萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
(やべーな……今回めっちゃ短くなっちゃったぞ……完全に尺割ミスった……)
「たきな~。帰りの車来たって」
「いま行きます」
千束さんに呼ばれ、荷物の整理を終えて立ち上がる。
せっかくの定休日にまるで休めた心地がしないが、気分は良かった。
「───お前」
怒っているような、呆れているような、高いが険のある声。春川フキだ。
青いペイント弾の跡と、赤く腫れ上がった頬。……自分でやっといて何だけど、かなり痛そうだ。謝りたくはないが、次に会った時には少し優しくしてあげよう。
さて、今度はどんな嫌味を言いに来たのやら……。
「……。……最後、後ろから撃つだけでよかっただろ。突っ込んできて殴るなんて馬鹿げてる」
うん?
あぁ、そうか。まぁそれはその通りなんだけど……。
自分の右頬を指でつつく。
「は?」
「これで
ニヤリと笑いかけてやると、最初は怪訝そうにしていた春川フキの顔が、しばらくして驚愕と激怒の間を行き来し始めた。
器用な表情筋だ。私には到底真似できない。
「〜〜〜……ッ!! やっぱりお前っ、使い物になんねーリコリスだよ!! 命令違反に独断専行……二度と戻ってくるんじゃねぇ!」
おっと……これはまた、嫌われてしまったものだ。
本部への復帰はしばらく諦めるしかないな。
「たきな〜? 置ーいてっちゃーうぞー。置いてかないけど!」
だが、幸い働ける場所はある。不満も少なくない職場だけれど───。
「失礼します」
関東本部を後にする。
帰ろう。
◇ ◆ ◇ ◆
頬の応急処置を済ませ、トイレの洗面台で顔や髪についたペイント弾の跡を洗い流していると、隣のサクラが口を開いた。
「スンマセンでした……。自分の射撃が甘いばっかりに、先輩にまで恥かかせて……」
……、……はぁ。
パートナーとして懐かれてる分にはやりやすいが、コイツはどうしてこう……。
私にはそんな顔が出来るのに、どうしてたきな辺りにはあんなに突っかかっていくのやら。
「むしろ避けやすかったんだよ。お前の射撃、正確だからな」
「えっ。……マジで言ってます? アレって……アレ、ガチで避けてんスか!? そういうの漫画だけッスよね!?」
「そういうところがムカつくんだよ……」
というか、あんだけホイホイ避けられてて『自分が外した』と思ってるのか。不遜なのか謙虚なのかわかんねぇヤツだな。
千束の『眼』のことを知らなければ、向こうにカラクリがあるとは考えないもんなのか?
「錦木千束を撃ちたいなら、弾が狙った場所に当たるのは大前提だ。その上で奴の目を騙す工夫が要るが、大抵の敵はあれの異常性に気づくか、気づいても何か対策を打ち出すより先に沈められる。さっきのお前みたいに」
「はぇ〜……。電波塔の英雄は伊達じゃねぇなぁ」
「3年半前、
「リリベル?」
「ん……、男子版リコリスのことだよ。私もそこまで詳しいわけじゃねぇけど、あんまり関わらない方が身のためだとは言っとく」
連中は私たちより装備が良い代わりに、フットワークは重い。
DAのリコリスがこの国に蔓延る雑菌をプチプチ潰して回る免疫機能だとしたら、リリベルは病巣を丸ごと切除する外科医のメス。
外科手術っていうのは往々にして最終手段だ。連中が出張るほどの案件なんて、毎度ろくなもんじゃない。
「ともかく、最終的に千束が投入されて事態は終息した。一晩丸々やり合って、ようやく肩と
「先輩、マトリックスでも見ました?」
「映画はわからん」
それこそ千束に言え。参考にはしてるかも知れない。
尤も、ハリウッド映画を見たところで攻略法が見つかるとも思えんが。
「……クソッ。次は絶対負けねぇ……!」
「あっ、先輩! 待ってくださいよ〜!!」
何と言っても、次があればたきなの奴も一緒だ。
───あの二人の連携が完成すれば、きっとニコルですら勝てなくなる。
楠木司令がこのことをいつ思いついたかは知らないが、例の銃取引は良い機会だったんだろう。
たとえ1000丁の銃が100万人の国民を脅かそうと、『
◇ ◆ ◇ ◆
「エリカ? たきな、帰っちゃったぞ。よかったのか?」
「……勝ったら復帰なんて嘘だったじゃん。なんて話せばいいか、わかんないんだもん……」
「そっかぁ。……お。あれぇ? たきな!」
「えっ!」
「ごめん嘘」
「……〜っ!! ヒバナ〜!」
「どうも。たきなお姉ちゃんじゃなくてごめんね」
「「えっ」」
「はじめまして! わたしはニコル。───蛇ノ目エリカさん、だよね。たきなお姉ちゃんのお友達同士、これから仲良くしましょ?」
エージェント・ゴッホはさっさと自分の後任を見つけて退職することを決意した。
◇ ◆ ◇ ◆
帰りの電車内。
共に居るべきリコリスが1人ほど足りないが、車窓から差し込む暖かな夕日は、彼女の制服と同じ橙色だった。
「……たきなさぁ」
「何です?」
「最後、あれ。私狙って撃っただろ? ほれ」
そう言って、隣の彼女が飴を手渡してくる。
往路でも同じことをされたが、今朝は健康診断の直前だった。
糖分の摂取は血糖・中性脂肪・肝機能他の数値に影響を及ぼす。なので固辞していた。
本人は1個だけだから〜とか何とか言っていたけれど、まったく非常識だ。
「きっと避けると思いましたから」
「おおぅ」
けれど、今は違う。
包み紙を解き、飴を口に含む。甘い。イチゴミルク味だ。
「─────非常識な人ですよ。
「ん〜? でも、スカッとしたっしょ!」
そこは認めざるを得ない。
「えぇ」
応えると、千束は底意地の悪い笑みを浮かべた。
たぶん、私も今、似たような顔をしていると思う。
「……お? おぉ」
千束のスマホから、小気味よい通知音が鳴った。
手早く確認してこちらに画面を見せてくる。
「ほら見てみ」
開かれたメッセージアプリのトーク画面には、『ボドゲ大会延長戦中』の報せが入っていた。
数人の常連さんとミカ店長、何故か大きくガッツポーズをしているクルミの写真が添付されている。
「どうする?」
錦木千束の紅い瞳が、私を覗き込む。
夕日よりも眩しく鮮やかな、彼女の『強さ』を象徴する目。
いつか辿り着きたいと願う極光。いつか、追いつき追い越したいと思う、私の新たな夢。
答えは決まっている。
『やりたいこと最優先』、だ。
◇ ◆ ◇ ◆
「ん。お、千束来るのか」
カルタに熱中していたミカは、そんなクルミの声で我に返った。
未だにやや使い慣れないスマホを操作して、メッセージアプリを起動する。
「───、フッ……」
画面には、千束からの『二人で行くぜ』という簡素なメッセージが表示されていた。
たきなと肩を寄せ合い、ピースサインをしている写真を添えて。