萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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さかなー
チンアナゴー
そして……?



Who will save her(3/4)

 ようやくDAの『ラジアータ』にアタックした時のデータをサルベージできた。

 

「よし……と」

 

 運用開始から30年来、深層学習(ディープ・ラーニング)に頼り切りでろくなアップデートもされてない老兵(ロートル)相手だ。ぼくこと『ウォールナット』の手にかかればクラッキングは容易かった……。

 と言いたいところだが、いや実際容易かったのだが、ちょっとナメてて痛い目を見たというのが正直なところだ。

 256階層のファイアウォールを突破したと思ったら、システム中枢の手前に逆探知トラップとカウンターウイルスが山ほど仕掛けられており、どうにか振り切ったものの環境の再建にずいぶん手間をかけさせられた。攻性防壁かよ。

 

「まったく。アランの男め……本当に割に合わん仕事だったな」

 

 しかも代理人の不手際だの何だのと、結局あの時の報酬は支払われていない。元より消すつもりだった人間に払う金など無かったのだろうが。

 

「さて」

 

 ……気を取り直して作業を続けよう。VRゴーグルを装着する。

 『例の銃取引』が映り込んだ篠原沙保里の写真。これに『ラジアータ』をクラックした際に得た通信記録を加え、画像・地形・音響データから当時の様子を再現すると─────。

 

「主犯はどれだ?」

 

 仮想の『例のビル』の空間に、作業服の男が数人。まぁ……こいつらはたぶんモブだな。それらしい風格が無い。

 となると候補は……この黒いロングコートの男か?

 顔を見たいが……ぐぬぬ、背丈が足りん。椅子にでも登るとしよう。よいしょ。

 

「……。う〜む」

 

 この天パ、どこかで見たことがあるような気もするが……?

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───食べ終わったら『いいトコ』に行きま〜す!!

 

 そんな千束に連れられやって来たのは、旧電波塔に隣接する商業施設内の水族館だった。

 

「『いいトコ』ってここですか?」

 

「ん。綺麗でしょ〜ここ、私好きっ」

 

「千束さんはよく来るのです?」

 

 御門かなはが聞くと、千束は赤い上着の懐から一枚のカードを取り出して言う。

 

「ふふ、年パス〜。気に入ったら皆さんもどうぞ」

 

 私個人としてはそんな頻度で来ないと思うが、今後も千束と付き合っていくとなると必要かも知れない。

 

 

 

 水草に尾を絡めて浮かぶ、奇怪な生物が居る。

 管楽器のような口吻に、ほとんど凹凸の無い曲線状の身体。タツノオトシゴだ。

 

「これも魚なんですって」

 

「マジ? 魚だったのかこいつ」

 

「メスがオスのお腹に卵を産んで、オスが孵化した子供をまた出産するんだよ」

 

「何でそんなこと知ってんの?」

 

「この姿になった合理的理由があるのでしょうか……」

 

「唐揚げにしたら美味しそうなのです」

 

 次。砂の中からニョロニョロと飛び出してくる、白黒模様で棒状の生き物。

 ひたすらその場で入退室を繰り返しながら、しかし滅多に全身が出てくることの無いそれは、チンアナゴというらしい。

 

「これも魚ですか……」

 

「最初に穴を作る時は尻尾から入っていくらしいよ」

 

「千束さん、何してるです?」

 

 振り返ってみると、千束が万歳のポーズをしていた。何故か手だけを曲げて前方に向けている。

 ……、まさか……。

 

「え? チンアナゴだけど」

 

「こうやって頭だけ出してね、潮の流れに乗ってくるプランクトンを食べるの」

 

 解説ありがとうニコル、でもたぶん千束のあれはツッコミ待ちだと思う。

 

「……人が見てます。目立つ行動は控えてください」

 

「なんで? この面子で連れ立って歩いてて今更じゃない?」

 

「どのへんが今更なのか理解できませんが、私たちリコリスですよ」

 

「制服着てない時はリコリスじゃありませ〜ん!」

 

「これはホモ・チサトウス。地上で最も愚かな類人猿なのじゃ」

 

