萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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†サイレント・ジン†



Thunder breaking the silence(2/3)

 喫茶リコリコ。リコリス・チームの出撃中は、和風カフェではなく司令基地として機能する店内にて。

 

「一般人の日常生活ならともかく……暗部組織のエージェント活動に耐え得る人工心臓があるとはね。DAの技術開発部のサーバーを覗いてみたいなぁ」

 

 自前のドローンを展開するついでに、現場周辺の監視カメラを当たり前のようにジャックし、千束たちの様子をモニターしているクルミが言った。

 

「覗いても無駄だよ。DAの技研は殺人特化の変態集団だ。電磁加速投射砲(レールガン)だの重金属荷電粒子砲(ビームライフル)だのは作れる癖に、鎮痛剤は下町の開業医と同レベルのものしか用意できない」

 

「マジ? そっちはそっちで気になるんだが……」

 

 ミカが黒縁の眼鏡を押し上げ、目元を揉みながら応える。

 それを聞いたクルミはかなり真剣に『ラジアータ』への再挑戦を検討し始めたが、それはそれとして───。

 

「となると、やっぱこれか?」

 

 カメラが千束の胸元にズームする。

 彼女の首から提げられているのは、梟を象った鈍い金色のエンブレム。

 

「ははは……、噂の『アラン機関』ね」

 

「君に秘密は通じないか」

 

「無知は嫌いだと言っただろう。連中とは多少因縁もあるしな」

 

 『ウォールナット』は片頬を上げながら呟いた。

 その青い目には、好奇心と敵意が()()ぜになった奇妙な獰猛さが滲み出ている。

 

「つまり、命と引き換えに世界への貢献を義務付けられたと? 一体どんな使命を課されたのやら」

 

「すべては千束が決めることだ」

 

 モニターの向こうの千束というより、その千束を通してさらに遠いどこかを見つめて、ミカは力強く断言した。

 そうすることが使命なのだ、と自分に言い聞かせるように。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 所変わって、再び水上バスの船内。

 

 折れた旧電波塔に代わって、新たに"日本の首都・東京"の代表となった建造物が見える。

 天を衝いて伸びる長大なメインターミナルと、それを取り囲む赤白ストライプの曲線的な支柱が4本。遠目には戯画化されたロケットのようにも見える、全長634mの『新電波塔』。

 10年の時を経て再建された、未来の希望の象徴─────。

 

<あれが、『延空木(えんくうぼく)』ですね>

 

Exactly(その通り)! 11月には完成らしいですっ」

 

 『旧電波塔の英雄』たる千束としてもひとかたならぬ思い入れがあるのか、ともすれば今日一番嬉しそうな声音で応える。

 リコリスが従事するのは常に後ろ暗い任務ばかりだけれど、その末にああいったものが生み出されるのであれば、自分たちが守った平和を誇ることも出来るだろう。

 

<実は、設計に知り合いが関わっているんです>

 

「えー!? すごっ!」

 

<そう。彼は未来にすごいものを残している……>

 

「じゃあ、完成したら見に来なきゃですね。その時はまたご案内しますよ」

 

 ───、……あぁ。やっぱり、千束には敵わないな。

 最期の願いを叶えるだけではなく、きっとこれが最期じゃないとも言い張る。欲張る。

 錦木千束の目はいつだって、何より未来(まえ)を見据えている。

 

<……。……えぇ。()()お願いします。君は素晴らしいガイドだからね>

 

 病に侵された表情筋は動くことが無かったが、松下氏はそのとき確かに笑ったような気がした。

 

<今日は暑いですね。少し中で休ませてもらいます>

 

「あっ、じゃあわたしが付き添いまーす。千束たちもちょっと休んだら?」

 

 ふむ……。確かに、私はともかく千束は喋り通しだ。

 客席なら船体が遮蔽物になるし、そもそもこれだけ一般人が居る中で狙撃というのもセンスが無い。

 加えてニコルが付いているなら問題ないだろう。ここは素直に甘えておくとする。

 

 

 

「どうぞ」

 

「ありがと〜」

 

 自販機で買った炭酸飲料を千束に手渡す。

 

「喜んでもらえてるみたいですね」

 

「私、良いガイドだって。才能あるかも!」

 

「依頼者の警護が優先ですよ」

 

「ありゃ。そうだね、そうだった」

 

 そう言って、座っているベンチの背もたれに身を預ける。

 目を閉じ、ゆっくりと呼吸する千束。そうして上下する胸を見ていると……、何というか……。

 

