」

 

「お? 了解でーす。んじゃ失礼します!」

 

 どうやら上手くやってくれそうだ。

 まったく、世話の焼ける後輩たちだな。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 千束の奴め。とんでもない爆弾を残していってくれた。どう考えても私の手には余る。

 暴走したオレンジ制服(ドットフィフス)を止められるのは千束と、楠木司令直属のエージェント『ゴッホ』くらいのものだ。

 

「フキさん……! 何なのあいつ!? ねぇ、わたしも模擬戦やらせてよ!! あんなやつ、わたしがすぐに」

 

「却下だ。司令。模擬戦は私とサクラ、千束とたきなの2対2(2on2)。屋内戦想定の第7演習場でいいですか?」

 

「許可する。……よかったのか、あれで」

 

 ……千束と会ったから、だろうか。

 普段はこういう質問をする人ではない。DAの司令官としての立場があるし、リコリスの側にも余計なことを言わせるのを良しとしないから。

 

「失礼を承知で申し上げますが。司令がこれ以上、錦木千束の心象を損なうような事態は避けるべきだと愚考いたしました。あいつは確かにクソ生意気なアホ女ですが、特記戦力の扱いには常に慎重であらねばなりません。我々は、そこの『必滅の邪剣(ダインスレイヴ)』を制御するだけでも多大な苦労を背負っています」

 

 いたいけな少女の形をした、無比にして無道なる殺戮の機構。

 北欧の伝承に曰く、それは一度抜かれれば最後、血を啜るまで決して止まらないという───。

 

「そうか。ならばいい。励めよ」

 

「痛み入ります」

 

 いや本当に。

 

「ふーっ……! ふーっ……!」

 

「ところでそこの『魔弾の射手(セブンス・バレット)』」

 

「さっきから何なんですか!? 楠木さんもフキさんも……変な渾名で呼ばないでください! わたし、いま機嫌が悪いんです!」

 

「見ればわかるっての。いいから袖出せ」

 

 ひゅっ、という間抜けな呼吸音が聞こえて、ニコルから放出される殺気が霧散した。

 そら見ろ。さっき、千束の奴が()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ほら」

 

「あっ」

 

 ニコルが咄嗟に背中にやろうとした右腕を掴み、振る。

 すると袖口から小さな金属塊が転がり出て、訓練所の床に落ちた。

 

「デリンジャー、スネークスレイヤーか。25番武器庫だな。今日は誰をスケープゴートにしたんだ?」

 

「その……えっと、ちちち違うの! これはほら、あの……ちょっとした手違いですよ! き、謹慎中に射撃の腕が鈍っちゃったから、良い機会だし本部のおっきな施設で訓練をですね!」

 

「千束は例外だが、私は4年前からお前が的を外した瞬間を見たことが無い。そうだろう『魔弾の射手(セブンス・バレット)』?」

 

「その変な渾名やめてぇ……!」

 

 司令の冷厳な声を聞き、助手さんがすぐさまタブレット端末を操作する。

 

「確認しました。20分前に蛇ノ目エリカの名前で持ち出されています」

 

 エリカ? ()()あいつか。

 本人があまりリコリスらしくない性格というのもあるが、かてて加えて厄介事を惹きつける体質でも持っているのだろうか……。

 

「ったく、謹慎が解けたと思ったら途端にこれだ。いい加減学習しろよ」

 

 デリンジャーを拾う。油断も隙もありゃしない。

 東京支部の稼働率を落としてでも、拳銃1つだけ持たせてリコリコに追い出したのは正解だった。未だにDA技研の変態(ロリコン)どもとつるんでいるのは最大限の警戒に値するが、手続きが多いぶん怪しい動きは察知しやすい。

 

「フキさんのいじわる……楠木さんも……」

 

「お前より意地の悪い生命体が地球上に存在するとは思えねぇ。司令」

 

「あぁ、こちらは心配するな。ゴッホがじきに戻る。もう行け」

 

「了解しました。それでは失礼します」

 

 敬礼の後、踵を返して訓練所を出る。

 まったく。どいつもこいつも、手のかかる後輩だらけだ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 訓練所後方のベンチに、頬を膨らませて座る子供が一人。赤銀の髪のリコリス、星谷ニコルである。

 DAが誇る『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』。

 抜刀の度に死を喰らう『必滅の邪剣(ダインスレイヴ)』。

 使用者の望む的に必ず命中し、されど最後に望まぬ結末を呼び込む『魔弾の射手(セブンス・バレット)』。

 

 1分前まで袖に拳銃を隠し持っていた狂える肉食獣に、楠木はあるものを差し出した。

 

「ニコル」

 

「……何ですか」

 

「たきなの銃だ。マガジンは抜いてある。周りに見せびらかすのは勧めんが、お前が届けて来い」

 

 司令助手は内心気が気でなかったが、楠木が何の考えも無しにニコルに銃を渡すなど有り得ないと自分に言い聞かせ、どうにか平静を保った。

 

「簡単な遣いだ。何も問題を起こさずたきなに銃を返せたら、あのデリンジャーは見なかったことにしてやる」

 

「子供扱いしないでください。DAの司令官ともあろう人が、そんな軽率に」

 

「我々は()()()()()()()()が使命だ。極めて遺憾だが、私はお前をDAに置いておくこともその一環だと考えている。DAはお前とは戦いたくない」

 

 そこに他のリコリスが居たなら、耳を疑うどころか、悪い夢でも見ているのかと思っただろう。

 人知れず世に蔓延る犯罪者を討ち、この日本という法治国家を泰平たらしめている組織の長が、戸籍も持たぬ()()()()()()()と『戦いたくない』などと明言したのだから。

 

「……たきなが受けた屈辱には、たきな自身の手で報いるべきだ。お前とて、格好の獲物を横取りされるのは不愉快だろう」

 

 そして、それが決定的な一言になった。

 

「───。はい」

 

 ガンケースに入れられたS&W M&P9を受け取り、ニコルは立ち上がった。

 赤銀の髪を揺らしながら、確かな足取りで訓練所を退去していく。

 

「よっす。隊長」

 

 すると、訓練所の出入り口の陰には既に、包帯頭のリコリス───エージェント・ゴッホが控えていた。

 

「ゴッホちゃん? ……まだ居たんだ。忙しいんじゃなかったの」

 

「そりゃ死ぬほど忙しいですが、アンタの世話より優先度の高い仕事は無いですからね」

 

 長身の影がゆらりと立ち上がる。

 オレンジ色のリコリス制服。司令部直属の特務エージェントであるゴッホにとって唯一、公に与えられた階級の証。

 

「あのたきなってヤツを探すんでしょ。手伝いますよ」

 

「……。……、ありがと」

 

「礼には及びません。貴重な『星谷ニコル係』を潰されちゃ堪らんってだけです」

 

 ニヒルに片頬を上げる包帯頭を見て、赤銀の少女は(かす)かに笑った。

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