萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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リコリコ3話はいいぞ。
こんなよくわからない二次創作読んでないで原作を観てください。お願いしますミズキさんが何でもしますから。



Spark(3/3)

 DA関東本部には、人間という社会動物に必要なすべてが揃っている。

 宮内庁出身の超一流シェフが辣腕を振るう食堂。冷暖房と浴室完備で年中快適なリコリス寮。膨大無数の蔵書。基礎運動から銃火器の射撃まであらゆるトレーニングが可能な訓練所。最新鋭の設備が立ち並ぶ医療棟。

 

 しかし、現代人の居住地としては最高峰の環境でありながら、そこは人体の機能上の必要性を充足させるための条件しか満たしていなかった。

 

 その広大無辺の生活空間に、『文化』と呼べる概念は存在しなかった。

 小洒落たカフェテリアも、騒々しいゲームセンターも、夢と希望を語る映画劇場(キネマ・シアター)も、国防機密組織のエージェント育成という事業には不要だからだ。

 そして、それは関東本部のみならず、リコリスを擁するDAの施設すべてが似たようなものだった。

 

 

 

 とはいえ───何事にも例外はある。

 

 関東本部・リコリス寮のエントランス。

 無機質な合理性に満たされた箱庭の中で唯一、不合理な美しさを内包する領域。

 

「─────ここだと思った」

 

 水の音。

 空を舞う清流。

 透明なアーチ。

 

「リコリスはみんな好きだもんね、ここ」

 

 特にルネッサンス的な装飾なども施されていない、ごくごくシンプルな、妙に高くて大きいだけの噴水だ。

 それでも、偏執的なまでの必要性(正しさ)が支配する世界で、この場所だけがそういった必要性(息苦しさ)とは無縁だった。

 

「……。……この寮は、DAに拾われた孤児(わたしたち)みんなの憧れ」

 

 濡羽色の長髪のリコリス、井ノ上たきなが呟く。

 視線では噴水を眺めつつも、背後に立つ白金の髪のリコリス・錦木千束に向かって───あるいは、半ば自分に言い聞かせるように。

 

「この制服に、袖を通した時も……」

 

「嬉しかったよねぇ」

 

 声を出す元気があれば『え?』と言っていただろう。

 たきなは、隣まで歩いてきた千束の、例によって飄々とした微笑を視界に収めた。

 

「そんな意外そうな顔しないで。私だってそうだったよ」

 

 何でもないように、あるいは慰めのように語るその笑みが、たきなにはあまりにも恨めしくて(■■しくて)。思わず声を荒げる。

 

「なら───千束さんにもわかるでしょうっ。ここが目標だった!!」

 

 必要に迫られて声を張ることはあっても、滅多に感情を表に出さない井ノ上たきなが、叫んでいた。自らの心のままに。

 

「それを、私は奪われた! どうしてこんな……」

 

 ()()()()だと?

 わかっている。解り切っている。井ノ上たきなは愚か者ではない。

 わかっていても、認められない。

 

「たきなを必要としてる人はたくさん居るよ。DA(ここ)だけじゃなく、街にだって」

 

「あなたは……ッ、あなたは良いですよね!! DAに必要とされてるんだから! 私には!!」

 

 沈む。

 沈む。

 声が、気持ちが、心が、沈んでいく。

 

「……私の、居場所っ……は。もう、ここには……ない……」

 

 そこに、冷酷無比なる国家の使徒にして悪を断つ刃の姿は無かった。

 ただ雨に濡れそぼった捨て犬のように俯く、等身大の少女が居るだけだった。

 

「…………」

 

「……」

 

「…………。……、ごめんなさい」

 

 けれど、井ノ上たきなは確かに一介の兵士(リコリス)でもあり。

 少なくとも、やはり愚か者ではなかった。

 

「たきな」

 

「わかってます。……全部自分のせい。フキさんの言う通りです」

 

 そう。

 フキのあの言葉を理解しているのなら、千束はそれで充分だと思っていた。

 