「……、……? なぁに、その目は」

 

「今朝の話、本当なんですか?」

 

 ─────人工心臓。

 本人曰く、千束の心臓は機械に置換されているらしい。

 あまりにも自然な流れで明かされてしまい、どうにも追及する隙が無かったけれど、今なら話してくれるだろう。

 

「あー。心臓のことね? 本当だよ。最初は鼓動が無くってビックリしたんだけど、実際すごいのよ〜これ」

 

「鼓動が……」

 

 それはすごい。完全に人体の心臓を模しているのではなく、従来とは異なる方式で血流を制御しているということか?

 しかし、本当に鼓動が無いのだろうか……。さっそく確かめてみ

 

「ちょっ!? ちょいちょいちょいちょい!!」

 

「はい? 私はただ確かめようと」

 

「き、気持ちはわかるけど! 公衆の面前で乳を触るな!」

 

 乳房じゃなくて左胸部に触れようとしたのだが……。

 確認はもうしばらくお預けということらしい。残念。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「…………羽田の検問を出てから東京駅で武装を確保。情報屋と連携して標的の位置と行動範囲を割り出して、墨田区なら水上バスの移動を前提に……」

 

<? どうかされましたか?>

 

「あっ、いえ! ちょっと旅の栞を復習してただけですっ」

 

<ははは。皆さん、熱心ですね。ありがたい限りです>

 

「これがわたしたちのお仕事ですから♪ ───クルミちゃん? 3時方向の600m地点と、17時方向の450m地点。ここに何か動きが無いか探ってみて。お願いね」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ニコルに指定された座標周辺の監視カメラをジャックしてみると、明らかに一般人(カタギ)じゃない雰囲気のやつが1人見つかった。

 

「……あいつ、目に望遠鏡でも埋め込んでんのか?」

 

<クルミ? ……あいつって誰?>

 

「いや、何でもない。それよりお前ら───"お客様"の登場だぞ」

 

 人相をスキャンしてこちらのデータベースと照合。同時にダークウェブの要注意人物リストも当たって……。

 ───よし、こいつか。

 

「さっきから着いてきてるやつが居る。名前は……、ジン。プロの暗殺者だ。その仕事ぶりから『静かなるジン(サイレント・ジン)』とも呼ばれている」

 

 ぷふっ。『†サイレント・ジン†』て。

 サイレントというからには自称しているわけでもあるまいが、センスの無い二つ名だな。

 

静かなる(サイレント)……」

 

「知り合いか?」

 

「15年前まで同じ民間軍事会社(PMC)に居た。私がDAの訓練教官にスカウトされる以前だ」

 

 と、ミカには心当たりがあったらしい。

 元DAの訓練教官の同僚で、しかも人材の入れ替わりが激しい黒社会において、少なくとも15年来の生き残りとは。

 

「どんなやつ?」

 

()()だ。しかし、静かなる(サイレント)か……確かに声を聞いたことが無いな」

 

 あっ、そこはマジで『サイレント』なのか。

 しかしPMCたって営利企業だろう、社内でのコミュニケーションはどうやって……違う違う。今はそんなことはどうでもいい。

 

 ドローンを飛ばして監視を継続。

 千束たちの出発後、サポート要員として出撃していたミズキも敵の追跡に入る。

 

<30m先に確認。アタシ(こっち)はまだ顔バレてない。発信機付けに行くよ>

 

 ジンのバイクとミズキの車が、付かず離れずの距離を保って走っていく……。

 むぅ、さすがによく下道を選んで通るな。相手に感づかれない位置取りをすると、ちょうど高速道路の陰になっていることが多い。

 

上空(うえ)から確認できない。ミズキの方は?」

 

<柱の横で止まった……>

 

 すると次の瞬間、サイレント・ジンが()()()を振り向いた。

 

「あっ」

 

 ドローンからの映像が途絶える。

 ……なるほどな。こいつは"本物"ってわけだ。

 

<くそっ! バレてる!>

 

「さすがに手強い」

 

 やれやれ、ドローンもタダじゃないんだが。

 松下氏の懐に期待する他ないね……。

 

「予定変更だ。護衛対象(松下氏)を退避させ、こちらから1人打って出るべきだろう。予備のドローンとミズキで敵を見つけ次第、攻撃に出る」

 

リコリス組(そっち)が美術館出たら車回すよ>

 

<わかった>

 

 いま千束たちが居るのは、江戸城跡の隣の美術館。

 ドローンをやられた位置からはまぁまぁ距離があるけど、あのバイクの機動力ならじきに追いつかれる。

 

「ミズキ急げ〜」

 

<アンタも現場来て働きなさいよ!>

 

「無茶言うな。ドローンの無いハッカーがどうやって現実空間で活躍……」

 

<───うっ!?>

 

 ……打擲音?

