萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
昼間の内に集積したデータを取り纏めている。
今回もまぁまぁ危ない橋を渡ったが、『ラジアータ』の攻略法は何となく掴めた。次回はもっと上手くやれるだろう。
ちなみに、一番気になっていたDA技術研究部のサーバーは、異常な数の攻性AIに守られており泣く泣く諦めざるを得なかった。
「おー、千束。結果出たよ」
「すごいぞ僕らのウォールナット。どんな感じ?」
「まず、今回のリコリス襲撃犯と、この間の地下鉄襲撃犯。使ってたのはどっちも『例の銃』みたいだな」
「『例の』……あぁ」
春にDAが取り逃した、1000丁の銃───。
地下鉄の襲撃と『リコリス狩り』の関連性が不明な以上、銃が同じだからと言って同一犯とは限らない。
しかし、
「じゃあ、あの時DAをハッキングしたのもこいつらってこと?」
……、……あっ。
「あー……。そ、それは……どうかな? ぼくみたいなハッカーでも雇ったんじゃない? ホント、良い迷惑だよなー。そいつが『ラジアータ』を落としたから、ぼくもDAに命を狙われる羽目になったんだからなー!」
危な……。隣に居たのが千束でよかった。
こいつは目は良いけど根本的にお人好しなのだ。だから身内を疑うという発想が無い。
「にしても。どうやってリコリスを識別してるのかな?」
「む。言っても黒社会では有名だろう、
「えっ。……それってヤバいのでは……?」
今さら気づいたのかよ。本当にこいつらと来たら……。
DAは今後『ラジアータ』にばかり頼ってないで、ぼくをホワイト・ハッカーとして雇うべきだな。
◇ ◆ ◇ ◆
「う〜ん……」
閉店間際の夕刻、私は独り頭を悩ませていた。
具体的には、これから終業後に課される義務についてだ。
「どったの? たきな」
「……。……勝てないんですよ」
「誰に何で?」
「千束に。家事の分担をジャンケンで決めているのですが、何度やっても勝てなくて」
ミズキさんは無言のまま、店長とニコルとそれぞれ目を合わせる。ニコルと店長も目を合わせる。
やがて全員が納得したように頷き、一斉に私の方を見た。
「たきなお姉ちゃん。『最初はグー』でやってるでしょ」
「それじゃ千束には勝てないわね」
「え?」
最初はグー? そんな、単なる掛け声の何が、あの異常な勝率の絡繰りになるんだ?
「千束が相手の服や筋肉の動きで次の行動を予測してるのは知ってるだろう」
「グーから始めるといけないんだよ。ジャンケンは
「最初はグー、で『変えずに』グーなら当然パーを出されちゃうし、『
「つまりこっちは、あいこに出来る確率が3割。勝てる確率はゼロだ」
うわっ……。
「千束にジャンケンで勝ちたいなら奇襲しか無いね。グーでもパーでもチョキでもない手からの一発勝負」
「あいこになったらもう勝てないし、まして『
そ、そうだったんだ。こんなことならジャンケンじゃなくて、クジ引きにでもしておけばよかった……。
やはり"錦木千束族"筆頭、ジャンケンにすら全能力を傾けてくるとは。何てリコリスだ……!
「若頭さんのところに配達行ってきまーす」
そんなことを話していると、当の錦木千束が店の奥から現れた。
どういう風の吹き回しか、黄色いポンチョを身に着けている。
「…………」
「? 何よ?」
「いいえ。別に」
私の怪訝な視線がポンチョに注がれたものだと思っているようだ。もちろん違う。
ジャンケンの件、ちゃんと抗議すべきだろうか? しかし、千束は別にルール上の不正を冒しているわけではない。自前の技能で競技に勝つことには何の問題も無い……。
とはいえ、元はと言えば公平なスケジュール表を作るため、公平性を期して採用したゲームなのだ。だから、その目的が果たされていないことには一定の……。
「え〜? なになに?」
「いいから配達行ってきな」
「千束、単独行動はダメですよ。すぐ支度します」
「あっ。たきな、それはもう大丈夫」
はて、『もう大丈夫』とはどういうことだ?
千束はその場でくるりと一回転した。黄色いポンチョが広がって揺れる。
「クルミがね、襲撃犯には制服がバレてるんだろうってさ」
「リコリス制服がですか?」
「そうそう。で、これなら〜絶対わかんな〜い♪」
「私服じゃ銃は使えんぞ。万が一の時どうする」
「警察に捕まっちまえー」
「んなこたぁわかってるよ。下に着てますぅ、ほら」
たくし上げたポンチョの下に、ファーストの赤い制服。
DAの交戦規定としては……確かめてはいないが、あの程度なら許容範囲だろうか?
