萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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今回のサブタイトルの元ネタがわかった方は、是非とも筆者と友達になりましょう!



To seek and punch beyond dream(4/4)

「エリカー。たきなが来てるよ」

 

 金髪にヘアバンドを着けた長身のセカンド・リコリス、(かがり)ヒバナが言った。

 相手はこのリコリス寮にて同室のルームメイト。橙がかった赤毛のセカンド、蛇ノ目(じゃのめ)エリカだ。

 

「……。……知ってる」

 

 机に突っ伏したまま応える彼女は、例の銃取引現場での戦闘において敵の人質となり、井ノ上たきなによる機銃掃射に巻き込まれた当人だ。

 

「なーんだ。あぁそれで、これからフキたちと模擬戦やるんだって。きっと()()()()取ってくれるよ、見に行こ───」

 

「仇じゃないっ!!」

 

 机から跳ね起きたエリカの剣幕に、ヒバナはいささかのみならず驚愕する。

 いつも控えめで、どこか小動物的な臆病さを持つ彼女にしては、はっきり言って異様なほどの声量だった。

 

「えぇ? だって、あいつの射撃で死にかけたんじゃ」

 

「わたしは生きてるでしょ! あの時っ……、敵に捕まったのはわたしじゃん……。たきなは悪くない……」

 

「いや……まぁ。百歩譲ってお前が助かったのは良いとして、(情報源)を皆殺しにしたのはダメだったんだよ」

 

「っ……! そうだけど! ……そうなんだけどっ……」

 

 そうして、エリカは再び机に突っ伏してしまった。

 まったく損な性格をしている。DAに拾われたからには既定路線だったとはいえ、ヒバナはエリカがリコリス───それもセカンドになれたことを内心不思議に思っていた。充分な実力を持っているのは理解した上で尚、だ。

 

「ヒバナ~。行かないの?」

 

 また別の知り合いのリコリスが通りがかる。

 

「フキとたきなって、かつての相棒対決だよね。面白そう!」

 

「あーいや、今エリカがちょっと」

 

「もしかして、たきな(あいつ)の復帰が懸かってるとかじゃない?」

 

「そうなんだ? そりゃ知らなかっ……ん?」

 

 再び机から跳ね起きたエリカは、普段のおどおどした態度からは想像もつかないほどの機敏さで走り去って行った。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 装備を整えて演習場に出ると、さっそくあのツーブロ茶髪……乙女サクラが畳みかけてきた。

 

「あっれ~? これで全員でしたっけ? 誰かが居ないような~?」

 

「作戦だ作戦! エースの体力は温存しといてんのっ」

 

 ふん。まぁ、威勢良く吠えていられるのもあと数分の間だ。そう考えると愛い奴よのうガハハ。

 

「……あいつは任務以外で戦えるような奴じゃない」

 

 と思っていたら全然愛いくない野郎が口を挟んできた。けっ、な~にすまし顔しとるんじゃこいつは。

 任務(命令)じゃなきゃ戦えないのはあんたの方でしょ……、いや別にフキはそういうタイプでもないか。ぺっ!

 

「チッチ、人を見る目が無いねぇ。よーくそんなでファーストやってんね」

 

「ハッ。お前こそ赤の(その)制服は飾りか? ゴムしか撃てねぇ腰抜けがよ」

 

「何だとテメェどこ(チュウ)だコラァー!!」

 

 あーキレた! いま完全にキレたわ私! さすがにライン超えですよそれは!

 オメェーそのゴム(非殺傷弾)()()()()()()()()()()()()知ってて言ってんだろうな!?

 

「あ? 頭ン中までゴムになったのかテメェ、電波塔の(ふもと)で一生茶でも淹れてろやクソボケがァ」

 

「ンだとゴルァ~!? テメェこそ後輩と一緒に土下座する準備しとけよチビ!!」

 

「あァ~!?」

 

「アンタら仲良いッスね!」

 

「「どこが!!」」

 

 あっしまった、ハモっちゃった。

 ぐぬぬ……。やるなサクラ、この千束さんとフキを同時に陥れるとは……!