「───たきな。命令っていうのは、ただ聞いてればいいもんじゃないよ」

 

 そして多分、今から千束が言おうとしていることも、たきなはきっと理解している。

 最初から知っていて、その意味と価値に気づけていなかっただけなのだから。

 

「だって、命令を聞いて()()()()()()()のは自分だもん。あの時、たきなは仲間を救いたかった。自分で考えて決めたことでしょ。それが一番大事」

 

 さらに付け加えるなら─────。

 

「……あとね。そういうのに関係なく、たきなの処遇は、確かに正当じゃないかも知れない」

 

「え?」

 

 ───『ウォールナット戦線』の終結後、ニコルの証言とクルミの見解を交えて、判明した事実がいくつかある。

 『ウォールナット討伐作戦』はニコルが()()()()()から持ち帰った情報を基に立案されたが、その情報の出処を特定し切れないこと。

 DAは、比較的最近になってからウォールナットを追い始めたということ。

 DAの情報戦の要である『ラジアータ』は、クルミ(ウォールナット)の水準から見ても難攻不落のセキュリティを誇っており、DAは元々"ハッカー"という種類の犯罪者を軽視する──銃も爆弾も持っていないのだから物理的に脅威にならない──傾向にあったこと。

 

「だから、急にハッカーを警戒するようになったのには、何かキッカケがあるんじゃないかって。例の作戦の時さ、通信障害があったって本当?」

 

「そ、それは……はい。ほんの数分ですが。しかし、原因は技術的トラブルだと……」

 

「違うね。()()()()()だよ」

 

 無敵の電子要塞『ラジアータ』を擁するDAが突然、ハッカーを警戒し始めた理由。そんなものは決まっている。

 

「ハッキング? 『ラジアータ』がですか?」

 

「そ。DAの機密性を担う最強のスーパーAIだよ? 国内の通信インフラすべての優先権を持ってるのに、障害なんて起きるわけない」

 

「……それで取引時間が」

 

「うん。私も今日、楠木さんと話してやっと確信したんだけどね。ただ……司令部にも面子ってものがある。DAのもっと上、政府筋の偉い人とかにバレたら大目玉だ。だから、あくまで表向き現場のゴタゴタのせい、ってことでたきなを───」

 

 千束がそこまで言った時点で、たきなの(すみれ)色の瞳に黒い炎が灯った。

 

「えっちょっ、どこ行くの!!」

 

「理不尽ですッ!! やっぱり司令とちゃんと話して……!」

 

「悪いけど、もう私が話したんだよ! 楠木さんが認めるわけないじゃん、シラ切られるだけだって!」

 

「ならどうすれば!!」

 

 (まなじり)を釣り上げ、肩を怒らせて歩き出す───ところを、

 

 

 

 

 

 たきなの胸と背に、触れる暖かさがあった。

 

 力強くも優しい抱擁。視界の端で白金の髪が揺らめく。

 

「…………あ」

 

「たきな」

 

 耳元から声が響く。

 夜闇を照らす篝火の如く、そこにあるだけで世界の温度をひとつ上げるような声。

 どんな異能や称号よりも、錦木千束が錦木千束である理由。

 

「今は、次に進む時。失うことで得られるものもあるってこと」

 

「───……」

 

「たきながあの時、ああしなければ、私たちは出会えなかったよ?」

 

 失うことで、得られるもの。

 あの時、自分で決めていなければ、出会えなかった人。

 

 罪は消えない。過去は変えられない。

 現実は暗く憂鬱で、ちっぽけな人間の思い通りになることなんて何一つ無い。

 

 それでも。

 この出会いを、この運命を、誰にも悲劇だなんて言わせない。

 

 錦木千束は井ノ上たきなを、きっと最高の友達だと信じている。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「なにー?」

 

「あれあれ、あの2人っ。なんか抱き合ってたって」

 

「ヒューッ! 青春(アオハル)ってヤツ?」

 

「ははは、ウケるー」

 

「……ねぇ。何か向こうからすごい勢いで走ってくる2人組居るんだけど」

 