「女の子がはしたないよ千束〜」
「じゃかあしい。私服でも銃撃ちそうなニコルにはアレコレ言われたくないね」
「では、私もその格好で……」
「ん、あぁいいからいいから。今日はもう先帰ってて。夕飯楽しみにしてるよ〜。行ってきまーす!」
などと言い残して、そそくさと出て行ってしまった。
うぅん……。それこそ千束なら、襲撃犯のひとつやふたつ返り討ちにしそうだけれど───。
◇ ◆ ◇ ◆
千束が出発して数分後。
喫茶リコリコに、素っ頓狂な叫び声が響き渡った。
「───わああぁぁぁぁ!?」
「クルミ?」
「あぁあぁぁぁ〜ッ!!」
いつもクールでシニカルな彼女がこれだけ慌てるなんて珍しい。
すっかりミズキさんとの共有財産と化したタブレット端末をいじくり、クルミはたじろぎながらも二の句を継いだ。
「見てくれっ!! これは銃取引の時の周辺カメラ映像……今回殺されたのは、
その場の全員が、弾かれたようにタブレットの画面を覗き込む。
「なーんでそんなモンが流出すんのよ?」
「あの時のハッキングか」
「本部もまだ例のハッカーは特定できてないみたい。
「クルミの護衛依頼の時、事態の裏に居たハッカーなどが怪しいのでは? DAにわざと情報を流してウォールナットを消させることで、自分から疑惑の目を逸らそうとしたとか……」
様々な憶測が飛び交うものの、所詮は憶測でしかない。結局のところ、リコリコで最も情報戦に長けているのはクルミで、ハッカーを生業にしている人間に詳しいのも彼女だ。
そのクルミは……どうしてかずっと、ひどくばつの悪そうな表情をしていた。やがて、覚悟を決めたようにゆっくりと口を開く。
「───あの時のは、ぼくだ」
「どの時のどれよ?」
「一番最初の! ハッキングだ!」
…………、……え?
「はぁ!?」
「どういうことだ!?」
「最終的に手は切ったが、当時はその
じゃ……じゃあ。
今日までに起きた、一連の出来事は─────。
「ちょっと!! アンタがテロリストに武器を流した張本人ってわけ!?」
「そっちは違う!! ぼくは指定の時刻にDAのセキュリティを攻撃しただけだ!」
「あーそうですか。おかげで正体不明のテロリストが山ほど銃を抱きしめて、たきなはクビになりました!」
「もういい!! やめろミズキ!」
───、……っ!
……。
……、そうだ。
店長がミズキさんを止めたことからもわかる。ここでクルミを憎むことに有用性は無い。
1000丁の銃を用意したのは彼女ではないようだし、偽の取引時刻を掴まされて作戦が失敗したのもDA本部の落ち度だ。
巡り巡ってクルミには様々な責任があることになるが、そもそも春の時点での彼女は、リコリコと利害関係を結ぶ前の他人。
元々は敵だった相手の過去を、わざわざ味方にしてから糾弾するのは筋が通らない。
だから、私が今、やるべきことは。
「───このことはDAに報告しましょう。クルミの素性は私たちが庇います。流出した映像は、それで全部ですか?」
周りの全員が意外そうな顔をしたのが少々気に入らないけれど、そんなのは些末なことだ。
この情報には
「ぁ……あぁ、それだっ。千束はどこだ!?」
「配達に出たよ。ついさっき」
「くそ、間の悪いやつだな……!」
クルミが素早くタブレットの画面を切り替えていく。
先日亡くなった4名のサード。今後襲われる可能性のあるリコリスがさらに数人。
そして───。
「……これはいかんな」
赤い制服のファースト。
白金の髪と、真紅の瞳。
私たちが見紛うはずも無い
◇ ◆ ◇ ◆
ん? 電話だ。先生から……。
あー、さすがに一人で出てきちゃったの、あんまり良くなかったかなぁ。後でたきなに文句言われなきゃいいけど。
「もしもしもしもし〜?」
<千束!! 無事か!?>
「え?」
ちょ……何? 怖いんですが。どうしてそんな切羽詰まったような……。
<敵の狙いがわかった! 詳しい目的までは不明だが……お前、狙われて───>
敵ぃ? なんだそりゃ。
大体、私が狙われてるってそんな、
横断歩道を渡ろうとした瞬間、黄色い死の影が見えた。
「おぅ!? あぁぁあぁぁちょいちょいちょいちょいちょい───!!」
制限速度を3倍は超過した豪速球で、高級そうなスポーツカーがカッ飛んでくる。
私の『眼』はその姿を完璧に捉えており、脳は瞬時にして冷徹な計算結果を弾き出した。
すなわち、もはや回避は不可能であるという現実を。
◇ ◆ ◇ ◆
「千束!? 千束ッ!!」
「何かすごい音したよ今!?」
ニコルと目配せし、更衣室に飛び込む。すぐさまリコリス制服に着替えて戻る。
「とりあえず組事務所に向かいます!!」
「クルミちゃん! 千束を探して!」
「わかった!」
DAの『ラジアータ』すら攻略せしめる最強のハッカー。敵であれば途方もない脅威だが、味方となれば大変頼もしい。