 まさか、ジンのやつ……!

 

「どうした?」

 

<ジンだ!! こっの!>

 

 くそったれ。元・情報部が無茶しやがって。

 千束よろしく地雷を踏み抜いてくれれば話は別だが、静かなる(サイレント)ジンが相手じゃ心温まるコミュニケーションも期待できない。

 

<誰かーッ!! 変質者が居る……、んー! んんー!>

 

「ミズキ!! 応答しろ!」

 

「予備のドローンはまだか?」

 

「電源が入って……今やるっ」

 

 待機させていたやつを1機掴み取り、店の窓を開けてリリース。

 頼むぞ、ぼくらの妖怪婚活メガネの仇だ。

 

「チャンネルを変えてリコリス・チームに繋げ!」

 

「お前たち、───ミズキと連絡が途絶えた。ジンが仕掛けて来るぞ……!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「わたしに任せて」

 

 クルミからの通信が入った直後、ニコルがそう切り出した。

 千束は目が良いし、能力的に至近距離での戦いに向いている。松下氏の直掩として残すなら千束だと思っていたので、ニコルか私が打って出るのは道理だ。

 

「わかりました。……"いのちだいじに"ですよ、ニコル」

 

 赤銀の髪のリコリスは何も口にせず、静かに微笑んで去っていく。

 頼もしい限りだ───千束は少し不安そうだが。

 

「え? えぇ? ちょ、二人とも勝手にぃ!」

 

<どうしました?>

 

「あっ……はーははは、いえいえ。ちょっとウチのちっこいのがー、トイレ? みたいですー」

 

 いつでも銃を抜けるように右手を空けながら、一帯に警戒の網を巡らせる。

 昔、京都支部で同僚だったファーストの『後ろにも目をつけるんだ』という指導を思い出した。

 未だに理屈はわかっていないが、特に最近、彼女が言いたかったことは理解できたような気がする。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ニコルのインカムが震え、普段よりわずかに強張ったクルミの声が言う。

 

<屋内の監視カメラの映像を顔認証にかける。野外の方はドローンを向かわせたから10分……いや、8分で捜索を再開できる>

 

「ミズキさんは?」

 

<500m離れた所で連絡が途絶えたままだ。美術館の入口は隣のデパートの通路側に出るから、館内のカメラで確認しよう。ニコルは出口の方を目視で見張ってくれ>

 

「了か───」

 

<ん? ……ちょっと待て!>

 

 クルミのモニターに新しい反応が映り込む。かなりの速度で、リコリスチームの方へと移動して来ている。

 

<でかした、ミズキの発信機だ! さすがだな。死んでも情報を残したぞっ>

 

<死んだと決まってはいないだろう……>

 

 『どちらかと言えば余計な殺生はしないタイプ』であるジンの人柄を知るミカは反論するが、その辺りはクルミたちの知ったことではない。

 

<もう美術館まで来てる>

 

「そっか」

 

 ───そして、それだけわかっていれば充分だった。

 

<……っ! 後ろだ、ニコ───>

 

()()()()

 

 赤銀の髪の少女が振り向くと同時、学生鞄(バックパック)から抜き放たれたタウルス(Taurus)レイジングブル(Raging Bull)Model500(500SS10M)が火を噴いた。

 

 

 

 DAに属するリコリスの中でも随一の出撃数を誇り、膨大な戦闘経験を有するニコルは、もはや生理現象の領域(レベル)()()()()()()()()()()()している。

 日常のあらゆる場面、あらゆる場所で、『いま目の前の人間を殺すならどうするか』を演算(シミュレーション)し続けている。

 また、それを応用して『自分ならこうする』という思考を突き詰めることで、他者から向けられる殺意の形をもトレースする。

 

 錦木千束が、敵の肉体の微細な動きを読み取り、銃撃を回避する天才なら。

 星谷ニコルは、敵の精神の構造を追跡し、殺意それ自体に先んじる魔物である。

 

 

 