 ニコル博士の頭頂部にホモ・チサトウスの拳骨が炸裂した。

 ブラックジョークにしても切れ味が鋭すぎる。(よわい)15にも満たぬ童女の、どこにあんな語彙とエスプリが備わっているのだろうか……。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 鉄拳制裁の傷を癒やすべくクラゲのコーナーを見に行った(なんか好きらしい)ニコル、付き添いの御門かなはと一時離れて。

 

 寒色系の幻想的なライティングが施された、特に大きな水槽の前。

 気に入ったのか、延々と『チンアナゴのポーズ』をやり続ける千束を制止するため話しかける。

 

「千束」

 

「ん〜?」

 

 話の種は……何でもいいのだが、そうだ。

 

「───()()()、いつから使ってるんです?」

 

 非殺傷弾。

 『最強のリコリス』錦木千束を象徴する装備の、そのルーツについて。

 

「……なぁに? 急に」

 

「ふと気になりまして。例えば、旧電波塔の時は」

 

「あぁ、ちょうどその時だよ。最初は渋られたんだけどねー。先生、普段は頑固で偏屈だけど、誰かに本気で頼まれたことは断れないから……うしし」

 

「何か理由があるんですか」

 

 チンアナゴのポーズをやめ、私が座るベンチの隣まで来て続ける。

 

「なに? 私に興味あんの〜?」

 

「タツノオトシゴ以上には」

 

「チンアナゴよりも?」

 

「……茶化すならもういいです」

 

 私が水槽へ目を背けると、千束も同じ方を向いた。

 いつもの笑みはそのままに、神妙な声になって言う。

 

「───気分が良くない。誰かの時間を奪うのは……気分が良くない。そんだけだよ」

 

「気分?」

 

「そう。で、悪党にそんな気持ちにさせられるのはも〜っとムカつくっ。だから、死なない程度にブッ飛ばす!!」

 

 グッ、と右腕を掲げる千束。すわチンアナゴのポーズ再来かと思ったが違った。

 

「てか実際、先生の弾(あれ)当たるとむちゃくちゃ痛いのよ〜。死んだ方がマシかも?」

 

 ……。……、何というか。

 これは、そうだ。俗に言う───。

 

「……ふっ、ふ。ふふふふ……」

 

 笑うしか無い、ってやつなのかな。

 

「何だよぅ。そんなに変?」

 

 拗ねたように頭を傾け、私の肩に預けてくる千束。

 あぁ───変だな、これは。何もかも。野暮な指摘をする気も失せるほどに。

 

「いえ、もっと博愛的な理由かと思っていたので。千束は謎だらけです」

 

「Mysterious girl!? そっかぁ、そんな魅力もあったか私〜!」

 

 事あるごとにおどけるのは、もうそういう癖だろう。

 そして、そんな態度にも隠し切れないだけの熱量を込めて、千束は続ける。

 

「……でも、そんな難しい話じゃないよ」

 

 難しい話ではない。難しい話ではないのだ。

 地上で最も愚か(正直)なリコリスの行動理念。その意味するところは、たったひとつ。

 

「『したいこと最優先』」

 

「お! 覚えてるねぇ」

 

 結局、異能の眼も『最強』の称号も、この人にとっては大したものじゃない。

 自分で考えて、自分で選んで、自分で決めたことの積み重ねが、人間の居場所を作る。

 

 だから─────。

 

「DAを出たのも?」

 

「……え?」

 

 聞いておこうと思った。

 錦木千束が何を考え、何を選び、どうやって決めたのかを。

 

「『人を殺さない』だけなら、DAでも出来たでしょう。オレンジ制服(ドットフィフス)の階級は、御門のような特異なリコリスのために設立されたと聞きました。楠木司令が千束を見て思いついた取り組みだとも」

 

「あ〜……。……そうなんだ」

 

「完全な独立など目指さなくても、千束の実力と店長の発言力があれば、上層部に柔軟な対応を求めることも可能だったのでは? 誓ってリコリコのことを悪く言うわけではありませんが───"町の喫茶店"でなければならなかった理由がわからなくて」

 

 私は、『最強のリコリス』の居場所が喫茶リコリコである理由を、千束自身の言葉で知りたかった。

 

「それは───」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……ハハッ」

 

 あぁ─────。

 

「スゥーッ……、ハァァ……」

 

 臭うなァ。

 漂白された、除菌された、()()()()()()()()嘘の臭いだ。

 

「んじゃま、適当に始めっか」

 

 バランスを……取らなくっちゃな?