喫茶リコリコから錦木千束が失われることに比べれば、私の過去の遺恨など大した問題ではない。
「千束……どうか、無事で居てください……!」
◇ ◆ ◇ ◆
ロボ太の行動予測と軌道計算は完璧だった。
白金の髪のリコリス───錦木千束の生活様式を一晩で調べ上げ、真島の駆る
政府お抱えの暗殺者とはいえ、リコリスとて肉体的には普通の10代の日本人女性と変わらない。どんな人間も高速で突撃してくる金属機械に巻き込まれれば無事では済まない。
<どうだッ! 今回は被害ゼロだ! これで文句ないだろ!?>
「わかったわかった」
半ば必死で喚くロボ太に生返事を寄越し、真島は配下を連れて千束に近づいた。
ぐったりと倒れたまま動かないその姿──赤い制服の上に何故か黄色いポンチョを身に着けている──は、如何にDAのトップ・リコリスと言えども、"死"という物理現象からは逃れられないことを証明していた。
「ふぅん……」
うつ伏せの姿勢だった千束に足をかけ、仰向けに転がして顔を確認する。
そうして、露わになった首元には─────。
「ほォ」
ペンダント。梟を象った、鈍い金色のエンブレム。
真島は一瞬立ち止まる。例の映像を見た時から面白い奴に会えたと思っていたが、まさかリコリスにも『アラン・チルドレン』が居たというのか。
そう。なればこそ、これより起こることは必然だ。
「───おっ……りゃあ!!」
浅かったはずの千束の呼吸が唐突に復活し、真島と配下たちの視界が黄色く染まった。
広げたポンチョによる目眩まし。
「ハッ───、行け行け!!」
引っ被せられたポンチョから脱ぎ捨てながら、走り去っていく千束に向けて配下をけしかける。
<お……おい!! せっかく目の前まで追い詰めたのに〜! 僕のせいじゃないぞこれは!?>
真島はロボ太に『お前は俺のことを話の通じない狂人だとでも思っているのか』と聞き出したい衝動に駆られたが、今はそれどころではない。
さらに、付け加えるならば───。
「……あん?」
銃撃の瞬間、数多の戦場を経験した真島の聴覚は、明らかに異様な発砲音を捉えていた。
倒れている配下の身体を検めてみれば、銃創がどこにも無い。周囲に散らばっている銃弾も奇妙だ。
「何だァこりゃ」
非殺傷弾。血の色の合成樹脂で作られた、
「消えたぞっ!」
「クソ……どこ行きやがった!?」
<だぁもう、落ち着けボンクラども! こっちのドローンでヤツを捕捉した、スマホの地図にマーキングしてやるからさっさと追え!!>
「やるじゃねぇかハッカー!」
わずかばかりロボ太への評価を上げつつ、真島は仲間の運転する白いバンに飛び乗った。
住宅で入り組んだ市街地。地形と土地勘は千束の味方だが、真島たちにはロボ太の情報支援がある。
場所の開けた公園に出た時点が、逃走の限界だった。
「また吹っ飛ばしてやる……!」
バンのドアを開き、後部座席から半身を乗り出して、真島はチアッパ・ライノを構えた。躊躇うことなく引き金を引く。
錦木千束は反撃の構えを取った。しかし遅い。車両と銃弾、ふたつの致命打が白金の髪の少女を目掛け───。
「悪いけど───怪我、しないでね!!」
千束は真島の銃撃を当たり前のようにやり過ごし、
DA本部にも未登録だった非正規品。本人曰く"いつかの任務で敵から奪って隠しておいたとっておき"。現在は『排撃対象からの鹵獲品』という名目で、リコリコ支部の備品となっているマグナム・ハンドガン。
人間の無力化に特化した千束の非殺傷弾は、その"貫通せず破裂する"性質上、堅牢なターゲットに対する効果が薄い。
よって千束はこのレイジングブルを──もちろん、人間には向けないことを前提に──対物破壊用の
「!?」
「うわぁぁっ!!」
弾丸はバンのレフトタイヤを2つ纏めてボディとホイールごと貫通し、激しい衝撃が進行方向を狂わせる。
暴走する車を回避したと同時、千束は武器を『救世主の銃』に取り換えて発砲。
「かはっ……!」
5回連射したところで額に着弾し、真島は車から転がり落ちた。
その後、白いバンが公園の植木に激突して停止する。エアバッグはきちんと作動していた。千束がくれぐれもエンジンや車内を撃ち抜かないよう配慮した結果だ。あまりのショックのため、運転手の男の気絶は避けられなかったが。
「……あぁ、クッソ」
状況は先刻と逆転した。
ふらつく意識を根性だけで繋ぎ止め、どうにか身を起こした真島の背中に、
「───あんたが襲撃犯の親玉?」
『旧電波塔の英雄』が、銃を突きつけている。
10年前の
お察しの方もいらっしゃるかも知れませんが、本作では『先生の弾』の威力が若干ナーフされています。特に理由はありません。筆者の趣味です。
その代わり、千束の本体性能が微増しているのでバランスは取れてるんです! ねぇ真島さん!