 クルミ(ウォールナット)による情報支援を得たニコルの『直感力』は、ほとんど短期的な未来予測の域に達している。

 自分たちの目と鼻の先まで来ておいて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という確信の下、ニコルは問答無用で攻撃を決意した。

 

 奇襲の失敗。コートを纏った黒い長髪の男の顔が驚愕に染まる。

 『静かなる(サイレント)』の二つ名の通り、音も無くスタームルガーMk.Iの射程内にまで忍び寄っていたジンだったが、発砲することすら許されなかった。

 暗殺者の男は咄嗟に身を捻る。突き出した左腕が()()()()()()()()、跳弾した.500S&Wマグナム弾は美術館の通用路に巨大な穴を穿った。

 

「防弾コートか。良いの使ってるね」

 

「……!」

 

 でも今ので死ななかったのは褒めてあげる、とニコルが笑った。

 驚きと左腕の負傷に狼狽しつつも、ジンとてまた経験豊富な殺しのプロだ。

 絶大な威力と引き換えに激烈な射撃反動を生じる50口径大型拳銃(レイジングブル)。さしものニコルも万全に扱えているわけでは──というより本来、中学生相当の少女が扱える代物では有り得ないのだが──なく、連続射撃は不可能。

 ジンは即座に右手の銃で反撃し、通路の陰へと退避する。

 

<よし……! そのまま千束たちから引き離せっ>

 

「あは」

 

 愛銃のジェリコ941は学生鞄(バックパック)ごと置いてきている。どうせ千束に弾丸をすり替えられているからだ。

 いま持っている鞄は、新たに支給申請した『予備』である。格納したレイジングブルとラドムVISwz1935はDA本部にも未登録の非正規品で、今日の今日まで誰にも見せていない。

 

 たきなには『いのちだいじに』と言われて来たが、今日のニコルにその気は無かった。

 リコリコ支部への転属、千束との再会、『ウォールナット戦線』での意図せぬ同士討ち───。

 ここしばらくの間は、さしもの彼女と言えど、軽率な殺人は自重すべきだと思うような出来事ばかり起こっていた。

 

 そして不幸なことに、『サイレント・ジン』はミカも認めるほどの精鋭である。

 彼はニコルの心理的葛藤を真っ向から吹き飛ばし、抑圧されていた感情を爆発させるに足る極上の()()だった。

 

「───(ぬる)いこと言わないでよ、クルミちゃん。このまま倒しちゃってもいいんでしょ?」

 

 制服のスカートに隠した大腿部のナイフ・ホルダーから、死神の鎌の如く湾曲した短刀(カランビット・ナイフ)が引き抜かれる。右手のレイジングブルをラドムに換装。

 妖精めいた美貌の童女が、殺意に満ちた武装を手に嗤うさまは、何か趣味の悪い冗談にしか見えなかった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「何だァ〜? ……って、オイ!! どうした!?」

 

「ぬああぁぁぁ〜ッ!!」

 

「うわっ……! ど、どうしたお嬢ちゃん!?」

 

「あっ!? よっしゃ! ねぇちょっと、これ(拘束)! ほどいて! あと……電話っ!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ……さて。

 

 ジンの方はどうやら順調らしい。

 クルミが若干上ずった声で、こんな通信を入れてきた。

 

<あー、ニコルは上手くやってるよ。よりにもよって東京であんな大砲(50ピストル)を見る羽目になるとは思わなかったが……>

 

「ん? 何の話?」

 

<それよりお前ら、気をつけろ。何というか───()()()が居る>

 

「妙なの……?」

 

<詳細はわからん。ぼくのデータベースに記録が無い……>

 

<ジンが用意した伏兵か、()()()()かも知れんな>

 

 他にも暗殺者が来ているようだ。これは、いよいよ厄介だな……。

 松下氏に余計な不安を与えないよう立ち回っている千束には悪いが、いい加減危険が迫っていることを白状すべきだろうか。依頼の内容からして、氏本人とてリスクは織り込み済みだった節もあるし。

 

<千束、松下さんを連れて東京駅まで急ぐんだ。たきな、こちらの相手を頼めるか?>

 

「了解しました。千束」

 

「オッケー、こっちは任せて!」

 

<14時方向から来るぞ。見た目は老人だがどうだろうな……。恐らく暗器使いだ、交戦するなら建物の陰まで追い込め>

 

 松下氏の東京観光もいよいよ佳境だ。

 誰が相手でも、邪魔はさせない─────!

 

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