 

 

 

 ビーッ。

 

 

 

 とか何とかやってたらサイレンが鳴った。時間だ。

 

 たきなは───まだ来てないか。

 私としては言うべきことは全部言ったが、そんなにすぐ吹っ切れられるわけないよね。

 

<時間だ、状況演習を開始する。……たきなが遅れているようだが?>

 

 演習場の天井近くに設けられたガラス張りのモニタリング・ルーム。そこからスピーカーを通じて、楠木さんが語りかけてくる。

 同じ高さにはリコリス用の見学スペースもある。うは、結構盛り上がってんねー。今からでも言ったらお菓子とか賭けさせてくんないかな。

 

「たきなは来ますよ。───ま、私は2対1でも負けませんけどね?」

 

「……ハァ?」

 

「司令。時間はタダじゃありません、集合時間も守れない無能に割く暇は無いでしょう。この馬鹿の大言壮語に付き合う暇も」

 

 さっきからキレッキレだなぁ、フキのやつ。

 たきな相手の説教までは、たぶん()()()()()()()だったんだろうけど……ふふ。

 ま、確かに? 私らはやっぱ、ガチンコでやり合ってる方が似合いだよね。

 

<ふむ……いいだろう。各員、配置に就け>

 

 手の中にある『救世主の銃』の感触を確かめ、ひとつ息を吸い込む。

 それじゃ───ひと暴れするとしますか……!!

 

<双方、実戦だと思って臨むように。───それでは、始め!>

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「模擬戦、見に行かないんですか。隊長」

 

「まさか。たきなお姉ちゃんと千束が負けるわけないじゃん。結果がわかり切ってる勝負なんて、見てても面白くないでしょ」

 

 屋内戦想定の第7演習場。

 スタートのサイレンが鳴った後、即座にクロスレンジでの白兵戦が始まる。

 千束の異能を差し引いても、体格に劣る──具体的には、ニコルと同程度の身長しか無い──フキでは勝負を決め切れない。

 

「フキも千束のことはよく知ってるから、多少良いとこまで行くかも知れないけどね」

 

 千束がフキの背後を取った。しかしフキは焦らず、身体の向きを正面に固定したまま、腕だけを曲げて発砲する。

 不自然な姿勢を警戒していた千束は回避したが、それなりに意表を突かれた。

 

「何にせよそっちは本命じゃない。初手の突撃を隠れ蓑にあのセカンド(乙女サクラ)を先行させる。適当な角か閉所で回避の余地を限定する」

 

 その隙にフキは一時離脱し、千束がそれを追う。

 逃げ込んだ先と思しき部屋のドアを蹴り開けた瞬間、既に銃口が向けられていた。サクラだ。

 

「でもまぁ、どうせ当たらないよ」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 サクラの頬に銃口を突きつけて言う。

 

「なかなか良い腕してる」

 

 本心だ。口の悪い若造とばかり思っていたが、フキの指揮にもよく従うし、たきなほどじゃないにせよ射撃精度が高い。

 

「ッあ!? ……ナメやがって!!」

 

 おっと、危ない危ない。

 模擬戦とはいえ、私が引き金を引けば負ける(殺せる)状態でしっかり動けるのは度胸がある。

 サクラのグロック17が私を捉え……。

 

「だーめ、こんな至近距離(ちかく)で腕伸ばしたら」

 

 ま、どうとでもなるけどね。

 放たれる弾丸を避け、相手の腕を押さえ込みつつ前に出る。

 こめかみにこっちの『救世主の銃』をとんっ。ついでに掴んだ腕を捻って武器を奪う。

 

「もう2回死んでるよ?」

 

 2対1でも負けないとは言ったけど、ここまで上手くいくとかえって怖いかも。

 つい1ヶ月くらい前に本気のリコリスの襲撃を受けたところだから、自分の中で勝手にハードルを上げちゃってたのかな?

 ……いやいや、銃弾を刀でブッた斬るバケモン(御門かなは)と比べるのはさすがに酷だろ。あんなトンチキ生命体がそうホイホイ居て堪るか。

 

「サクラ!」

 

 と、仲間の危機にフキさん登場。銃声が2回。1歩だけ退がって躱す。

 そういえばフキも、また射撃の腕が上がっている。特にさっきのノールック背面撃ちなんか結構ギリギリだった。あの曲芸を実戦で使えるリコリスなんて、ニコル以外じゃ初めて見た。

 

「何なんスかアイツ……ナメやがって!」

 

 ダッシュで逃げていったツーブロ茶髪が、通路の陰で何事か吠えている。

 いいね。ここまでやると大概の(リコリス)は勝手に諦めるのに。そのガッツだけは認めてやらなくもない。

 

()()()()()()。そういう奴だ」

 

 ───あらら、バレちゃった?

