萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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しかも脳波コントロールできる!



#5 That's fine for now (Really?)
Man from eden(1/3)


 朝、喫茶リコリコ店内。

 カウンター横に設置されたモニターが、今日も全国のニュースを伝えている。

 

<───地下鉄脱線事故から、今日で1ヶ月が経過しました>

 

「おっ。やってるな〜」

 

 座敷席に寝転がり、煎餅(せんべい)(かじ)りながらモニターを見ているのは、ハッカー『ウォールナット』ことクルミ。

 

<事故があった駅は未だ復旧の目処が立たず、利用者からの苦情が相次いでいます>

 

「わはは」

 

 笑い事ではないと思うのだが……。

 画面が切り替わり、件の『脱線事故』を起こしたとされる鉄道会社の社長が映し出される。先日の謝罪会見の時の映像だ。

 

「この社長も気の毒ですね」

 

<えー、本当に、奇跡的に……えー、自動運転の回送電車だったために、死傷者は一人も出ませんでしたが……>

 

 ………………。

 『死傷者ゼロ』───か。

 

<一刻も早く原因を究明し、えー……復旧と改善に努めて参りますので、えぇ、えぇ>

 

「この社長はどこまで聞かされてるのかね。どうせ何も知らんだろうが」

 

 もちろん、私たちは事の顛末を把握している。というか、DA本部との繋がりが強いニコルから聞いた。

 テロリスト集団による北押上駅の占拠と、事前にその動きを察知していたDAによる討伐作戦。

 結果は、駅構内に仕掛けられていた爆弾によるテロリスト側の自爆で、被害甚大なれども対象の排撃には成功。

 その後の現場検分により、テロリストが所持していた火器が『例の銃取引』にて流通したものである可能性が浮上し、DAはさらなる情報を求め追跡を続けているという。

 

「はいっ!! はい、はい、はぁ〜い!」

 

 ……それはともかくとして、喫茶リコリコには今日も依頼が舞い込んでいた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ではみんな!! 今回の依頼内容を説明しよう! とっても楽しいお仕事ですよ〜」

 

「はーいリーダー、敵の規模はどのくらいですかー? 個人的には1個師団くらい居ると嬉しいでーす」

 

「マゾすぎるだろ、いくら何でもそんな依頼なら断っとるわ。……ん〜、実際問題として敵の数は……ちょっとここでは即答できないかな」

 

 相変わらずニコルは言うことのスケールが大きいな。『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』ともなると、例えば暴力団ひとつくらいでは物の数に入らないのだろうか。

 

「そういえば、今回はミズキさんが説明しないんですね。資料はもう読みましたが……」

 

 リコリコ支部に来る"裏"の依頼は、店長とミズキさんが情報を精査して千束に提示し、ファースト・リコリスである千束の承認を経て作戦が立案される。

 そこからミズキさんが資料を作成、直前のブリーフィングでは細かいニュアンスを詰める意味で二言三言話してから出撃、という流れだ。

 

「いやそれがね。今回やたらやる気なのよ」

 

「おい! おいっ! そこぉ、私語はしない!」

 

 千束が手に持ったタブレット端末で私とミズキさんを立て続けに差し、ついでに2階席に移動したクルミにも水を向ける。

 

「そしてそこのリス! ……ゲームしてない?」

 

「話は聞いてる」

 

 つまり『ゲームしてない』とは言ってない。

 彼女に限っては別にそれでも問題無かったりするけれど。

 

「依頼人は72歳男性、日本人。過去に妻子を何者かに殺害され、自分も命を狙われたため、長らくアメリカに避難していたそうですー。現在は……、きん……き……きん……?」

 

筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)。ALSってヤツだ」

 

 『筋萎縮性側索硬化症(ALS)』とは、体を動かすのに必要な筋肉が徐々に痩せていき、全身に力が入らなくなる病だ。現代に至るまで具体的な原因が解明できておらず、治療法の無い指定難病である。

 ただでさえ高齢なのに、そこにALSまで発症しているとなると……。

 

「自力で移動できないのでは?」

 

「そう! 去年ついに余命宣告を受けたことから、最期に故郷の日本に帰って、東京の街を見て回りたいんだって」

 

「要するに観光かぁ」

 