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 オレンジ制服組と合流したので、少しだけ場所を移し、水族館内の軽食コーナーに来ている。

 何やら爽やかな味と色合いの炭酸飲料を飲み干し、千束はぽつぽつと話し始めた。

 

「『アラン機関』───ですか」

 

「そーそー」

 

 錦木千束が『喫茶リコリコ支部』を立ち上げた理由。

 それは、彼女が首から提げて服の下に隠していたネックレス──鈍い金色の梟のエンブレムが象られたもの──の贈り主を探したい、というものだった。

 

「あの何かアヤシー支援団体? お金のことや病気で困ってる"天才"を見つけて、っていうやつ」

 

「怪しい言うな。……いやまぁ確かに、世間一般からすると怪しいのかも知んないけど。少なくとも、やっぱり私にとっては恩人でさ」

 

 天才……なるほど。確かに、錦木千束が天才でなければ、一体世の中の誰が天才なのかという話だ。

 天性の動体視力と反射神経に、神懸かり的な洞察力。今は偶然リコリスとして活動しているが、例えばスポーツの分野に進んでいれば、また違った活躍をしたのではないだろうか。

 

「ミカドにとってのシショー(師匠)みたいなものですねー。もう見つかったのですか? その方は」

 

「いやぁ。それがね、なかなか」

 

「10年も探して?」

 

 私の言葉を聞いて、千束は遠くの水槽の方へ目をやった。相変わらず笑みは絶やしていない。

 それは魚や軟体動物を見ているというよりは、流れる水の彼方に何かを求めているような、決意と寂しさが入り混じった表情だった。

 

「……もう、会えないのかもね。『ありがとう』って言いたいだけなんだけど」

 

 10年。考えるまでもなく長い時間だ。

 それだけの間に、"町の喫茶店"の看板娘として多くの人々と交流を持ち、刑事や貿易商と知り合っても、未だに見つからない誰か。

 ポジティブシンキングの権化である千束をして、半ば諦めざるを得ないような『人探し』。

 

「───……」

 

 ……、気に入らないな。

 こんなに想い焦がれる者の前に、姿の一つも見せない『誰か』も。

 この私ですらわかるくらいに、無理をして笑っている錦木千束も。

 

「……んっ」

 

「たきなお姉ちゃん?」

 

 席を立って、千束が見ている水槽の前に陣取る。

 うぅむ、どう表現したものか。こう……、腕を頭に……片足を上げて尻尾に見立てて……。

 

「さかなー!」

 

 ───咄嗟に種名が思いつかず、ざっくりとした感じになってしまった。

 私考案の『魚のポーズ』を見て3人は、しばらくポカンとしていたが、

 

「ん? お……お〜! 魚か!」

 

「これは……、魚だね! ねぇ御門!」

 

「えっ。あ、はい。魚……なのです……?」

 

 千束の笑顔にようやく()()()()()()

 私の隣にまでぱたぱたと駆け寄ってくると、万歳の姿勢になる。

 

「チンアナゴ〜!!」

 

 そして、我らがファーストがそこまでやったとなれば、後は流れだ。

 ニコルが千束の隣に並ぶ。両手で頭越しに丸を作って言う。

 

「くらげ〜!!」

 

「ふふふ……。……ん? これもしかしてミカドも何かやる感じです?」

 

「当たり前じゃん! わたしとたきなお姉ちゃんにだけ恥かかせる気!?」

 

「恥って言うな私らのノリじゃいノリ! ……あれ? ねぇ今『わたしとたきなお姉ちゃんにだけ』って」

 

「むむ……! タイチョーのご命令とあらば仕方ないのです……っ」

 

 何のかんので御門かなはも立ち上がり、ニコルの隣で……。

 頭を前に突き出し、その左右に手を立てて……あんな生き物居たっけ?