「フーッ……! フーッ……! お前たちが……、お前たちが! たきなお姉ちゃんと千束の何を!」

 

「そこのお前らァァァ!! とっとと逃げろ殺されるぞ! 井ノ上たきなの噂の500倍くらいヤベーからコイツ! 腸とか引きずり出されたくなかったら今すぐ全力ダッシュしろォ!! てかアンタも問題起こすなって司令に言われたでしょうが!! 学習しろよマジで!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ……何やら視線を感じる……。というか向こうの方が騒がしいような……。

 はっは〜ん。こいつはあれだな? 私たち美少女ふたりがくんずほぐれつ、黄色い悲鳴ってやつだな? ……え、ちょっと違う?

 

 まぁいいや。せっかくならもっと見せつけてやろうじゃないか。

 腰に手を回してーの……それっ!

 

「っあ……!?」

 

 んっふふ♪ 油断したなたきなぁ〜!!

 女の子ひとり持ち上げる程度、この旧電波塔の英雄にして最強のリコリスたる千束さんにかかればお茶の子さいさいよ!

 

「私は、君に会えて嬉しい!!」

 

「ちょ───ちょっとっ」

 

「嬉しい嬉しい!」

 

 くるくる回って~、っと。あんまりこのままってのもアレか。高所恐怖症かも知れないしな。

 ハイ床に降ろしますよー、よっこらせ。

 

「ね。誰かの期待に応えるために悲しくなるなんて、つまんないって」

 

 ……あるいは、そういう生き方が向いている人も居るんだと思う。この世の人間全員が、自主性とか創造性を持ち合わせているわけじゃない。

 だけど、少なくとも私はそうじゃなくて。たきなには、自分で選んで生きてもいいってことを、君だって『最強』(錦木千束)になれるんだってことを知って欲しい。

 

「居場所はある。リコリコ(お店)のみんなとの時間を試してみない?」

 

 それに、ほら。

 事ここに至って自分のことで申し訳ないけど、私はたきながリコリコに来た時───本当に、本当に嬉しかったんだ。

 喫茶リコリコ看板娘・錦木千束には、井ノ上たきなが必要なんだよ。きっと、他のみんなにだって。

 

 とはいえ。

 

「……それでもここが良ければ、また戻ってきたらいい」

 

 最後は、たきな自身が考えて、選んで決めること。

 君がずっとそうしてきたように。

 

「遅くない。まだ途中だよ。チャンスは必ず来る───その時、したいことを選べばいい」

 

「したいこと……」

 

「そう! 私はいつもやりたいこと最・優・先!! ……まぁ〜、それで失敗も多いんだけど」

 

 その部分は必要経費ってやつかな。自分で選んで決めたことには、自分で責任を取らないと。

 だから……たきなは偉いんだ。失敗は貢献で取り返さなくちゃ、なんて。リコリスのライセンス更新すらテキトーな私より、よっぽど偉い。

 

 たきなは、まだちょっとポカンとしている。

 ふむぅ……。オッケー、だったら言葉じゃなく行動で示そう。

 

「ともかく。今は、たきなに酷いこと言ったあいつらをブチのめしたいので! ちょっと行ってきますよっ」

 

 ───自分の言動には責任持てってこと(一度吐いた唾は飲めないってこと)きっちり教えてあげなきゃね(身体に叩き込んでやるよ)

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

14:00(ヒトヨンマルマル)より、状況演習を開始します。見学希望者は各自、当該時間までに第7演習場に集合───>

 

 ……千束さんの言葉を反芻しながら、それでも消化し切れずに、私はその場に突っ立ったままでいた。

 

「たきなお姉ちゃん」

 

 そして、また別の声が聞こえる。

 いつも通り愛らしい、けれどどこか冷静に抑制された声音。

 

「……ニコル」

 

 赤銀の髪のリコリス、星谷ニコル。

 千束さん同様いつもにこやかな彼女が、しかし普段とは明らかに違う種類の微笑を浮かべている。

 

「はいこれ。忘れ物だよ」

 