「泣ける話でしょ。で、それはそれとしてまだ命を狙われている可能性があるので、Body guardしまっす!」

 

 先日の水族館での『ミステリアスガール』発言といい、気に入ってるんだろうか。変な英語混ぜるの。

 確か、何十年も前の芸能人に、そういう持ちネタがある人が居たような……。

 

「そもそも、何故命を狙われているのですか?」

 

「ん〜、それがさっぱり。病気で動けなくなる前は、大企業の超シビアなビジネスマンだったらしいのよ。アメリカに渡ってからは軍産複合体の重役も経験してて、どこの誰に恨みを買ってるかわかったもんじゃなくて……あぁでも、そのぶん報酬はたっぷりだから♡」

 

そいつ(ミズキ)確かぼくの時も似たようなこと言ってなかったか? 金にガメつい女は……」

 

「はいそこ、私語厳禁。それ以上はマジでやめなね」

 

 先日の一件といえば、最近の千束はミズキさんにだいぶ親切な気がする。親切というか、ジョークにしてもあんまり地雷(婚活)の話を振らなくなったというか。

 まぁ……あんな刑罰を執行された後ではむべなるかな……。

 

「この日本でそうそう派手な襲撃は出来ないと思うけどねー。DAを警戒しない黒社会の人間なんて考えらんないし、リコリスの名前も知らないような間抜けは黒社会じゃ生きていけない。わたしならアメリカからの出国前に仕掛けるけど」

 

「ま、とにかく? 行く場所はこっちに任せるってさ。そこは私がばっちりプラン考えとくからぁ」

 

「じゃあ旅の栞でも作ろうか」

 

「それだ! 我らが天才ハッカーさんも気が利くようになったじゃな〜い」

 

「ぼくのことを心の無いAIか何かだと勘違いしてないか? ほらミズキ、もう一仕事だ」

 

「はいはい、しょーがないガキどもねぇ」

 

 心の無いAIとまではいかないが、クルミ(ウォールナット)が想像していたより愉快な性格をしていたのは私も同意するところである。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 リコリコの手前の道路に、一台の車が停まった。

 約束の時間だ。

 

「お待ちしておりました〜!」

 

「遠いところ、ようこそ」

 

 付き添いの部下と共に、今回の依頼人が降車してくる。まずは千束と店長が出迎え。

 機械式の車椅子に乗った老爺───松下氏だ。衰えた呼吸機能を補うためのチューブを鼻に、また目から耳にかけては、クルミが所有するVRゴーグルのようなヘッドギアを装着している。

 

<───少し早かったですかね? 楽しみだったもので>

 

 すると、車椅子の肘掛けに設けられたモニターから、流暢な合成音声が発せられた。

 手元が動いたようには見えない……絡繰りは、あのヘッドギアか。

 恐らく、脳波による直接コントロールだ。最新も最新の先端技術である。松下氏が相当な資産家であることは確からしい。

 

「……あ、いえ! 準備万端ですよっ。旅の栞も完璧です!」

 

「千束。印刷前の元データがある、これで渡すよ」

 

「え? ……あっ」

 

<助かります。では君、後はこの方たちにお任せするので、下がっていいですよ>

 

 そう言って(?)部下の男性を退室させる松下氏。

 多少予想はしていたけれど、深刻な病状だ。本当なら、脳波コントロール機器が無ければ、ベッドから一歩も動けないレベルかも知れない。

 ───それほどの無茶を押してまで、最期に日本の土を踏みたかったのか。

 

<フフ……。今や機械に生かされている身です。奇特に思われるでしょう>

 

「……そんなことないですよ」

 

 千束は少しだけ逡巡してから応えると、何故か胸の前でハートマークを作った。

 

「私も同じですから。ここに」

 

<ペースメーカーですか? お若いのに苦労されているんですね>

 

「いえ、()()()()()なんです」

 

「えっ?」

 

 ───何だと?