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 でも千束は、たきなお姉ちゃんが来るまで待つんじゃないかな。

 だって、普段の任務ですら、殺せる人間を殺さない馬鹿なんだから。

 

「抑えろサクラ。闇雲に撃っても奴には当たらない」

 

「闇雲になんか撃ってないッスよ! 射撃には自信あるッス!」

 

 あと、みんなあの『眼』と回避力にばっか気を取られるけど……。

 千束の戦い方は、それだけで成り立ってるんじゃないよ。

 

()()()駄目なんだよ!! もっと()()使()()()狙わないと───」

 

 ───そうなんですか? てっきり、アンタや御門みたいな才能のゴリ押しだとばかり。

 

 うん。確かに、本当なら才能だけでも同じことが出来たのかも知れないけど。

 千束のアレがすごいのは、才能ひとつに頼らず、()()()()()()()()()()()()()()()()ってところなんだ。自分で選んだ、自分の意志を通すための力を振るうから、千束は強い。

 

「ふっふーん。忘れ物ですよ~」

 

「! あたしの銃ッ」

 

 "対悪人"特化の戦闘スタイル。飛んでくる銃弾を全部避けて突っ込んで殴るなんて、はっきり言って正気の人間がやれることじゃないでしょ?

 馬鹿みたいな言動で敵を煽りつつ、自分を励まして安心させる。これで集中力に倍以上の差が出るんだ。

 プロの軍人や傭兵ならともかく、たぶん、あのセカンドみたいな相手には効果覿面だと思うよ。

 

「バッ、おま」

 

「不用心だな。たきな相手なら死んでたよ」

 

 フキさんなら自分とパートナーの装備を揃えたがるだろうから、セカンドの銃はDAのリコリス標準装備のグロック17。

 装弾数は10発か17発。それ以上の追加弾倉(ロングマガジン)は取り回しが悪くなるからフキさんが持たせない。

 セカンドが千束に当てるには5倍あっても足りない。弾切れの時点で詰みだ。

 

「クソ!!」

 

「やめろ!! サクラ!」

 

 ───よくもまぁ、現場に居てすらないのに、そんなことが言えますね。

 

 言えるよ。わたしの勘は当たるんだ。

 千束とフキさんとは散々一緒に戦ったからね。あのセカンドも、わたしの予想を上回るほどじゃない。

 もし何か面白いことが起きるとしたら、それはきっと─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 係の職員の方に話しかけたところ、あっさり出撃準備スペースに通された。明白な遅刻であるにもかかわらず、だ。

 こんなことは普通有り得ない。何もかもが茶番だったと明かされているような気がして、私の中で既に底値だったDA司令部の株が、底を抜けてさらに下がった。

 

 ゲートを通過して現場に入る。

 進むべき道を迷う必要は無かった。敵の場所を教えてくれる銃声が、景気良く響いているからだ。

 

「今日のところは」

 

「ぐ、ッ!?」

 

「これで勘弁しといたげるよっ」

 

「うあっ……!!」

 

 辿り着いてみれば、千束さんが乙女サクラを薙ぎ倒し、肩口にペイント弾を撃ち込むところだった。

 あの生意気な後輩に自ら手を下せなかったのはやや口惜しいが、いつまでも噴水前で突っ立っていた私にも非はある。

 千束さんのおかげで最低限気は晴れた。それに……。

 

「馬鹿が……」

 

 報復したい相手は、もう一人居る。

 

「だが、よくやった」

 

 乙女サクラを撃破した千束さんの背後へと、春川フキが現れる。完全な奇襲攻撃(バックアタック)。音も無く構えられるグロック17。

 ───千束さんは目が良い。しかし、その他の五感まで特別優れているわけではない。クルミがリコリコにやってきた日、私が後ろから撃った"ヘアゴム弾"を見もせず回避したのは()()だ。

 よほど集中すれば1発か2発くらいはいけるらしい──それも充分凄まじいが──けれど、とにかく本人が『見えてない弾はさすがに避けられないよ~』と言っていた。

 