 差し出されたのは、強化繊維製の無骨なガンケースだった。さっき飛び出してきた訓練所に放置していたものだ。

 リコリス(国家公認の暗殺者)が住まう寮とはいえ、仮にも憩いの場であるこのエントランスに似つかわしくないケースには、マガジンが抜かれた1丁の拳銃が入っている。

 

「……、……。ありがとう……ござい、ます」

 

「どういたしまして」

 

「……。ニコル。私は、あなたに」

 

 わかっている。全部、私は理解している。

 DA上層部と『ラジアータ』の手落ちなど言い訳にならない。

 私が不甲斐ないばかりに、仲間を危険に晒し、利用価値があったはずの敵を無駄に死なせ、消えた1000丁の銃はまたどこで誰を撃つか知れない。

 

 そして、同胞(リコリス)からも軽蔑され。

 私の代わりに怒ってくれたニコルは、千束さんが止めなければ、きっと─────。

 

「言わないよ」

 

「え?」

 

「何も言わない。……わたしは、千束みたいなお人好しじゃないからね。あんな気の利いた台詞、わたしには思いつかない」

 

 私は、他人の感情の機微に(さと)い方ではない。

 けれど、そんな私にもわかることはある。

 ニコルは今、ひどく寂しそうな目をしていた。

 

「わたしにあるのは、いつも()()だけ。わたしに出来るのは、いつもこれだけ。だから、わたしに言えることはひとつ」

 

 私を見つめるオリーブ色の、瞳の中に。

 漆黒の炎が、燃えている。

 

「戦って、たきなお姉ちゃん。生きて戦わない人には、何も選べないし決められない」

 

 気がつけば、赤銀の少女から笑みが消えていた。

 

「今日を生きられない人に、明日や未来はやってこないんだから」

 

 ─────あぁ。

 そう言って私を見据える眼差しの、なんと曇り無く純粋なことか。

 

 かなり最近になってから、ようやく彼女の二つ名の由来を聞いた。

 星谷ニコル───『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』。

 誰よりも戦い、誰よりも傷つき、誰よりも死を積み上げ、誰よりも生き残ってきた、ただ一人のリコリス。

 

 錦木千束が人を殺さないのは何故か。

 ()()()()()()()からだ。錦木千束が、冗談も誇張も抜きに最強のリコリスだからだ。

 『英雄』とその他有象無象の力の差など歴然で、100回戦えば100回勝つ。良心が咎めるというそれだけの理由で、凶悪な犯罪者たちの()()()()()()()()()ことが出来る。

 そういう領域(ステージ)に、あの白金の髪の少女は立っている。

 

 錦木千束なら、人質のセカンドを助けた上で、商人たちも殺さずに済ませただろう。

 星谷ニコルなら、単身でも敵を壊滅させ、生き残りを尋問係に放り投げて終わっただろう。

 

 全部、全部、全部、全部、私が弱かったせいだ。

 私に異能の眼は無い。膨大な実戦経験も。指揮官としての素養も。魔法じみた剣術も。

 

「───ニコル」

 

 でも、それは、きっと、

 

「うん」

 

 膝を突いて諦める理由には、ならない。

 

「私は」

 

「うん」

 

「……私、も。……私も、"錦木千束族(あなたたち)"みたいに、なれますか」

 

 強く。

 すべての敵を倒せるほど、すべての仲間を守れるほど、すべての目的を果たせるほど、強く。

 自分で考えて、選んで、決めるために。辛く苦しい今日を生きて、望んだ明日を掴み取るために。

 

「だいじょうぶ。たきなお姉ちゃんは、強いよ」

 

 ニコルが小さな両手を伸ばし、私にガンケースを握らせる。

 入っているのは私の愛銃、S&W M&P9だ。

 

「千束をよろしく。あんなやつら、二人でぶっ飛ばしちゃえ」

 

 

 

 太陽みたいな笑顔が花開いた瞬間、私は駆け出していた。

 スマホを取り出してスリープを解除する。現在時刻は、13時57分。

 

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