 

<なるほど、『人工心臓』でしたか>

 

「アンタのは毛でも生えてんだろうね」

 

「機械に毛は生えねぇっての!」

 

「え……どういうこと……」

 

 私は困惑のままに疑問を口にするが、それをクルミの作業完了の合図が遮った。

 

「よし。送信できたぞ」

 

<ありがとうございます。……おぉ……! これは素晴らしい>

 

「では! 東京観光、しゅっぱ〜つ!!」

 

「おー!!」

 

 かく言う千束はニコルを伴い、松下氏の車椅子を押してさっさと出て行ってしまった。

 ……ニコルは知っていたのか? その……人工心臓などと……。

 

「───あの。千束の今の話って」

 

「ん?」

 

「たきな〜? 行くよー!!」

 

「あっ……はい!」

 

 むぅ……釈然としない。

 まぁ、今はいい。今後も話す機会はあるだろう。

 とりあえず、依頼に集中しなければ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……言ってなかったの?」

 

「千束のことだ。千束に任せればいい」

 

「おい、ぼくには説明しろ。無知は嫌いなんだ」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 喫茶リコリコからそれなりに足を伸ばし、今は隅田川の水上を行くクルーズ船に乗り込んでいる。

 

<これは……予想外でした>

 

「墨田区周辺は何本も川に囲まれてて、水上バスなら都心の色んな所に、渋滞を気にせず移動できるんです」

 

 私も今回通るルートについては把握しているが、あそこまで淀みなく他人に説明は出来ない。

 こちらは周辺警戒に努めるとしよう。適材適所だ。

 

<……やっぱり、折れてしまっていますね>

 

 そう呟く松下氏が見ているのは──というより千束の押す車椅子が向いているのは──地上に咲く鉄の花、旧電波塔。

 大黒柱である中心部分がピサの斜塔よろしく傾いているさまは、なるほど"折れている"と表現できなくもない。

 

「折れてないのを見たことがあるんですかー?」

 

 とニコル。

 彼女は今13歳だから、10年前の『旧電波塔事件』当時は3歳か。それなら折れた姿の方が見慣れているはずだ。

 

<いえ、東京に来るのは初めてですよ。娘と約束してたんです───『一緒に見上げよう、首が痛くなるまで』って。私は元より生まれも育ちも、仕事場も大阪でして、じきに渡米することになったものですから>

 

 ……まったく。道理で千束が張り切るわけだ。

 

<あぁ……これで、あの世で土産話が出来る>

 

「まだまだ始まったばっかりですよ〜!」

 

 千束の言う通り。旅の栞に曰く『リコリコプロデュース・東京大観光 for 松下さん』はまだまだ続く。

 次は雷門で有名な浅草寺だ。通行人の数も増える。警戒を強めなければならない。

 松下氏の最期の願いを、私たちで叶えるんだ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───東京都北押上駅、未だに封鎖が続く『脱線事故』の現場跡地。

 押上署の新米刑事・三谷は、懐中電灯を片手に足場の悪い駅構内を探索していた。隣には先輩の阿部も帯同している。

 

「電車が衝突して……天井まで崩れるのか?」

 

 1ヶ月前から度々訪れ、今日ようやく警邏の目を盗んで忍び込むことに成功した『事故現場』。

 三谷が目の当たりにしたのは、そこに刻まれた激甚なる破壊の痕だった。

 崩落した天井、山積する瓦礫───これでは、列車衝突というより、首都直下型地震でも起きたと考える方が自然だ。

 

「……、……お。よーしよし」

 

 すると、腰を屈めて地面を検めていた阿部が、何かを発見したらしい。

 

「おい。()()()()

 

 阿部が拾い上げた瓦礫の破片を裏返すと、

 

「え───弾丸!?」

 

 駅構内の壁面の一部であっただろうブロックに、小さな穴が穿たれている。

 穴の中心には、奇妙に潰れた形の金属塊。銃弾だ。

 

「こんな場所で……」

 

「お前には見せてやろうと思ってな」

 

 季節柄、薄橙色のジャケットを羽織らなくなった阿部が煙草に火を点ける。

 これが平時なら『こんな閉鎖空間でやめてくれ』とでも言う場面だったが、今の三谷はそれどころではなかった。

 

「じ、じゃあ……。これも全部……」

 

「他の弾はもうとっくに回収されてる」

 

 『事故現場』で不自然だったのは、天井の崩落だけではなかった。

 壁や柱の至る所に刻まれた、謎の穴や擦過痕───すなわち、銃創である。

 

「こんなの、……もうテロじゃないか!! 事故じゃないんだ、今すぐ署長に」

 

「違う。これは『事故』ってことになってるんだよ」

 

「はぁ!?」

 