 そうはさせるか。

 

「ぅ……おぉぉ───ッ!!」

 

 あぁ、まったく……。

 私は何をやってるんだ? 完全な奇襲攻撃(バックアタック)だったのは、()()()()()()()()()

 

 理由は……うん。決まってる。

 『やりたいこと最優先』だ。

 

「あ?」

 

 S&W M&P9のグリップの代わりに、何も無い虚空と、心の中のモヤモヤを握る。

 イメージするのはあの黒髪の剣士、御門かなはの踏み込みだ。五体をひとつの弾丸と化すが如き神速、瞬時にして彼我の間合いをゼロとする縮地の歩法。

 右腕を、振りかぶって、

 

「ぶっ───!?」

 

 春川フキが振り返った瞬間、その顔面に最高速度のフックを叩き込む。

 御門かなはの足運びに比べれば、私のは子供の徒競走みたいな稚拙さだったが、それでもかなりの威力が乗っていたらしい。私にも出来た……人間を『殴り飛ばす』ことが。

 

「たきなぁ!?」

 

「テ……っメェ!!」

 

 とはいえ、さすがは第1級(ファースト)リコリス。一発殴られた程度では戦意は衰えない。

 そもそもこの状況演習において、ペイント弾とシリコンナイフ以外の攻撃は、反則は取られずとも有効判定にならない。

 

「───!」

 

 いつも通り4秒吸って4秒吐いている暇は無いので、一瞬だけ意識して喉と肺を動かす。青く染まって停滞していく視界。

 反撃を警戒して横に転がりつつ、銃を構え直す。素人が下手にパンチを打つとかえって手を痛めるものだが、さっきの一撃が奇跡的にクリーンヒットだったためか、右手の調子はすこぶる良かった。

 たたらを踏みつつも姿勢を立て直した春川フキ。さっき殴り飛ばされた彼女と私は多少距離が開いており、その中間にちょうど千束さんが立っている。

 

「っ」

 

「!」

 

 けれど、まぁ、構うことは無い。

 ()()()()()()()()()()()

 

 足に1発。

 肩に1発。

 胸に1発。

 頭部に2発。

 

 

 

 錦木千束に、0発。

 

 

 

「───やるじゃん」

 

「クソッ……!」

 

 防音性の強化ガラス越しにも聞こえるほどの歓声と悲鳴が、私たちを包み込んだ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「あれが錦木千束……」

 

「何を驚く。知らん相手でもあるまい」

 

「直接見るのは初めてです。私もまだ霞ヶ関から来て3年目ですので……。どういう魔術なんですか?」

 

「ふむ」

 

 そういえばここ数年は『恐ろしく平和』だったな、と楠木は思い直す。錦木千束の戦いぶりを知らぬリコリスやDA職員が現れるほどに。

 世に蔓延る犯罪者たちは狩れども狩れども尽きることは無いが、その数や質に一定の波というものはあった。D()A()()()や政府筋で生じるいざこざについても同様だ。

 

「端的に言えば、卓抜した洞察力で敵の射線と射撃タイミングを見抜く天才だ」

 

 司令助手の額へ、伸ばした人差し指を突きつけて続ける。

 

「この距離からでも千束を撃つのは難しい。私が知る限り、リコリスの領域(近接戦闘)で奴に弾を当てられる人間は、1()()()()()()()()()みな死んだ。ここ10年で、日本の黒社会すべてを見渡してもな」

 

「死んだ? 確か彼女は……」

 

「いや、あれの個人的なスタンスは関係ない。どれほど凄腕の兵士や暗殺者であろうと、常から殺し合いの場に身を置いていれば死ぬ時は死ぬ。DA(我々)が手を下すまでもなく。そして、それはリコリスとて同じこと───千束は偶然、今日まで生き残ってきたというだけだ」

 

 偶然の一言で片付けるには異様ではあるが、と楠木は言い添える。

 国体護持を第一の使命とし、時と場合によっては()()や政治家ですら誅殺する『Direct Attack』が、独立独歩での活動を認めざるを得ないほどの特記戦力。

 

「尤も……それを差し引けば、ただの生意気なクソガキだ」

 

 平時と変わらぬ厳粛そうな声音のまま、しかし、楠木の顔は笑っていた。

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