 

「コーカサスオオカブトなのです!!」

 

「え、なんで虫?」

 

「さぁ……、あっちで特別展やってたのは見たけど。ヘラクレスオオカブトとかニジイロクワガタも居たよ」

 

「なんで???」

 

 すっかり元気を取り戻したようだ。

 やはり、錦木千束はこうでなくては。

 

「───千束」

 

「ん〜?」

 

「そのネックレス。隠さない方が良いと思いますよ」

 

「え? ……そうかな?」

 

「えぇ。めっちゃかわいいです」

 

「…………あ〜」

 

 よし。

 こんな程度で照れる千束ではないけれど、多少驚かせることは出来たようだ。

 

「……ぷっ。ふふ、あはは! こいつめぇ。よーっし諸君、次はペンギン島に出発(デッパツ)だー!!」

 

「ペンギン! お醤油とお酢で煮たら美味しそうですよね!」

 

「ニコル、御門はどうしてこんなに食への執着が……?」

 

「実はDAに拾われる前はずっと山育ちで……」

 

 山育ちかぁ……。

 

 その後もペンギン島や甲虫の特別展示などを巡り、私たちはしばし水族館を楽しむのだった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───都内某所、とある会員制バーにて。

 

 控えめな照明の下、二人の男がカウンターに並んで座っている。

 

「……何故戻って来た?」

 

 片方は、体格の良いアフリカ系の中年男性───『喫茶リコリコ支部』の管理者、ミカ。

 此度の会合は、男たち二人のどちらともなく切り出した話だが、それでも強いて言うなら彼の側から提案したことだった。

 

「君に会いたかったからさ」

 

 応えるのは、ミカと同年代程度の痩身の男───吉松シンジ。

 ミカの旧友であり、されどしばし疎遠であったところを、半年と少し前に()()再会した。無論、ミカは偶然だとは思っていないわけだが。

 

「からかうんじゃない。───千束だろう?」

 

「……私を覚えていなかったな」

 

「あの時、一度見ただけだ。無理もない」

 

 グラスのスコッチを呷りながら、ミカが続ける。

 

「シンジ。何故言ってやらない? 千束はずっと君を探しているんだぞ」

 

 10年。決して短くなく、人間の一生にとって多大なる影響を持つ子供時代。そして、思春期。

 錦木千束はそれを費やして、ある『大事な人』を探している。

 

「アラン機関は支援した対象に関わることを禁じている。我々は『子供たち』からの見返りを欲して活動しているわけじゃない。話しただろう」

 

 喫茶リコリコに来店する時は外している胸のバッジ。

 梟を象った鈍い金色のエンブレムは、吉松の裏の顔が、かの『アラン機関』のエージェントであることを物語っている。

 

「それなら、リコリコ()にだって来るべきじゃあないんじゃないか」

 

「名乗り出せないなら、いっそ千束の前から消えてくれと?」

 

「……そこまで言うつもりは」

 

「ミカ」

 

 そう。矛盾している。

 機関はあくまで『天才』を支援するだけの存在であり、そうして巣立った『子供たち』から何の好意も受け取ってはならないとすれば、吉松が喫茶リコリコに訪れることは許されない。

 あるいは、単なる喫茶店の顧客と従業員という関係であれば、それこそ()()の一言で済まされるのかも知れない。だが───。

 

()()は守れているのか?」

 

 吉松シンジがそのような詭弁を弄する人間でないことを、ミカはよく知っている。

 

「……、……あぁ。もちろんだ」

 

「天才は神からの贈り物(ギフト)だ。必ず世界に届けねばならん」

 

 力強く断言する。そこに、気の良い貿易商"ヨシさん"の面影はまったく感じられない。

 彼の心は喫茶リコリコには存在しない。アランの使徒たるこの姿こそが、吉松シンジの本質だ。

 

「類稀なる─────殺戮の才をな」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 哀れなものだな、アラン・アダムズ。

 

 お前の真意は誰にも解されず、かつての理想は腐り落ちた。

 そして、そこまでしても尚……。

 

 本当の『力』とは、舗装された善意の内には宿らぬ。

 何人たりとも───我らを剋することは出来ない。

 

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