「俺は昔っからキナ臭ぇ現場をいくつも見てきた。旧電波塔テロ以降は特に増えたんだ。こうして『事件』から『事故』にされちまうヤマが」

 

 三谷は少し考え、しかしやはり納得できずに吠える。

 

「署長が隠して……、上層部はこのことを───」

 

「どうだかな。が、少なくとも署長はシロだ。ありゃ命令されてるだけだろう」

 

「……こんなこと! 黙ってていいんですか!?」

 

「三谷ッ!!」

 

 尚も反駁する三谷を、阿部の一喝が遮った。

 平時は温厚で昼行灯な男の本気の叫びに、三谷はどうしようもなく圧倒される他無かった。

 

「相手はこんだけの事件を丸ごと隠蔽するような()()だぞ! てめぇの()ってもんを弁えろタコ助!」

 

 三谷を真正面から見据える阿部の目は鋭い。

 それは、世の不条理への嘆きと怒りを抱えつつも、眼前に居る若者(三谷)の無事を願う先人の目だった。

 

「……ッ……。阿部さ……」

 

「───! おい、誰かいるのか!?」

 

 地下鉄線内の定期巡回を行っている警邏がやって来た。

 恐らくは彼らも、何も知らされぬまま、何を知ることも許されぬまま、闇の中の誰かに使役される者たちだ。

 

「ずらかるぞ!!」

 

「何で刑事が逃げるんですか!!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 二人の刑事はどうにか追手を振り切り、押上署所有の覆面パトカーの下まで戻って来た。

 阿部が額に浮かんだ大粒の汗を拭きつつ言う。

 

「不法侵入なんてするもんじゃないなァ……」

 

「……俺は納得できないですよ」

 

 そう零す三谷の様子が、若かりし頃の己を見ているようで、阿部は誇らしさと寂しさの入り混じった顔で笑った。彼には決して聞こえない程度に小さく。

 

 さて、これからどうしたものかと二人が思案している───と、道路の向こう側から自分たちを呼ぶ声があった。

 

「……あれっ? わ、阿部さーん!!」

 

 見れば、金色がかった白髪で赤い学生服を着た少女が、こちらにぶんぶんと手を振っている。

 阿部と三谷も常連の喫茶店『リコリコ』の看板娘、錦木千束だ。

 

「やぁ!! 千束ちゃんか!」

 

「お勤めご苦労様でーす!!」

 

 今日はかなりの人通りで、阿部もトレードマークである薄橙色のジャケットを着用していないというのに。

 

「よく気づいたねぇ!」

 

「私、目が良いのー!」

 

 目が良いらしい。

 寄る年波には勝てず老眼が進行し、書類仕事ではしょっちゅう三谷に頼らざるを得ない阿部としては羨ましい限りだった。

 とはいえ、阿部とて歴戦の刑事。よくよく目を凝らしてみれば見えるものもあった───例えば、少し離れた場所に居る千束の同僚(井ノ上たきな)などだ。

 

「たきなちゃんもか。二人でお祭りかい?」

 

「それもありますけど、今日はお客さんを観光案内してるんですっ」

 

「へぇ〜。偉いなぁ」

 

「はい! それじゃあ、お仕事頑張ってくださ〜い!」

 

 リコリコでの接客時と何ら変わらない笑顔のまま、千束は去って行った。

 彼女の背中が見えなくなってから、阿部はおもむろに口を開く。

 

「良い子だろ、千束ちゃん」

 

「そうですね」

 

「───三谷。俺は、()()()()()を想定して色々嗅ぎ回っちゃいるが、こいつは刑事の(さが)みたいなもんだ。けどよ、本当のところは……」

 

「……阿部さん?」

 

「思うんだ。街から事件を消して回ってる連中にも、案外()()()()()んじゃねぇかってな」

 

 口元に複雑な笑みを浮かべたまま、阿部は遠い故郷に帰ってきたかのような目で、千束たちが去った方を見つめていた。

 

「こんなことを言うと、警察官失格かも知れないが……ああいう子が安心して暮らせる世の中なら、それでいいんじゃあないか? 警察(俺たち)には警察(俺たち)の領分がある。平和が一番だって気持ちは、きっとみんな同じなんだ」

 

 いつまでも、いつまでも見つめていた。

 

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